この記事のポイント
- 3,000万円特別控除は自分が住んでいた家とその敷地が対象で、賃貸物件には使えません
- 取得費は購入代金でなく減価償却費を差し引いた未償却残高で計算します
- 計算例では取得費を積み上げた税額2,092,445円、概算取得費5パーセントだと7,455,605円
- 売却年の不動産所得の計算と、課税事業者の建物部分の消費税にも注意が必要です
まず結論:自宅用の特例は、賃貸物件には使えません
自宅を売るときに使える特例の多くは、賃貸用の物件には使えません。3,000万円特別控除も対象外です。建物の取得費は「買った値段」ではなく、毎年経費にしてきた減価償却費を差し引いた金額になります。
「マイホームを売ったときの3,000万円の特別控除」は、租税特別措置法35条1項に基づく居住用財産の特例です。賃貸に出していた区分マンションやアパートは、そもそも居住用財産に当たりません。同じ理由で10年超所有の軽減税率の特例や買換えの特例も対象外で、売って出た利益がそのまま課税対象になります。もともと自宅だった家を賃貸に出してから売った場合などは、住んでいた部分についてだけ特例が使える余地があります。
長期・短期の判定は1月1日基準
税率は、譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるかどうかで分かれます(国税庁タックスアンサーNo.3202)。
- 長期譲渡所得:20.315パーセント(所得税15パーセント+復興特別所得税+住民税5パーセント)
- 短期譲渡所得:39.63パーセント(所得税30パーセント+復興特別所得税+住民税9パーセント)
買ってから6年目に売っても、1月1日時点で5年を超えていなければ「短期」です。
取得費は「未償却残高」で計算します
賃貸用不動産の取得費は、買った値段をそのまま使うことはできません。建物は年数がたつほど価値が減るため、毎年経費にした減価償却費を差し引いた「未償却残高」で計算します。国税庁タックスアンサーNo.3261では、建物の取得費は事業用かそれ以外かで異なるとされています。
| 賃貸用など業務用の建物 | 自宅など非業務用の建物 | |
|---|---|---|
| 差し引く償却費 | 各年の不動産所得の必要経費に算入した減価償却費の累計額 | 耐用年数の1.5倍の年数に対応する旧定額法の償却率で計算 |
| 計算式 | 実際に必要経費とした金額 | 取得価額×0.9×償却率×経過年数 |
| 限度 | ― | 取得価額の95パーセントを限度 |
| 経過年数の端数 | ― | 6か月以上は1年、6か月未満は切り捨て |
賃貸用の場合、過去の確定申告で実際に経費にしてきた減価償却費が、そのまま取得費を減らします。毎年の税金を抑えるのに使った償却費は、売るときに取得費を押し下げる形で精算されます。
ポイント
取得費の計算には青色申告決算書(または収支内訳書)の「減価償却費の計算」欄が必要です。控えがなくても、税務署の閲覧サービス等で組み立て直せることがあります。「売った値段の5パーセントを取得費にするしかない」と決める前に、必ず確認してください。
計算例:区分マンションを1棟売却した場合
次の前提で計算します。数値はすべて検算済みです。
- 購入時の内訳:建物2,000万円/土地1,500万円(合計3,500万円)
- 構造:鉄筋コンクリート造(法定耐用年数47年・定額法の償却率0.022)
- 保有期間:15年間(すべて賃貸用として必要経費に償却費を算入)
- 譲渡価額:4,000万円/譲渡費用:130万円(売却した年の1月1日において所有期間5年超)
ステップ1:減価償却費の累計額
2,000万円 × 0.022 × 15年 = 660万円
ステップ2:建物の未償却残高
2,000万円 − 660万円 = 1,340万円
ステップ3:取得費の合計
建物1,340万円 + 土地1,500万円 = 2,840万円
土地は年数がたっても価値が目減りしない扱いのため、買った値段がそのまま取得費になります。
ステップ4:譲渡所得と税額
譲渡所得 = 4,000万円 − 2,840万円 − 130万円 = 1,030万円
税額 = 1,030万円 × 20.315パーセント = 2,092,445円
取得費が分からず概算取得費5パーセントを使うと、次のとおり差が出ます。
| 項目 | 取得費を積み上げた場合 | 概算取得費5パーセントを使った場合 |
|---|---|---|
| 取得費 | 28,400,000円 | 2,000,000円 |
| 譲渡所得 | 10,300,000円 | 36,700,000円 |
| 税額(20.315パーセント) | 2,092,445円 | 7,455,605円 |
差額は5,363,160円です。過去の申告書を探す作業に、これだけの価値があるということです。
参考:同じ建物が自宅だった場合の償却費
仮にこの建物を、賃貸ではなく自宅として15年使っていたとします。その場合は非業務用の計算方法になり、償却費相当額は次のようになります。
耐用年数47年×1.5=70.5年→70年(1年未満切捨て)に対応する旧定額法の償却率0.015
2,000万円 × 0.9 × 0.015 × 15年 = 405万円
賃貸用の660万円に対して自宅なら405万円。同じ建物でも使い方で償却費が250万円以上違います。転用した物件は期間ごとに計算を分ける必要があり、間違えやすい箇所です。
売却した年に見落としやすい3つの論点
① 売却した年の不動産所得
