この記事のポイント
- 相続した家の税金は亡くなった方の取得費・取得時期を引き継いで計算します(評価額ではありません)
- 使える特例は主に2つ。空き家の3,000万円特別控除(措法35条3項)と取得費加算の特例(措法39条)です
- 2つは併用できません。有利なほうを選びます
- 選択を誤ると税額が5,078,750円変わることも。売る前の確認が重要です
相続した不動産を売ったときの税金の基本
相続した実家の売却は、2つの特例のどちらを選ぶかで税額が大きく変わります。
「買った値段」と「買った時期」は亡くなった方から引き継ぎます
相続や贈与でもらった不動産を売るときは、亡くなった方(被相続人)が買った値段と時期をそのまま引き継いで計算します。国税庁タックスアンサーNo.3202も「相続や贈与により取得したものは、原則として、被相続人や贈与者の取得した日から計算する」と説明しています。
たとえば40年前に父親が買った家を相続した翌年に売っても、所有期間は40年超として扱われ、税率の低い「長期譲渡所得」で計算できます。一方、買った値段(取得費)も亡くなった方の金額を引き継ぐため、相続税評価額を取得費にすることはできません。
長期・短期の判定と税率
土地や建物の税率は、売った年の1月1日時点の所有期間で決まります。
| 区分 | 所有期間(譲渡年の1月1日時点) | 税率(所得税・復興特別所得税・住民税の合計) |
|---|---|---|
| 長期譲渡所得 | 5年超 | 20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%) |
| 短期譲渡所得 | 5年以下 | 39.63%(所得税30%+復興特別所得税0.63%+住民税9%) |
ご自身が住んでいた家を売る場合は別の特例(居住用財産の3,000万円特別控除・措法35条1項)で、マイホーム売却の3,000万円特別控除と取得時期の落とし穴で解説しています。本記事は「亡くなった方の家を相続人が売る」ケースです。
特例①:空き家の3,000万円特別控除(措法35条3項)
亡くなった方が住んでいた家を相続し、平成28年4月1日から令和9年12月31日までに売って要件を満たせば、利益から最高3,000万円を差し引けます。
対象となる「被相続人居住用家屋」の3要件
相続開始の直前に亡くなった方が住んでいた家であることが前提で、次の3つすべてを満たす必要があります。
- 昭和56年5月31日以前に建築されたこと
- 区分所有建物登記がされている建物でないこと(分譲マンションは対象外)
- 相続開始の直前に被相続人以外の居住者がいなかったこと
補足
老人ホーム入所中に亡くなった場合も、一定要件を満たせば対象になります(国税庁タックスアンサーNo.3307)。
売り方のパターンと期限
国税庁は売却のかたちを3つに整理しています。
| パターン | 内容 | 主な追加要件 |
|---|---|---|
| イ | 家屋(+敷地)を売る | 相続から譲渡まで事業・貸付け・居住に供されていないこと/譲渡時に一定の耐震基準を満たすこと |
| ロ | 家屋を全部取り壊してから敷地を売る | 取壊し等から譲渡まで建物・構築物の敷地に供されていないこと |
| ハ | 売った後に耐震改修または取壊しを行う (令和6年1月1日以後の譲渡に限る) | 譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに耐震基準を満たすか、家屋の取壊し等を行うこと |
パターンハは令和6年1月1日以後、買主が引渡し後に取り壊す形でも翌年2月15日までに完了すれば対象になる改正です。そのほか、次も要件です。
- 相続開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
- 売却代金が1億円以下であること
- 他の特例(取得費の特例・収用等の特別控除など)の適用を受けていないこと
- 親子や夫婦など特別の関係がある人に売ったものでないこと
控除額が縮む場合・使えない典型パターン
令和6年1月1日以後の売却で、相続人が3人以上いる場合は控除額が1人あたり2,000万円に下がります。また、次のケースは特例が使えません。
- 分譲マンション(区分所有建物登記あり)
- 相続後に賃貸に出した、または相続人が住んだ
- 売却代金が1億円を超えた(他の相続人の分も合算)
- 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日を過ぎた
注意
空き家を「もったいないから」と一時的に貸すと、その時点で特例が使えなくなります。売却をお考えなら、貸す前にご相談ください。
特例②:取得費加算の特例(措法39条)
相続税を納めた方が一定期間内に相続財産を売ると、納めた相続税の一定額を取得費に上乗せできます。取得費が増えるほど税金が減ります。
適用要件
- 相続や遺贈により財産をもらった人であること
- その人に相続税が課税されていること(相続税がゼロの方は使えません)
- 相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること
この期限は「相続開始から3年10か月以内」と説明されがちですが、正確には相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月)を起点に3年を数えます。空き家特例の期限とは数え方も締切も違うため、両方をカレンダーで管理してください。
加算額の計算
上乗せ額は「その人の相続税額 × 売った財産の相続税評価額 ÷ その人が相続等でもらった財産の合計額(債務控除前)」で計算し、この特例を使わない場合の売却益が上限です。実際の計算は「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」を使います。相続税を多く納めた方ほど上乗せ額が大きくなります。
どちらが有利?【選択制】数字で比べる
この2つの特例は同時には使えません。国税庁タックスアンサーNo.3306は、空き家特例の要件として次のように明記しています。
「売った家屋や敷地等について、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例や収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと。」
有利なほうを選びます。次の前提で比べます(概算取得費は、値段が分からないとき売った値段の5%を取得費とする方法です)。
計算例
例:譲渡価額4,000万円・取得費不明のケース
譲渡価額4,000万円 -(概算取得費200万円+譲渡費用150万円)= 3,650万円所有期間は長期(税率20.315%)、取得費加算額は500万円(相続税を納めているケース)とします。
