この記事のポイント
- 海外在住でも、日本国内の不動産を売ったら日本で確定申告が必要です
- 買主は売買代金の10.21%を源泉徴収して国に納めます(国税庁タックスアンサーNo.2879)
- 天引き分は前払いにすぎず、確定申告で精算すると多くは戻ります
- 申告前に納税管理人の届出が必要。1月1日に国内に住所がなければ住民税はかかりません
まず結論:海外在住でも、日本の不動産を売ったら日本で税金がかかります
住んでいる国がどこであっても、日本国内にある不動産を売って出た利益には、日本で税金がかかります。売買代金からは10.21%が天引きされますが前払いにすぎず、確定申告をすれば多くは戻ります。申告前には「納税管理人」の届出が必要です。
国税庁タックスアンサーNo.1932「海外勤務中に不動産を売却した場合」も、海外在住の方(非居住者)が国内の土地や建物を売った場合、利益の計算方法は日本に住んでいる人と同じで、原則として確定申告が必要としています。
海外赴任中の方も、国際結婚で拠点を移した方も、同じ扱いです。

買主が10.21%を天引きする仕組み
売買代金が満額振り込まれないのは、買主に税金を天引きして納める義務(源泉徴収義務)があるためです。
源泉徴収の内容(国税庁タックスアンサーNo.2879)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 税率 | 譲渡対価の10.21%(所得税および復興特別所得税) |
| 対象 | 土地、建物およびその附属設備等 |
| 源泉徴収義務者 | 非居住者等に譲渡対価を支払う者(法人・個人問わず) |
| 納付期限 | 国内で支払った場合は支払った月の翌月10日まで |
天引きされない例外
ポイント
源泉徴収されない場合
買主が個人で、自分やその親族が住むために買い、かつ売買代金が1億円以下の場合は、天引きされません。買主が個人か法人かで手取り額が変わるため、交渉段階での確認をおすすめします。

天引きされた税金は「前払い」。確定申告で精算します
10.21%は税額そのものではなく、売買代金に機械的に差し引かれた前払いです。実際の税額は取得費や譲渡費用を差し引いた「利益」に対して計算するため、確定申告で差額が戻ることが多いのです。
数字で見る:6,000万円で売却したケース
次の前提で計算してみます。
- 売った値段(譲渡価額):6,000万円(買主は法人のため天引きあり)
- 買った値段(取得費):3,000万円(建物の価値の目減り分を差し引いた後の金額)
- 売るための費用(譲渡費用):200万円
- 所有期間:10年(長期譲渡所得)。居住用の特別控除は不使用
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 源泉徴収された金額 | 6,000万円 × 10.21% | 6,126,000円 |
| 譲渡所得 | 6,000万円 −(3,000万円 + 200万円) | 28,000,000円 |
| 所得税+復興特別所得税 | 2,800万円 × 15.315% | 4,288,200円 |
| 差引き還付される金額 | 6,126,000円 − 4,288,200円 | 1,837,800円 |
この例では約184万円が戻ってきます。確定申告をしなければ戻りません。逆に取得費を証明できず小さくなる場合(購入時の契約書が見つからない場合など)は、追加で納めることもあります。
なお上の表のとおり住民税5%が乗っていない点にご注目ください。理由は次章で説明します。
申告の前に「納税管理人」を決めます
海外在住の方が日本で確定申告をするには、日本国内で税務の手続きを代わりに行う「納税管理人」を決める必要があります。
国税庁タックスアンサーNo.1932では、確定申告書を出すときまでに納税管理人を決め、届出書を納税地の税務署長に提出することとされています。
納税管理人が実際に担うこと
- 税務署からの書類の受け取り
- 確定申告書の提出
- 納税・還付金の受領
親族に頼むこともできますが、還付金の受取や税務署対応まで任せることになるため、実務では税理士が務めるケースが多くあります。
手続きの順番を間違えないこと
出国してから、慌てて納税管理人を探し始めるのはよくある失敗です。売却が具体化した段階で、届出までの流れを先に組み立てておいてください。

住民税はかからないことが多い
その年の1月1日に日本国内に住所がなければ、その年度の個人住民税はかかりません。
総務省の説明では、個人住民税は1月1日現在に住所がある市区町村が課税する仕組みです。前年12月31日までに出国していれば、その年分の課税は生じません。
日本に住んでいる人の長期譲渡所得の税率は所得税15%(復興特別所得税を含めて15.315%)+住民税5%で、合計20.315%です。海外在住の方は、この住民税5%の部分が生じないことになります。
注意
出国のタイミングには注意が必要です
売却した年の1月1日に住所があれば、住民税は翌年度にかかります。「売ってから出国」か「出国してから売る」かで結論が変わるため、税負担だけを理由に時期を動かすのは適切ではなく、転勤や移住の予定を優先して考えるべきものです。
3,000万円特別控除は使えるのか
ご相談で最も多い質問です。国税庁タックスアンサーNo.1932は「譲渡所得の金額の計算方法は、居住者の場合と同様」としており、海外在住だけを理由に特例が使えなくなるわけではありません。
ただし3,000万円特別控除には期間条件があります。国税庁タックスアンサーNo.3302は、以前の家について「住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること」を条件としています。
海外赴任で家を空けてから売却まで時間がかかると、この3年の窓を過ぎてしまうことがあります。理由はさまざまですが、期限は動きません。
また人に貸していた場合は家賃収入(不動産所得)の申告も関わり、取得費も変わります。「海外在住であること」と「特例が使えるか」は別の問題です。賃貸に出していた物件の売却については 賃貸用マンション・アパートを売却したときの譲渡所得 3,000万円控除が使えない場合の計算 もあわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 買主が個人なら、必ず源泉徴収されないのですか?
いいえ。買主が個人で、自分や親族が住むために買い、かつ代金が1億円以下の場合だけ不要です。投資目的や1億円超なら対象です。
Q2. 源泉徴収されたので、確定申告はしなくてよいですか?
いいえ。10.21%は機械的に差し引かれた前払いで、実際の税額とは一致しません。No.1932でも原則として確定申告が必要です。しないと納めすぎた税金は戻りません。
Q3. 居住している国でも課税されると二重課税になりませんか?
多くの国と租税条約があり、住んでいる国側の外国税額控除などで調整されます。ただし取扱いは国と条約の内容によるため、両方の申告をあわせてご確認ください。
Q4. 納税管理人は家族でも構いませんか?
国内に住所などがあればご家族でも構いません。ただし税務署対応や還付金の受取まで担うため、実務では税理士が務めるケースが多くあります。届出は確定申告書を出すときまでに必要です。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。非居住者の課税関係は、居住地国の税制や租税条約の内容によって結論が変わることがあり、出国・帰国の時期によっても取扱いが異なります。具体的な事案については必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.1932「海外勤務中に不動産を売却した場合」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1932.htm
- 国税庁タックスアンサー No.2879「非居住者等から土地等を購入したとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2879.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3302「マイホームを売ったときの特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm
- 総務省 地方税制度「外国人の方の個人住民税について」(個人住民税の賦課期日と課税団体)https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/individual-inhabitant-tax.html
- 所得税法(非居住者に対する課税の方法・非居住者等に対する源泉徴収)、地方税法(個人住民税の賦課期日)e-Gov法令検索
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