この記事のポイント
- 取得費・取得日は亡くなった方のものをそのまま引き継ぎます(国税庁タックスアンサーNo.3270)
- 実額が不明なら売却額の5パーセントだけを引く概算取得費を使えます
- 🔴 概算取得費を使うと相続人が払った登記費用などは上乗せできません(No.3270)
- 資料の探し先はご自宅・法務局・金融機関・売主・市区町村の5か所です
結論:取得費も取得の日も、被相続人から引き継ぎます
相続した不動産の「買った値段(取得費)」と「買った日」は、亡くなった方のものをそのまま引き継ぎます。分からなければ売った値段の5パーセントだけを引く方法しか使えず、税金が大きく増えることがあります。
相続や贈与によって取得した土地建物を売った場合の取得費は、被相続人や贈与者がその土地建物を買い入れたときの購入代金や購入手数料などを基に計算します。
相続や贈与によって取得したときは、被相続人や贈与者の取得の時期がそのまま取得した相続人や受贈者に引き継がれます。
長期か短期かは、亡くなった方が取得した時から売った年の1月1日までの期間で判定します(相続の日からではありません)。相続人が知らない昔の取引について、資料をさかのぼって調べる必要があります。
概算取得費5パーセントで申告すると、どれだけ変わるか
買った値段が分からないときは、売った金額の5パーセント相当額を取得費にできます(国税庁タックスアンサーNo.3258)。この「5パーセント」で税金はどれだけ変わるかを、譲渡価額5,000万円・譲渡費用200万円・長期譲渡所得のケースで見てみます。
| 概算取得費5% | 実額(1,200万円と判明) | |
|---|---|---|
| 譲渡価額 | 50,000,000円 | 50,000,000円 |
| 取得費 | 2,500,000円 | 12,000,000円 |
| 譲渡費用 | 2,000,000円 | 2,000,000円 |
| 課税長期譲渡所得金額 | 45,500,000円 | 36,000,000円 |
| 所得税・復興特別所得税(15.315%) | 6,968,325円 | 5,513,400円 |
| 住民税(5%) | 2,275,000円 | 1,800,000円 |
| 合計 | 9,243,325円 | 7,313,400円 |
差は約193万円です。資料を探す手間に見合うかの目安にしてください。値段が大きいほど差は広がります。
※特別控除なしの試算です。税率は15パーセント(住民税5パーセント)、復興特別所得税は2.1パーセント(No.3208)。建物は減価償却費相当額を差し引くため、実際の計算はより複雑になります。
さかのぼる順番:5か所を順に当たります
買った値段の手がかりは、次の順番で探すと見つかることがあります。手前ほど手間が少なく、後ろほど時間がかかります。
1. ご自宅(被相続人の書類)
- 売買契約書・重要事項説明書・領収証(最も直接的な証拠です)
- 権利証(登記済証)または登記識別情報通知(購入時期・登記書類が一緒に保管されていることがあります)
- 登記費用・不動産取得税・仲介手数料の領収証
- 確定申告書の控え(住宅ローン控除で当時の資料が残ることがあります)
2. 法務局
- 登記事項証明書(取得の原因と日付が分かります)
- 古い経緯は閉鎖登記簿の謄本や旧土地台帳を取得できることがあります
- 当時の抵当権設定登記が残れば、債権額が購入代金の手がかりになります
※保存状況は法務局によって異なります。取得できるかは管轄の法務局にご確認ください。
3. 金融機関
- 被相続人の預金通帳(購入時期の出金額・日付が手がかりになります)
- 住宅ローンの金銭消費貸借契約書、返済予定表、完済証明書
4. 売主・分譲会社・仲介会社
- 分譲時のパンフレット・価格表(同じ棟・間取りの分譲価格が分かることがあります)
- 仲介した不動産会社に取引記録が残ることがあります
5. 市区町村
- 名寄帳(被相続人が所有していた不動産の一覧)
- 固定資産評価証明書(土地建物の按分根拠に使えます)
注意
⚠️ 「資料が見つかること」と「取得費として認められること」は別です
見つかった資料が買った値段を裏づけられるかは、資料の中身次第です。抵当権の債権額は借りた金額であり、分譲時の価格表も実際の取引価額とは限りません。どう組み合わせて説明するかが実務の中心です。
相続人が支払った登記費用・不動産取得税も取得費になります
No.3270は次のように述べています。
なお、業務に使われていない土地建物を相続や贈与により取得した際に相続人や受贈者が支払った登記費用や不動産取得税の金額も取得費に含まれます。
ただし、同じ箇所に重要な注書きがあります。
(注)取得費が分からない場合などには、売った金額の5パーセント相当額を取得費とすることができます。ただし、この場合には、相続人などが支払った登記費用などを取得費に含めることはできません。
概算取得費を選ぶと、相続登記費用は上乗せできません。実額で計算できるか先に検討します。事業や賃貸用の資産は、これらの税金は取得費に含まれません(No.3252)。
被相続人の取得費に加えられるもの
購入代金・建築代金・購入手数料のほか、No.3252が挙げる主なものは次のとおりです(必要経費に算入されたものは含まれません)。
| 内容 | |
|---|---|
| (1) | 購入時の登録免許税(登記費用含む)・不動産取得税・特別土地保有税(取得分)・印紙税(業務用資産は除く) |
| (2) | 借主がいる土地・建物を買う際、立ち退かせるために支払った立退料 |
| (3) | 土地の埋立てや土盛り、地ならしをするために支払った造成費用 |
| (4) | 土地の取得に際して支払った測量費 |
| (5) | 所有権などを確保するための訴訟費用(遺産分割のための訴訟費用は取得費になりません) |
