法人税・節税

会社の保険を社長個人へ名義変更するとき
低解約返戻金型は「資産計上額の70パーセント」が分かれ目です

小松優馬

小松 優馬

公認会計士(登録番号43196)・税理士(登録番号151214)

監査法人での上場企業監査・上場準備CFO経験を経て独立。港区浜松町で個人・法人の税務をサポート。YouTubeチャンネル「公認会計士・税理士 小松ゆうま」運営。

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この記事のポイント

  • 会社の保険を社長個人へ渡すと、保険契約等に関する権利の支給として評価額が課税されます
  • 原則は支給時解約返戻金の額で評価します(所得税基本通達36-37)
  • 支給時解約返戻金の額が支給時資産計上額の70パーセント未満なら、資産計上額で評価します
  • 適用は令和3年7月1日以後の支給から。同日前の支給はなお従前どおりです

まず結論:解約返戻金がいちばん低い時期に名義変更する手法は、令和3年7月1日以後は使えません

解約返戻金が安い時期を狙って社長個人へ名義変更する方法は、令和3年7月1日以後に行う支給には使えません。国税庁が所得税基本通達36-37を改正したためです。

かつては、名義変更時の評価額は解約返戻金の額でした。返戻金が低い時期なら、社長は低い金額で契約を引き取れました。

改正後の通達は、原則支給時解約返戻金の額で評価すると定めたうえで、例外を置きました。支給時解約返戻金の額が支給時資産計上額の70パーセントに相当する金額未満である保険契約等に関する権利を支給した場合には、支給時資産計上額により評価する(法人税基本通達9-3-5の2の取扱いの適用を受けるものに限ります)。

つまり返戻金が低い時期ほど、逆に高い金額で評価されることになり、狙って低い時期を選ぶ意味がなくなりました。手元の提案書が令和3年6月以前のものなら、実行前に必ず現在の取扱いを確認してください。

補足

この記事が扱う範囲
会社が契約者となっている保険を役員個人へ名義変更する場面の評価額に絞って解説します。法人側の課税関係、名義変更後に個人が受け取る解約返戻金の課税、資産計上割合の細目は扱いません。

法人契約の生命保険証券と決算資料
名義変更の前に、資産計上額と解約返戻金の額を確認します

会社の保険を社長個人へ名義変更するとはどういうことか

動いているのは保険証券という紙ではなく、保険契約上の地位(保険契約等に関する権利)です。この権利は解約すればお金が戻るため、それ自体が値打ちを持ちます。

役員に対する経済的利益として評価されます

会社が役員に値打ちのあるものを渡せば、現金でなくても役員への給与にあたります。所得税基本通達36-37は、使用者が役員または使用人に保険契約等に関する権利を支給した場合の評価方法を定めた通達です。

いくらで評価するかが、そのまま役員給与の金額になります。ここが本記事の中心です。

評価額は1円単位で決めます

評価額を誤れば役員給与の金額を誤り、源泉徴収の税額も変わります。名義変更を決める前に、評価額がいくらになるかを計算しておくことが欠かせません。

原則は「支給時解約返戻金の額」で評価します

所得税基本通達36-37の前段は、使用者が保険契約等に関する権利を支給した場合にはその支給時に当該保険契約等を解除したとした場合に支払われることとなる解約返戻金の額により評価すると定めています。この金額を支給時解約返戻金の額と呼びます。

合計するものがあります

支給時解約返戻金の額は、返戻金だけとは限りません。通達は前納保険料の金額、剰余金の分配額等がある場合にはこれらとの合計額とすると定めています。保険会社の証明書に返戻金しか書かれていないこともあるため、契約内容に沿って確認してください。

いま解約したらいくら戻るのか。その金額が契約の値打ちだという考え方です。多くの契約はこの原則で足り、問題になるのは次に見る一部の契約です。

例外:低解約返戻期間は「支給時資産計上額」で評価します

「低解約返戻金型保険」など解約返戻金の額が著しく低い期間(低解約返戻期間)がある契約は、支給時解約返戻金の額で評価するのは適当でないとされ、支給時資産計上額で評価します。

