この記事の答え
- 海外に住んでいても売却益は日本で課税されます。代金の10.21%が原則天引きされ、申告で精算します。
- 個人が自分や親族の住まいに買い、代金1億円以下なら天引きなし。申告には納税管理人が必要です。
- 6,000万円で売り利益2,800万円の例(5年超保有・特例なし)は、約184万円が戻る目安です。
海外に住んでいても、日本で税金はかかりますか

日本にある不動産を売って利益が出ると、海外に住んでいても日本で税金がかかります。原則として確定申告が必要で、利益の計算方法は日本に住む人と同じです。
税法では、日本に住所がなく、日本に1年以上続けて住んでもいない人を「非居住者」といいます。日本の会社の海外支店などに1年以上の予定で勤務する人は、一般的に非居住者になります。
非居住者が売ると、買主は原則として、代金の10.21%を差し引いて税務署に納めます。この天引きを「源泉徴収」といいます。天引きは、利益ではなく代金の全体にかかります。6,000万円で売ると612万6,000円が引かれ、振り込まれるのは5,387万4,000円です。
1億円以下かどうかは、売主ごとの代金で判定します。買主が国外で支払い、日本に住所や事務所などがないときは、天引きされないことがあります。天引きがなくても、利益が出れば原則として確定申告が必要です。
天引きされた10.21%は戻りますか

10.21%は税金の前払いです。確定申告で実際の税額と比べ、差額を精算します。天引きのほうが多ければ差額が戻り、少なければ差額を納めます。
会社員Aさんは、海外赴任中の非居住者です。8年前に買ったマンションを、不動産会社に6,000万円で売ります。
計算例
例:Aさんの売却
買ったときの金額:3,000万円(建物の目減り分を引いた後) 売るための費用:200万円(仲介手数料など) 利益:6,000万円−3,000万円−200万円=2,800万円 実際の税額:2,800万円×15.315%=4,288,200円 天引きされた額:6,000万円×10.21%=6,126,000円 戻る額:6,126,000円−4,288,200円=1,837,800円15.315%は、売った年の1月1日に5年を超えて持っていた場合の税率です。5年以下なら30.63%です。特例や他の所得がないなど、一定の前提を置いた目安です。
買ったときの金額が分からないと、税額が天引きを上回ることがあります。金額が分からない場合は、売った金額の5%で計算できます。Aさんなら300万円です。買ったときの契約書が見つからない場合の記事もご覧ください。
書類ありは約184万円が戻ります。書類なし(買ったときの金額を売った金額の5%で計算)は約230万円を追加で納めます。5年を超えて持ち、特例を使わない場合は、利益が代金の約3分の2を超えると、追加の納税になる目安です。
補足
住民税は、売った年の翌年1月1日に日本に住所があるかで決まります。この日に日本に住所がなければ、売却の利益に住民税はかかりません。
Aさんが令和8年に売り、令和9年1月1日までに帰国すると、住民税は利益の5%の140万円です。日本に住民票が残っている場合も、住民税がかかることがあります。
令和9年分からは税金の内訳が変わりますが、10.21%などの率は同じです。
納税管理人は、いつ、誰に頼みますか

納税管理人は、確定申告書を出すときまでに決め、届出書を税務署に出します。納税管理人とは、海外に住む人に代わって、日本で税金の手続きをする人です。
納税管理人には、確定申告書の提出、税務署の書類の受け取り、納税、戻る税金の受け取りを任せられます。
頼む相手は、日本に住む親族や税理士などです。個人でも法人でも構いません。
- 納税管理人を決めて、届出書を税務署に出す
- 買主から、天引き後の代金を受け取る
- 原則として翌年2月16日から3月15日までに確定申告をする
天引きの分が戻る人は、原則として翌年1月1日から5年間、申告できます。
売却の話が出た段階で頼む相手を決めておくと、手続きが遅れません。
どんな失敗がありますか

次の3つは、売買契約の前に確かめておくと避けやすい失敗です。
失敗の例
- 天引きで終わりと考えた例。確定申告をしないと、Aさんなら約184万円が戻りません。損が出た人も、申告しないと天引きの分は戻りません。
- 住民票を見せて「日本に住んでいる」と伝えた例。東京高等裁判所は、生活の中心がアメリカにあった売主を非居住者と判断しました。買主の不動産会社には天引きの義務があったとされました。会社は、約7億6千万円の取引で約7,622万円を納めています。買主は、納めた税金を原則として売主に請求できます。非居住者は、契約の前に買主へ伝えます。
- 自宅の特例の期限を過ぎた例。3,000万円の特例には、売る期限があります。住まなくなった日から3年を経過する日が入る年の12月31日までです。海外赴任で令和5年4月に住まなくなった人なら、令和8年12月31日です。
どこまで自分で判断できますか

