法人税・節税

回収できない売掛金はいつ経費にできる?
貸倒損失として処理できる3つの場合

小松優馬

小松 優馬

公認会計士(登録番号43196)・税理士(登録番号151214)

監査法人での上場企業監査・上場準備CFO経験を経て独立。港区浜松町で個人・法人の税務をサポート。YouTubeチャンネル「公認会計士・税理士 小松ゆうま」運営。

YouTubeチャンネルを見る →

この記事のポイント

  • 🔴 貸倒損失にできるのは、国税庁タックスアンサーNo.5320が示す3つの場合だけです
  • ケース①:会社更生法・民事再生法などの規定で債権が切り捨てられた場合
  • ケース②:全額回収不能が明らかな場合。担保があれば処分後に限り損金経理できます
  • ケース③:取引停止から1年以上経過した売掛債権。備忘価額1円を残し499,999円を損金経理します

まず結論:「回収できないと思ったから」だけでは経費にできません

取引先が支払わない、電話にも出ない。そう感じても、会社が「回収できない」と判断しただけでは、貸倒損失にはできません

国税庁は、法人の金銭債権を貸倒損失にできる場合を3つに限って示しています(タックスアンサーNo.5320)。当てはまらないまま計上すると、税務調査で否認されるおそれがあります。

大切なのは、感覚ではなく「どの場合に当たるのか」を先に決めることです。この記事ではその3つの場合と、実務でつまずきやすい点、残しておくべき資料を整理します。

補足

この記事が扱う範囲
本記事は法人(法人税)の取扱いが対象です。個人事業主(所得税)の貸倒れ、貸倒引当金の繰入れ、消費税の税額控除要件は扱いません。

取引先の請求書と督促の記録
取引停止の経緯と督促の記録が、判断の土台になります

貸倒損失として処理できるのは3つの場合だけ

国税庁が示す3つの場合を、まず一覧で確認します。

ケース① 切捨てケース② 全額回収不能ケース③ 取引停止から1年
どんな場合か金銭債権の全部または一部が法令等の規定により切り捨てられた債務者の資産状況、支払能力等から全額が回収できないことが明らかになった取引停止の時と最後の弁済の時などのうち最も遅い時から1年以上が経過した
対象になる債権金銭債権金銭債権(売掛債権に限られません)売掛債権に限られます
いつ処理するかその事実が生じた事業年度回収できないことが明らかになった事業年度1年以上が経過した事業年度
備忘価額備忘価額を控除した残額が対象
注意点切り捨てられた金額が対象担保物があるときは処分後/保証債務は履行後同一地域の債権が取立費用に満たない場合も含みます

3つの性格の違いは次のとおりです。

  • ケース①は「外から切られた」場合。法的な手続によって債権そのものが消えます
  • ケース②は「相手に払う力がない」場合。実質的に回収の見込みが立たない状態です
  • ケース③は「時間で区切る」場合。個別に立証しなくても一定期間の経過で処理が認められます

実務でいちばん出番が多いのはケース③ですが、売掛債権に限られるという制限があります

ケース① 法的に切り捨てられた場合

1つ目は、金銭債権の全部または一部が切り捨てられた場合です。法的な手続などによって、その債権が返ってこないものとして確定した、という意味です。

切捨てに当たる3つの場面

国税庁は、次の3つを挙げています(タックスアンサーNo.5320)。

  • ①法律の規定による切捨て。会社更生法、金融機関等の更生手続の特例等に関する法律、会社法、民事再生法の規定により切り捨てられた金額
  • ②協議による切捨て。法令の規定による整理手続によらない債権者集会の協議決定、および行政機関や金融機関などのあっせんによる協議で、合理的な基準によって切り捨てられた金額
  • ③書面による債務免除。債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合に、その債務者に対して書面により明らかにされた債務免除額

①と②は手続の結果、③は自社の意思です

①と②は、会社が主体的に判断するものではなく、裁判所の手続や債権者集会の協議の結果として金額が決まります。会社がすることは、通知や決定の書面を受け取り、帳簿に反映させることだけです。②は「合理的な基準によって」切り捨てられたものに限られます。

③だけは会社の側から「もう払わなくてよい」と伝えるものです。債務超過の状態が相当期間継続し、かつ弁済を受けることができないと認められる場合に、免除する金額を書面により明らかにする必要があります。口頭で伝えただけでは足りません。

注意

「相当期間」が何か月なのかは示されていません
タックスアンサーNo.5320は「相当期間」と書くのみで、具体的な月数・年数は示していません。債務者の財務状況の推移や回収の経過を踏まえて個別に判断します。

切捨ての事実があった事業年度に処理します

ケース①は、その切捨ての事実が生じた事業年度に処理します。「今期は利益が出ているから、来期に落とそう」という調整はできません。

ケース② 全額が回収できないことが明らかな場合

2つ目は、法的な手続がなくても実質的に回収の見込みがない場合です。債務者の資産状況、支払能力等から全額が回収できないことが明らかになった場合に、その事業年度において損金経理ができます(タックスアンサーNo.5320)。

