この記事のポイント
- 「お尋ね」は行政指導の「確認の手紙」です。税務調査ではありません
- ただし放置は禁物。動き出しが遅れるほど、罰金にあたる加算税は重くなります
- 納める税金が200万円の例では、自分から早めに申告すれば加算税は10万円。調査を受けた後だと37万5,000円。差は27万5,000円です
- 最初にやることは「そもそも申告が必要だったのか」の確認です。損が出た場合や特例でゼロになる場合は、回答して事情を説明すれば足ります
まず結論:お尋ねは「確認の手紙」です。慌てず、でも放置しないでください
お尋ねは、税務署からの「申告について確認したいことがあります」という手紙です。何かを疑われていると決まったわけではありませんが、放置は禁物です。動き出しが遅れるほど加算税が重くなります。
税務署は「売ったこと」自体は知っています
不動産を売ると登記が行われ、税務署は動きを把握しますが、いくらで買っていくらで売ったのかまでは分かりません。だからこそ確認の手紙が届きます。時期は売却数か月後や申告期限の前後が多く、期限前は注意喚起、期限後は「見当たらない」という確認です。まず封筒の日付をご確認ください。
回答は義務?放置するとどうなる?
「行政指導」と「調査」は分けて扱われています
お尋ねは「行政指導」という位置づけで、強制力のある税務調査とは区別されています。国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」は次のように説明しています。
「調査は、特定の納税者の方の課税標準等又は税額等を認定する目的で、質問検査等を行い、申告内容を確認するものですが、税務当局では、税務調査のほかに、行政指導の一環として、例えば、提出された申告書に計算誤り、転記誤り、記載漏れ及び法令の適用誤り等の誤りがあるのではないかと思われる場合に、納税者の方に対して自発的な見直しを要請した上で、必要に応じて修正申告書の自発的な提出を要請する場合があります。」
「なお、税務署の担当者は、納税者の方に調査又は行政指導を行う際には、具体的な手続に入る前に、いずれに当たるのかを納税者の方に明示することとしています。」
出典:国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」問2
お尋ねの段階は、まだ調査ではありません。担当者は具体的な手続きに入る前に「調査か、行政指導か」を明示することになっています。届いた書面や電話で確認して構いません。
自分から直せば、ペナルティは軽くて済みます
同じFAQは、加算税の扱いについてもこう述べています。
「このような行政指導に基づき、納税者の方が自主的に修正申告書を提出された場合には、延滞税は納付していただく場合がありますが、過少申告加算税は賦課されません(当初申告が期限後申告の場合は、無申告加算税が原則5%賦課されます。)。」
これが「早く動いたほうがよい」最大の理由です。調査になってから直すのと、自分から直すのとでは負担がまるで違います。
放置した場合に起きること
回答しなくても即座に罰則はありませんが、疑問は解消されず実地調査に進みやすくなります。調査後の申告は加算税が跳ね上がります。実地調査の流れは税務調査が来たらどうする?最初にやるべき5つのことにまとめています。
数字で見る:動く時期でこれだけ変わります
期限を過ぎて申告する「期限後申告」には「無申告加算税」が上乗せされます。令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来するもの(令和5年分以降)の割合は次のとおりです。
| 期限後申告のタイミング | 無申告加算税の割合 |
|---|---|
| 調査の事前通知の前に自主的に期限後申告 | 5% |
| 事前通知の後・調査による決定を予知する前 | 50万円までの部分10%/50万円超300万円までの部分15%/300万円超の部分25% |
| 調査を受けた後(決定を予知した後) | 50万円までの部分15%/50万円超300万円までの部分20%/300万円超の部分30% |
納付すべき本税が200万円だったケースで計算すると、こうなります。
| タイミング | 計算 | 無申告加算税 |
|---|---|---|
| 事前通知の前に自主申告 | 200万円×5% | 100,000円 |
| 事前通知の後・予知前 | 50万円×10%+150万円×15% | 275,000円 |
| 調査を受けた後 | 50万円×15%+150万円×20% | 375,000円 |
自分から申告した場合と、調査を受けた後では275,000円の差があります。お尋ねから調査開始までの間に動けるかどうかで、この差が決まります。
延滞税(利息)も別にかかります
納付が遅れた期間には利息にあたる「延滞税」もかかります。申告書を提出した日が納期限となり、令和8年1月1日から令和8年12月31日までは年2.8%(2か月経過後は年9.1%)です。
本税200万円を法定納期限の翌日から1年後に申告・納付した場合の延滞税は概算で56,000円です(200万円×2.8%×365日÷365日)。「申告したらすぐ納める」が延滞税を抑える基本です。
ポイント
無申告加算税がかからない場合もあります
期限後申告でも、次をすべて満たせば無申告加算税はかかりません。
- その期限後申告が、法定申告期限から1か月以内に自主的に行われていること
- 期限内に申告する意思があったと認められ、税金全額を納期限までに納め、提出日の前日から5年前まで無申告加算税・重加算税を課されていないこと
「うっかり出し忘れた」なら、まだ間に合う可能性があります。気づいたらすぐに動いてください。
ケース別・正しい対応手順
