この記事のポイント
- 不動産を売って出た損は原則として給与などの所得から差し引けません
- 例外はマイホーム売却に限られた2つの特例だけ。それ以外の不動産の損は切り捨てです
- 条件を満たせば源泉徴収分の所得税が還付され、引き切れない損は3年間繰り越せます
- 本記事の計算例では1,000万円まで差し引けて890,822円が還付されました
原則:土地建物の譲渡損失は、他の所得と通算できない
不動産を売って損をしても、給与などの所得から差し引けるのはごく限られた場合だけです。
土地建物の税金は給与などとは別枠で計算します(分離課税)。この別枠で出た損は原則として給与などの所得から差し引けません(国税庁タックスアンサーNo.3203)。投資用マンション・別荘・相続空き家の損も同様です。
ただし、同じ年の他の不動産の譲渡益とは通算できる
同じ年に複数の土地建物を売って利益と損が出た場合は、売却どうしの中で相殺できます(特例ではなくもともとの計算ルール)。相殺後に残った損を給与などに使えるかが特例の話です。
例外は2つだけ。どちらもマイホームに限られる
売却の損を給与などから差し引き、翌年以後に繰り越せる特例は次の2つです。
| 項目 | 特例A:買換え型 (No.3370・措法41条の5) | 特例B:オーバーローン型 (No.3390・措法41条の5の2) |
|---|---|---|
| 正式名称 | マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例 | 特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例 |
| 新居の購入 | 必要 | 不要 |
| 旧居の所有期間 (売った年の1月1日) | 5年超 | 5年超 |
| 住宅ローンの要件 | 買換資産に償還期間10年以上の住宅ローンがあること | 譲渡資産は契約日の前日に償還期間10年以上の住宅ローン残高があること |
| その他の要件 | 新居の床面積50平方メートル以上/購入は譲渡年の前年1月1日から翌年12月31日まで | 譲渡価額が住宅ローン残高を下回っていること |
| 通算できる損失の限度 | 譲渡損失の額 | 住宅ローン残高−譲渡価額が限度 |
| 繰越控除 | 譲渡の年の翌年以後3年間 | |
| 合計所得金額の制限 | 繰越控除は合計所得金額3,000万円超の年は適用不可(損益通算には制限なし) | |
大きな分かれ目は「新しい家を買うかどうか」です。買い換えるなら特例A、買わずに手放すだけなら特例Bを検討します。
特例B(オーバーローン型)の要件を分解する
特例Bは、売った代金でローンを返しきれない場合の特例です。条件は次の4つです。
- 売却したのが国内のマイホームであること
- 売った年の1月1日に家屋と敷地の所有期間がともに5年を超えていること
- 売買契約日の前日に償還期間10年以上の住宅ローンの残高があること
- マイホームの譲渡価額が住宅ローンの残高を下回っていること
通算できる金額には上限がある
ポイント
差し引ける金額の上限は住宅ローンの残高から売却価額を差し引いた残りの金額まで。損失の全額ではありません。
たとえば損失1,500万円でもローン残高が売却価額を1,000万円しか上回っていなければ、差し引けるのは1,000万円までです。
数字で見る:譲渡損失があるとどれだけ戻るか
前提
- 分譲マンション(自宅)を令和2年3月に5,800万円で購入(建物2,300万円・土地3,500万円)、令和8年に4,000万円で売却(譲渡費用140万円)
- 経過年数6年(令和8年1月1日時点の所有期間は5年超)。契約日前日の住宅ローン残高は5,000万円
- 給与所得800万円、所得控除合計150万円
譲渡損失の計算
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 建物の減価償却費相当額 | 2,300万円×0.9×0.015×6年 | 1,863,000円 |
| 建物の取得費 | 2,300万円−1,863,000円 | 21,137,000円 |
| 土地の取得費 | — | 35,000,000円 |
| 取得費合計 | — | 56,137,000円 |
| 譲渡損失 | 40,000,000円−56,137,000円−1,400,000円 | △17,537,000円 |
通算できるのは「損失の全額」ではありません
計算例
上限の計算
50,000,000円(ローン残高)- 40,000,000円(譲渡価額)= 10,000,000円損失17,537,000円のうち差し引けるのは10,000,000円まで。残りの7,537,000円は切り捨てです。
損益通算の効果
| 項目 | 特例を使わない場合 | 特例Bを使う場合 |
|---|---|---|
| 給与所得 | 8,000,000円 | 8,000,000円 |
| 譲渡損失との通算(限度額まで) | — | △10,000,000円 |
| 総所得金額 | 8,000,000円 | 0円 |
| 所得控除 | △1,500,000円 | —(控除しきれず) |
| 課税所得金額 | 6,500,000円 | 0円 |
| 所得税 | 872,500円 | 0円 |
