不動産譲渡所得

立退料をもらったとき・支払ったときの税金
3つに分かれる所得区分と、譲渡費用になる場合

小松優馬

小松 優馬

公認会計士(登録番号43196)・税理士(登録番号151214)

監査法人での上場企業監査・上場準備CFO経験を経て独立。港区浜松町で個人・法人の税務をサポート。YouTubeチャンネル「公認会計士・税理士 小松ゆうま」運営。

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この記事のポイント

  • 🔴 立退料は中身で①譲渡所得②事業所得③一時所得の3つに分かれる(No.3155)
  • 譲渡所得と一時所得、それぞれに50万円の特別控除があり別々の枠
  • 支払う側は譲渡費用・必要経費・取得費のいずれかになる(同No.1382)
  • 売却のために払う立退料は譲渡費用として控除される

まず結論:立退料は「ひとつの所得」ではありません

立退料は、その中身によって所得の種類が分かれます。国税庁は、事務所や住居などを明け渡して受け取る立退料を、所得税法上の各種所得の収入金額として扱うとしています(国税庁タックスアンサーNo.3155)。

同じ「立退料300万円」でも、中身の分け方によって計算のしかたが変わります。3つの区分は次の章の表のとおりです。

支払う側も同様です。国税庁は、支払った立退料を譲渡費用・不動産所得の必要経費・取得費または取得価額に分けて説明しています(同No.1382)。

補足

この記事が扱う範囲
本記事は個人が受け取る・支払う立退料が対象です。法人が受け取る立退料、借家権の取得費の算定方法、消費税の取扱いは扱いません。

建物の明渡しと鍵の引渡し
明渡しの対価が何に対するものかで、所得の区分が変わります

【もらう側】立退料は3つに分かれます

国税庁タックスアンサーNo.3155は、借家人が受け取る立退料を3つに区分しています。

どんな金額かどの所得になるか
家屋の明渡しによって消滅する権利の対価の額に相当する金額総合課税の譲渡所得の収入金額
立ち退きに伴う事業の休業等による収入または必要経費を補填する金額事業所得等の収入金額
①②に該当しない金額一時所得の収入金額

建物を借りて使い続ける権利は、それ自体が値段のつく財産です。明け渡すことでその権利が消滅し、その対価が①にあたります。①は総合課税の譲渡所得です。所有期間が5年を超えれば長期、5年以内なら短期譲渡所得になります(同No.3152)。特別控除額は年間の長期・短期の譲渡益合計に対して50万円で、短期は全額、長期は2分の1が総合課税の対象になります。

借りていた場所で事業をしていた方は、立ち退きで商売が止まり、その間の売上減少や移転費用の穴埋めが必要になります。この②は事業所得等の収入金額です。売上と同じ扱いで、必要経費を差し引いて所得を計算します。

①にも②にもあたらない、いわゆる迷惑料・協力金といった性格の金額が③です。③は一時所得の収入金額です。一時所得には50万円の特別控除があるため、③が50万円以下なら所得は残りません。

数値例で見る 立退料300万円の内訳と計算

前提:借家人(個人)が立退料300万円を受け取りました。借家権は取得から5年を超えて保有しています。

計算例

内訳:① 権利の対価 200万円 ② 休業補償 50万円 ③ それ以外 50万円

例1:① 総合課税の譲渡所得

2,000,000円 − 500,000円(特別控除) = 1,500,000円 長期譲渡所得のため 1,500,000円 × 1/2 = 750,000円が総合課税の対象

例2:③ 一時所得

500,000円 − 500,000円(特別控除) = 0円

②の50万円は事業所得の収入金額500,000円になり、必要経費を差し引いて計算します(借家権の取得費・譲渡費用は考慮していません)。

①の特別控除50万円と、③の特別控除50万円は別々の枠です。「50万円はもう使った」として片方だけ課税されることはありません。その年に短期と長期の譲渡益があるときは、先に短期の譲渡益から特別控除の50万円を差し引きます(同No.3152)。

