この記事のポイント
- 生計が同じ家族への給与・家賃は原則、経費になりません(所得税法56条)
- 例外は青色事業専従者給与です。届出と適正な金額なら全額経費にできます
- 届出書の期限は3月15日です(その年の1月16日以後開業等は2か月以内)
- 白色申告は事業専従者控除。配偶者は最高86万円、他の親族は最高50万円です
まず結論:家族への支払いは、原則として経費になりません
生計が同じ家族に給与を払っても、原則として経費にはなりません。これが出発点です。
「生計を一にする」とは同じ財布で暮らすことです。自由に経費にできれば税金を際限なく減らせるため、所得税法56条はこれを原則として認めていません。
国税庁タックスアンサーNo.2210も、「生計を一にする配偶者その他の親族に支払う地代家賃・給料賃金など(青色事業専従者給与を除く)」は経費にできないとしています。
対象は給与だけでなく、次の支払いも同じ扱いです。
- 生計が同じ親から借りる店舗の家賃
- 生計が同じ配偶者名義の車のリース料相当額
- 生計が同じ家族に支払う外注費・業務委託料
「業務委託契約にすれば経費になる」という理解は誤りです。生計が同じ家族への支払いかどうかで判定されます。
例外①:青色事業専従者給与(青色申告の場合)
青色申告には例外があり、条件を満たせば家族への給与全額を経費にできます。これが青色事業専従者給与です。
4つの要件(国税庁タックスアンサーNo.2075)
- 青色事業専従者(下記の条件を満たす家族)に支払われた給与であること
- 「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出していること
- 届出書に書いた方法で支払い、書いた金額の範囲内であること
- 仕事の内容に見合った金額であること(高すぎる部分は経費になりません)
「青色事業専従者」の3つの要件
次の3つをすべて満たす家族だけが対象です。
- 青色申告者と生計が同じ配偶者や親族であること
- その年の12月31日時点で15歳以上であること
- その年のうち6か月を超える期間、その事業に専ら従事していること
つまずきやすいのは「専ら従事」の条件です。本業や学業があると満たさないと判断されがちです。実態の記録を残しましょう。
届出書の提出期限──ここを逃すと1年待ちです
提出期限は、青色事業専従者給与額を必要経費に算入しようとする年の3月15日です。その年の1月16日以後に開業した人や新たに専従者がいることとなった人は、その開業の日や専従者がいることとなった日から2か月以内に提出します。
注意
年末になってからでは、もう間に合いません
決まった時点で届出書を出しておきましょう。
例外②:事業専従者控除(白色申告の場合)
白色でも事業専従者控除で一定額を差し引けます。ただし上限があります。
| 専従者 | 控除額の上限 |
|---|---|
| 事業主の配偶者 | 86万円 |
| 配偶者以外の親族(15歳以上) | 専従者1人につき50万円 |
実際に差し引ける金額は、次のうち低いほうです(No.2075)。
① 上記の上限額(配偶者86万円/その他の親族50万円)
② その年の事業所得等の金額 ÷(事業専従者の数 + 1)
計算例
例:事業所得100万円・専従者(配偶者)1人の場合
① 上限額 = 86万円 ② 100万円 ÷(1人+1)= 50万円低い方の50万円が控除額です。もうけが小さい年は上限まで使えません。
白色は給与を払わなくても差し引ける点が青色と違い、金額は固定です。
数字で見る:青色と白色でどれだけ違うか
次の前提で比べてみます。
- 専従者給与・専従者控除を差し引く前の事業所得:800万円
- 専従者は配偶者1人
- 青色の専従者給与:120万円(仕事に見合う額)
- その他の所得控除の合計:200万円と仮定
- 住民税は標準税率10パーセント
- 青色申告特別控除・事業税・国保料の影響は考えていません
| 項目 | 白色(事業専従者控除) | 青色(専従者給与) |
|---|---|---|
| 専従者に係る控除・給与 | 860,000円 min(86万円, 800万円÷2=400万円) | 1,200,000円 |
| 事業主の課税所得 | 5,140,000円 | 4,800,000円 |
| 所得税 | 600,500円 | 532,500円 |
| 復興特別所得税 | 12,610円 | 11,182円 |
| 住民税(10パーセント) | 514,000円 | 480,000円 |
| 事業主の税負担 合計 | 1,127,110円 | 1,023,682円 |
事業主側の差額は103,428円です。
受け取る家族側にも税金が生じます
受け取る配偶者には給与所得が生じ、所得税・住民税や社会保険の扶養判定に影響します。