「全額」が必要。売掛債権に限られません

「半分は回収できるが残り半分は難しい」状態は当てはまりません。判断材料は債務者の資産状況と支払能力です。売掛債権に限らず、貸付金や立替金など金銭債権全般が対象です。

担保物は処分後、保証債務は履行後です

実務でいちばん見落とされる点です。担保物があるときは、処分した後でなければ損金経理はできません(同No.5320)。処分してみなければ「全額が回収できない」とは言えないためです。抵当権のある不動産や代物の商品は、まず処分を済ませてください。

もうひとつ、保証債務は現実に履行した後でなければ貸倒れの対象にできません(同No.5320)。保証人になっているだけの段階では対象外で、実際に支払った後にはじめて求償権として検討します。

ポイント

ケース②で確認する3点
①回収できないのは全額か。一部だけではないか
②担保物はないか。あるなら処分は済んでいるか
③保証債務なら、現実に履行したか

売掛金の回収可能性を検討する会議
決算前に、回収できていない売掛金を洗い出します

ケース③ 取引停止から1年以上が経過した場合

3つ目は、時間を基準にした取扱いで、実務でもっともよく使われます。ただし、このケースは売掛債権に限られます(タックスアンサーNo.5320)。

①取引停止から1年以上・②取立費用に満たない売掛債権

継続的な取引先の資産状況、支払能力等が悪化して取引を停止し、その取引停止の時と最後の弁済の時などのうち最も遅い時から1年以上が経過したとき。取引後に一部入金があれば、その入金の時から1年を数えます。

もうひとつ、同一地域の債務者に対する売掛債権の総額が取立費用より少なく、督促しても弁済がない場合です(同No.5320)。放置していた債権は対象になりません。

備忘価額を控除した残額が対象です

ケース③では、①②のいずれについても備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理できます。数字で見ます。

計算例

例:売掛金500,000円のケース

備忘価額として残す金額 = 1円貸倒損失として損金経理する金額 = 500,000円 - 1円 = 499,999円

処理後の売掛金残高は1円です。税額がいくら減るかは所得の状況によって変わるため、ここでは損金に算入できる金額までを示します。

なぜ「備忘価額」を残すのか

500,000円のうち499,999円だけを落とし、1円を残すのは、法的に債権が消滅したわけではなく、1年経過という事実をもって税務上の損失と認める取扱いだからです。請求権は法律上まだ残るため、帳簿にも「債権が存在している」痕跡を残します。それが備忘価額で、意味は金額ではなく忘れないための目印です。

残高がゼロになると、見えなくなります

残高をゼロにすると、その取引先は補助元帳から消えます。数年後に回収できるようになっても、誰も気づけません。1円が残っていれば、毎期の残高一覧に名前が出ます。

備忘価額を残した債権が後から回収できた場合、回収した金額は回収できた事業年度の収益として処理します。過去の申告をさかのぼって直すことはありません。落として終わりではなく、落とした後も管理を続けるための仕組みです。

よくある失敗

実務でよく見かける5つのつまずきを挙げます。

1. 音信不通というだけで落としてしまう

最も多いのがこれです。「連絡が取れないので回収不能です」という説明だけで計上してしまうケース。連絡が取れないことは、3つの場合のどれにも直接は当てはまりません。切捨て・全額回収不能・取引停止から1年、どれに当たるかを先に決めてください。

2. 担保を処分せずに落としてしまう

ケース②を使うのに担保物の処分が終わっていないケースです。処分を待たずに落とすと、その事業年度では認められません。決算前に担保の有無を必ず確認してください。

3. 貸付金にケース③を使ってしまう

「1年経ったから落とせる」と考えて貸付金や立替金にケース③を当てはめてしまうケースです。ケース③は売掛債権に限られ、貸付金は対象外。落とすならケース①かケース②で検討することになり、要件は厳しくなります。

4. 督促の記録が残っていない

同一地域の少額債権の類型では支払を督促しても弁済がないことが前提です。電話や督促状の記録がなければ、後から説明しても裏づけがなく弱くなります。督促は必ず記録に残してください。

5. 取引の経緯を示す資料がない

ケース③は継続的な取引資産状況の悪化による取引停止が前提です。請求書の控えや入金記録、取引を止めた時期が分かるものを捨てずに保管してください。

判断を分けるのは「資料」です

貸倒損失の判断に必要な資料を確認する様子
資料がそろっているかどうかが、判断の分かれ目です

貸倒損失は要件に当てはまるかどうかで決まり、それを示すのは最終的に手元にある資料です。法令上の要件ではありませんが、そろえておくと説明しやすくなるものを整理します。

そろえておきたい資料

  • 取引停止の経緯が分かるもの。いつから取引をしていて、いつ止めたのか。請求書の控えや受注の記録で足ります
  • 督促の記録。督促状の控え、送付の記録、電話や訪問の日時と相手方のメモ
  • 相手方の状況を確認した記録。登記の状況、事業所の様子など、確認した日付とともに残します
  • 書面による債務免除の通知の控え。ケース①の③を使う場合は、免除の金額を明らかにした書面の控えが要になります
  • 担保物の処分に関する資料。ケース②を使う場合、処分が完了したことが分かるもの
  • 入金の履歴。最後の弁済がいつだったかは、1年の起算点に直結します