【もらう側】区分を分けるのは「何の対価か」です

立退料の区分は、金額の名前ではなく「何の対価として支払われたか」で決まります。契約書に「立退料」とだけ書かれていても、税務上はその一言で片づきません。逆に言えば、中身が分かる資料がなければ、区分の説明が難しくなります。

①には50万円の特別控除があり長期なら2分の1に、③にも別枠で50万円の特別控除があり、②は必要経費を差し引いて計算します。内訳の置き方は申告の内容に直結します。

だからこそ、立退きの合意をする段階で契約書や覚書に内訳を明記しておくことが実務では大切です。あとから内訳を作ろうとしても、交渉の経緯が分からなければ根拠を立てにくくなります。

ポイント

残しておきたい資料

① 立退きの合意書・覚書(内訳の記載があるもの)
② もとの賃貸借契約書(いつから借りていたかが分かるもの)
③ 立退料の入金が分かる通帳・振込明細
④ 移転にかかった費用の領収書

空室になった賃貸物件
売却のために支払った立退料は、譲渡費用として計算に入れます

【支払う側】立退料は4つの扱いに分かれます

国税庁タックスアンサーNo.1382は、支払った立退料の取扱いを場面ごとに示しています。

どんな場面で支払ったかどう扱うか
賃貸している建物やその敷地を譲渡するために支払う立退料譲渡所得の金額の計算上控除(譲渡費用)
不動産所得の基因となっていた建物の賃借人を立ち退かせるための立退料不動産所得の必要経費
土地、建物等を取得する際に使用者へ支払う立退料その資産の取得費または取得価額
敷地のみを賃貸し借地人に立ち退いてもらうための立退料借地権の買戻し対価として土地の取得費

金額の名前はどれも「立退料」ですが、違うのは支払った目的だけです。その年の必要経費になるのは、不動産所得の必要経費になる場合のみです。譲渡費用や取得費・取得価額になる場合は、支払った年にそのまま経費になるわけではありません。

売却のために払った立退料は譲渡費用になります

賃貸している建物やその敷地を譲渡するために支払う立退料は、譲渡に要した費用として譲渡所得の金額の計算上控除されます(同No.1382)。

アパートやビルを売るとき、入居者が残っていると買い手が見つかりにくい場面があります。そこで先に入居者に立ち退いてもらい、その費用として立退料を支払う流れはよくあります。ところがこの支払いは売買契約より前に起き、年をまたぐことも珍しくありません。売買の資料は不動産会社からまとめて渡されますが、立退料の資料は別の場所に置かれがちです。その結果、譲渡所得の計算時に立退料の存在が視野から外れることが起こります。

防ぎ方は単純です。いつ売ろうと決め、いつ交渉を始め、いつ立退料を払い、いつ売買契約を結んだか。売却の経緯を時系列で並べることです。弊所では、譲渡所得の計算をお引き受けする際、この時系列の整理から入り、各支出が譲渡費用として根拠づけて算入できるかを検討します。

取得費・譲渡費用の線引き全般については、測量費・取壊し費用は取得費?譲渡費用?不動産売却でかかった費用の線引きもあわせてご覧ください。

よくある失敗

立退料をめぐって実際に見かけるつまずきを、4つ挙げます。

1. 内訳のない「立退料一式」

合意書に「立退料として金300万円を支払う」とだけ書かれ、3つの区分に分けようがないケースです。合意の段階で内訳を決め、書面に残しておく一手間が、あとの申告を支えます。

2. もらった年に申告していない

立退料は各種所得の収入金額になるため、給与以外に収入がない方でも申告が必要になることがあります。③の一時所得だけと考えて放置しても、①の権利の対価に相当する部分があれば総合課税の譲渡所得として計算が必要です。