第三者との通常の取引では、低い解約返戻金の額で名義変更等を行うことは想定されない、というのが理由です。法人税基本通達では、最高解約返戻率の高い保険契約等を締結している場合に支払保険料の一部を資産計上する取扱いがあり、その資産計上額は低解約返戻期間においては保険契約等の時価に相当するものと評価できるとされています。

判定のラインは70パーセントです

低解約返戻期間は、支給時解約返戻金の額が支給時資産計上額の70パーセントに相当する金額未満である期間として扱います。この線を踏まえて所得税基本通達36-37⑴が置かれています。

原則(36-37前段)例外(36-37⑴)
どんなとき右の例外にあたらないとき支給時解約返戻金の額が支給時資産計上額の70パーセント未満のとき
評価額支給時解約返戻金の額支給時資産計上額
効き方返戻金が低ければ評価も低い返戻金が低くても評価は資産計上額のまま

計算例

前提:支給時資産計上額600万円(6,000,000円)の保険契約を名義変更する場合

判定ライン:6,000,000円 × 70パーセント = 4,200,000円 ケース①解約返戻金300万円(3,000,000円)→ 4,200,000円未満 → 資産計上額600万円で評価 ケース②解約返戻金500万円(5,000,000円)→ 4,200,000円以上 → 解約返戻金500万円で評価

同じ契約でも、渡す時期しだいで評価額は600万円と500万円に分かれ、差は100万円になります。評価額を先に計算してから、渡す時期を決めるのが本来の手順です。

保険契約の見直しを検討する会議
いつ、いくらで渡すのかを先に決めておきます

「支給時資産計上額」とは何か

70パーセントの判定にも例外の評価額にも登場する支給時資産計上額を正確に押さえます。

通達の定義では、使用者が支払った保険料の額のうち、権利の支給時の直前において前払部分の保険料として資産に計上すべき金額をいい、預け金等で処理した前納保険料や未収の剰余金の分配額等があれば加算します。

3つの読みどころ

  • 基準時は「支給時の直前」。期首や期末の残高ではありません
  • 「資産に計上すべき金額」。実際の計上額ではなく通達上あるべき金額です
  • 加算するものがある。前納保険料や未収の剰余金の分配額等は加算します

2つ目が特に重要です。会計処理が通達の取扱いと合っていない場合、帳簿の残高をそのまま使うと評価額を誤ります。資産計上割合の細目は契約の内容によって変わるため、契約ごとの確認が必要です。

支給時資産計上額を確かめるには、契約内容が分かる書類、毎期の保険料の処理、資産計上した金額の推移を並べる必要があります。資料を揃えてから動くことをおすすめします。

払済保険にしてから渡す方法も塞がれています

「いったん払済保険に変更してから渡せばよいのでは」という発想も、すでに所得税基本通達36-37⑵で手当てされています。

36-37⑵は、復旧することのできる払済保険その他これに類する保険契約等に関する権利(元の契約が法人税基本通達9-3-5の2の適用を受けるものに限ります)を支給した場合について定めており、評価額は支給時資産計上額に、法人税基本通達9-3-7の2により損金に算入した金額を加算した金額です。

  • そのまま渡す場合 → 原則は支給時解約返戻金の額、低解約返戻期間なら支給時資産計上額
  • 払済保険にしてから渡す場合 → 支給時資産計上額に損金算入した金額を加算した金額

いずれの道でも資産計上額が評価の土台になり、間に一段はさめば評価が下がるという構造にはなっていません。

適用時期と、法人から法人への移転

この改正は令和3年6月25日付の法令解釈通達によるもので、令和3年7月1日以後に行う支給について適用され、同日前の支給についてはなお従前の例によります。

提案書やシミュレーションが古いままだと、この線を見落とします。作成時期を必ず確認してください。

法人から法人への移転・使用者の範囲

国税庁の解説は、法人が他の法人に保険契約上の地位(権利)を移転した場合の評価についても本通達に準じて取り扱うとしています。グループ内で契約を移す場合も同じ枠組みが及びます。また、ここでいう使用者は法人または個人事業者を問いません

