この記事のポイント
- 合計所得金額は特別控除「前」の金額で計算します(国税庁の定義)
- 3,000万円控除で税額がゼロでも扶養・配偶者控除等から外れることがあります
- 給与500万円+譲渡益3,500万円の例で合計所得金額は3,856万円に
- 国民健康保険は自治体の条例次第。市区町村への確認が必須です
「税額ゼロ」と「所得ゼロ」はまったく別の話です
3,000万円の特別控除を使って所得税がゼロになっても、「合計所得金額」には控除する前の売却益がそのまま入ります。その結果、扶養や配偶者控除、住宅ローン控除から外れることがあり、翌年の保険料にも響きます。
合計所得金額は特別控除“前”で計算します
「合計所得金額」は、扶養に入れるかどうか等の判定に使う、1年間の所得の合計です。国税庁の確定申告書等作成コーナーは、次のように定義しています。
次の①と②の合計額に、退職所得金額、山林所得金額を加算した金額です。※ 申告分離課税の所得がある場合には、それらの所得金額(長(短)期譲渡所得については特別控除前の金額)の合計額を加算した金額です。
土地や建物を売った利益は、3,000万円特別控除などを差し引く「前」の金額を合計所得金額に足します。特別控除は税額を軽くするだけで、所得をなかったことにはしません。
数字で見る:給与500万円の方が自宅を売った場合
次の前提で見てみましょう。
- 給与収入:500万円(他に所得なし)
- マイホームの譲渡価額:5,000万円
- 取得費+譲渡費用:合計1,500万円
- 所有期間10年(長期譲渡所得・税率20.315%)、居住用財産の3,000万円特別控除を適用
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 給与所得(給与収入500万円-給与所得控除144万円) | 3,560,000円 |
| 譲渡益(5,000万円-1,500万円)=特別控除前 | 35,000,000円 |
| 3,000万円特別控除後の課税長期譲渡所得 | 5,000,000円 |
| 譲渡にかかる所得税・復興特別所得税・住民税(20.315%) | 1,015,750円 |
| 合計所得金額(給与所得+特別控除前の譲渡益) | 38,560,000円 |
納める税金は約102万円で済みますが、この方のその年の合計所得金額は3,856万円になります。前年まで356万円だった方が、一気に3,800万円台として判定されます。
ポイント
この年は基礎控除・配偶者控除等・住宅ローン控除がいずれも使えなくなります(基準は次の表のとおり)。ご本人が誰かの扶養親族・控除対象配偶者だった場合も、その年は外れます。買換えで新居のローン控除を予定していた場合は、影響が特に大きくなります。
令和8年分の基礎控除は、合計所得金額655万円超2,350万円以下なら58万円。2,400万円超で32万円、2,450万円超で16万円と減り、2,500万円超で0円になります。
合計所得金額で判定される主な項目
売った年に影響が出やすい項目を表にまとめます。どれも「本人または対象者の合計所得金額」で判定されます。
| 項目 | 判定に使う所得基準 | 売却年に起きやすいこと |
|---|---|---|
| 基礎控除 | 2,400万円超で逓減・2,500万円超で0円 | 控除がまるごと消える |
| 配偶者控除・配偶者特別控除 | 本人の合計所得金額1,000万円以下 | その年だけ適用できなくなる |
| 扶養親族・控除対象配偶者への該当 | 本人の合計所得金額58万円以下(令和7年分から) | 売った本人が家族の扶養から外れる |
| 住宅ローン控除 | 合計所得金額2,000万円以下(特例居住用家屋等は1,000万円以下) | 買換え初年度に控除が受けられない |
| 寡婦控除 | 合計所得金額500万円以下 | その年だけ適用できなくなる |
見落としやすいのが、家族の扶養から外れるケースです。同居のご両親が実家を売ると、扶養に入れていたお子さまの扶養控除が使えなくなることがあります。
国民健康保険料・住民税・後期高齢者医療はどうなるか
保険料は所得税とは考え方が分かれ、自治体ごとに条例で決められています。ネット上の断定的な情報をうのみにせず、必ずお住まいの市区町村にご確認ください。
参考として、長久手市が公表している「国民健康保険税の計算対象となる所得等」のページでは、次のように整理されています。
- 保険税の所得割の計算対象となる土地建物等の譲渡所得(分離課税)は特別控除後の金額
- 保険税の軽減判定では、分離課税の譲渡所得は特別控除前の金額で計算
注意