青色事業専従者として給与の支払を受ける人、または白色申告者の事業専従者である人は、同一生計配偶者や扶養親族にはなれません。(国税庁タックスアンサーNo.2075)
専従者給与を出すと、その家族の配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除は使えなくなります。事業主側と家族側を合わせて判断してください。103,428円は事業主側のみの数字です。
実務で否認されやすい4つのパターン
1. 勤務の実態が説明できない
「名前だけ専従者」は認められません。何を、どの程度担当したかを記録してください。
2. ほかに本業がある
「専ら従事」の条件に照らして問題になります。パート勤務や他社役員の兼務は慎重な検討が必要です。
3. 届出金額を超えて支払っている
経費になるのは届出書に書いた金額の範囲内だけです。昇給の前に変更届出書を出しておく必要があります。
4. 仕事の内容に対して金額が高すぎる
見合わない高すぎる部分は経費になりません。税金を下げる目的で決めると問題になります。他人に頼む場合の相場で決めるのが基本です。
注意
税負担を減らすためだけの金額設定はおすすめしません。後から否認されると過少申告加算税や延滞税がかかり、かえって負担が重くなります。
当事務所の進め方
- 実態の確認──どの業務をどの程度担っているかを伺います
- 青色/白色の選択──青色申告の承認を受けているかを確認します
- 金額の設定──第三者に依頼した場合の相場と比較して決めます
- 世帯全体での試算──事業主側・家族側・扶養控除への影響を含めて試算します
- 届出と記録──期限内に届出書を提出し、記録の残し方をご案内します
届出書の提出期限は3月15日です。年途中のご相談でも、その年から適用できる可能性があります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 届出書を出し忘れました。今年の分を経費にできますか?
できません。3月15日までの届出が条件です(1月16日以後開業等は2か月以内)。来年分は早めに提出しましょう。
Q2. 同居していない子どもに手伝ってもらった場合はどうなりますか?
対象は「生計を一にする」親族だけです(所得税法56条)。独立した親族への支払いは通常の外注費・給与になり得ます。実態判定のため個別にご確認ください。
Q3. 専従者給与を払うと、配偶者控除は受けられなくなりますか?
はい。専従者給与を受け取る人(白色の事業専従者を含む)は、配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除の対象になれません。
Q4. 専従者給与から源泉徴収は必要ですか?
必要です。専従者給与も源泉徴収・年末調整の対象です。給与支払事務所等の開設届出や源泉所得税の納付(納期の特例は年2回)も要ります。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。青色事業専従者給与が必要経費として認められるかどうかは、勤務の実態と金額の相当性によって個別に判断されます。記事中の税額は記載した前提に基づく試算であり、青色申告特別控除・事業税・社会保険料の影響を含んでいません。具体的な事案については必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.2075「青色事業専従者給与と事業専従者控除」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2075.htm
- 国税庁タックスアンサー No.2210「必要経費の知識」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2210.htm
- 所得税法56条(事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例)、57条(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)e-Gov法令検索
- 国税庁「青色事業専従者給与に関する届出手続」https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/09.htm
- 総務省「個人住民税」(所得割の標準税率)https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/150790_02.html
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家族への給与を経費にできるか、世帯全体で試算します
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