この記事のポイント
- 現物出資も資産の譲渡となり所得税の対象です(国税庁タックスアンサーNo.3117)
- 収入金額は原則取得した株式や出資持分の時価です
- 株式の時価が不動産の時価の2分の1未満なら、不動産の時価が収入金額に
- 現金は1円も入りませんが、納税は現金で必要になります
まず結論:現物出資も「資産の譲渡」です
持っている不動産を自分の会社に現物出資すると、税務では「売った」ものとして扱われます。国税庁は次のように説明しています。
法人に現物出資した場合も資産の譲渡になり、所得税の課税対象とされます。(国税庁タックスアンサーNo.3117「不動産を法人に現物出資したとき」)
現物出資とは、お金の代わりに不動産などの財産を会社に出資し、対価として株式や出資持分を受け取る方法です。資産管理会社をつくって不動産を移すときによく使われます。
手元に入るのは株式だけで、現金は1円も入らないにもかかわらず、譲渡所得の税金は現金で納めなければなりません。
譲渡所得 = 譲渡価額 −(取得費 + 譲渡費用)− 特別控除
会社名義に移す登記まで済ませると、あとから「やっぱりやめます」とは言えません。移す前に確かめておくルールです。
収入金額は「不動産の時価」ではなく「もらった株式の時価」です
この場合の譲渡収入金額は、出資した不動産の時価ではなく、現物出資により取得した株式や出資持分の時価となります。(国税庁タックスアンサーNo.3117)
多くの方は「出した不動産の時価で課税される」と考えますが、基準になるのは受け取った側、つまり株式や出資持分の時価です。
出す不動産の価額と発行する株式の価額をそろえていれば、結果として不動産の時価と同じ金額になります。問題は、そろっていないときです。時価がはっきりしない土地を見積もって株式を発行し、あとから時価がもっと高いと評価されると、株式の価額との間にずれが生じます。そのずれが一定の幅を超えたときに、次の取扱いが働きます。
株式の時価が不動産の時価の2分の1未満なら、不動産の時価が収入金額になります
ただし、その価額が出資した不動産の時価の2分の1未満の場合は、出資した不動産の時価が収入金額とみなされます。(国税庁タックスアンサーNo.3117)
収入金額の決まり方は2段階です。
- 原則:取得した株式や出資持分の時価が収入金額になる
- 例外:その価額が出資した不動産の時価の2分の1未満のときは、出資した不動産の時価が収入金額とみなされる
数字で確かめます
時価8,000万円の土地を現物出資した場合で見ていきます。次の前提を置いた目安です。所有期間は10年(長期譲渡所得・分離課税20.315パーセント)、特例の適用はなく、買ったときの資料が残っていないため概算取得費(譲渡価額の5パーセント)を使い、譲渡費用は0円とします。
| 項目 | ケースA 株式の時価8,000万円 | ケースB 株式の時価3,000万円 |
|---|---|---|
| 出資した不動産の時価 | 80,000,000円 | 80,000,000円 |
| その2分の1 | 40,000,000円 | 40,000,000円 |
| 取得した株式の時価 | 80,000,000円 | 30,000,000円(2分の1未満) |
| 収入金額 | 80,000,000円 (株式の時価) | 80,000,000円 (不動産の時価とみなされる) |
| 概算取得費(5パーセント) | 4,000,000円 | 4,000,000円 |
| 課税譲渡所得 | 76,000,000円 | 76,000,000円 |
| 税額(20.315パーセント) | 15,439,400円 | 15,439,400円 |
| 受け取った現金 | 0円 | 0円 |
計算例
例:課税譲渡所得76,000,000円の税額内訳
所得税及び復興特別所得税 76,000,000円 × 15.315パーセント = 11,639,400円 住民税 76,000,000円 × 5パーセント = 3,800,000円合計15,439,400円です。
注意
ケースBでは、受け取った株式は3,000万円分しかないのに、8,000万円で売ったものとして課税されます。現金の入金はありません。2分の1という線を割るかどうかで、結論が大きく動きます。判定の出発点は不動産の時価の把握です。
会社に不動産を移すルートは3つあります
個人の不動産を自分の会社に移す方法は、大きく3つです。どのルートを通っても、時価から離れた金額で動かすと、課税上は時価で計算し直される場面があります。
| ルート | 収入金額の考え方 | 本記事での扱い |
|---|---|---|
| 売る(売買) | 実際の売却価額が原則。ただし売却先が法人で、売却価額が時価の2分の1を下回るときは時価(国税庁タックスアンサーNo.3217) | 親子間・同族会社との不動産売買 低額譲渡とみなし贈与の境界線で解説 |
| あげる(贈与・遺贈) | ― | 法人への贈与・遺贈と限定承認のみなし譲渡で解説 |
| 現物出資する | 取得した株式や出資持分の時価。ただし出資した不動産の時価の2分の1未満のときは不動産の時価(国税庁タックスアンサーNo.3117) | 本記事 |
「売る」ルートについて、国税庁は次の例を挙げています。
例えば、同族会社の代表者個人がその会社に時価1億円の土地を4,000万円で売った場合は、売った金額4,000万円ではなく1億円が譲渡所得の収入金額になります。(国税庁タックスアンサーNo.3217「時価より低い価額で売ったとき」)