3. 売却時の立退料を譲渡費用に入れ忘れる

支払った時期と売った時期がずれるため視野から外れやすくなります。物件を売った年の申告では、前年・前々年にさかのぼって立退きに関する支出がなかったか確認しておきたいところです。

4. 取得時の立退料を取得費に入れ忘れる

これは影響が何十年も先まで残る失敗です。購入から売却まで20年、30年と経つうちに当時の資料が失われ、取得費として説明することが難しくなります。売買契約書と立退きに関する書類は、ひとまとめにして保管してください。

注意

いま確認していただきたい4点

① 立退料を受け取ったなら、合意書に内訳の記載があるか
② その内訳は①権利の対価・②休業補償・③それ以外に対応づけられるか
③ 賃貸物件を売る予定があるなら、立退きに関する支出をしていないか
④ 過去に不動産を買ったとき、立退料を払った資料が残っているか

物件の内見
物件の確認

立退料について小松公認会計士・税理士事務所ができること

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あわせて読みたい

よくある質問(FAQ)

Q1. 立退料を受け取りました。全額が一時所得になりますか?

全額が一時所得になるとはかぎりません。事務所や住居などを明け渡して受け取る立退料は、中身に応じて3つに分かれます(国税庁タックスアンサーNo.3155)。①家屋の明渡しによって消滅する権利の対価に相当する金額は総合課税の譲渡所得、②休業等による収入または必要経費を補填する金額は事業所得等、③それ以外は一時所得の収入金額になります。

Q2. 総合課税の譲渡所得の50万円と、一時所得の50万円は両方使えますか?

使えます。両者の特別控除は別々の枠です。総合課税の譲渡所得の特別控除額は、その年の長期・短期の譲渡益合計に対して50万円で、先に短期の譲渡益から差し引きます(国税庁タックスアンサーNo.3152)。

Q3. 賃貸しているアパートを売るために入居者へ立退料を払いました。どう扱いますか?

譲渡に要した費用として、譲渡所得の金額の計算上控除される譲渡費用になります(国税庁タックスアンサーNo.1382)。一方、不動産所得の基因となっていた建物の賃借人を立ち退かせるために支払う立退料は、不動産所得の必要経費になります。

Q4. 建物を買うときに、入居していた人へ立退料を払いました。その年の経費になりますか?

なりません。土地、建物等を取得する際に使用していた者へ支払う立退料は、その土地、建物等の取得費または取得価額になります(国税庁タックスアンサーNo.1382)。敷地のみを賃貸し、借地人に立ち退いてもらうための立退料は、通常、土地の取得費になります。

免責事項

本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。引用した国税庁タックスアンサーNo.3155、No.1382およびNo.3152は令和7年4月1日現在の法令等に基づくものです。本記事は、個人が受け取る立退料および個人が支払う立退料を対象としており、法人が受け取る立退料の取扱いは扱っていません。借家権の取得費の算定方法、立退料の水準、および消費税の取扱いについては、本記事では扱っていません。本記事の数値例は、立退料の総額を300万円、その内訳を①権利の対価200万円・②休業補償50万円・③それ以外50万円と仮定した計算上の目安であり、実際の所得金額・税額を保証するものではありません。実際の判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。

参考資料・判例出典

立退料の区分は、合意する前にご相談ください

受け取った立退料をどう区分するかで、申告の内容は変わります。支払った立退料も、譲渡費用・必要経費・取得費のどれにあたるかで扱いが変わります。合意書ができる前の段階でご相談いただくと、内訳の残し方から一緒に整理できます。代表税理士が直接ご対応します。

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小松 優馬

公認会計士・税理士/元監査法人

大手監査法人にて上場企業の監査業務に従事。税務の専門性を高めるため独立。お客様の人生設計を支える税務パートナーとして活動中。YouTubeチャンネル「税理士 小松ゆうま」では税務情報を発信中(登録者6,500人超)。

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