この記事のポイント
- 貸倒引当金は、まだ貸し倒れていない売掛金の一定割合を今期の損金にできる制度です
- 中小法人は法定繰入率を選べます(卸小売1,000分の10等・業種で判定)
- 敷金・前渡金等は対象外。同じ相手への買掛金は控除して計算します
- 🔴 繰り入れた金額は翌期に全額を益金算入します(法人税法52条10項)
まず結論:まだ貸し倒れていない売掛金でも、一定割合を損金にできます
実際に回収できないと確定していなくても、売掛金や貸付金の期末残高の一定割合を、あらかじめ今期の損金にできます。これが貸倒引当金です。
回収不能が確定した後の処理は貸倒損失として落とせるときで扱っていますので、そちらをご覧ください。中小法人には、計算を簡単にする特例があります。
法人で各事業年度終了の時において(略)中小企業者等に該当するもの(中小法人にあつては適用除外事業者に該当するものを除く。)が(略)当該事業年度終了の時における一括評価金銭債権の帳簿価額(政令で定める金銭債権にあつては、政令で定める金額を控除した残額)の合計額に政令で定める割合を乗じて計算した金額をもつて、(略)計算した金額とすることができる。(租税特別措置法57条の9第1項)
この「政令で定める割合」が法定繰入率です。過去の実績を集計しなくても、業種ごとの率を使えます。なお個別評価金銭債権という枠組みもありますが、本記事では一括評価に絞ってご説明します。

対象になる債権・ならない債権 ―― ここでいちばん差がつきます
計算の土台は一括評価金銭債権です。売掛金・貸付金その他これに準ずる金銭債権(個別評価金銭債権を除く)をいい、範囲は国税庁タックスアンサーNo.5500に列挙されています。
| 当たるもの | 当たらないもの |
|---|---|
| 売掛金、貸付金 | 預貯金およびその未収利子、公社債の未収利子、未収配当 |
| 未収の譲渡代金、未収加工料、未収請負金、未収手数料、未収地代家賃等で益金の額に算入されたもの | 保証金、敷金、預け金その他これらに類する債権 |
| 他人のために立替払をした場合の立替金 | 手付金、前渡金等のように資産の取得の代価または費用の支出に充てるものとして支出した金額 |
| 保証債務を履行した場合の求償権 | 前払給料、概算払旅費、前渡交際費等のように将来精算される費用の前払として一時的に仮払金、立替金等として経理されている金額 |
ポイント
敷金や手付金は、資産として残っていても貸倒引当金の対象にはなりません。法人税基本通達11-2-18も、勘定科目の名前ではなく実質的な内容で判定すると定めています。
なお、社長個人への貸付金も金銭債権ですが、役員貸付金には利息の認定など別の論点があります。そちらは役員貸付金・役員借入金の取扱いで扱っています。
原則は実績繰入率、特例が法定繰入率です
繰入限度額の計算方法は2つあります。
原則 ―― 過去3年の実績で計算する
原則は、期末の帳簿価額の合計額に貸倒実績率を乗じる方法です。
繰入限度額 = 期末一括評価金銭債権の帳簿価額の合計額 × 貸倒実績率(注)貸倒実績率は、小数点以下4位未満を切り上げて計算します。(国税庁タックスアンサーNo.5501「一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定」)
貸倒実績率は法人税法施行令96条6項にあります。分母は前三年内事業年度(開始前3年以内に開始した各事業年度)末の帳簿価額の合計額を事業年度数で割った金額、分子はその3年の貸倒損失等の合計額に12を乗じ月数の合計で割った金額です。
特例 ―― 中小法人は業種ごとの率を使える
中小法人などは法定繰入率を選べます。中小法人とは、普通法人のうち各事業年度終了の時において資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下であるものなどをいいます(大法人による完全支配関係がある普通法人等を除きます)。
中小法人は、原則と特例の有利なほうを選べます。貸倒れがほとんど起きていない会社では、法定繰入率のほうが大きくなるのが通常です。
法定繰入率の表と、控除する「実質的に債権とみられない金額」
法定繰入率は、その法人の営む主たる事業で決まります。
| 事業の区分 | 法定繰入率 |
|---|---|
| 卸売業および小売業(飲食店業および料理店業を含み、割賦販売小売業を除く) | 1,000分の10 |
| 製造業(電気業、ガス業、熱供給業、水道業および修理業を含む) | 1,000分の8 |
| 金融業および保険業 | 1,000分の3 |
| 割賦販売小売業ならびに包括信用購入あっせん業および個別信用購入あっせん業 | 1,000分の7 |
| その他の事業 | 1,000分の6 |
建設業、運送業、情報通信業、不動産賃貸業、士業などは「その他の事業」で1,000分の6です。飲食店業が卸売業および小売業と同じ1,000分の10に含まれる点は見落とされがちです。判定は主たる事業で行うため(措令33の7④)、複数事業を営む会社は毎期の確認が必要です。
期末残高から控除する金額があります
法定繰入率を使うときは、期末の帳簿価額の合計額をそのまま使いません。
2 法第五十七条の九第一項に規定する政令で定める金銭債権は、その債務者から受け入れた金額があるためその全部又は一部が実質的に債権とみられない金銭債権とし、同項に規定する政令で定める金額は、その債権とみられない部分の金額に相当する金額とする。(租税特別措置法施行令33条の7第2項)
