法人税・節税

自社株を会社に買い取らせたときの税金
みなし配当と3年10か月の特例

小松優馬

小松 優馬

公認会計士(登録番号43196)・税理士(登録番号151214)

監査法人での上場企業監査・上場準備CFO経験を経て独立。港区浜松町で個人・法人の税務をサポート。YouTubeチャンネル「公認会計士・税理士 小松ゆうま」運営。

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この記事のポイント

  • 会社が自社株を買い取ると、原則として売った人にみなし配当が生じます
  • みなし配当は配当所得となり、他の所得と合算する総合課税になります
  • 相続した非上場株式を3年10か月以内に発行会社へ売れば譲渡所得になります
  • この特例は相続税を納めていることが要件。届出書の提出も必要です

まず結論:会社に自社株を買い取ってもらうと、原則は「みなし配当」です

会社が自分の株式を株主から買い取ることを、自己株式の取得といいます。

このとき、株式を売った人には原則として「みなし配当」が生じます。

みなし配当とは、売却代金の一部を、配当を受け取ったものとみなして課税する仕組みです。

配当とみなされた部分は配当所得になります。配当所得は総合課税です。総合課税とは、給与や事業の所得と合算して税額を計算する方式のことです。

注意

「株式を売ったのだから譲渡所得だろう」と考えると、手取りの見込みが大きくずれます。売却代金の全額が譲渡所得になるわけではありません。

ただし例外があります。相続で取得した非上場株式には、期限内に発行会社へ譲渡すれば譲渡所得として扱う特例があります。納税資金に困っている後継者には、現実的な選択肢です。

会社に自社株を買い取ってもらうと、原則としてみなし配当が生じます
会社に自社株を買い取ってもらうと、原則としてみなし配当が生じます

みなし配当の仕組み ― 資本金等の額を超える部分が配当になります

配当とみなされるのは、「資本金等の額のうちその株式に対応する部分」を超える部分です。

根拠は所得税法25条1項です。柱書を引用します。

法人(…)の株主等が当該法人の次に掲げる事由により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額(…)の合計額が当該法人の(…)資本金等の額のうちその交付の基因となつた当該法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超えるときは、(…)その超える部分の金額に係る金銭その他の資産は、(…)剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配又は金銭の分配とみなす。(所得税法25条1項・一部省略)

この「次に掲げる事由」の5号が、自己株式の取得です。

五 当該法人の自己の株式又は出資の取得(金融商品取引法第二条第十六項(定義)に規定する金融商品取引所の開設する市場における購入による取得その他の政令で定める取得(…)を除く。)(所得税法25条1項5号・一部省略)

受け取った代金は2つに分かれます。

  • 資本金等の額のうち、その株式に対応する部分 → 株式の譲渡収入
  • それを超える部分 → みなし配当

補足

売主が法人の場合も同じ考え方です。法人税法24条1項5号に、自己の株式の取得を配当等の額とみなす規定が置かれています。

資本金等の額の対応部分を超える部分が、配当とみなされます
資本金等の額の対応部分を超える部分が、配当とみなされます

相続した非上場株式の特例 ― 満たすべき要件は2つです

相続で取得した非上場株式を期限内に発行会社へ譲渡すれば、みなし配当課税は行われません。

根拠は租税特別措置法9条の7第1項です。長いので省略しながら引用します。

相続又は遺贈(…)による財産の取得(…)をした個人で当該相続又は遺贈につき同法の規定により納付すべき相続税額があるものが、当該相続の開始があつた日の翌日から当該相続に係る同法第二十七条第一項又は第二十九条第一項の規定による申告書(…)の提出期限の翌日以後三年を経過する日までの間に(…)株式会社(以下この項において「非上場会社」という。)の発行した株式をその発行した当該非上場会社に譲渡した場合において、(…)交付を受けた金銭の額が当該非上場会社の(…)資本金等の額のうちその交付の基因となつた株式に係る(…)株式に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分の金額については、同項の規定は、適用しない。(租税特別措置法9条の7第1項・一部省略)

ポイント

相続または遺贈で財産を取得し、納付すべき相続税額があること
相続の開始があった日の翌日から、相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡すること。

見落としやすいのは①です。納付すべき相続税額がなければ、この特例は使えません。

相続税の申告をしても、納める税額が出なかった。そのときは対象外になります。

譲渡の相手も限定されています。その株式を発行した非上場会社そのものです。他の株主や第三者へ売った場合は対象外です。

対象は、相続税の課税価格の計算の基礎に算入された株式です。

特例を使うと譲渡所得になります ― 税率と計算例

特例を使うと、譲渡対価の全額が非上場株式の譲渡所得の収入金額になります。

国税庁タックスアンサーNo.1477の原文です。

この特例を適用すると、その譲渡対価の額の全額が非上場株式の譲渡所得の収入金額となり、その収入金額から取得費および譲渡に要した費用を控除して計算した譲渡所得金額の15.315パーセントに相当する金額の所得税および復興特別所得税(令和9年分以後は所得税、復興特別所得税および防衛特別所得税)が課税されます。(国税庁タックスアンサーNo.1477)

