この記事のポイント
- 同じ家を売るだけなら制限はなく、過去の住宅ローン控除を返す必要もありません
- 買い換えで古い家に3,000万円控除を使うと、新居の住宅ローン控除は使えません
- 制限は新居入居の年とその前2年・後3年の計6年間に適用されます
- 本記事の試算では3,000万円控除の効果5,078,750円、住宅ローン控除13年分は2,542,510円でした
まず結論:同じ家なら制限なし、買い換えなら二者択一
同じ家を売るだけなら、制限はありません。制限がかかるのは買い換えのときだけで、3,000万円控除と新居の住宅ローン控除はどちらか一方だけです。
3,000万円控除は、マイホームを売った利益から最大3,000万円を差し引ける制度です。次の2パターンで整理できます。
| パターン | 状況 | 結論 |
|---|---|---|
| パターン1 | 住宅ローン控除を受けていたその家そのものを売却(新居は取得しない) | 制限は働きません。過去の住宅ローン控除を返す必要もありません |
| パターン2 | 旧宅を売って3,000万円控除を使い、別に新居を取得して住宅ローン控除を受けたい | 二者択一です。どちらか一方しか使えません |
パターン1:住宅ローン控除を受けていた家をそのまま売る
過去に受けた住宅ローン控除を返す必要はなく、売った年に3,000万円控除もそのまま使えます。
条文(措置法41条23項・41条の3)と国税庁タックスアンサーNo.3302は、制限の対象を「住宅借入金等特別控除の対象となる資産以外の資産を譲渡した場合」に限っています。住宅ローン控除を受けていた家そのものを売ることは、制限の対象に含まれません。
注意
住宅ローン控除はその年の12月31日まで住み続けることが条件です。年の途中で売却・転居すると、その年の分だけ受けられなくなります(過去分の返還ではありません)。
パターン2:買い換え——制限がかかる「6年間の窓」
古い家を売って別の家を買う場合です。国税庁(タックスアンサーNo.1211-1)は次のように定めています。
居住年およびその前2年、その後3年の計6年間に、居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(措法31条の3第1項)、居住用財産の譲渡所得の特別控除(措法35条1項)、特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例(措法36条の2)、特定の居住用財産を交換した場合の長期譲渡所得の課税の特例(措法36条の5)、既成市街地等内にある土地等の中高層耐火建築物等の建設のための買換えの場合の譲渡所得の課税の特例(措法37条の5)の適用を受けていないこと
(注)令和2年3月31日以前の譲渡は、居住年前後2年の計5年間とされています。
新しい家に入居した年を基準に、前2年・その年・後3年の合計6年間が「窓」になり、この間に3,000万円控除などを使うと新居の住宅ローン控除は受けられません。
| 年 | 新居への入居を令和8年とした場合 |
|---|---|
| 令和6年 | 前2年 |
| 令和7年 | 前1年 |
| 令和8年 | 居住年 |
| 令和9年 | 後1年 |
| 令和10年 | 後2年 |
| 令和11年 | 後3年 |
この6年間はすべて「住宅ローン控除は不可」です。
注意
効果は控除期間の全部(10年または13年)に及び、窓を過ぎても復活しません。条文(措置法41条22項)も「各年分の所得税については、適用しない」としています。
相続した空き家(措法35条3項)は対象外です。制限の対象は措置法35条1項のみで、35条3項は含まれません。詳しくは相続した実家を売却したら税金はいくら?空き家3,000万円控除と取得費加算の使い分けをご覧ください。
すでに住宅ローン控除を受けた後で旧宅を売る場合
先に新居で住宅ローン控除を受け始め、その後に古い家を3,000万円控除で売る場合は、受け取った控除を返す手続きが必要になります。国税庁の質疑応答事例は次のように整理しています。
一定の資産を譲渡したことにより特例の適用を受ける場合において、その資産を譲渡した年の前3年以内の各年分の所得税について住宅借入金等特別控除を受けているときは、その譲渡した日の属する年分の確定申告期限までに、その前3年以内の各年分の所得税について修正申告書または期限後申告書を提出し、その住宅借入金等特別控除の額に相当する税額を納付しなければならない(租税特別措置法41条の3第1項)
先に受けた控除は返すことになり、順番がどちらでも実質的には二者択一です。
どちらが有利か——数字で比較する
金額で比べるしかありません。次の前提で計算します。
前提
- 旧宅の売却:譲渡所得(3,000万円特別控除を適用する前)2,500万円。所有期間5年超(長期譲渡所得)
- 新居の取得:借入金3,500万円、金利年1.0%、35年元利均等返済
- 住宅ローン控除:控除率0.7%、控除期間13年、控除限度額21万円/年(省エネ基準適合住宅・令和7年12月31日までに居住の用に供した場合)
- 各年とも所得税額が十分にあり、満額控除できると仮定します
3,000万円控除を選んだ場合の効果
特別控除を使わなければ、売却益2,500万円に次の税金がかかります。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 所得税(15%) | 25,000,000円×15% | 3,750,000円 |
| 復興特別所得税(2.1%) | 3,750,000円×2.1% | 78,750円 |
| 住民税(5%) | 25,000,000円×5% | 1,250,000円 |
| 合計 | — | 5,078,750円 |
3,000万円特別控除を使えば課税される利益は0円になり、この5,078,750円がまるごと不要になります。
住宅ローン控除を選んだ場合の効果
年末のローン残高に0.7%を掛け、年21万円を上限として13年分を積み上げます。
| 年 | 年末残高 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1年目 | 34,160,559円 | 210,000円(限度額) |
| 2年目 | 33,312,686円 | 210,000円(限度額) |