譲渡所得とは別に、その年の家賃収入について不動産所得の計算が必要です。年途中の売却は売却日までの家賃収入・経費を集計し、減価償却費も月数分だけ計上します。日割り精算の固定資産税や引継ぎ敷金の処理も必要です。
② 課税事業者の場合、建物部分は消費税の課税対象
消費税では土地の譲渡と貸付けは非課税です(国税庁タックスアンサーNo.6201)が、建物の譲渡は非課税に挙げられていません。課税事業者が事業として賃貸用建物を売った場合、建物部分は消費税の課税対象になります。テナント賃貸や駐車場収入で課税事業者の方は、売却年の消費税が大きく増える可能性があります。契約書で土地建物の内訳を明確にしておくことが前提です。
注意
③ 売却で損が出た場合
賃貸用不動産の売却損は、原則として他の所得(給与や事業の所得など)と相殺できません。土地建物の譲渡所得の中での相殺にとどまり、マイホームに認められている相殺・繰越しの特例も賃貸用物件には使えません。
実務での進め方
ステップ1:過去の申告書一式を集める
青色申告決算書または収支内訳書の「減価償却費の計算」欄から、取得価額・償却方法・未償却残高を確認します。ここが確定しないと、正しい税額は出せません。
ステップ2:購入時の契約書で土地建物の内訳を確認する
建物の値段が契約書にない場合は、消費税額からの逆算や固定資産税評価額の比率で分けます。過去の申告と分け方をそろえることが大切です。
ステップ3:譲渡所得・不動産所得・消費税を通しで見る
当事務所では、売却の税金だけでなく、その年の不動産所得と消費税まで含めた「手残り」をお示しします。納める税金の額だけを見ると、手取りの見込みを誤ります。
よくある質問(FAQ)
Q1. もともと住んでいた自宅を賃貸に出してから売却しました。3,000万円特別控除は使えませんか?
使える場合があります。住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売るなどの条件を満たすときです。時期の個別確認が必要です。
Q2. 減価償却をしていなかった年があります。その分は取得費から差し引かなくてよいですか?
差し引く必要があります。業務用資産は実際に経費にしたかにかかわらず、経費にすべきだった償却費の累計額を差し引きます。過去の申告内容の確認が必要です。
Q3. 相続で取得した賃貸アパートを売却しました。取得費はどう計算しますか?
原則として亡くなった方の取得費と取得時期をそのまま引き継ぎます(所得税法60条1項)。相続税を納めている場合は取得費加算の特例も検討できます。
Q4. 売却代金で次の物件を買えば、税金は繰り延べられますか?
事業用資産の買換えの特例など、課税を先送りできる制度はあります。条件が細かいため、売る前のご相談をおすすめします。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・国税庁の公表資料に基づく一般的な解説です。記事中の計算例は前提を単純化したものであり、実際の税額は物件の取得経緯・用途の変遷・他の所得の状況によって異なります。具体的な事案については必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.3261「建物の取得費の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3261.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3202「譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3202.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3211「短期譲渡所得の税額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3211.htm
- 国税庁タックスアンサー No.6201「非課税となる取引」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6201.htm
- 租税特別措置法35条1項(居住用財産の譲渡所得の特別控除)、所得税法60条1項(贈与等により取得した資産の取得費等)e-Gov法令検索
この記事のお悩みは、小松公認会計士・税理士事務所にご相談ください
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
登録者6,900人超
小松公認会計士・税理士事務所 代表
小松 優馬公認会計士・税理士
- お話を伺って、「あなたの場合はどうなるか」をはっきりお答えします
- 必要な書類のご案内から申告まで、まるごとお任せいただけます
- 料金は先にお見積り。全国どこでも、オンラインで完結できます
YouTube「税理士 小松ゆうまチャンネル」(登録者6,900人超)で、税金の話を分かりやすく解説しています。動画を見てみる
初回相談は無料です。相談だけで終えていただいて構いません。
賃貸用不動産の売却は、売る前のご相談が有効です
賃貸用不動産の売却は、譲渡所得だけでなく売却年の不動産所得と消費税まで含めて見ないと手残りが読めません。過去の申告書がお手元にない場合でも構いません。売却を検討している段階でのご相談も歓迎です。代表税理士が直接ご対応します。
無料相談を申し込む 不動産売却の確定申告サポートを見る 約60秒で料金を自動見積り