非上場株式は「一般株式等」に当たり、申告分離課税です。他の所得と分けて税額を計算します(No.1463)。

税目税率
所得税15%
復興特別所得税基準所得税額×2.1%(所得税と合わせて15.315%)
住民税5%

計算例

例:相続で取得した自社株を発行会社に8,000万円で譲渡。資本金等の額のうちその株式に対応する部分は500万円、取得費500万円、譲渡費用30万円

特例を使わない場合のみなし配当=8,000万円-500万円=7,500万円(総合課税の配当所得) 特例を使う場合の収入金額=8,000万円(全額が譲渡所得の収入金額) 譲渡所得金額=8,000万円-500万円-30万円=7,470万円 所得税および復興特別所得税=7,470万円×15.315%=11,440,305円 (内訳:所得税7,470万円×15%=11,205,000円/復興特別所得税11,205,000円×2.1%=235,305円) 住民税=7,470万円×5%=3,735,000円 合計=11,440,305円+3,735,000円=15,175,305円

一定の前提を置いた目安です。取得費加算は考慮していません。特例を使わない場合の税額は累進税率で決まるため、ここでは計算していません。

取得費を計算するときは、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」を併用することもできます。No.1477に明記されています。

その中身は相続財産を売るときの期限と取得費加算で扱っています。申告の仕方は株式を売ったときの確定申告もご覧ください。

特例を使うと、譲渡対価の全額が譲渡所得の収入金額になります
特例を使うと、譲渡対価の全額が譲渡所得の収入金額になります

手続 ― 届出書は「譲渡する日まで」に発行会社へ出します

特例を使うには、譲渡する日までに届出書を発行会社へ提出しなければなりません。

名称は「A2-31 相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書」です。

提出先は税務署ではありません。買い取ってもらう発行会社です。ここを取り違えやすいところです。

期限は、次の順で逆算します。

  1. 相続の開始があった日を確認する。ここが起算点になります
  2. その相続に係る相続税の申告書の提出期限を確認する
  3. 提出期限の翌日以後3年を経過する日を出す。ここが譲渡の期限です
  4. 譲渡の日を決め、その日までに届出書を発行会社へ提出する
  5. 発行会社は、譲り受けた日の属する年の翌年1月31日までに、本店または主たる事務所の所轄税務署長へこの届出書を提出する

注意

終わりの日は「相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日」です。相続開始の日から数えるとおおむね3年10か月になるため、実務ではそう呼ばれます。ご自身の申告期限で必ず数え直してください。会社側の提出も手続の一部です。

届出書は、譲渡する日までに発行会社へ提出します
届出書は、譲渡する日までに発行会社へ提出します

実務で確認すること ― ここからは個別判断です

相続税を納めたか、期限内か、届出書を出したか。この3つはご自身でも確認できます。

  • 相続税の申告書で、納付すべき税額があったことを確かめる
  • 相続税の申告書の提出期限を確認し、3年を経過する日を書き出す
  • 譲渡の相手がその株式の発行会社であることを確認する
  • 届出書を、譲渡日より前に発行会社へ渡す

ここからは個別判断です。社長の出口は、役員退職金と自社株の買取りをどう組み合わせるかで大きく変わります。

小松公認会計士・税理士事務所では、相続税の申告と会社の決算の両方から見て、金額と時期を組み立てます。

設計は個社ごとに異なります。期限のある特例ですので、相続が起きたら早めにご相談ください。

この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること

制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。

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よくある質問(FAQ)

Q1. 自社株を会社に買い取ってもらうと、なぜ配当になるのですか?

所得税法25条1項5号が、自己株式の取得を配当とみなす事由に挙げているためです。受け取った金額のうち、資本金等の額のうちその株式に対応する部分を超える部分が、みなし配当になります。

Q2. 相続税を納めていなくても、3年10か月の特例は使えますか?

使えません。租税特別措置法9条の7第1項は「納付すべき相続税額があるもの」を要件としています。相続税の申告をしても納める税額が出なかった場合は、特例の対象外です。

Q3. 特例を使うと、税金はいくらになりますか?

譲渡対価の全額が譲渡所得の収入金額となり、取得費と譲渡費用を引いた金額に所得税および復興特別所得税15.315%と住民税5%がかかります(No.1477・No.1463)。

Q4. 届出書はどこに出せばよいですか?

譲渡する日までに、買い取ってもらう発行会社へ提出します。税務署ではありません。発行会社は譲り受けた日の属する年の翌年1月31日までに、所轄税務署長へ提出する必要があります。

免責事項

本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。所得税法25条1項、法人税法24条1項5号、租税特別措置法9条の7第1項、国税庁タックスアンサーNo.1477・No.1463・No.3267の範囲を扱っています。非上場株式の評価方法(類似業種比準方式・純資産価額方式・配当還元方式)、配当所得の総合課税の税率および配当控除の率、会社法上の自己株式取得の財源規制や手続、資本金等の額のうち交付の基因となった株式に対応する部分の金額の具体的な計算方法、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例の算式、役員退職金と自社株買いの有利判定は扱っていません。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。

参考資料・出典

自社株の買取りは、相続税の申告期限から逆算して決めます

3年10か月の特例は、期限を過ぎると二度と使えません。届出書を譲渡日までに出したかどうかでも結論が変わります。代表税理士が、相続税の申告と会社の決算の両方を見たうえで、買取価額と実行時期を設計します。

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小松 優馬

公認会計士・税理士/元監査法人

大手監査法人にて上場企業の監査業務に従事。税務の専門性を高めるため独立。判例ベースの適正申告・節税にこだわり、お客様の人生設計を支える税務パートナーとして活動中。YouTubeチャンネル「税理士 小松ゆうま」では税務情報を発信中(登録者6,500人超)。

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