注意
典型は同じ相手に売掛金と買掛金の両方がある場合です。支払うべき金額がある分は、実質的に回収できないおそれのある債権とはいえません。外注先が得意先でもある場合が該当します。
また、平成27年4月1日に存する法人は簡便法も選べます(措令33の7③)。平成27年4月1日から平成29年3月31日までの期間の実績から求めた割合を当期末の債権額に乗じる方法で、割合に小数点以下三位未満の端数があるときは切り捨てます。

実際に計算してみます
以下は一定の前提を置いた目安です。実際の金額は債権の中身と主たる事業の判定によって変わります。
「その他の事業」を営む中小法人(期末の資本金の額1,000万円)で、期末残高が売掛金40,000,000円・受取手形8,000,000円・貸付金2,000,000円、ほかに敷金3,000,000円・前渡金1,500,000円があるとします。敷金と前渡金は対象外なので、合計額は50,000,000円です。得意先A社は仕入先でもあり、買掛金が5,000,000円あるとします。
| 項目 | 金額 | 計算 |
|---|---|---|
| 期末一括評価金銭債権の合計額 | 50,000,000円 | 40,000,000+8,000,000+2,000,000 |
| 実質的に債権とみられない金額 | △5,000,000円 | A社に対する買掛金 |
| 控除後の残額 | 45,000,000円 | 50,000,000-5,000,000 |
| 法定繰入率による繰入限度額 | 270,000円 | 45,000,000 × 1,000分の6 |
原則の実績繰入率と比べてみます
同じ会社で、前三年内事業年度末の帳簿価額が48,000,000円・45,000,000円・42,000,000円、貸倒損失の合計額が560,000円、月数の合計が36か月だったとします。
| 項目 | 金額・割合 | 計算 |
|---|---|---|
| 分母/分子 | 45,000,000円/186,666.67円 | (48,000,000+45,000,000+42,000,000)÷3 / 560,000×12÷36 |
| 貸倒実績率 | 0.0042 | 0.004148… を小数点以下4位未満切上げ |
| 実績繰入率による繰入限度額 | 210,000円 | 50,000,000 × 0.0042 |
| 有利なほう | 270,000円 | 法定繰入率による金額 |
実績繰入率は控除をせず合計額50,000,000円に乗じるため、この例では法定繰入率のほうが大きくなりました。どちらが有利かは計算しないと分かりません。
🔴 いちばん大事なこと ―― 繰り入れた金額は翌期に全額戻します
10 第一項又は第二項の規定により各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されたこれらの規定に規定する貸倒引当金勘定の金額は、当該事業年度の翌事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する。(法人税法52条10項)
繰り入れた金額は、翌事業年度に全額が益金になります。これを洗替えといいます。今期270,000円を損金にしたら、翌期は270,000円が益金に立ち、翌期末の残高で計算し直して繰り入れます。
ですから「引当金を積めば税金が消える」わけではありません。効果は2つです。
- 初年度に損金が前倒しで立つこと。初めて繰り入れる期は戻す金額がないので、繰入額がそのまま損金になります
- 債権残高が伸びている間だけ、前期戻入額との差額が残ること
先ほどの例で、前期の繰入額が240,000円(前期末の控除後残高40,000,000円 × 1,000分の6)だったとします。当期270,000円を繰り入れ前期分240,000円が益金に戻るので、差引で当期の所得を減らす効果は30,000円です。逆に債権残高が減る期は、差引で所得が増えます。決算前3か月の考え方は決算対策は決算日の3か月前からにまとめています。
使うための手続 ―― 損金経理と、申告書への明細の記載
①損金経理により繰り入れること
法人税法52条2項は、「損金経理により貸倒引当金勘定に繰り入れた金額」について損金算入を認めています。決算で費用として計上していることが前提です。
②確定申告書に明細の記載があること
3 前二項の規定は、確定申告書にこれらの規定に規定する貸倒引当金勘定に繰り入れた金額の損金算入に関する明細の記載がある場合に限り、適用する。(法人税法52条3項)
注意
「限り」と書かれています。明細の記載がある場合に限り適用されます。決算書に繰入額を計上していても、申告書に明細を付け忘れれば適用されません。同条4項の救済規定を当てにする話ではありません。
使えない法人・除かれる債権
- 適用除外事業者は法定繰入率を使えません。開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超える法人等をいいます
- 完全支配関係がある他の法人に対して有する金銭債権は、一括評価金銭債権に含まれません(法人税法52条9項2号)。100パーセント子会社への売掛金や貸付金は計算から外れます

決算前にそろえておくものと、よくある失敗

計算に必要なのは、次の資料です。