天引きの有無を確かめ、売買契約書と買ったときの書類をそろえるところまでは、ご自身でできます。次の場合は、個別の判断が必要です。
- 住民票が日本にある、海外勤務が1年未満の予定など、非居住者かどうかがはっきりしない
- 自宅の3,000万円の特例など、特例を使いたい
- 賃貸に出していた物件や、相続した物件を売る
- 住んでいる国でも申告が必要になる
税理士が入ると変わること
小松公認会計士・税理士事務所では、売買契約の前に、天引き額と実際の税額を試算します。買ったときの金額は、契約書や通帳などの資料から確かめます。
特例の期限と条件は、住民票や契約書の日付で確かめます。納税管理人のご相談も承ります。時差のある方とも、メールとオンライン面談で進めます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 買主が個人なら、天引きされませんか?
個人でも天引きされることがあります。天引きされないのは、個人が自分か親族の住まいとして買い、代金が1億円以下の場合です。投資用に買う場合や、1億円を超える場合は、個人の買主でも天引きします。
Q2. 売る年の途中で海外へ引っ越すときは、どうなりますか?
納税管理人を届け出て出国すれば、翌年の確定申告を任せられます。出国前に売った人が届け出ずに出国するときは、原則として出国の時までに確定申告が必要です。出国の後に売った分は、翌年に納税管理人を通じて申告します。
Q3. 海外赴任中に自宅を売ると、3,000万円の特例は使えますか?
海外に住んでいても、条件を満たせば使えます。特例を使う場合も、天引きは原則として行われます。他の所得がなく、特例で税額が0円になる人は、確定申告で天引き額の全額が戻ります。家族が住み続けている自宅は、別の扱いになることがあります。
Q4. 住んでいる国でも税金がかかりますか?
住んでいる国の税法によります。日本が結んだ多くの租税条約は、不動産がある国でも課税できるとしています。二重に課税されたときの調整のしかたは、国ごとに確かめます。
免責事項
本記事は令和8年11月時点の法令・国税庁の公表資料に基づく一般的な解説です。海外に住む人の税金の扱いは、住んでいる国の税制や租税条約の内容、出国・帰国の時期によって結論が変わることがあります。記載した計算例は、特例や他の所得がないなど、一定の前提を置いた目安です。具体的な事案については税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.1932「海外勤務中に不動産を売却した場合」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1932.htm
- 国税庁タックスアンサー No.2879「非居住者等から土地等を購入したとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2879.htm
- 国税庁タックスアンサー No.1923「海外勤務と納税管理人の選任又は解任」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1923.htm
- 国税庁タックスアンサー No.1926「海外勤務中に不動産所得などがある場合」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1926.htm
- 国税庁タックスアンサー No.2012「居住者・非居住者の判定(複数の滞在地がある人の場合)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2012.htm
- 国税庁タックスアンサー No.2030「還付申告」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2030.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3102「譲渡所得の申告期限」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3102.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3202「譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3202.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3211「短期譲渡所得の税額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3211.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3258「取得費が分からないとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3258.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3302「マイホームを売ったときの特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3317「配偶者等だけが住んでいるマイホームを売ったとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3317.htm
- 国税庁 リーフレット「非居住者等から不動産を「購入した」場合の源泉徴収」(令和7年9月)https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/0025009-040_01.pdf
- 国税庁 リーフレット(非居住者等が日本国内の不動産を賃貸・譲渡した場合の確定申告。令和8年4月1日現在)https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0026005-084_01.pdf
- 国税庁 質疑応答事例「源泉徴収の対象とされる支払が居住者に対するものか非居住者に対するものかの判定」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/gensen/06/64.htm
- 国税庁 質疑応答事例「土地等が共有されている場合の取扱い」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/gensen/06/01.htm
- 東京高等裁判所 平成28年12月1日判決(平成28年(行コ)第219号)https://www.courts.go.jp/hanrei/86937/detail5/index.html
- 東京地方裁判所 平成28年5月19日判決(平成26年(行ウ)第114号)https://www.courts.go.jp/hanrei/86346/detail5/index.html
- 総務省 地方税制度「外国人の方の個人住民税について」(個人住民税の課税の基準日)https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/individual-inhabitant-tax.html
- 所得税法2条・120条・122条・127条・161条・164条〜166条・212条・213条e-Gov法令検索、所得税法施行令15条・281条の3e-Gov法令検索
- 国税通則法74条・117条e-Gov法令検索
- 租税特別措置法31条・31条の4・32条・35条e-Gov法令検索
- 地方税法32条・39条・294条・313条・318条・附則34条e-Gov法令検索
- 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法13条・28条(令和8年法律第12号による改正後。令和9年分以後は1.1%)e-Gov法令検索
- 我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法5条の9・5条の26(令和8年法律第12号による改正後。令和9年1月1日施行)e-Gov法令検索
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