事業所得・雑所得
事業所得か雑所得か|東京地裁令和4年判決と通達35-2・300万円基準を税理士が解説
この記事のポイント
- 事業所得は損益通算・青色65万円控除・専従者給与等の優遇あり、雑所得には基本的になし
- 2022年改正の所得税基本通達35-2により、収入金額300万円以下かつ帳簿書類保存なしの場合は原則「業務に係る雑所得」
- 東京地裁令和4年10月7日判決はサラリーマン副業の損失を業務性なしとして雑所得と判断
- 事業所得と認められるためには「営利性・継続性・反復性・自己責任・社会通念上の事業性」の総合判断が必要
事業所得と雑所得で何が違う?
結論: 同じ収入でも、事業所得なら損益通算・65万円控除・専従者給与が使えますが、雑所得ではこれらが使えません。
所得税法27条は事業所得を「農業・漁業・製造業・卸売業・小売業・サービス業その他の事業から生ずる所得」と定め、所得税法35条は雑所得を「他の九種類の所得のいずれにも該当しない所得」と定めています。
| 項目 | 事業所得 | 業務に係る雑所得 |
|---|---|---|
| 損益通算 | 給与等他所得と通算可能 | 通算不可(雑所得内のみ) |
| 青色申告特別控除 | 最大65万円 | 適用不可 |
| 青色事業専従者給与 | 適用可 | 適用不可 |
| 純損失の繰越控除 | 3年繰越可 | 繰越不可 |
| 少額減価償却資産(30万円未満) | 即時償却(年間300万円まで) | 通常の減価償却 |
所得税基本通達35-2の300万円基準とは?
結論: 2022年10月の通達改正で、収入金額300万円以下かつ帳簿書類の保存がない場合は、原則として業務に係る雑所得として取り扱う運用になりました。
2022年(令和4年)10月7日付で所得税基本通達35-2が改正され、副業を巡る所得区分について次の取扱いが明示されました。
- 事業所得と業務に係る雑所得の判定は、社会通念で判定することが原則
- その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がある場合は、原則として事業所得として取り扱う
- ただし、収入金額が300万円を超えない場合で、かつ事業所得と認められる事実がない(収入金額が僅少と認められる場合・営利性が認められない場合等)ときは、業務に係る雑所得に該当することに留意する
実務上の盲点: 「帳簿書類を保存していれば自動的に事業所得」ではありません。通達は「原則として事業所得として取り扱う」と表現しつつ、収入金額が極めて少ない、営利性が認められない、事業遂行のための継続性・反復性が認められない等の場合は雑所得に該当し得るとしています。帳簿保存は十分条件ではなく必要条件と理解すべきです。
東京地裁令和4年10月7日判決の射程
東京地裁令和4年10月7日判決(令和3年(行ウ)第153号)は、給与所得者である会社員が副業として行った事業について、給与所得との損益通算を否認した重要判決です。
判旨の要点
裁判所は事業所得該当性について、以下の要素を総合考慮して判断するとしました。
- 営利性・有償性の有無
- 継続性・反復性の有無
- 自己の危険と計算における事業遂行性の有無
- 取引に費やした精神的・肉体的労力の程度
- 人的・物的設備の有無
- 取引の目的
- 事業を営む者の職歴・社会的地位・生活状況
本件では、原告が本業の給与所得を多く得ていたこと、副業に費やす時間・労力が限定的であったこと、長期にわたり継続的に損失が発生していたこと等を踏まえ、事業所得性を否認しました。
判決の実務インパクト: 「給与所得と通算するための損失を生み出す副業」スキームへの牽制機能が働いた事例です。本業が忙しい中で副業の事業性を主張する場合、活動記録・取引証憑・営業活動の客観的事実を蓄積しておくことが、税務調査・税務訴訟での主張立証の鍵になります。
事業所得性を支える事実関係(チェックリスト)
以下の項目をできるだけ多く満たすほど、事業所得として認められる蓋然性が高まります。
- □ 開業届・青色申告承認申請書を税務署に提出している
- □ 複式簿記による帳簿(仕訳帳・総勘定元帳)を継続記帳している
- □ 領収書・請求書・契約書等の証憑を網羅的に保存している
- □ 事業用の銀行口座・クレジットカードを開設し、私用と分離している
- □ 事業用の名刺・ホームページ・SNS等を開設している
- □ 取引先との契約書・継続的な発注書がある
- □ 売上が継続して発生し、年々一定程度の収入規模に達している
- □ 損失が継続している場合、改善のための具体的な経営計画・行動がある
- □ 事業のための時間・労力の投下が客観的に確認できる(業務日報・勤務記録等)
実務での適正申告のポイント
1. 副業初年度から青色申告と帳簿保存を徹底する
青色申告承認申請は事業開始から2か月以内に提出する必要があります。後付けで帳簿を整える事業所得主張は税務署から疑義を持たれやすいため、初年度から会計ソフト導入+証憑保存を徹底すべきです。
2. 収入規模が小さい段階では雑所得申告も検討
無理に事業所得として申告しても、税務調査で否認されれば過少申告加算税・延滞税が生じます。収入が安定してから事業所得への変更を検討するのが堅実です。
3. 「事業所得+給与所得」の組み合わせは特に慎重に
本業が給与所得のサラリーマンが副業を事業所得として申告し、損失を給与と通算するパターンは、税務署が重点的にチェックする分野です。事業性を裏付ける書類整備が他のケース以上に重要です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 収入が300万円以下でも事業所得にできますか?
A. 帳簿保存がある場合は原則として事業所得です。ただし、営利性・継続性等の事業性が認められない場合は雑所得とされる可能性があります。実態判断であり金額は絶対基準ではありません。
Q2. 一時的なフリマアプリ売上は雑所得ですか?
A. 不用品の単発売却は譲渡所得(または非課税)に該当する場合があります。継続的に転売目的で行う場合は事業所得または雑所得となります。
Q3. YouTube収入は事業所得・雑所得のどちらですか?
A. 継続性・反復性があり、収益化の体制が整っているなら事業所得。一時的・偶発的な広告収入のみであれば雑所得となります。本業との関係や活動規模も考慮されます。
免責事項
本記事は2026年5月時点の情報に基づいて作成しています。税法は頻繁に改正され、また個別事案により取扱いが異なるため、具体的な事案については税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.1350「事業所得の課税のしくみ(事業所得)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1350.htm
- 国税庁タックスアンサー No.1500「雑所得」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1500.htm
- 所得税基本通達35-2(業務に係る雑所得の例示)国税庁 所得税基本通達
- 国税庁「副業に係る雑所得の例示等の所得税基本通達の解説」(令和4年10月)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/kaisei/221007/index.htm
- 東京地裁令和4年10月7日判決(令和3年(行ウ)第153号)所得区分認定事案
- 裁判所ウェブサイト 判例検索https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/search1
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