この記事の答え
- 売った日は原則、引渡日です。契約の効力が生じた日(一般的に契約日)でも申告できます。
- 年末に契約して翌年に引き渡す人は、どちらの年分で申告するかを選べます。
- 5年の境目をまたぐ例では、利益2,000万円で税額が約386万円変わります(特例なしの目安)。
確定申告は、どの年の分で行いますか

不動産を売ったときの確定申告は、「売った日」が入る年の分として行います。売った日は、原則として、買主に物件を引き渡した日(引渡日)です。申告の期間は、原則として、売った年の翌年2月16日から3月15日までです。
ただし、売主は、売買契約の効力が生じた日を「売った日」として申告することもできます。この日は、一般的には契約を結んだ日です。この記事では「契約日」と呼びます。
選ぶ意味があるのは、年末に契約して、年明けに引き渡す場合のように、2つの日の年が違うときです。
契約の年とは、売買契約の効力が生じた日の年です。申告する年は、代金を全部受け取った年より後には、原則としてなりません。農地の売買など、別の扱いになる場合があります。
引渡しとは、物件を買主が自由に使える状態にすることです。たとえば、所有権を移す登記に必要な書類を買主に渡すことが、これに当たります。
ポイント
引渡日は、契約書に書いた予定日だけでは決まりません。買主が実際に使い始めた時期なども見て判断されます。
また、売った日は原則として、代金を全部受け取った日より後にはなりません。
年をまたぐと、税金はいくら変わりますか

申告する年が変わると、税率が約2倍違うことがあります。不動産を売った利益(譲渡所得)の税率は、売った年の1月1日に何年持っていたかで決まるからです。
5年を超えていれば「長期譲渡所得」で、所得税と住民税などを合わせた税率は20.315%です。5年以下なら「短期譲渡所得」で、税率は39.63%です。どちらの年の1月1日でも5年を超えるかどうかが同じ人に、この税率の差は出ません。
会社員のAさんの例で見てみます。Aさんは、令和3年5月10日に買った土地を売ります。自宅を売るときの3,000万円の特例は使えない前提です。
売買契約は令和8年12月20日、引渡しは令和9年1月15日です。売却の利益は2,000万円とします。
引渡日で申告(原則)
- 申告する年:令和9年分
- 判定の日:令和9年1月1日
- 持っていた期間:約5年8か月
- 区分:長期(税率20.315%)
契約日で申告(選択)
- 申告する年:令和8年分
- 判定の日:令和8年1月1日
- 持っていた期間:約4年8か月
- 区分:短期(税率39.63%)
利益2,000万円に税率を掛けた目安です。特例や所得控除は考えていません。
Aさんは、引渡日で申告すると、契約日で申告するより税額が3,863,000円少なくなります。
ただし、Aさんが引渡しも年内に済ませると、どちらの日でも令和8年分で、短期になります。引渡しの時期は、契約を結ぶ前に買主と話し合うことが大切です。
補足
令和9年分からは、所得税額に掛ける率が変わります。復興特別所得税が2.1%から1.1%になり、防衛特別所得税1%が加わります。合計の税率は同じです。
10年を超えて持っていた自宅を売る場合など、特例で税率が下がることもあります。5年の数え方は、長期と短期の判定の記事で説明しています。
税率のほかに、変わることはありますか

特例の期限、家族の控除、税金を納める時期も変わることがあります。
特例の期限
住まなくなった自宅を売る3,000万円の特例には、売る期限があります。住まなくなった日から3年を経過する日が入る年の、12月31日までです。
年末に契約して翌年に引き渡す人は、選ぶ日によって、この期限に間に合うかが変わることがあります。
相続した空き家を売る特例には、国税庁の事例があります。12月に土地だけの売買契約を結び、翌年2月26日までに売主が家を取り壊す約束をした事例です。
国税庁は、この事例を契約日で申告すると、特例を使えないと回答しています。土地だけを売るときに契約日で申告するなら、契約の時までに取り壊しを終える必要があるからです。翌年2月15日までの取り壊しで足りるのは、家も一緒に売る契約の場合です。
家族の控除
売却の利益は、配偶者控除や扶養控除を使えるかを判定する「合計所得金額」に入ります。3,000万円の特例を使っても、特例を引く前の利益で判定します。
利益が入る年が変わると、控除を使える年も変わることがあります。
税金を納める時期
令和8年分で申告すると、所得税の納付は令和9年3月15日までです。令和9年分なら、令和10年3月15日までです。
どんな失敗がありますか