よくある失敗

実務で見かける4つのつまずきです。

1. 改正前の提案書のまま進めている

最も多い失敗です。「解約返戻金が下がる時期に名義変更しましょう」という提案書は、改正前の前提で書かれている可能性があります。令和3年7月1日以後の支給には改正後の取扱いが適用されるため、提案書の作成時期といまの取扱いを突き合わせてください。

2. 低解約返戻期間かどうかを確認していない

返戻金の額だけを見て判断し、支給時資産計上額との比較をしていないケースです。支給時解約返戻金の額が支給時資産計上額の70パーセント未満かどうかを先に確かめてください。

3. 評価額の根拠資料を残していない

名義変更と役員給与としての処理は済ませたのに、金額の計算根拠を説明する資料がないケースです。支給時解約返戻金の額を示す資料、支給時資産計上額の計算根拠、70パーセントの判定過程は必ず残してください。

4. 払済保険への変更を挟めば回避できると考えている

所得税基本通達36-37⑵が評価方法(支給時資産計上額に損金算入した金額を加算した金額)を定めており、手続を挟むことで評価額が下がる構造にはなっていません。

ポイント

名義変更前に確認したい4点
① 支給時資産計上額はいくらか
② 支給時解約返戻金の額(前納保険料や剰余金の分配額等を含む)を保険会社に確認したか
③ ①の70パーセントと②を比べて低解約返戻期間にあたるか
④ 提案書・シミュレーションが令和3年7月1日以後の取扱いを前提か
ひとつでも「分からない」があれば、実行前に確認してください。

役員会議
役員会議

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よくある質問(FAQ)

Q1. 会社の保険を社長個人へ名義変更するとき、評価額はどう決まりますか?

原則は支給時解約返戻金の額(前納保険料や剰余金の分配額等があれば合計額)で評価します。ただし、支給時解約返戻金の額が支給時資産計上額の70パーセント未満のときは、支給時資産計上額により評価します(所得税基本通達36-37)。

Q2. 「支給時資産計上額」とは具体的に何を指しますか?

支払った保険料のうち、権利の支給時の直前に前払部分として資産に計上すべき金額です。預け金等の前納保険料や未収の剰余金の分配額等は加算します(同通達の注書き)。帳簿価額をそのまま使えるとは限りません。

Q3. 払済保険に変更してから社長へ渡せば、70パーセントの判定を避けられますか?

避けられません。所得税基本通達36-37⑵は、復旧することのできる払済保険を支給した場合、支給時資産計上額に損金算入した金額を加算した金額で評価すると定めています。払済保険への変更を挟む形も、あらかじめ手当てされています。

Q4. この取扱いはいつから適用されますか。過去に行った名義変更にも及びますか?

令和3年7月1日以後に行う保険契約等に関する権利の支給について適用され、同日前に行った支給についてはなお従前の例によります。法人が他の法人へ移転した場合も本通達に準じて取り扱われ、使用者は法人・個人事業者を問いません。

免責事項

本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。引用した所得税基本通達36-37は、令和3年6月25日付の法令解釈通達による改正後のものであり、令和3年7月1日以後に行う保険契約等に関する権利の支給について適用されます。同日前に行った支給については、なお従前の例によります。法人税基本通達9-3-5の2による資産計上割合の細目、名義変更にともなう法人側の課税関係、および名義変更後に個人が受け取る解約返戻金の課税については、本記事では扱っていません。本記事の数値例は、支給時資産計上額を600万円と仮定した計算上の目安であり、実際の評価額・税額を保証するものではありません。実際の判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。

参考資料・判例出典

名義変更を実行する前に、評価額を確かめてください

渡してしまってから評価額を計算するのでは、順番が逆になります。支給時資産計上額と支給時解約返戻金の額を先に押さえれば、いつ・どう扱うかを落ち着いて決められます。お手元の提案書の点検からお手伝いします。顧問契約のご相談も歓迎です。代表税理士が直接ご対応します。

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小松 優馬

公認会計士・税理士/元監査法人

大手監査法人にて上場企業の監査業務に従事。税務の専門性を高めるため独立。お客様の人生設計を支える税務パートナーとして活動中。YouTubeチャンネル「税理士 小松ゆうま」では税務情報を発信中(登録者6,500人超)。

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