この記事の答え
- 賃貸に出していた物件を売るときは、3,000万円の控除は原則として使えません。
- 元の自宅を貸した人は、売る時期などの条件を満たせば使えることがあります。
- 3,500万円で買い15年貸して4,000万円で売る例の税金は、約209万円です(目安)。
賃貸に出していた物件に、3,000万円の控除は使えますか

賃貸に出していたマンションやアパートを売るときは、3,000万円の控除は原則として使えません。この控除は、自分が住んでいる家や、以前に住んでいた家を売る人のための特例だからです。
自宅を売るときに税率が下がる特例や、自宅の買換えの特例も、同じ理由で原則として使えません。事業用の資産の買換えの特例は別の制度で、賃貸物件にも使えることがあります。
ただし、もともと自宅だった物件は、貸した後でも使えることがあります。次の図で確かめてください。
特例のためだけに入居した家は対象外です。親子や夫婦など特別の関係がある人に売る場合も使えません。一部だけ貸していた家は、住んでいた部分が対象です(おおむね90%以上なら全体)。転勤などで家族だけが住んでいた期間がある人は、数え方が変わることがあります。3年の数え方の記事もご覧ください。
売った金額から、買った値段をそのまま引けますか

建物の買った値段は、そのままでは引けません。貸していた間の減価償却費を差し引いた金額になります。減価償却費とは、建物の値段を毎年少しずつ経費にしていく金額です。土地は、買った値段のまま引きます。
不動産を売った利益を、譲渡所得といいます。税金は、この譲渡所得にかかります。
計算の式
譲渡所得 = 売った金額 − 取得費 − 売るのにかかった費用 取得費 = 土地の買った値段 + 建物の買った値段 − 減価償却費取得費とは、その不動産を手に入れるためにかかった金額です。買うときの仲介手数料や、後から払った改良費も含みます。
売るのにかかった費用には、仲介手数料や、貸家を売るために借家人に払う立退料などがあります。修繕費や固定資産税は入りません。
会社員のAさんは平成23年に、新築の賃貸用マンション1室を3,500万円で買いました。内訳は、建物2,000万円と土地1,500万円です。Aさんは15年間貸しました。
建物は、15年分の減価償却費660万円だけ減ります。土地は減りません。
賃貸マンションを売ると、税金はいくらになりますか

Aさんの税金は、所得税と住民税などを合わせて2,092,445円です。Aさんは令和8年に、このマンションを4,000万円で売りました。売るのにかかった費用は130万円です。
計算例
Aさんの税金(15年ちょうど貸した前提の目安)
減価償却費:2,000万円 × 0.022 × 15年 = 660万円 取得費:2,000万円 − 660万円 + 1,500万円 = 2,840万円 譲渡所得:4,000万円 − 2,840万円 − 130万円 = 1,030万円 税金:1,030万円 × 20.315% = 2,092,445円0.022は、平成19年4月以後に買った鉄筋コンクリート造の住宅の、1年分の率です。平成19年3月以前に買った建物、中古の建物、木造など構造が違う建物は、計算が変わります。
税率は、売った年の1月1日に5年を超えて持っていれば20.315%、5年以下なら39.63%です。買ってから5年を過ぎて売っても、1月1日の時点で5年以下なら39.63%です。5年の数え方の記事もご覧ください。
取得費が分からないときは、売った金額の5%を取得費にできます。実際の取得費が5%より少ないときも同じです。Aさんがこの方法を使うと、取得費は200万円、譲渡所得は3,670万円になります。
一定の前提を置いた目安です。令和9年分からは所得税などの内訳が変わりますが、合計の税率は同じです。
同じ物件でも、5%の方法では税金が5,363,160円増えます。
賃貸物件の売却で、どんな失敗がありますか

5%の方法を選ぶ前に、過去の申告書を探してください。不動産の青色申告決算書や収支内訳書には、「減価償却費の計算」の欄があります。建物の買った値段や、まだ経費にしていない残りの金額が書いてあります。土地の値段は、買ったときの契約書で確かめます。控えがなくても、税務署で閲覧できることがあります。
失敗の例
- 書類を探さずに5%で申告する例。Aさんの例では、税金が約536万円増えます。
- 売却の利益だけを計算する例。売却とは別に、売った年の家賃の申告も必要です。
- 消費税を見落とす例。消費税を納める義務がある人が貸していた建物を売ると、建物の代金に消費税がかかります。土地の代金にはかかりません。
どこまでご自身で計算できますか