| 復興特別所得税 | 18,322円 | 0円 |
| 所得税等の合計 | 890,822円 | 0円 |
この例では確定申告で890,822円が還付されます。
繰越控除に回る金額
引き切れなかった2,000,000円は翌年以後3年間繰り越せます。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 損益通算の対象となる譲渡損失(限度額) | 10,000,000円 |
| 令和8年分の給与所得と通算した額 | △8,000,000円 |
| 令和9年以後に繰り越せる金額 | 2,000,000円 |
所得が0円になると、医療費控除や生命保険料控除などの所得控除は使い切れず切り捨てられます。
見落としやすい注意点
特例を使うときに見落としやすい点を整理します。
- 1. 損が出た年に申告しなければ始まりません。「税金がかからないから申告しなかった」では翌年以後の繰り越しも受けられません
- 2. 繰越控除を受ける年も連続して申告書を提出します。1年でも抜けるとその先が使えなくなります
- 3. 合計所得金額が3,000万円を超える年は繰越控除が使えません(損益通算そのものには制限なし)
- 4. 3,000万円特別控除とは別の制度です。あちらは利益が出たときに使う制度で、損が出ている場合には出番がありません
- 5. マイホーム以外の不動産では使えません。投資用物件・別荘・相続した空き家の売却損は給与などと通算できません
よくある質問(FAQ)
Q1. 賃貸に出していたマンションを売って損が出ました。給与と通算できますか?
できません。2つの特例はマイホームの売却に限られます。ただし同じ年に他の土地建物を売って利益が出ている場合は、その利益とは相殺できます。
Q2. 損が出た年に確定申告をしないと、繰越控除は使えなくなりますか?
使えなくなります。損が出た年分に特例を受ける旨の申告書と必要書類の提出が必要で、繰り越しを受ける各年も連続して申告書の提出が必要です。
Q3. 繰越控除は3年間ずっと使えますか?
使えない年もあります。合計所得金額が3,000万円を超える年は繰り越し分を使えません(損益通算そのものには制限なし)。
Q4. 売却価額がローン残高を上回っている場合はどうなりますか?
オーバーローン型(No.3390)は使えません。売却価額が契約日前日のローン残高を下回っていることが条件だからです。買い換えるなら特例A(No.3370)を検討します。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・国税庁公表資料に基づく一般的な解説です。譲渡損失の特例は要件が細かく、記事に記載していない除外事由もあります。記事中の還付額は前提を置いた試算であり、実際の金額は所得控除の内容・源泉徴収税額・住民税の計算方法によって変わります。具体的な事案については必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.3203「不動産を譲渡して譲渡損失が生じた場合」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3203.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3370「マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき(マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3370.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3390「住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき(特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3390.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3261「建物の取得費の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3261.htm
- 国税庁タックスアンサー No.2260「所得税の税率」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
- 租税特別措置法41条の5、41条の5の2(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/
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損が出た売却こそ、申告する価値があります
譲渡損失の特例は要件が細かく、1つでも欠けると適用できません。しかし要件を満たしていれば、給与から源泉徴収された所得税がまとまって還付されます。売却前のご相談であれば、要件を満たす形に整えられる余地もあります。まずは無料相談でご状況をお聞かせください。
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