この記事のポイント
- 買換え特例(措置法36条の2)は、税金がゼロになる制度ではなく、支払いを将来に先送りする制度です
- 令和8年度税制改正により、使える期限が令和9年12月31日まで2年延長されました
- 3,000万円特別控除+軽減税率と比べると、今の税金はゼロでも、将来の税額が大きくなることがあります
- 居住期間10年以上・所有期間10年超・売却代金1億円以下など、条件が厳しい点にも注意してください
買換え特例は「非課税」ではなく「課税の繰延べ」
買換え特例は売った年の税金をゼロにできますが、消えるわけではなく将来に先送りするだけです。特定の居住用財産の買換え特例(措置法36条の2)は、国税庁タックスアンサーNo.3355も「課税の繰延べ(非課税でない)」としています。買い換えた家の取得価額は売った家から引き継いだ低い金額に置き換わり、いま課税されなかった利益は次に売るときに上乗せされます。
令和8年度税制改正で令和9年12月31日まで2年延長
国税庁公表の税制改正の概要(令和8年3月31日公布)では、次の措置が講じられました。
- 適用期限が令和9年12月31日まで2年延長されました(措法36の2)
- 関連する譲渡損失の損益通算・繰越控除の特例も同様に2年延長されました
- 買換資産のうち令和10年1月1日以後に居住する新築で災害危険区域等内のものは除外されました(一定の除外あり)
新築の分譲住宅に買い換える際は、災害危険区域等に当たらないか事前に確認してください。
譲渡損失の繰越控除はマンションを売って損が出たら確定申告は必要?譲渡損失の損益通算・繰越控除で解説しています。
適用要件は厳しい――7つのハードル
この特例は条件をすべて満たす必要があり、ひとつでも欠けると使えません。主な条件は次のとおりです(国税庁タックスアンサーNo.3355)。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| ①期限 | 令和9年12月31日までにマイホームを売ること(改正後の適用期限) |
| ②所在地 | 売ったマイホームと買い換えたマイホームは、日本国内にあるものであること |
| ③居住・所有期間 | 売った人の居住期間が10年以上、かつ、売った年の1月1日において家屋とその敷地の所有期間がともに10年超であること |
| ④売却相手 | 親子や夫婦など「特別の関係がある人」に対して売ったものでないこと |
| ⑤売却代金 | 1億円以下であること |
| ⑥買換えの時期 | 売った年の前年から翌年までの3年の間に買い換えること |
| ⑦買換資産の要件 | 床面積50平方メートル以上・土地面積500平方メートル以下、中古住宅は築25年以内または耐震基準適合など |
見落とされやすいのは「居住期間10年以上」
「所有期間10年超」は知られていますが、別に「住んでいた期間が10年以上」という条件もあり、転勤や賃貸に出していた方は注意が必要です。
買換えた家に「いつまでに住むか」も決まっている
住み始める期限もあり、買った時期で次のように分かれます(国税庁タックスアンサーNo.3355)。
- 売った年かその前年に取得したとき:売った年の翌年12月31日まで
- 売った年の翌年に取得したとき:取得した年の翌年12月31日まで
リフォームや引渡しの遅れで入居が延びると条件を満たさず、工事遅れも見込んで予定を組んでください。
3,000万円特別控除+軽減税率と比べてみる
目先の税額だけでは買換え特例が有利に見えますが、将来まで通すと逆転することがあります。次の前提で比較します。
- 譲渡価額:8,000万円/取得費:3,000万円/譲渡費用:250万円
- 譲渡益:8,000万円 −(3,000万円 + 250万円)= 4,750万円
- 居住期間10年以上・所有期間10年超(両方の特例の要件を満たす前提)
- 買い換えた家の取得価額:9,000万円
A案:3,000万円特別控除+軽減税率を使う
所有期間10年超なら税率を下げる特例もあり、国税庁タックスアンサーNo.3305によれば課税長期譲渡所得6,000万円以下の部分は所得税10%(10.21%)・住民税4%です。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 課税長期譲渡所得 | 4,750万円 − 3,000万円 | 17,500,000円 |
| 所得税+復興特別所得税 | 1,750万円 × 10.21% | 1,786,750円 |
| 住民税 | 1,750万円 × 4% | 700,000円 |
| 売却年に納める税金 | ― | 2,486,750円 |
B案:買換え特例を使う
売った年の税金はゼロですが「買った値段」は低い金額に置き換わり、国税庁タックスアンサーNo.3362の考え方では次のようになります。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 売却年に納める税金 | 課税の繰延べ | 0円 |
| 引き継ぐ取得価額 | (3,000万円 + 250万円)+(9,000万円 − 8,000万円) | 42,500,000円 |
将来この家を9,000万円で売った場合です(譲渡費用300万円、他の特例なしと仮定)。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 譲渡所得 | 9,000万円 − 4,250万円 − 300万円 | 44,500,000円 |
| 所得税・住民税(20.315%) | 4,450万円 × 20.315% | 9,040,175円 |
A案は約249万円を納めて終わり、B案はゼロでも将来約904万円を負担しうる――買換え特例は「得な制度」でなく「時期をずらす制度」だと数字で分かります。