過去の申告書と売買契約書がそろえば、図2と同じ形の概算は、ご自身でできます。次の場合は、個別の判断が必要です。
- 自宅だった物件や、一部に住んでいた物件を売る
- 相続や贈与でもらった物件を売る
- 契約書に土地と建物の内訳がない
- 消費税を納める義務がある、または事業用の資産の買換えの特例を使いたい
税理士が入ると変わること
小松公認会計士・税理士事務所では、過去の申告書で毎年の減価償却費を確かめ、取得費を計算します。売った年の家賃の所得と消費税も合わせて計算し、手元に残る金額をお示しします。
賃貸物件の売却をご検討の方は、売買契約の前に試算をご依頼ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 売る前に自分が住めば、3,000万円の控除を使えますか?
入居すれば使えるとは限りません。特例を受けるためだけに入居した家や、一時的な目的で入居した家は対象外です。その家が生活の拠点だったかを、入居の目的や日常生活の状況などから総合的に判断します。
Q2. 相続した賃貸アパートを売るときの取得費は?
原則として、亡くなった方の取得費と取得の時期を引き継ぎます。相続税がかかった人には、相続税の一部を取得費に足せる特例があります。売る期限は、亡くなった日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までです。
Q3. 売って損が出たときは、どうなりますか?
別の土地や建物を売った同じ年の利益からは差し引けます。給与など他の所得とは相殺できず、翌年以降への繰越しもできません。自宅を売った損失の特例は、賃貸物件には原則として使えません。
Q4. 売った代金で次の物件を買えば、税金を先送りできますか?
事業用の資産の買換えの特例で、一部を先送りできることがあります。相当の対価で続けて貸している物件も対象になり得ます。売る物件と買う物件の組合せなどの条件があり、税金がなくなるわけではありません。
免責事項
本記事は令和8年11月時点の法令・国税庁の公表資料に基づく、個人の方向けの一般的な解説です。記事中の計算例は、15年ちょうど貸したものとして計算するなど、一定の前提を置いた目安です。実際の税額は、物件の取得の経緯、用途の変化、ほかの所得の状況によって異なります。具体的な事案については税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.3302「マイホームを売ったときの特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3305「マイホームを売ったときの軽減税率の特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3305.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3355「特定のマイホームを買い換えたときの特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3355.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3452「店舗併用住宅を売ったときの特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3452.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3261「建物の取得費の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3261.htm
- 国税庁「令和7年分 譲渡所得の申告のしかた」23ページhttps://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/2025/pdf/O/O1.pdf
- 国税庁タックスアンサー No.3252「取得費となるもの」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3252.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3255「譲渡費用となるもの」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3255.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3258「取得費が分からないとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3258.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3202「譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3202.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3211「短期譲渡所得の税額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3211.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3203「不動産を譲渡して譲渡損失が生じた場合」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3203.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3370「マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3370.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3390「住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3390.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3267「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3405「事業用の資産を買い換えたときの特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3405.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3402「事業用の資産の範囲」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3402.htm
- 国税庁タックスアンサー No.6201「非課税となる取引」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6201.htm
- 国税庁タックスアンサー No.6109「事業者が事業として行うものとは」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6109.htm
- 国税庁タックスアンサー No.6501「納税義務の免除」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6501.htm
- 国税庁タックスアンサー No.9211「申告書等の確認方法」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/osirase/9211.htm
- 国税庁「令和7年分 青色申告決算書(不動産所得用)の書き方」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/2025/pdf/039.pdf
- 国税庁「令和7年分 収支内訳書(不動産所得用)」様式https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/yoshiki/01/shinkokusho/pdf/r07/09.pdf
- 国税庁「令和8年度 税制改正のあらまし(個人の方が株式等や土地・建物等を譲渡した場合)」https://www.nta.go.jp/publication/pamph/joto-sanrin/r08aramashi.pdf
- 租税特別措置法関係通達(山林所得・譲渡所得関係)31の3-2・31の3-6〜31の3-8https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/sochiho/710826/sanrin/sanjyou/soti31/06.htm、35-6(31の3-2等の準用)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/sochiho/710826/sanrin/sanjyou/soti35/01.htm
- 所得税法33条・38条・49条・60条e-Gov法令検索、所得税法施行令120条の2e-Gov法令検索
- 租税特別措置法31条・31条の4・32条・35条・36条の2・37条・39条・41条の5・41条の5の2e-Gov法令検索、租税特別措置法施行令20条の3・23条・25条e-Gov法令検索
- 減価償却資産の耐用年数等に関する省令3条・別表第一・別表第八e-Gov法令検索
- 消費税法6条・別表第二e-Gov法令検索
- 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法13条(令和8年法律第12号による改正後は令和9年分以後1.1%)e-Gov法令検索
- 我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法5条の5・5条の9(令和8年法律第12号による改正後。令和9年分以後)e-Gov法令検索
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