この記事のポイント
- 不動産売却の費用は「取得費」「譲渡費用」「どちらにもならないもの」の3つに分かれます
- 取壊し費用・立退料は「いつ払ったか」で結論が変わります(購入直後なら取得費、売却時なら譲渡費用)
- 修繕費・固定資産税・取立て費用はいずれにもなりません(所得税基本通達33-7、33-8)
- 200万円を計上できるかで、長期譲渡は406,300円、短期譲渡は792,600円の税額差になります
まず結論:費用は3つに分かれます
不動産を売った費用は、「取得費」に入るもの、「譲渡費用」に入るもの、どちらにも入らないものの3つに分かれます。「入らない」ものを入れると、後から税務署に認められません。
譲渡所得は次の式で計算します。
譲渡所得 = 譲渡価額 −(取得費 + 譲渡費用)− 特別控除
取得費と譲渡費用、税額への効き方は同じです
取得費でも譲渡費用でも、差し引ける金額は同じです。例外は2つ。相続の「取得費加算の特例」は取得費に足す仕組み。概算取得費5%を使う場合も、取得費は5%固定ですが譲渡費用は別に差し引けます。
取得費に含められるもの
タックスアンサーNo.3252「取得費となるもの」には、購入代金のほか次が挙げられています。
- 購入時の仲介手数料
- 購入時の登録免許税・登記費用、不動産取得税、印紙税
- 土地の測量費、造成費用、埋立て・地ならしの費用
- 建物付き土地をおおむね1年以内に取り壊した場合の建物購入代金・取壊し費用(当初から取壊す目的であったことが明らかな場合)
- 所有権を確保するための訴訟費用
- 借主に支払った立退料(借主がいる土地建物を購入し明け渡しを受けた場合)
建物は購入代金全額ではなく、値下がり分(減価償却費相当額)を差し引いた金額が取得費になります。
譲渡費用になるもの・ならないもの
譲渡費用とは「資産を売るために直接かかった費用」です(No.3255「譲渡費用となるもの」、所得税法33条、通達33-7〜8)。
譲渡費用になるもの
- 土地や建物を売るための仲介手数料
- 印紙税で売主が負担したもの
- 貸家を売るため借家人に明け渡してもらうときの立退料
- 土地を売るためにその上の建物を取り壊したときの取壊し費用と建物の損失額
- 契約済みの資産をより有利な条件で売るための違約金
- 借地権を売るとき地主の承諾をもらうための名義書換料など
譲渡費用にならないもの
- 修繕費
- 固定資産税
- 売った代金の取立てのための費用
国税庁は「資産の維持や管理にかかった費用は譲渡費用に含まれない」としています。売る準備の支出でも、中身が維持・管理なら譲渡費用にはなりません。
ポイント
判断の軸は「その支出がなければ売れなかったか」
仲介手数料や立退料は、払わなければ売却が成立しません。リフォームや清掃は、しなくても売却は成立します。売るために直接必要だったのか、資産価値を保つ支出なのか。この線引きが判断基準です。
同じ費用でも「いつ払ったか」で結論が変わります
取壊し費用と立退料は、取得費にも譲渡費用にもなり得ます。分かれ目は、払った時期と目的です。
| 費目 | 購入のときに支払った場合 | 売却のときに支払った場合 |
|---|---|---|
| 建物の取壊し費用 | 取得費(建物付き土地を購入し、当初から取壊す目的でおおむね1年以内に取り壊した場合) | 譲渡費用(土地を売るため建物を取り壊した場合。損失額も含む) |
| 借主・借家人への立退料 | 取得費(借主がいる土地建物を購入し、明け渡しを受けるために支払った場合) | 譲渡費用(貸家を売るため借家人に明け渡してもらうために支払った場合) |
| 測量費 | 取得費(No.3252に「土地の測量費」と明記) | 公表資料に明示なし(下記参照) |
売却のための測量費は、慎重な判断が必要です
境界未確定だと売買が成立しないため測量は多いですが、国税庁の資料に「譲渡費用になる」と明示した記載はありません(No.3255の6項目にも含まれず)。判断は、通達33-7がいう「譲渡のために直接要した費用」に当たるかを事情に即して行います。売主に測量の義務があったかなどが材料です。
注意
断定的な解説も見られますが、根拠を確認せず計上すると税務署の説明要求に耐えられません。当事務所は契約書と経緯を確認して判断します。
そのほか判断が分かれやすい費目
- ハウスクリーニング・残置物処分費――維持・管理に近く認められない可能性があります
- 抵当権抹消の登記費用――売主の借金整理の支出で、譲渡費用の記載はありません
- 売却前のリフォーム費用――修繕費は譲渡費用にならず、価値を高める部分は取得費に足せる余地があります
- 引越し費用――売ることに直接かかった費用とはいえず対象になりません