どちらの日で申告するかは、実際の日付に合わせ、後から変えられないものとして決めます。
失敗の例
- 鍵だけ年明けに渡した例。代金を年内に全部受け取ると、鍵が年明けでも、売った日は原則として年明けになりません。
- 申告の後で年を変えようとした例。契約の年の分で申告した人が、後から引渡しの年の分だと主張しました。国税不服審判所は認めませんでした。
- 土地と建物で日を分けようとする例。1つの契約で売る土地と建物は、どちらも引渡日か、どちらも契約日で申告します。分けて申告することは認められないと、国税不服審判所は判断しています。
どこまで自分で判断できますか
売買契約書で日付を確かめ、5年を超えるかを数えるところまでは、ご自身でできます。次の場合は、個別の判断が必要です。
税理士が入ると変わること
小松公認会計士・税理士事務所では、両方の年の分で税額を計算して比べます。特例の期限と条件は、売買契約書や住民票などの日付で確かめます。
引渡しを年内にするか年明けにするかの試算は、契約の前にお出しします。年末に売却の予定がある方は、日付を決める前にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 手付金だけ年内に受け取ったときは、どの年の分ですか?
手付金を受け取った日では決まりません。原則は引渡しの年の分で、契約の年の分を選ぶこともできます。代金を2年以上に分けて受け取っても、代金の全額が売った年の収入になります。
Q2. 買った日は、どの日で数えますか?
買った日は、原則として引渡しを受けた日です。契約の効力が生じた日で数えることもできます。完成前に契約した新築は、完成より前の日にはなりません。相続や贈与でもらった不動産は、原則として前の持ち主が買った日から数えます。
Q3. 確定申告の期限はいつですか?
売った日が入る年の翌年2月16日から3月15日までです。マイホームの売却損の特例などで還付申告になる人は、2月15日以前でも申告できます。
Q4. 売った人が亡くなったときや、出国するときの期限は?
亡くなったときは、相続人が相続の開始を知った日の翌日から4か月以内に申告します。出国するときは、納税管理人を選任する場合を除き、原則として出国の時までに申告します。
免責事項
本記事は令和8年11月時点の法令・国税庁の公表資料に基づく一般的な解説です。譲渡の日の判定は、個々の契約内容と事実関係によって結論が異なります。記載した計算例は、特例や所得控除を考えないなど、一定の前提を置いた目安です。具体的な事案については税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.3102「譲渡所得の申告期限」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3102.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3211「短期譲渡所得の税額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3211.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3214「土地建物を売ったときの収入金額に含める金額」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3214.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3302「マイホームを売ったときの特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3305「マイホームを売ったときの軽減税率の特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3305.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
- 国税庁タックスアンサー No.1180「扶養控除」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1180.htm
- 国税庁タックスアンサー No.1191「配偶者控除」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1191.htm
- 国税庁 確定申告書等作成コーナー よくある質問「合計所得金額とは」https://www.keisan.nta.go.jp/r7yokuaru/cat2/cat21/cat21d/cid108.html
- 所得税基本通達36-12(山林所得又は譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/05/01.htm
- 所得税基本通達33-9(資産の取得の日)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/04/07.htm
- 国税庁 質疑応答事例「売買契約後に被相続人居住用家屋が取り壊される場合(契約日ベースで申告する場合)」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/joto/18/25.htm
- 国税庁 質疑応答事例「建築完了前の売買契約に基づき取得したマンションの取得時期」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/joto/05/09.htm
- 国税不服審判所 平成4年3月31日裁決(裁決事例集No.43 96頁)https://www.kfs.go.jp/service/JP/43/08/index.html
- 国税不服審判所 平成14年6月13日裁決(裁決事例集No.63 236頁)https://www.kfs.go.jp/service/JP/63/17/index.html
- 国税不服審判所 平成19年11月6日裁決(裁決事例集No.74 66頁)https://www.kfs.go.jp/service/JP/74/06/index.html
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- 所得税法60条・120条・124条〜127条・128条e-Gov法令検索
- 租税特別措置法31条・32条・35条e-Gov法令検索、租税特別措置法施行令20条e-Gov法令検索
- 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法13条(令和8年法律第12号による改正後。同法附則88条1項により令和9年分以後の所得税に適用)e-Gov法令検索
- 我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法5条の5・5条の9(令和8年法律第12号による改正後。令和9年1月1日施行)e-Gov法令検索
- 国民健康保険法施行令29条の7e-Gov法令検索
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