この記事のポイント
- 暗号資産の利益は雑所得として総合課税。20.315パーセントの株式分離課税とは異なります
- 給与+暗号資産300万円の例で税負担944,761円(実質税率約31.5パーセント)
- 損失は他の所得と相殺も繰越もできません。株式との最大の違いです
- 令和8年度改正で特定暗号資産は20パーセント・3年間繰越の分離課税化が示されました
まず結論:課税されるのは「日本円に換えたとき」だけではない
暗号資産は、日本円に換えていなくても課税されることがあります。利益は原則として給与などと合算して課税されるため、税率は株式より高くなりがちです。
国税庁は、暗号資産を売ったり「使ったり」して生じる利益は原則として雑所得となり、確定申告が必要としています(事業に付随する場合等は除く)。
次のような場面で所得が生じます。
- 暗号資産を売却して日本円を受け取った
- 暗号資産で商品やサービスを購入した(決済時の時価と取得価額の差額が所得になります)
- 暗号資産を別の暗号資産に交換した(円に換えていなくても交換時に所得が生じます)
- マイニング、ステーキング、レンディングなどで暗号資産を取得した
暗号資産どうしの交換は見落とされやすいところです。円の出し入れがないため、交換した時点で利益が出たものとして扱われます。
所得区分は原則「雑所得」=総合課税
雑所得は給与など他の所得と合計してから税額を計算します。所得が増えるほど税率が上がる累進税率が適用されます。
株式の売却益は一律20.315パーセントの分離課税ですが、暗号資産は所得税最高45パーセントに住民税10パーセントが加わります。
暗号資産の利益は事業に付随する場合等を除き雑所得とされます。所得区分の判断は事業所得と雑所得の境界線もあわせてご覧ください。
数字で見る:給与+暗号資産300万円の税負担
次の前提で試算します。
- 会社員。暗号資産を除いた課税総所得金額は 5,000,000円
- 暗号資産の利益(雑所得)300万円が加わる
- 所得控除等は反映済み、復興特別所得税2.1パーセント・住民税10パーセントで計算
計算例
例:課税総所得500万円+暗号資産利益300万円
課税総所得金額 8,000,000円の税額 1,204,000円 - 500万円の税額 572,500円 = 所得税の増加額 631,500円 631,500円 × 2.1パーセント(復興特別所得税)= 13,261円 300万円 × 10パーセント(住民税)= 300,000円 631,500円 + 13,261円 + 300,000円 = 税負担合計 944,761円 300万円 - 944,761円 = 手残り 2,055,239円課税総所得金額695万円超は税率23パーセントに入るため、一部20パーセント・一部23パーセントで課税。実質税率は約31.5パーセントです。20.315パーセントなら609,450円で済み、差は335,311円になります。
住民税は翌年6月以降に届きます。再投資して価格が下がると納税資金が不足しやすいため、利益確定時点で納税分を日本円に取り分けておくことを強くおすすめします。
損失の扱いが最も厳しい
ここが株式との最大の違いです。
注意
- 暗号資産の損失は、給与や事業など他の所得と相殺(損益通算)できません
- 翌年以後に繰り越すこともできません。株式の売却損にある3年間の繰越控除は、暗号資産にはありません
同じ年の他の雑所得とは相殺できますが、年をまたいだ調整はできません。「1年目に利益、2年目に損失」でも1年目の税金だけが残ります。暗号資産の税負担が重いと言われる理由です。
取得価額の計算:総平均法が原則、移動平均法は届出が必要
同じ銘柄を複数回に分けて買った場合、1単位あたりの取得価額を総平均法か移動平均法で計算します。
届出をしなければ総平均法です。移動平均法を使うには税務署に「所得税の暗号資産の評価方法の届出書」の提出が必要です。年間取引報告書を使う場合は総平均法用の計算書が案内されています。
ポイント
- 銘柄ごとに全取引所を合算して計算します。取引所ごとの損益を単純に足し算するのは誤りです
- 海外取引所やウォレット間の移動があると履歴の再構成に工数がかかります。取引履歴は毎年保存してください(サービス終了で取得できなくなる例あり)
- 総平均法と移動平均法では所得金額が変わります。選んだ方法は継続して使う必要があります
令和8年度税制改正:分離課税化の方向が示されました
令和8年度税制改正の大綱では、金融商品取引法等の改正を前提に次の見直しが示されました。
- 特定暗号資産(登録された暗号資産等)の譲渡等は、他の所得と分離して20パーセント(所得税15パーセント・個人住民税5パーセント)で課税する
- 控除しきれない損失は翌年以後3年内の特定暗号資産の譲渡所得等から繰越控除できる(要件あり)