数字で見る:200万円の区分で税額はいくら変わるか
費用を計上できるかは税額に直結します。200万円入れられた場合の差はこうです。
| 所有期間 | 税率 | 200万円を差し引けた場合の税額差 |
|---|---|---|
| 長期譲渡所得(譲渡年の1月1日時点で所有期間5年超) | 20.315% (所得税15%+復興特別所得税+住民税5%) | 406,300円 |
| 短期譲渡所得(同5年以下) | 39.63% (所得税30%+復興特別所得税+住民税9%) | 792,600円 |
長期か短期かは「売った年の1月1日時点で、持っていた期間が5年を超えるか」で判定します(タックスアンサーNo.3202)。年をまたぐだけで税率は倍近く変わります。
領収書は金額の大小を問わずいったん全て集めてから区分することをおすすめします。短期譲渡では1件の見落としが数十万円単位の差になります。
実務での進め方
ステップ1:領収書を時系列で並べる
買ったときのもの・持っていた間のもの・売ったときのものに分けます。払った時期が分かるだけで判断は大きく進みます。
ステップ2:契約書で「誰の義務だったか」を確認する
取壊し・測量・境界の明示・残置物の撤去が売買契約で売主の義務になっていれば、有力な説明材料になります。
ステップ3:迷った費目は根拠つきで決める
資料に載っていない費目は通達の基準に照らし、判断の根拠を残します。税務署の説明要求に耐えられるかを基準にし、税額が下がる理由だけでは計上しません。
よくある質問(FAQ)
Q1. 売却のときにかかった仲介手数料は、消費税込みの金額を譲渡費用にできますか?
支払った金額そのものが譲渡費用です。個人が自宅や賃貸物件を売る場合は消費税込みの金額で差し引きます。
Q2. 古家付きの土地を売る際、買主の希望で建物を解体しました。取壊し費用は譲渡費用になりますか?
なります。土地を売るための取壊し費用と建物の損失額は、譲渡費用になるとNo.3255に明記されています。
Q3. 固定資産税の精算金を買主から受け取りました。これは費用ではなく収入になりますか?
収入になります。日割りの精算金は売買代金の一部として売った金額に含めます。固定資産税自体は譲渡費用になりません。
Q4. 概算取得費5パーセントを使う場合でも、譲渡費用は別に差し引けますか?
差し引けます。5%の方法は取得費の代わりに売値の5%を使うもので、譲渡費用は別に差し引けます。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・国税庁の公表資料に基づく一般的な解説です。取得費・譲渡費用の区分は個々の取引の事情によって判断が分かれることがあり、本記事の記載がすべての事案に当てはまるものではありません。特に公表資料に明示のない費目については、個別の事実関係に基づく判断が必要です。具体的な事案については必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.3252「取得費となるもの」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3252.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3255「譲渡費用となるもの」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3255.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3202「譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3202.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3211「短期譲渡所得の税額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3211.htm
- 所得税法33条、所得税基本通達33-7・33-8(譲渡費用の範囲)e-Gov法令検索
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取得費と譲渡費用の区分は、税額が下がればよいという発想では決められません。当事務所では契約書と支払の経緯を確認したうえで、税務署から説明を求められても耐えられる形で区分します。領収書が整理できていない状態でも構いません。まずは無料相談で状況をお聞かせください。
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