この記事のポイント
- 不動産を売っても譲渡所得にならない場合があります
- 棚卸資産に準ずる資産の譲渡は譲渡所得から外れます(所法33②一)
- 相当の期間にわたり継続的に譲渡すると事業所得または雑所得です
- 総合課税になると分離課税の特例の土俵に乗りません
まず結論:売り方によっては、譲渡所得にならないことがあります
不動産を売れば、いつでも分離課税の譲渡所得になる。そうとは限りません。売った資産や売り方によっては、事業所得や雑所得として総合課税になります。
総合課税はほかの所得と合計して計算し、分離課税は区別して計算します。
分かれ目を決めるのは所得税法33条2項1号です。当てはまれば、そもそも譲渡所得ではなくなります。
ポイント
土地を何区画かに分けて売った。不動産を繰り返し売買している。こうした場面は、税率の前に所得の区分から確認します。

譲渡所得の対象になる資産と「譲渡」の広さ
原則の姿から押さえます。譲渡所得の対象になる資産は、かなり広く定められています。
譲渡所得の対象となる資産には、土地、借地権、建物、株式等、金地金、宝石、書画、骨とう、船舶、機械器具、漁業権、取引慣行のある借家権、配偶者居住権、配偶者敷地利用権、ゴルフ会員権、特許権、著作権、鉱業権、土石(砂)などが含まれます。
なお、貸付金や売掛金などの金銭債権は除かれます。(国税庁タックスアンサーNo.3105)
「譲渡」という言葉も広く読みます。売買だけではありません。
譲渡とは、有償無償を問わず、所有資産を移転させる一切の行為をいいますので、通常の売買のほか、交換、競売、公売、代物弁済、財産分与、収用、法人に対する現物出資なども含まれます。(国税庁タックスアンサーNo.3105)
代物弁済とは、借金の返済に代えて物を渡すことです。離婚の財産分与で不動産を渡した場合も「譲渡」です。
譲渡所得に含まれないと法律が定めているもの
広い譲渡所得から、法律が明確に外しているものがあります。所得税法33条2項1号です。
2 次に掲げる所得は、譲渡所得に含まれないものとする。
一 たな卸資産(これに準ずる資産として政令で定めるものを含む。)の譲渡その他営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡による所得(所得税法33条2項1号)
たな卸資産とは、売るための商品や在庫です。1号には2つの類型が並びます。
- たな卸資産の譲渡(これに準ずる資産として政令で定めるものを含む)
- その他営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡
不動産オーナーに重いのは後半です。売った物ではなく、売り方が問われます。

「棚卸資産に準ずる資産」は政令で決まっています
「政令で定めるもの」は、所得税法施行令81条にあります。3つの号が並びます。
法第三十三条第二項第一号(譲渡所得)に規定する政令で定めるものは、次に掲げる資産とする。
一 不動産所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務に係る第三条各号(棚卸資産の範囲)に掲げる資産に準ずる資産
二 減価償却資産で第百三十八条第一項(少額の減価償却資産の取得価額の必要経費算入)の規定に該当するもの(…)
三 減価償却資産で第百三十九条第一項(一括償却資産の必要経費算入)の規定の適用を受けたもの(…)(所得税法施行令81条・抜粋)
不動産オーナーに関係するのは1号です。2号と3号は少額の資産の話です。
補足
1号が挙げるのは「不動産所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務」に係る資産です。アパートや駐車場を経営している方は、この文言を自分のこととして読んでください。
譲渡所得にならない5つの類型
国税庁タックスアンサーNo.3105は、譲渡所得にならないものを5つに整理しています。資産の譲渡でも、この5つは譲渡所得になりません。
| 区分 | どんな譲渡か | 所得区分 |
|---|---|---|
| (1) | 事業所得者が商品、製品、半製品、仕掛品、原材料などの棚卸資産を譲渡した場合 | 事業所得 |
| (2) | 不動産所得・山林所得・雑所得を生ずる業務を行う者が、その業務に関して(1)の棚卸資産に準ずる資産を譲渡した場合 | 雑所得 |
| (3) | 使用可能期間1年未満、取得価額10万円未満の減価償却資産、20万円未満で一括償却資産の必要経費算入の適用を受けたものの譲渡(業務の性質上基本的に重要なものを除く) | 事業所得または雑所得 |
| (4) | 山林を伐採して譲渡した場合または立木のまま譲渡した場合(取得から5年以内は事業所得または雑所得) | 山林所得 |
| (5) | (1)から(4)までの資産以外の資産を相当の期間にわたり、継続的に譲渡している場合 | 事業所得または雑所得 |
とくに問題になるのは(5)です。
(5) (1)から(4)までの資産以外の資産を相当の期間にわたり、継続的に譲渡している場合の所得は、事業所得または雑所得となります。(国税庁タックスアンサーNo.3105)
読み取れるのは「相当の期間にわたり、継続的に」という言葉だけです。何回売れば継続的なのか、数値の基準は示されていません。
注意
基準がない以上、ご自身の判断だけで区分を決めるのは避けてください。申告してから直すのは、大きな手間になります。
事業所得と雑所得の分かれ目は、事業所得と雑所得の判定で整理しています。

