この記事のポイント
- 修繕費はその年の経費、資本的支出は複数年で減価償却します
- 1件20万円未満、または3年以内周期の修理は無条件で修繕費(通達37-13)
- 事業的規模(5棟10室基準)なら青色専従者給与・65万円控除などの優遇があります
- 事業的規模でも所得区分は不動産所得のまま。事業所得には変わりません
修繕費と資本的支出はどう違う?
壊れたところを元に戻す工事は「修繕費」で全額その年の経費に、価値を高める工事は「資本的支出」で何年もかけて経費にします(減価償却)。
根拠は所得税法施行令181条・37条1項で、全額引けるか数十年に分けるかで初年度の税額が大きく変わります。
| 区分 | 具体例 | 経費化方法 |
|---|---|---|
| 修繕費 | 壁紙の張替え、畳の交換、設備の故障修理、床の補修 | 支出年度の必要経費 |
| 資本的支出 | 建物の用途変更、避難階段の取付、耐震補強、グレードの高い設備への取替え | 減価償却資産として複数年で償却 |
通達による判定フロー(手順5ステップ)
次の順で判定します(所得税基本通達37-13・37-14の形式基準)。
- 1件20万円未満 → 全額修繕費(37-13)
- おおむね3年以内周期の修理改良 → 全額修繕費(37-13)
- 明らかに価値増加・耐久性増加の支出 → 全額資本的支出(37-14但書)
- 判定困難で60万円未満または前年末取得価額の10%以下 → 修繕費(37-13)
- 上記以外 → 30%と前年末取得価額の10%のいずれか少ない額を修繕費、残りは資本的支出
ポイント
実務上のポイント:見積書は「工事内訳明細」で受け取ってください。まとめ書きだと資本的支出と判定されやすくなります。当事務所は内訳書を保管します。
事業的規模(5棟10室基準)が満たされると何が変わる?
貸家なら5棟以上、アパートなら10室以上で「事業的規模」と認められ、青色申告の優遇が受けやすくなります。
「事業的規模」は貸付けが本業といえる規模かの区分です(所得税基本通達26-9、実態判定が原則)。
- 貸間・アパート等は、独立した室数がおおむね10以上
- 独立家屋の貸付けは、おおむね5棟以上
| 項目 | 事業的規模 | 事業的規模未満 |
|---|---|---|
| 青色申告特別控除 | 最大65万円 | 最大10万円 |
| 青色事業専従者給与 | 適用可能 | 適用不可 |
| 貸倒損失の必要経費算入 | 支出年度の経費 | 回収不能となった年分の収入金額からマイナス |
| 取り壊し損失 | 全額必要経費 | 所得金額が限度 |
青色申告特別控除65万円・55万円・10万円の要件比較
2020年分以降、青色申告特別控除は3区分に整理されています。
- 65万円控除:事業的規模+複式簿記+電子申告(e-Tax)または電子帳簿保存
- 55万円控除:事業的規模+複式簿記(紙申告)
- 10万円控除:事業的規模未満または簡易簿記
注意
実務上の盲点:65万円控除にはe-Tax申告か優良な電子帳簿保存が必要です。e-Taxの方が簡単なため、当事務所は原則e-Tax提出を勧めています。
判例・裁決から学ぶ実務上の落とし穴
1. 5棟10室基準は形式基準であって絶対基準ではない
5棟10室はあくまで目安です。東京地裁平成19年12月20日判決は、形式基準未満でも賃料収入や管理実態から事業的規模と認めました。逆に基準を満たしても投資色が強く認めなかった裁決もあります。
2. 大規模修繕は工事項目ごとに区分する
外壁塗装と屋上防水を一括計上した事案は資本的支出、内訳の明確な給排水管更新工事は劣化部分の取替えを修繕費と判定した事案があります。工事内訳書・写真・劣化状況の資料が重要です。
3. 共有物件の室数カウントは持分按分しない
夫婦共有のアパートで「室数×持分」は誤りです。共有でも建物全体の室数で5棟10室基準を判断します(国税庁質疑応答事例)。
よくある質問(FAQ)
Q1. 駐車場経営は5棟10室基準にどう関係しますか?
A. 駐車場は「貸付台数おおむね50台」が目安です(国税庁質疑応答事例)。アパートと両方貸す場合は規模を換算して合わせて判定します。
Q2. 入居者退去後のリフォーム費用は修繕費ですか?
A. 通常の傷みを戻すだけなら修繕費、グレードアップを伴う設備交換は資本的支出です。工事内訳ごとに判定します。
Q3. 不動産所得の損失は他の所得と通算できますか?
A. 原則、給与所得等の黒字と相殺(損益通算)できます。ただし土地取得の借入金利子相当分は対象外です(租税特別措置法41条の4)。
免責事項
本記事は2026年5月時点の情報に基づいて作成しています。税法は頻繁に改正され、また個別事案により取扱いが異なるため、具体的な事案については税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.1370「不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1370.htm
- 国税庁タックスアンサー No.1373「事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1373.htm
- 所得税基本通達26-9(建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定)
- 所得税基本通達37-13、37-14(修繕費と資本的支出の判定)国税庁 所得税基本通達
- 所得税法施行令181条(資本的支出)
- 国税不服審判所 公表裁決事例https://www.kfs.go.jp/service/JP/idx/
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不動産所得は修繕費判定・事業的規模判定・青色申告特別控除と論点が多く、適正申告のためには判例・通達の理解が欠かせません。お客様の物件状況に合わせた具体的なアドバイスをご希望の方は、初回無料相談をご利用ください。
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