| 選択肢 | 課税譲渡所得 | 所得税+復興特別所得税+住民税 |
|---|---|---|
| 空き家特例 3,000万円控除 | 650万円 | 1,320,475円 |
| 空き家特例 2,000万円控除 (相続人3人以上の場合) | 1,650万円 | 3,351,975円 |
| 取得費加算 500万円 | 3,150万円 | 6,399,225円 |
このケースは空き家特例が有利で、差額は5,078,750円です(控除2,000万円になる場合でも差額3,047,250円)。ただし上乗せ額が3,000万円を超えるなら取得費加算が有利になり、空き家特例の要件を1つでも満たさなければ取得費加算しか残りません。
共有相続・複数人売却のときの注意点
売却代金1億円以下の判定は、他の相続人の売却分も合わせて行います。特例後に残りを売り合計が1億円を超えたときは、その売却の日から4か月以内に修正申告書の提出と納税が必要です。「自分の持分だけなら」という判断は危険です。
ポイント
空き家特例が使えるかは、家を残すか壊すか、耐震改修をするか、いつ引き渡すかで変わります。売買契約の条件を決める段階で税務の見通しを立てておくと、選択肢を自分で狭めずに済みます。
相続不動産の売却でよくある実務の落とし穴
落とし穴1:買った値段が分からない
購入時の売買契約書が見つからないことは多くあります。「契約書がない=5%」と決めつけるのは早すぎます。住宅ローンの契約書、抵当権の登記、分譲時のパンフレット、通帳の記録から、買った値段を組み立て直せることがあります。詳しくは不動産売却で取得費がわからない?概算取得費5%で損しないための合理的算定法をご覧ください。
落とし穴2:遺産分割協議と売却タイミング
空き家特例には「相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで」、取得費加算には「相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで」という期限があります。話し合いが長引きそうなときほど、期限から逆算して進めることが大切です。
落とし穴3・4:確認書と耐震基準適合証明書の時期
空き家特例に必要な「被相続人居住用家屋等確認書」は交付まで時間がかかり、必要書類も自治体ごとに違います。申告期限の直前に動き始めると間に合いません。耐震基準適合証明書等も、原則売った日の前2年以内に調査が終わっているものに限られます。
申告のときに必要な書類
空き家特例を使う場合は、確定申告書に次の書類を添えて提出します(家屋とともに敷地等を売った場合)。
- 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)[土地・建物用]
- 売った資産の登記事項証明書等(相続・遺贈による取得、昭和56年5月31日以前築、非区分所有を証するもの)
- 市区町村長から交付を受けた「被相続人居住用家屋等確認書」
- 耐震基準適合証明書または建設住宅性能評価書の写し
- 売買契約書の写し等(売却代金1億円以下を証するもの)
取得費加算の特例の場合は、「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」と譲渡所得の内訳書を付けます。登記事項証明書は「不動産番号等の明細書」に番号を書けば省略できる場合があります。書類の全体像は不動産売却後の確定申告 必要書類チェックリストと申告までの流れにまとめています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 空き家の3,000万円特別控除と取得費加算の特例は併用できますか?
併用できません。国税庁タックスアンサーNo.3306が、空き家特例の要件として他の取得費特例等の不適用を挙げています。有利なほうを選びます。
Q2. マンションを相続して売った場合も空き家の3,000万円特別控除は使えますか?
原則使えません。一般的な分譲マンションは区分所有建物登記があり対象外です。取得費加算の特例が使えるかを検討します。
Q3. 売却の期限はいつまでですか?
空き家特例は、相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの売却が要件です(平成28年4月1日から令和9年12月31日までの譲渡が対象)。取得費加算の特例は、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までの譲渡が要件です。
Q4. 兄弟で共有相続した実家を売る場合、控除額はどうなりますか?
要件を満たす相続人がそれぞれ受けられます。ただし令和6年1月1日以後の譲渡で相続人が3人以上いる場合、控除額は1人あたり2,000万円に下がります。1億円判定は他の相続人の売却分も含めます。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。空き家の特例および取得費加算の特例は要件が細かく、個別事情によって適用の可否および有利判定の結論が変わります。記載した設例は前提を単純化した試算であり、実際の税額を保証するものではありません。具体的な事案については必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3307「被相続人が老人ホーム等に入所していた場合の被相続人居住用家屋」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3307.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3267「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3202「譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3202.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3211「短期譲渡所得の税額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3211.htm
- 国税庁「申告書添付書類一覧(所得税及び復興特別所得税(譲渡所得・山林所得関係)申告書添付書類)」https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/joto/annai/1647_01_01.htm
- 租税特別措置法35条3項、39条、所得税法33条・38条・60条(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/
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