この記事のポイント
- 中退共の掛金は支出した事業年度の損金です(法人税法施行令135条1号)
- 現実に納付しないと未払金にできません(法人税基本通達9-3-1)
- 役員でも使用人としての職務があれば被共済者に含まれます
- 受け取りは一時金なら退職所得、分割なら公的年金等の雑所得です
まず結論:掛金は「払った事業年度」の損金。未払計上はできません
中退共や特定退職金共済の掛金は、支出した事業年度の損金になります。ただし決算日までに現実に納付していない分は、未払金として損金にできません。根拠は法人税法施行令135条1号です。
内国法人が、各事業年度において、次に掲げる掛金……を支出した場合には、その支出した金額……は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
一 独立行政法人勤労者退職金共済機構又は……特定退職金共済団体が行う退職金共済に関する制度に基づいてその被共済者(事業主が退職金共済事業を行う団体に掛金を納付し、その団体がその事業主の雇用する使用人の退職について退職給付金を支給することを約する退職金共済契約に基づき、その退職給付金の支給を受けるべき者をいう。)のために支出した掛金……(法人税法施行令135条1号)
会社が外部団体に掛金を納め、退職給付金を払う仕組みです。社内積立でなく外部納付だから、払った年度の損金になります。
「現実に納付」が要件です
損金にできる時期を定めているのが、法人税基本通達9-3-1です。
9-3-1 法人が支出した令第135条《確定給付企業年金等の掛金等の損金算入》に掲げる掛金、保険料、事業主掛金、信託金又は預入金等の額は、現実に納付(中小企業退職金共済法第2条第5項に規定する特定業種退職金共済契約に係る掛金については共済手帳への退職金共済証紙の貼付けを含む。)又は払込みをしない場合には、未払金として損金の額に算入することができないことに留意する。(法人税基本通達9-3-1)
ふつうの経費と違い、この掛金は未払計上で損金にできません。決算対策に使うなら決算日までの納付が必要です。決算間際の対策全般は決算前3か月にできる決算対策もご覧ください。
数値例で確かめます(一定の前提を置いた目安です)
以下は一定の前提を置いた計算例です。実際の税負担は所得水準等で変わります。
計算例
例1:従業員10名・月額掛金1万円の場合
10名 × 10,000円 = 100,000円(1か月あたりの掛金) 100,000円 × 12か月 = 1,200,000円(年間の掛金・全額納付なら全額が損金)仮に法人税等の負担率30%なら、120万円 × 30% = 36万円税負担が軽くなります(30%は前提の数値です)。
計算例
例2:決算日に未納が残る場合(未払計上できるか)
期中に現実に納付した分(10か月)1,000,000円 = 損金になります 決算日時点で未納の分(2か月)200,000円 = 未払金として損金にできません合計1,200,000円のうち、当期の損金は1,000,000円です。未納の20万円は翌期に納付すれば翌期の損金になります(時期がずれるだけです)。
誰が被共済者になれるか ―― 「使用人としての職務」があるかどうか
通達9-3-1には、次の(注)が付いています。
(注) 独立行政法人勤労者退職金共済機構の退職金共済契約の場合にも、その契約に係る被共済者には、その法人の役員で部長、支店長、工場長等のような使用人としての職務を有している者が含まれる。(法人税基本通達9-3-1(注))
肩書が役員であっても、部長・支店長・工場長のように使用人としての職務を持つ人は被共済者に含まれます。
同族会社の株主である役員はどうなるか
同族会社の判定株主等である役員は使用人兼務役員として認められません。では被共済者にもなれないのか、国税庁の質疑応答事例を見ます。
【照会要旨】同族会社におけるその判定の基礎となった株主等で使用人としての職務を有する役員も、法人税基本通達9-3-1(注)にいう被共済者に含まれると解して差し支えないか。
【回答要旨】法人税法上は、同族会社の判定株主等で一定の要件を満たすものは使用人兼務役員として認めないこととされているが、中小企業退職金共済法における被共済者の範囲には、税法上は使用人兼務役員として認められない役員であっても、事実上使用人としての職務に従事している者を含むこととされている。したがって、同族会社の判定株主等である役員であっても、使用人としての職務に従事している者については、同通達の取扱いの適用があると解して差し支えない。
(国税庁 質疑応答事例「退職金共済掛金等の損金算入」/要旨を抜粋)
税法上の使用人兼務役員の判定と被共済者の範囲は、ものさしが違います。かなめは事実上の職務内容で、肩書では決まりません。役員の範囲自体が問題になる場面はみなし役員の判定もご覧ください。
なお、職務を持たない役員を被共済者にできるかは、この通達・質疑応答事例の範囲を超え、個別の判断です。
受け取る側の税金 ―― 一時金なら退職所得、分割なら公的年金等
受け取り方によって所得の種類が変わります。
一時金で受け取る場合 ―― 退職所得
所得税法施行令72条3項は、退職手当等とみなす一時金を列挙しています。
7 特定退職金共済団体が行う退職金共済制度に基づいてその被共済者の退職により支給される一時金
8 独立行政法人勤労者退職金共済機構が中小企業退職金共済法の規定により支給する退職金(国税庁タックスアンサーNo.2725「退職所得となるもの」)
会社から直接払う退職金と同じ扱いになるとお考えください。
分割で受け取る場合 ―― 公的年金等に係る雑所得
一方、所得税法施行令82条の2第2項2号は、分割退職金を公的年金等に含めると定めています。該当すると公的年金等に係る雑所得として計算されます。
| 受け取り方 | 所得の種類 | 根拠 |
|---|---|---|
| 一時金で受け取る | 退職所得 | 所得税法施行令72条3項1号・2号/No.2725の7・8 |
| 分割払で受け取る | 公的年金等に係る雑所得 | 所得税法施行令82条の2第2項2号 |
どちらが有利かは年齢・勤続年数・他の収入で変わるため、個別にご確認ください。