同じ売却益でも、何を判定するかで特別控除の扱いが変わります。これらは売った年の翌年度に反映されるのが一般的で、住民税や国民健康保険料・介護保険料の通知が届きます。
売る前・売った後にできること
売却の時期を検討する
どの年の売却になるかは、原則として引渡しの日(一定の場合は契約の日)で決まります。年末の売却は、その年の合計所得金額を一気に押し上げます。他の所得や翌年の控除時期と合わせて、売る時期を検討する余地があります。ご家族の扶養関係は年末時点の状況で判定されるため、外れる方がいるなら年末調整の前に把握しておきましょう。
納税・保険料の資金を先に確保する
もっとも実務的で、もっとも効くのがこれです。翌年度の住民税・国民健康保険料の増える分まで見込み、売却代金の一部を分けておいてください。当事務所では、この「翌年に効いてくる金額」まで含めた見通しをお示ししています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 3,000万円特別控除を使って所得税がゼロになりました。それでも扶養から外れますか?
外れる可能性が高いです。合計所得金額は、土地建物の譲渡所得を特別控除前の金額で計算します。税額ゼロと所得ゼロは別の話です。
Q2. 譲渡益が出た年に、私が受けられなくなる控除にはどのようなものがありますか?
本人の合計所得金額を条件とする控除が影響を受けます。基礎控除は2,500万円超でゼロ、住宅ローン控除は2,000万円超(一定の小規模住宅は1,000万円超)で使えません。配偶者控除・寡婦控除等も基準があり、詳しくは本文の表のとおりです。
Q3. 国民健康保険料も同じように上がりますか?
国民健康保険は市区町村の条例で決まり、計算方法が所得税と異なります。多くの自治体で所得割は特別控除後、軽減判定は特別控除前です。お住まいの市区町村にご確認ください。
Q4. 影響が出るのはいつからですか?
所得税は売った年分の確定申告で反映されます。住民税・国民健康保険料などは翌年度に反映されるのが一般的です。売却代金の一部を納税・保険料の資金として取り分けておくことをおすすめします。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。国民健康保険料・後期高齢者医療保険料・介護保険料の算定方法は市区町村の条例により定められており、記載した取扱いはあくまで一自治体の公表例です。実際の取扱いは必ずお住まいの市区町村にご確認ください。所得税についても個別事情によって結論が異なりますので、具体的な事案については必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁 確定申告書等作成コーナー「合計所得金額とは」https://www.keisan.nta.go.jp/r4yokuaru/cat2/cat21/cat21d/cid108.html
- 国税庁 確定申告書等作成コーナー「総所得金額等とは」https://www.keisan.nta.go.jp/r4yokuaru/cat2/cat21/cat21d/cid109.html
- 国税庁タックスアンサー No.3302「マイホームを売ったときの特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm
- 国税庁タックスアンサー No.1199「基礎控除」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1199.htm
- 国税庁タックスアンサー No.1180「扶養控除」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1180.htm
- 国税庁タックスアンサー No.1195「配偶者特別控除」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1195.htm
- 国税庁タックスアンサー No.1211-1「住宅の新築等をし、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1211-1.htm
- 長久手市「国民健康保険税の計算対象となる所得等」(自治体の取扱例)https://www.city.nagakute.lg.jp/soshiki/fukushibu/hokeniryoka/1/kokuho/huka/24743.html
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