まず確認すべきは「そもそも申告が必要だったのか」です。ご自身がどのケースに当たるか見てみてください。
ケース1:申告不要だった(売却で損が出た・特例で税額ゼロ)
安く売って損が出た場合や、特例で税額がゼロになる場合は申告義務がないことがあります。この場合はお尋ねに回答し、事情を説明すれば足ります。次の資料を揃えてください。
- 売却時の売買契約書(譲渡価額・契約日・引渡日)
- 購入時の売買契約書(取得費)
- 仲介手数料などの領収書(譲渡費用)
注意
損失の繰越控除を使う場合は申告が必要です
損を他の所得と相殺・繰越しする特例を使う場合は、損が出ていても申告が必要です。決めつけると使えたはずの制度を逃します。
ケース2:申告が必要だったのに、していなかった
最優先で期限後申告の準備に入ってください。事前通知が来る前に自分から申告できるかで、負担が変わります。
「買ったときの資料が見つからない」場合、売った値段の5%を取得費とみなす「概算取得費」を使わざるを得ないように見えますが、諦めるのは早いです。詳しくは不動産売却で取得費がわからない?概算取得費5%で損しないための合理的算定法をご覧ください。
相続した不動産なら、空き家の3,000万円特別控除や取得費加算の特例が使える可能性があります(相続した実家を売却したら税金はいくら?)。慌てて「概算取得費5%・特例なし」で出すと、払わなくてよい税金を負担することになります。
ケース3:申告したのに届いた
慌てる必要はありません。次のような理由が考えられます。
- 申告内容に記載漏れや計算誤りがあるのではないかと見られている
- 同じ年に複数の不動産を売却しており、一部の申告が見当たらない
- 特例の適用要件を確認したい
確定申告書の控えと譲渡所得の内訳書を確認し、質問事項に沿って回答します。誤りがあっても、お尋ねの段階で自分から修正申告をすれば過少申告加算税はかかりません。
自分で進める場合と税理士に依頼する場合
ご自身で進められる部分
- 売買契約書・仲介手数料の領収書など、手元資料を集める
- お尋ねの書面に書かれた照会事項と回答期限を確認する
- 申告済みの場合、確定申告書の控えを見つける
専門的な判断が必要になる部分
- 買ったときの資料が揃わないケースで、実際の金額をどこまで主張できるかの判断
- 相続した不動産で、どの特例を選ぶと有利かの判定
- 期限後申告の内容を固めて、加算税・延滞税を含めた納付の計画を立てること
- 回答書の内容が、その後の説明と食い違わないようにすること
お尋ねへの回答は、後の説明の出発点になります。事実に基づいて、必要十分な範囲で正確に書くことが大切です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 「お尋ね」に回答する法律上の義務はありますか?
法律上の義務はありません。行政指導として送られ、調査とは区別されます。ただし放置すると疑問が解消されず、調査につながる可能性が高まります。
Q2. お尋ねが届いてから期限後申告をすると加算税はどうなりますか?
事前通知の前に自分から申告すれば原則5%です。事前通知の後は10〜25%(金額に応じ段階的)、調査を受けた後はさらに重くなります(本文の表をご参照ください)。
Q3. 譲渡損が出たので申告は不要です。それでもお尋ねに回答すべきですか?
回答して事情を伝えることをおすすめします。損失を翌年以降に繰り越す特例を使う場合は、損が出ていても申告が必要です。
Q4. お尋ねが届かなければ申告しなくてよいのですか?
そうではありません。申告義務は届くかどうかと無関係です。利益が出ていれば、原則として翌年2月16日から3月15日までに申告が必要です。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。お尋ねの様式・記載内容・送付時期は事案によって異なり、実際の対応は個別事情に応じて判断する必要があります。記載した加算税・延滞税の試算は前提を単純化した概算であり、実際の金額を保証するものではありません。具体的な事案については必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」https://www.nta.go.jp/information/other/data/h24/nozeikankyo/ippan02.htm
- 国税庁タックスアンサー No.2024「確定申告を忘れたとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2024.htm
- 国税庁タックスアンサー No.9205「延滞税について」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/osirase/9205.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3102「譲渡所得の申告期限」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3102.htm
- 国税庁「調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)」https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/sonota/120912/index.htm
- 国税通則法18条・35条・60条・66条、所得税法120条(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/
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