いまある退職金制度から中退共へ移すとき
社内の退職給与規程を中退共に移すとき、在職中の従業員に過去分を精算で支払う場合があります。ふつうは給与ですが、次の場合は退職手当等として扱われます。
(1)新たに退職給与規程を制定し、または中小企業退職金共済制度や確定拠出年金制度へ移行するなどの相当の理由により従来の退職給与規程を改正した場合に、使用人に対し制定前または改正前の勤続期間に係る退職手当等として支払われるもの
(注)合理的な理由による退職金制度の実質的な改変により精算の必要から支払われるものに限られますから、例えば使用人の選択によって支払われるものは、退職所得とはなりません。(国税庁タックスアンサーNo.2725)
読み落としやすいのは(注)のほうです
本文だけだと「制度を移せば過去分をまとめて払っても退職所得」と読めますが、(注)が範囲を絞っています。対象は合理的な理由による実質的な改変による精算に限られ、従業員が選べる形の支払いは退職所得になりません。
規程をどう改正したか、精算がなぜ必要だったのか。これらを書面で残せているかが分かれ目です。制度を動かす前にご相談ください。
役員の退職金とは、別の話です
ここまでは従業員(使用人)の退職金の話です。社長ご自身の退職金とは、対象者も根拠も別になります。
| 従業員の退職金を掛金で準備する場合 | 役員退職金 | |
|---|---|---|
| 対象になる人 | 使用人(役員でも、使用人としての職務を有している者は含まれます) | 役員 |
| 会社の損金 | 掛金を現実に納付した事業年度の損金 | 別のルールで判定します |
| 本記事の対象 | ○ | ×(役員退職金の記事へ) |
社長の退職金と従業員の退職金は、別々に設計するものです。片方だけを整えても片手落ちになります。
実務でよくある誤解
- 「決算で未払計上すれば当期の損金にできる」。通達9-3-1が正面から否定しています
- 「役員だから一切対象外」。使用人としての職務を有している役員は被共済者に含まれます
- 「同族会社の株主である役員は必ず外れる」。質疑応答事例の考え方は上記のとおりです
- 「分割で受け取っても退職所得」。分割退職金は公的年金等に係る雑所得になります
- 勤務実態を示す資料がない。組織図・職務分掌・勤怠の記録などで示せるようにしておく必要があります
いずれも、払ってしまってからでは直しにくい論点です。入る前・払う前に確かめることが、そのまま適正申告につながります。
中退共・退職金の税務について小松公認会計士・税理士事務所ができること
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よくある質問(FAQ)
Q1. 決算日までに払えませんでした。未払金に計上して当期の損金にできますか?
できません。通達9-3-1により、現実に納付しない分は未払金として損金算入できません。納付した事業年度の損金になるため時期がずれるだけです。決算対策には決算日までの納付が必要です。
Q2. 役員は被共済者になれないと聞きましたが、本当ですか?
一律に対象外ではありません。通達9-3-1の(注)は、部長・支店長・工場長など使用人の職務を有する役員も被共済者に含むとしています。同族会社の判定株主等である役員も、使用人の職務に従事していれば適用があります。
Q3. 従業員が退職金を分割で受け取ると、税金の扱いは変わりますか?
変わります。一時金は施行令72条3項1号・2号により退職所得(No.2725の7・8)。分割払は同82条の2第2項2号により公的年金等に係る雑所得です。受け取り方を決める前にご相談ください。
Q4. 社内の退職金制度を中退共へ移します。過去分を今いる従業員に払ったら給与になりますか?
一定の場合は退職手当等となります(No.2725)。ただし合理的理由による実質的改変での精算に限られ、使用人の選択で支払うものは退職所得になりません。規程改正の理由と精算の必要性を書面で残せるかが分かれ目です。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。本記事は法人税法施行令135条1号に掲げる退職金共済に関する掛金の損金算入時期と、受け取る側の所得区分に絞って解説しています。掛金月額の設定、加入資格、国の助成の有無、申込みの手続といった制度の運用面は、国税庁の公表資料の範囲を超えるため扱っていません。また、使用人としての職務を有していない役員を被共済者とできるかどうかの可否判定、退職所得控除額や公的年金等控除額の具体的な計算、社会保険料の取扱い、確定給付企業年金・確定拠出年金の個別の取扱いについても本記事では扱っていません。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 法人税基本通達 9-3-1(退職金共済掛金等の損金算入の時期)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_03.htm
- 国税庁 質疑応答事例「退職金共済掛金等の損金算入」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/18/01.htm
- 国税庁タックスアンサー No.2725「退職所得となるもの」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2725.htm
- 法人税法施行令135条1号、所得税法施行令72条3項1号・2号、同82条の2第2項2号https://laws.e-gov.go.jp/
掛金を納める前、決算を迎える前にご相談ください
中退共や特定退職金共済の掛金は、決算日までに現実に納付していなければ当期の損金になりません。誰を対象にするか、いつ納めるか、受け取り方をどうするかで、会社の損金の時期も従業員の税金も変わります。制度を動かす前の段階でご相談いただければ、事実関係の整理から書面の備えまでお手伝いできます。代表税理士が直接ご対応します。
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