売買の「2分の1」と、現物出資の「2分の1」。比べる相手は違いますが、線引きの発想は同じです。「自分の会社なのだから、いくらで移してもよい」という考え方は、税務では通りません。
現金は入らないのに、納税だけが現金で必要になります
現物出資でいちばん重い問題は、税額そのものよりも納税資金です。ケースAと、同じ土地を第三者に現金で売った場合を並べてみます。前提は先ほどと同じ目安です。
| 項目 | 現金で売った場合 | 会社に現物出資した場合 |
|---|---|---|
| 手元に入るもの | 現金 80,000,000円 | 株式(現金は0円) |
| 税額 | 15,439,400円 | 15,439,400円 |
| 納税後に手元に残る現金 | 64,560,600円 | △15,439,400円 |
注意
税額は同じでも現金の動きは正反対です。現物出資では1,500万円を超える納税資金を別に用意しなければなりません。納税が必要になるのは不動産を移したあとで、資金の手当てを忘れやすいところです。
取得費の資料があるかどうかで、税額は大きく変わります
先ほどの試算は、買ったときの資料が残っていないため概算取得費(譲渡価額の5パーセント)を使いました。8,000万円の土地でわずか400万円です。もし当時の売買契約書が見つかれば、実際の取得費で計算できる可能性があります。考え方は不動産売却で取得費がわからない?概算取得費5%で損しないための合理的算定法で整理しています。
移す前に確かめること/ここから先は個別判断です
現物出資を検討するとき、実行の前にそろえておきたいのは次のものです。
- 不動産の時価が分かる資料(すべての判定の出発点になります)
- 購入時の売買契約書・領収書(取得費を裏づける資料です)
- 取得する株式や出資持分の価額が分かる資料(2分の1の判定に使います)
- 納税資金の手当ての見通し(現金が入らない取引です)
本記事では扱っていない検討事項もあります。会社側の処理、会社法上の手続、不動産取得税・登録免許税などの流通コスト、時価の算定方法は、いずれも個別の確認が必要です。
不動産を会社に移す設計は個社ごとに前提が違います。共通して言えるのは、移したあとでは戻せないということだけです。時価の目安と購入時の資料さえあれば、税額と納税の時期はおおよそ見通せます。どのルートを選ぶかは個別の検討です。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 自分が100パーセント出資している会社に不動産を現物出資しました。現金は受け取っていませんが、税金はかかりますか?
かかります。現物出資も資産の譲渡として所得税の対象です(No.3117)。受け取るのは株式ですが、税金は現金で納める必要があります。
Q2. 収入金額は、出した不動産の時価と、もらった株式の時価のどちらになりますか?
原則、もらった株式や出資持分の時価です(No.3117)。両者の価額をそろえていれば、結果として不動産の時価と同じ金額になります。
Q3. 取得した株式の時価が、出資した不動産の時価の2分の1未満だとどうなりますか?
出資した不動産の時価が収入金額とみなされます(No.3117)。判定の出発点となる不動産の時価の把握が重要です。
Q4. 会社に不動産を移すなら、売買・贈与・現物出資のどれがよいですか?
一律には言えません。含み益の大きさ、取得費の資料の有無、納税資金の準備状況で結論が変わります。移したあとは戻せないため、移す前の試算をおすすめします。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。引用した国税庁タックスアンサーNo.3117およびNo.3217は令和7年4月1日現在の法令等に基づくものです。本記事は現物出資をした個人の側の譲渡所得のみを扱っており、現物出資を受けた法人の側の取扱い(受入価額、資本金等の額、適格現物出資の要件など)は一切扱っていません。また、現物出資に係る会社法上の手続の内容、不動産取得税・登録免許税・消費税の取扱い、時価の具体的な算定方法、取得する株式や出資持分の価額の評価方法、資産管理会社を用いた相続対策としての効果、借入金付きの不動産を現物出資した場合の取扱いについても扱っていません。数値例は、所有期間10年(長期譲渡所得)、特例の適用なし、概算取得費(譲渡価額の5パーセント)、譲渡費用0円という前提を置いた目安であり、実際の税額を保証するものではありません。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁タックスアンサー No.3117「不動産を法人に現物出資したとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3117.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3217「時価より低い価額で売ったとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3217.htm
- 所得税法36条・59条、所得税法施行令169条e-Gov法令検索
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