| 3年目 | 32,456,295円 | 210,000円(限度額) |
| 4年目 | 31,591,300円 | 210,000円(限度額) |
| 5年目 | 30,717,616円 | 210,000円(限度額) |
| 6年目 | 29,835,155円 | 208,846円 |
| 7年目 | 28,943,829円 | 202,606円 |
| 8年目 | 28,043,548円 | 196,304円 |
| 9年目 | 27,134,224円 | 189,939円 |
| 10年目 | 26,215,764円 | 183,510円 |
| 11年目 | 25,288,077円 | 177,016円 |
| 12年目 | 24,351,071円 | 170,457円 |
| 13年目 | 23,404,652円 | 163,832円 |
| 13年間の累計 | 2,542,510円 | |
3,000万円控除は売った年に効果が確定しますが、住宅ローン控除は13年間、毎年十分な所得税を納め続けることが前提です。転職・退職・繰上返済・住み替えで前提が崩れれば、控除額は少なくなります。
逆転する条件
旧宅の利益が小さい場合や、新居が借入限度額の大きい区分で借入額も大きい場合は住宅ローン控除が有利なこともあります。個別に計算して比べてください。
住宅ローン控除の控除率・控除期間・借入限度額は住み始めた年で決まるため、令和8年以後に入居する場合はその年の制度を確認してください。
「窓」をずらすという選択肢
両方を活かす方法は、新居の入居年を3,000万円控除を使う年の前2年から後3年までの期間の外に出すことだけです。令和8年分で控除を使うなら、入居は令和11年より後にする必要があります。ただし現実的な壁があります。
- 売却してから数年間、賃貸などで住まいを確保する必要があります
- 制限期間は入居した年で固定され、令和8年に入居したまま「令和12年分から控除を受ける」使い方はできません
- 住宅ローン控除の中身は入居年で変わるため、入居を遅らせると条件が不利になることもあります
ポイント
無理に窓をずらすより、有利なほうを選んで確実に取るほうが良いケースがほとんどです。3,000万円控除から住宅ローン控除への変更は認められません(逆方向は期限内なら可能)。申告前に有利判定を済ませておくことが重要です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 住宅ローン控除を受けていた家を売りました。過去に受けた控除を返さなければいけませんか?
その家そのものを売っただけなら、返す必要はありません。制限の対象は「住宅ローン控除の対象となる資産以外の資産」を売った場合だからです。同じ家の売却はこれに当たりません。
Q2. 相続した空き家を売って3,000万円控除を使った場合も、住宅ローン控除は受けられなくなりますか?
受けられます。制限の対象は措置法35条1項で、相続した空き家の3,000万円控除である35条3項は対象に入っていません(国税庁タックスアンサーNo.1211-1)。
Q3. 新居に入居した後で、旧宅を3,000万円控除で売ることにしました。どうなりますか?
受けた控除を返す手続きが必要です。売った年の前3年以内に受けた住宅ローン控除について修正申告書または期限後申告書を出し、控除相当額を納めます。期限は売った年分の確定申告期限です。
Q4. 同じ年に旧宅を売って新居に入居しました。両方使う方法はありませんか?
残念ながらありません。同じ年に売却と入居が重なると必ず制限期間に入るためです。両方を使うには入居年を前2年〜後3年の期間の外に出すしかなく、入居年は動かせないため途中から控除が復活することもありません。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・国税庁公表資料に基づく一般的な解説です。住宅借入金等特別控除の控除率・控除期間・借入限度額は居住の用に供した年によって異なり、記事中の試算は令和7年12月31日までに居住の用に供した場合の制度を前提としています。令和8年以後に居住の用に供する場合は、適用される制度を必ずご確認ください。また、各年の控除額は所得税額等が上限となります。具体的な事案については必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.1211-1「住宅の新築等をし、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1211-1.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3302「マイホームを売ったときの特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3305「マイホームを売ったときの軽減税率の特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3305.htm
- 国税庁 質疑応答事例「居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例等の適用を受ける場合の修正申告」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/06/23.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm
- 租税特別措置法41条22項・41条23項・41条の3、31条の3、35条、36条の2、36条の5、37条の5(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/
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この制度選択は、一度申告してしまうと後から取り消せない場合があります。売却と新居の購入が同じ時期に重なる方は、契約前の段階でご相談いただくのが最も効果的です。どちらが有利か、入居年をずらす余地があるかまで含めて、代表税理士が直接検討します。
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