区分が変わると、計算の土俵が変わります
区分が変わると、税額の計算方法そのものが変わります。分離課税と総合課税の違いです。
分離課税:譲渡所得金額についての税額を、事業所得や給与所得などの他の所得の金額とは区別し、租税特別措置法に規定された税率によって計算します。
総合課税:譲渡所得の金額を事業所得や給与所得などの他の所得の金額と合計し、所得税法に規定された累進税率によって税額を計算します。(国税庁タックスアンサーNo.3105)
土地建物の譲渡所得は分離課税です。長期譲渡所得なら所得税15%・住民税5%。これに復興特別所得税が所得税額の2.1%加わります。
計算例
例:土地を3,000万円で売り、取得費と譲渡費用の合計が600万円の場合(長期譲渡所得・特別控除なし)
課税長期譲渡所得金額 30,000,000円-6,000,000円=24,000,000円 所得税 24,000,000円×15%=3,600,000円 復興特別所得税 3,600,000円×2.1%=75,600円 住民税 24,000,000円×5%=1,200,000円 合計4,875,600円一定の前提を置いた目安であり、個別の税額を計算したものではありません。事業所得や雑所得になると、ほかの所得と合計して累進税率で計算します。
もう一つ大きいのが特例です。3,000万円特別控除などの特例は、分離課税の譲渡所得を前提にした仕組みです。事業所得や雑所得では、その土俵に乗りません。賃貸物件は賃貸用不動産を売ったときの譲渡所得もご覧ください。
譲渡所得でも課税されない場合があります
逆の例外もあります。譲渡所得に当たっても、課税されないものがあります。
(2) 強制換価手続により資産が競売などをされたことによる所得
資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難な場合に、強制換価手続(滞納処分や強制執行、担保権の実行としての競売、破産手続等)により、資産を譲渡したことによる所得および強制換価手続の執行が避けられないと認められる場合における資産の譲渡による所得で、その譲渡代金の全部が債務の弁済に充てられたものです。(国税庁タックスアンサーNo.3105)
強制換価手続とは、滞納処分や競売など、本人の意思によらず財産が換金される手続きです。要件は厳しく、一つでも欠ければこの扱いにはなりません。
競売や任意売却の課税関係は競売・任意売却と譲渡所得で扱っています。

売る前に確認すれば、選べることがあります
所得の区分は、申告書で選ぶものではありません。売り方が決まった時点で、おおむね決まります。
だからこそ、売る前の整理に意味があります。次の点を洗い出してください。
- 過去に不動産をいつ、いくつ売ったか
- 今回の土地を区画に分けて売るのか
- 売る前に造成や道路の整備をするのか
- 広告を出して買主を募るのか
- その不動産で不動産所得の申告をしているか
ここまではご自身でもできます。ここから先、譲渡所得と事業所得・雑所得のどちらに当たるかは、個別の事情で判断が分かれます。
小松公認会計士・税理士事務所では、過去の売却履歴と今回の売り方を伺います。そのうえで、どの区分になるのかを整理してお伝えします。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 土地を3区画に分けて売りました。譲渡所得になりますか?
区画に分けたことだけで決まるわけではありません。所得税法33条2項1号は「営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡」を譲渡所得から外しています。回数や年数の数値基準は示されていないため、売り方を含めて個別に確認します。
Q2. 事業所得や雑所得になると、3,000万円特別控除は使えませんか?
特別控除などの特例は、分離課税の譲渡所得を前提にした仕組みです。事業所得や雑所得になると、その土俵に乗りません。税率だけでなく特例の使える範囲も変わるため、まず所得区分から確認する必要があります。
Q3. アパートを1棟売っただけでも事業所得になりますか?
1棟売っただけで直ちに事業所得になるわけではありません。国税庁タックスアンサーNo.3105は「相当の期間にわたり、継続的に譲渡している場合」を事業所得または雑所得としています。過去の売却状況を含めて確認します。
Q4. 離婚の財産分与で自宅を渡しました。譲渡になりますか?
なります。譲渡とは有償無償を問わず所有資産を移転させる一切の行為をいい、財産分与も含まれます(国税庁タックスアンサーNo.3105)。お金を受け取っていなくても譲渡所得の対象になり得るため、確認が必要です。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。所得税法33条1項・2項・3項、所得税法施行令81条、国税庁タックスアンサーNo.3105の範囲を扱っています。総合課税の累進税率表、事業所得・雑所得になった場合の必要経費や青色申告の要件、山林所得の税額計算の方法、3,000万円特別控除をはじめとする各特例の適用要件、競売・任意売却の課税関係の細目、法人が不動産を売った場合の取扱いは扱っていません。「相当の期間」「継続的」に当たるかどうかの回数・年数の基準は法令・公表資料に示されていないため、本記事でも示していません。本記事の税額の計算は、分離課税の長期譲渡所得として一定の前提を置いた目安であり、個別の税額を計算したものではありません。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 タックスアンサー No.3105「譲渡所得の対象となる資産と課税方法」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3105.htm
- e-Gov法令検索 所得税法(第33条 譲渡所得)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- e-Gov法令検索 所得税法施行令(第81条 譲渡所得の基因とされない棚卸資産に準ずる資産)https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000096
売る前に、どの所得になるかを確認しませんか
所得の区分が変われば、税率も使える特例も変わります。過去の売却の履歴と今回の売り方を伺えば、譲渡所得として申告できるのか、事業所得や雑所得として整理すべきなのかをお伝えします。売り方が決まる前のご相談ほど、検討できる幅が広がります。代表税理士が直接ご対応します。
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