この記事のポイント
- 名義変更の登記費用・不動産取得税(例:60万円)は取得費に入ります
- 根拠は最高裁平成17年2月1日判決。以前は認められていませんでした
- 遺産分割の訴訟費用・弁護士費用は取得費になりません
- 概算取得費5パーセントを使う場合は、この費用を上乗せできません
まず結論:もらったときに払った「名義変更の費用」は取得費に入ります
贈与や相続でもらった不動産の名義を自分に変えるために払った登記費用や不動産取得税は、その不動産を売るときの取得費に入れられます。
取得費とは、その不動産を手に入れるためにかかった金額です。譲渡所得は次の式で計算します。
譲渡所得 = 譲渡価額 −(取得費 + 譲渡費用)− 特別控除
取得費が増えれば譲渡所得は減ります。入れられるものを入れ忘れると、払わなくてよい税金を払うことになります。
金額でみると
計算例
例:長期譲渡所得(所有期間5年超・税率20.315パーセント)の場合
600,000円 × 20.315パーセント = 121,890円名義変更にかかった登記費用と不動産取得税の合計60万円を取得費に入れられるかどうかで、税額は121,890円変わります。
領収書を1枚探すだけで済む話です。探さずに諦める理由はありません。
前提:取得費と取得時期は、あげた人・亡くなった方から引き継ぎます
相続や贈与でもらった不動産を売るとき、取得費は「もらったときの評価額」ではありません。国税庁は次のように説明しています。
相続や贈与によって取得した土地建物を売った場合の取得費は、被相続人や贈与者がその土地建物を買い入れたときの購入代金や購入手数料などを基に計算します。
被相続人や贈与者の取得の時期がそのまま取得した相続人や受贈者に引き継がれます。(国税庁タックスアンサーNo.3270「相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期」)
「親が買ったときの金額」と「親が買ったときの日付」を、そのまま自分のものとして使います。親が長く持っていた不動産なら、もらってすぐに売っても長期譲渡所得として扱われます。
まず探すべきはあげた方・亡くなった方が買ったときの売買契約書です。探し方は相続した不動産を売るとき 被相続人の取得費をさかのぼって調べる方法で、見つからない場合は不動産売却で取得費がわからない?概算取得費5%で損しないための合理的算定法をご覧ください。
本記事はその先の話です。名義変更のときに払った費用をどう扱うかという論点です。
名義変更の費用が取得費になる根拠 ―― 最高裁判決で取扱いが変わりました
この取扱いは、以前は逆でした。国税庁は経緯を次のように説明しています。
所得税法第60条第1項第1号に規定する贈与、相続又は遺贈……により譲渡所得の基因となる資産を取得した場合には、同項の規定により受贈者等が引き続き所有していたものとみなされることから、受贈者等が贈与等により取得する際に支出した費用については譲渡所得の金額の計算上、取得費を構成しないものと取り扱ってきた。(国税庁「法第60条《贈与等により取得した資産の取得費等》関係」)
これを変えたのが、ゴルフ会員権の名義書換手数料をめぐる裁判です。

……法60条1項の規定の本旨は、増加益に対する課税の繰延べにあるから、この規定は、受贈者の譲渡所得の金額の計算において、受贈者の資産の保有期間に係る増加益に贈与者の資産の保有期間に係る増加益を合わせたものを超えて所得として把握することを予定していないというべきである。そして、受贈者が贈与者から資産を取得するための付随費用の額は、受贈者の資産の保有期間に係る増加益の計算において、「資産の取得に要した金額」(法38条1項)として収入金額から控除されるべき性質のものである。……
(最高裁判所 平成17年2月1日判決。国税庁「法第60条《贈与等により取得した資産の取得費等》関係」より引用)
「もらうために自分が払ったお金は、自分の儲けから差し引くべきものだ」という判決です。国税庁は所得税基本通達60-2を新設しました。
(贈与等の際に支出した費用)60-2 ……贈与、相続又は遺贈……により譲渡所得の基因となる資産を取得した場合において、当該贈与等に係る受贈者等が当該資産を取得するために通常必要と認められる費用を支出しているときには、当該費用のうち当該資産に対応する金額については、37-5及び49-3の定めにより各種所得の金額の計算上必要経費に算入された登録免許税、不動産取得税等を除き、当該資産の取得費に算入できることに留意する。(所得税基本通達60-2)
具体的に何が入るのか
……ゴルフ会員権の名義書換手数料以外の費用であっても、例えば、不動産登記費用・不動産取得税、株券の名義書換手数料など、贈与等の際に通常支出される費用については、当該資産の取得費に算入できることとなる。(同上)
国税庁タックスアンサーNo.3252「取得費となるもの」にも、次のとおりあります。
(1)土地や建物を購入(贈与、相続または遺贈による取得も含みます。)したときに納めた登録免許税(登記費用も含みます。)、不動産取得税、特別土地保有税(取得分)、印紙税
なお、業務の用に供される資産の場合には、これらの税金は取得費に含まれません。(国税庁タックスアンサーNo.3252)
探すべき領収書は次のとおりです。
- 相続登記・贈与による所有権移転登記の登録免許税(登記完了時の書類に記載)
- 司法書士へ支払った報酬(請求書・領収書)
- 不動産取得税の納税通知書と領収証書(贈与の場合。相続には課税されません)