- 取引業者は、取引者の氏名・住所・個人番号等を記載した報告書を税務署長に提出する
- 先物取引の課税の特例等の対象に特定暗号資産デリバティブ取引を加える
ただし、いつから始まるかには注意が必要です。大綱は「金融商品取引法の改正法の施行の日の属する年の翌年の1月1日以後に行う特定暗号資産の譲渡等」に適用するとしており、施行日が決まらなければ開始年も決まりません。執筆時点では確定していません。
総合課税の譲渡所得となる暗号資産は、特別控除額・5年超保有の2分の1課税・損益通算のいずれも不適用となる見直しも示されています。
したがって、令和8年分・令和9年分の申告は、いまの雑所得・総合課税を前提に準備してください。「もうすぐ分離課税になるから」と申告を先送りするのはおすすめできません。
「連絡が来ない=把握されていない」ではありません
「税務署から連絡がないから把握されていない」と考えるのは誤りです。
令和8年度改正では、取引業者に取引者情報の報告書提出義務を課すことも示されています。制度が整備されれば、取引情報が税務当局に届く経路はより明確になります。
申告漏れが後から把握されると、本税に加えて無申告加算税・延滞税がかかります。自主申告か調査後の申告かで負担は大きく変わります。詳しくは確定申告が期限に間に合わないときの対処法で解説しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 暗号資産を日本円に換えていなければ申告は不要ですか?
換金していなくても課税されることがあります。商品購入や別の暗号資産への交換はその時点で所得が生じます。含み益のままなら課税されません。
Q2. 暗号資産で損が出た場合、給与所得と相殺できますか?
できません。暗号資産の損失は給与など他の所得と相殺(損益通算)できず、翌年以後への繰り越しもできません。同じ年の中の他の雑所得とは相殺できます。
Q3. 取引所が複数あります。どのように計算すればよいですか?
銘柄ごとに全取引所・ウォレットの取引を合算して取得価額を計算します。届出がなければ総平均法です。取引履歴は毎年保存してください。
Q4. もうすぐ20パーセントの分離課税になるなら、それまで待ったほうが有利ですか?
申告を先送りする理由にはなりません。開始年は執筆時点で未確定で、すでに生じた所得の申告義務は変わりません。今年分は現行制度で申告してください。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・国税庁公表資料および令和8年度税制改正の大綱に基づく一般的な解説です。記事中の税額は前提を置いた試算であり、実際の税額はその年の所得構成・所得控除・端数処理によって変わります。分離課税化を含む改正事項は、適用時期が金融商品取引法の改正法の施行日に連動するため、最新の公表資料を必ずご確認ください。具体的な事案については必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.1524「暗号資産を使用することにより利益が生じた場合の課税関係」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1524.htm
- 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱い及び計算書について(令和7年12月)」https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shotoku/kakuteishinkokukankei/kasoutuka/
- 国税庁「A1-20 所得税の暗号資産の評価方法の届出手続」https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/21kasou.htm
- 国税庁タックスアンサー No.1500「雑所得」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1500.htm
- 国税庁タックスアンサー No.1525「暗号資産交換業者から暗号資産に代えて金銭の補償を受けた場合」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1525.htm
- 財務省「令和8年度税制改正の大綱」一 個人所得課税(特定暗号資産の譲渡等に係る申告分離課税・繰越控除・報告書制度)https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/08taikou_01.htm
- 所得税法35条・69条 e-Gov法令検索
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