- 期末の売掛金の残高一覧(相手先ごと)と買掛金・未払金の残高一覧
- 敷金・保証金・前渡金・仮払金の内訳(対象外の債権を除くため)
- 過去3年分の申告書と貸倒損失の記録(実績繰入率と比べるため)
- 売上高の内訳(主たる事業の判定に使います)
注意
よくある失敗
敷金や前渡金を含めて計算し限度額が過大になる/同じ相手の買掛金を控除し忘れる/前期の繰入額を益金に戻し忘れる/申告書に明細を付け忘れる――のいずれも、決算書に計上していても適用が否認される原因になります。
使えるかどうか、いくらまで積めるかは、債権の中身の仕分けと主たる事業の判定で決まります。ここから先は、実際の元帳と売上構成を拝見したうえでの個別判断です。
貸倒引当金について小松公認会計士・税理士事務所ができること
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よくある質問(FAQ)
Q1. 資本金1,000万円の建設会社です。法定繰入率はいくらになりますか?
建設業は法定繰入率の表のどの業種にも当たらず、「その他の事業」の1,000分の6です(措令33の7④五)。ただし判定は主たる事業で行うため、資材の卸売も兼ねる場合などは1,000分の6と10が入れ替わることがあります。
Q2. 売掛金の残高がそのまま計算の土台になるのでしょうか?
いいえ、2つの調整が必要です。保証金、敷金、預け金、手付金、前渡金、前払給料、概算払旅費、前渡交際費は対象外です(国税庁タックスアンサーNo.5500)。さらに、同じ相手に買掛金がある場合はその分を控除します(措令33の7②)。
Q3. 貸倒引当金を繰り入れれば、その分だけ法人税が減るのでしょうか?
いいえ。繰り入れた金額は翌事業年度に全額を益金の額に算入します(法人税法52条10項)。効くのは繰入額そのものではなく、当期の繰入額と前期の戻入額との差額です。
Q4. 決算書に貸倒引当金繰入額を計上すれば、それで適用されますか?
それだけでは不足です。損金経理により繰り入れること(法人税法52条2項)と、確定申告書に明細の記載があること(同条3項)の両方が必要です。明細を付け忘れると適用されません。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。本記事は、中小法人が一括評価金銭債権について貸倒引当金を設定する場合の枠組み、すなわち一括評価金銭債権の範囲、原則である実績繰入率と特例である法定繰入率の関係、法定繰入率を使うときに控除する実質的に債権とみられない金額、損金経理と確定申告書への明細の記載という手続要件、および翌事業年度の益金算入(洗替え)という基本的な内容を扱っています。個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の要件と繰入限度額の計算、実際に貸し倒れたときの貸倒損失の処理、グループ通算制度・適格合併・適格分割等における取扱い、会計上の引当金の考え方、貸倒引当金に係る申告書別表の具体的な記載方法、消費税の取扱いについては、本記事では扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の金額は債権の中身の仕分け、同一の相手に対する買掛金等の有無、主たる事業の判定、過去3年の貸倒れの実績によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 タックスアンサー No.5501「一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5501.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.5500「一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の対象となる金銭債権の範囲」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5500.htm
- 国税庁 法人税基本通達 11-2-18(売掛債権等に該当しない債権)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/11/11_02_03.htm
- e-Gov法令検索 法人税法(第52条 貸倒引当金)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034
- e-Gov法令検索 租税特別措置法施行令(第33条の7 中小企業者等の貸倒引当金の特例)https://laws.e-gov.go.jp/law/332CO0000000043
決算を締める前に、債権の中身を一度仕分けさせてください
貸倒引当金は、残高一覧を眺めているだけでは金額が出ません。敷金や前渡金を外し、同じ相手の買掛金を突き合わせ、主たる事業を確かめて、はじめて繰入限度額が決まります。そして翌期には全額を益金に戻すため、単年度ではなく数期の流れで見ておく必要があります。得意先元帳、買掛金の残高一覧、敷金・仮払金の内訳、直近3期の申告書をお手元にご用意いただければ、原則と特例のどちらが有利か、明細の記載まで含めて何を準備すればよいかを整理してお伝えします。代表税理士が直接ご対応します。
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