取得費にならないもの・使えない場面
1.遺産分割のための訴訟費用・弁護士費用
……例えば、遺産分割の際に訴訟費用・弁護士費用などを支出したとしても、これらは一般には相続人間の紛争を解決するための費用であることから、相続の際に通常支出される費用とはいえず、当該取得費を構成するものではないと考えられる。(同上)
「相続に関して払ったお金だから全部入る」わけではありません。
2.概算取得費(5パーセント)を使う場合
譲渡所得の金額の計算上、取得費について概算取得費控除(措法31の4)を適用する場合には、当然のことながら、本項の適用はない。(同上)
もとの購入代金が分からず「売った値段の5パーセント」で計算する場合、そこに登記費用を足すことはできません。
3.すでに必要経費にしているもの
賃貸に出すなど業務の用に供している場合、登録免許税や不動産取得税はすでに必要経費に算入されています。二重には使えません。
4.建物は、支出した時点から減価償却費相当額を差し引きます
建物にかかる部分は、払った時点から売るまでの年数に応じて目減りした金額になります。土地の分は目減りしません。
5.土地が複数あるときの按分
複数の土地等を相続した場合、登記費用は原則として各土地の登記時における時価を基に按分します。
注意
取得費に使えない主なケース
①遺産分割の訴訟費用・弁護士費用 ②概算取得費5パーセントを使う場合 ③すでに必要経費に算入したもの。いずれも加算できません。
相続税を払っている方は、もうひとつ使える特例があります
相続税を納めている場合には、その一部を取得費に加算できる特例があります(取得費加算の特例)。ただし期限があります。
期限の整理は相続した不動産の売却は「期限」から逆算しますで、空き家の3,000万円特別控除との有利判定は相続した実家を売却したら税金はいくら?で説明しています。
ここまではご自身でできること/ここからは個別判断です
ポイント
ご自身でできること/個別判断が必要なこと
領収書や登記の書類を探すところまでは、ご自身で進められます。建物分の目減り計算や按分、概算取得費と実額のどちらが有利かは、資料の中身を見ないと決められません。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 相続登記のときに払った登録免許税と司法書士報酬は、売却時の取得費に入れられますか?
入れられます。贈与や相続で取得した資産について、取得のために通常必要な費用を支出している場合、その資産に対応する金額を取得費に算入できます(所得税基本通達60-2)。ただし、すでに必要経費に算入したものは除かれます。
Q2. もらった不動産の取得費は、贈与を受けたときの評価額でよいのですか?
いいえ。取得費は、被相続人や贈与者がその土地建物を買い入れたときの購入代金や購入手数料などを基に計算し、取得の時期もそのまま引き継がれます(国税庁タックスアンサーNo.3270)。もらったときの評価額ではありません。
Q3. 遺産分割でもめて弁護士に依頼しました。その費用は取得費になりますか?
なりません。遺産分割の訴訟費用・弁護士費用は相続人間の紛争を解決するための費用であり、相続の際に通常支出される費用とはいえないため、取得費を構成しないとされています(タックスアンサーNo.3252)。
Q4. 取得費が分からないので概算取得費5パーセントを使います。登記費用は別に足せますか?
足せません。概算取得費控除(租税特別措置法31条の4)を適用する場合には、この取扱いの適用はないとされています。概算取得費を使うか、実額に名義変更費用を加えるかは、有利な方を比較して判断します。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。本記事は個人が非業務用の土地・建物を譲渡する場合を前提としており、業務用資産の必要経費算入(所得税基本通達37-5、49-3)の具体的な取扱い、限定承認に係る相続、負担付贈与、低額譲受、法人からの贈与により取得した資産の取扱いは扱っていません。減価償却費相当額の計算に用いる構造ごとの償却率は国税庁の表でご確認ください。数値例は税率20.315パーセントを前提とした計算上の目安であり、実際の税額を保証するものではありません。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁タックスアンサー No.3270「相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3270.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3252「取得費となるもの」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3252.htm
- 国税庁「法第60条《贈与等により取得した資産の取得費等》関係」(所得税基本通達60-2の趣旨説明。最高裁判所 平成17年2月1日判決を引用)https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/joto-sanrin/050812/06.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm
- 所得税法33条、38条、60条1項e-Gov法令検索
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