注意
将来売るとき居住用財産の特例が使えれば負担は変わり、住み続けて条件を満たせば税額は大きく下がります。ただしB案は「将来も売れること」に賭ける選択のため、資金計画と併せて判断してください。
判断の分かれ目はどこか
そもそも譲渡益が3,000万円以下なら比較の必要はない
ポイント
譲渡益が3,000万円以下なら特別控除だけで税額はゼロになり、課税を持ち越す理由がありません。検討が必要なのは利益がそれを大きく超えるケースです。
住宅ローン控除との併用はできない
買換え特例を使うと買い換えた家の住宅ローン控除は受けられず、控除を失う取り違えが実務でよくあります。詳しくは3,000万円控除と住宅ローン控除は併用できる?買い換え時に損しない制度の選び方で整理しています。
今の資金繰りを優先すべき場面もある
頭金等で資金が少ない時期は「今の納税をゼロにする」実利があり、税額より資金繰りを優先する判断もあり得ます。時系列でお示ししたうえでご判断いただきます。
売却代金1億円の壁
売却代金が1億円を超えると使えません。共有名義や数年に分けて売る場合は合計額で判定されるため注意が必要です。共有名義の売却は共有名義の不動産を売却したときの確定申告 3,000万円特別控除は共有者ごとに判定もご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 買換え特例と3,000万円特別控除は両方使えますか?
いいえ、どちらか一方です。前年・前々年に3,000万円特別控除等を受けていないことが条件です(国税庁タックスアンサーNo.3355)。
Q2. 買い換えた家を将来売らずに相続で引き継いだ場合、繰り延べた税金はどうなりますか?
消えません。相続人が取得費・取得時期を引き継ぎ(所得税法60条1項)、売却時に繰り延べた利益も含めて課税されます。
Q3. 居住期間10年以上とは、連続して住んでいる必要がありますか?
連続でなくても、実際に住んだ期間の合計で判定します(国税庁タックスアンサーNo.3355)。転勤等の空白期間は実態資料で確認します。
Q4. 買換え先が災害危険区域等にあると、必ず特例が使えなくなりますか?
必ずではありません。対象は令和10年1月1日以後に住み始める区域内の新築のみで、中古住宅やそれ以前の入居は対象外です。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。記載の数値例は前提を置いた試算であり、将来の売却価額・制度内容によって結果は変わります。適用要件の判定は事実関係により結論が異なるため、具体的な事案については必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.3355「特定のマイホームを買い換えたときの特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3355.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3362「居住用財産の買換えの特例を受けて買い換えた資産の取得価額とされる金額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3362.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3305「マイホームを売ったときの軽減税率の特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3305.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3302「マイホームを売ったときの特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm
- 国税庁「個人の方が株式等や土地・建物等を譲渡した場合の税制上の取扱いのあらまし」(令和8年5月・令和8年法律第12号等による改正)https://www.nta.go.jp/publication/pamph/joto-sanrin/r08aramashi.pdf
- 租税特別措置法36条の2(特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例)、同法31条の3(居住用財産を譲渡した場合の軽減税率)、所得税法60条1項e-Gov法令検索
この記事のお悩みは、小松公認会計士・税理士事務所にご相談ください
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
登録者6,900人超
小松公認会計士・税理士事務所 代表
小松 優馬公認会計士・税理士
- お話を伺って、「あなたの場合はどうなるか」をはっきりお答えします
- 必要な書類のご案内から申告まで、まるごとお任せいただけます
- 料金は先にお見積り。全国どこでも、オンラインで完結できます
YouTube「税理士 小松ゆうまチャンネル」(登録者6,900人超)で、税金の話を分かりやすく解説しています。動画を見てみる
初回相談は無料です。相談だけで終えていただいて構いません。
どちらの特例を選ぶかは、売る前に決めておくべきです
買換え特例と3,000万円特別控除は選択制で、あとから有利なほうに変えることはできません。当事務所では、譲渡益・買換え先の価格・将来の売却予定・住宅ローン控除まで含めて、時系列で手残りをお示ししたうえでご判断いただいています。売却前のご相談を歓迎します。
無料相談を申し込む 不動産売却の確定申告サポートを見る 約60秒で料金を自動見積り