資料はそのつど残し、先に「場合」を決めてください

資料はその時々に残しておけば簡単ですが、決算になってからでは1年前、2年前の記憶をたどるのは大変です。回収が滞った時点で取引先ごとにフォルダをつくり、請求書・督促記録・相手の状況のメモを入れておくと、そのまま判断材料になります。

回収できない売掛金が出たら、まず3つのうちどの場合に当たるかを考え、要件を満たす資料をそろえます。先に「落とす」と決めて理由を探すやり方はうまくいきません。要件から入るのが適正申告の基本です。

ポイント

決算前に確認していただきたい4点
①期末の売掛金のうち、1年以上入金がないものはないか
②その相手先といつ取引を止めたか。最後の入金はいつか
③その債権に担保物はないか
④落とそうとしている債権は売掛債権か、それ以外か
ひとつでも「分からない」があれば、決算を締める前にご相談ください。

役員会議
役員会議

貸倒損失について小松公認会計士・税理士事務所ができること

制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。

小松公認会計士・税理士事務所 代表 小松優馬 登録者6,900人超

小松公認会計士・税理士事務所 代表

小松 優馬公認会計士・税理士

  • お話を伺って、「あなたの場合はどうなるか」をはっきりお答えします
  • 必要な書類のご案内から申告まで、まるごとお任せいただけます
  • 料金は先にお見積り。全国どこでも、オンラインで完結できます

YouTube「税理士 小松ゆうまチャンネル」(登録者6,900人超)で、税金の話を分かりやすく解説しています。動画を見てみる

初回相談は無料です。相談だけで終えていただいて構いません。

あわせて読みたい

よくある質問(FAQ)

Q1. 取引先と連絡が取れなくなりました。売掛金をすぐ貸倒損失にできますか?

連絡が取れないという事実だけでは足りません。貸倒損失にできるのは、国税庁タックスアンサーNo.5320が示す3つの場合(切捨て・全額回収不能・取引停止から1年経過)のいずれかに当たるときです。まず自社の状況がどれに当たるかを確認してください。

Q2. 担保を取っている売掛金は、回収できないと分かった時点で損金にできますか?

できません。担保物があるときはその担保物を処分した後、保証債務は現実に履行した後でなければ、損金経理はできません(同No.5320)。担保の処分や保証債務の履行を先に済ませ、残った債権で回収の可否を判断します。

Q3. 貸付金にも「取引停止から1年以上」のルールは使えますか?

使えません。取引停止から1年以上のルールは、売掛債権に限って認められる取扱いです(同No.5320)。貸付金など売掛債権以外の金銭債権は、切捨てがあった場合か、全額が回収できないことが明らかな場合のいずれかで判断します。

Q4. 備忘価額とは何ですか。1円を残さないとどうなりますか?

備忘価額とは、その債権がまだ残っていることを帳簿上に示す名目上の金額です。売掛金の残高が500,000円であれば、備忘価額として1円を残し、499,999円を貸倒損失として損金経理します(同No.5320)。残高をゼロにしてしまうと、この取扱いの前提を満たさないことになります。

免責事項

本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。引用した国税庁タックスアンサーNo.5320は令和7年4月1日現在の法令等に基づくものです。本記事は法人(法人税)の取扱いを対象としており、個人事業主(所得税)の貸倒れの取扱いは扱っていません。貸倒引当金の繰入れに関する取扱い、および消費税の貸倒れに係る税額控除の要件についても、本記事では扱っていません(これらには別途の手続・要件があります)。「相当期間」など、公表資料に具体的な期間が示されていない事項については、本記事でも断定していません。本記事の数値例は、売掛金の残高を500,000円と仮定した計算上の目安であり、実際の損金算入額・税額を保証するものではありません。実際の判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。

参考資料・判例出典

決算を締める前に、滞留している売掛金を確認してください

貸倒損失は、要件に当てはまるかどうかで決まります。当てはまる年度に処理しないと、後から落とすことが難しくなる場面もあります。判断に迷う債権があれば、決算前にご相談ください。顧問契約のご相談も歓迎です。代表税理士が直接ご対応します。

無料相談を申し込む 法人顧問サービスの詳細を見る 約60秒で料金を自動見積り

小松 優馬

公認会計士・税理士/元監査法人

大手監査法人にて上場企業の監査業務に従事。税務の専門性を高めるため独立。お客様の人生設計を支える税務パートナーとして活動中。YouTubeチャンネル「税理士 小松ゆうま」では税務情報を発信中(登録者6,500人超)。

関連記事

法人決算・顧問の料金
法人決算・税務顧問 ご相談受付中

法人決算・顧問の料金を約60秒で確認

業種・売上規模・記帳の状況を選ぶだけ。概算がその場で分かります

法人 60秒見積り

回収できない売掛金・貸倒損失のご相談

初回相談は無料です。代表が直接ご対応します。

法人顧問サービスの詳細を見る
法人60秒見積り 個人60秒見積り