| (6) | 建物付き土地を購入後おおむね1年以内に取り壊すなど、当初から土地利用が目的だった場合の建物購入代金・取壊費用 |
| (7) | 購入資金の借入利子のうち、使用開始日までの期間に対応する部分 |
| (8) | 購入契約を解除し他の物件を取得することとした場合の違約金 |
(5)は見落とされやすい点です。遺産分けの訴訟費用は取得費になりません。所有権を守るための訴訟費用は取得費になり得ます。
建物は購入代金などの合計額から持っていた期間分の値下がり(減価償却費相当額)を差し引いた金額が取得費です。亡くなった方の所有期間も含めるため、買った日の確定が必要です。
相続税を払っているなら、取得費加算の特例も確認します
相続や遺贈でもらった財産を一定期間内に売ると、納めた相続税の一定額を取得費に上乗せできます(国税庁タックスアンサーNo.3267)。要件は3つです。
- (1)相続や遺贈により財産を取得した者であること
- (2)その財産を取得した人に相続税が課税されていること
- (3)その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること
注意
上乗せできる金額には上限(特例を使わない場合の売却益)があります。確定申告書に相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書と譲渡所得の内訳書を添えます。期限を過ぎると使えません。売却検討時にご確認ください。
それでも見つからなかったときは
探し尽くしても分からないことはあります。それでも概算取得費5パーセントを使う前に、間接的な資料から合理的に計算できないか検討する余地があります。別記事で詳しく扱っています。
申告の前に検討を終えておくことが大切です。概算取得費で申告後に実額へ直すには「更正の請求」が必要で、これにも期限があります。
相続した不動産の売却について小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 父が50年前に買った土地です。契約書がなくても取得費を実額で計算できますか?
権利証・預金通帳・住宅ローン契約書・分譲時のパンフレット等で買った値段を裏づけられれば、実額計算できる可能性があります。資料を拝見のうえご案内します。
Q2. 相続してから3年しか経っていませんが、短期譲渡所得になりますか?
なりません。亡くなった方が買った時期を引き継ぎ、その時から売った年の1月1日までの期間で長期・短期を判定するためです。
Q3. 相続登記にかかった司法書士報酬や登録免許税は取得費になりますか?
事業・賃貸用でない土地建物なら、相続人が払った登記費用や不動産取得税も取得費に含まれます。ただし概算取得費(5パーセント相当額)を使う場合は上乗せできません。
Q4. 相続税を払いました。売却するときに何か使える特例はありますか?
取得費加算の特例があります。相続税が課税されており、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売ることが要件です。上限・添付書類もあるためご確認ください。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料(引用した国税庁タックスアンサーはいずれも令和7年4月1日現在法令等)に基づく一般的な解説です。記事中の税額の試算は、特別控除の適用がなく、建物の減価償却費相当額を考慮しない単純化した例であり、実際の税額とは異なります。閉鎖登記簿・旧土地台帳の保存状況や名寄帳の取扱いは、法務局・市区町村によって異なります。また、本記事に挙げた資料が見つかった場合でも、それによって取得費を裏づけられるかどうかは個別に判断されます。実際の申告は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.3270「相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3270.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3252「取得費となるもの」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3252.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3258「取得費が分からないとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3258.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3267「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3202「譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3202.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm
- 国税庁「申告書添付書類一覧(所得税及び復興特別所得税(譲渡所得・山林所得関係)申告書添付書類)」https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/joto/annai/1647_01_01.htm
「資料がない」と決める前に、一度ご相談ください
相続で取得した不動産は、購入の経緯をご存じないまま売却されることが少なくありません。当事務所では、お手元の資料と登記・金融機関・分譲時の記録から、取得費として根拠づけて算入できるものがないかを検討します。すでに売却済みの方も、申告前であれば間に合います。代表税理士が直接ご対応します。
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