この記事のポイント
- 「売った日」は原則、買主への引渡日です(No.3102)
- 契約の効力発生の日(契約日)を選んで申告することもできます
- 年をまたぐ売却は、申告する年が1年ずれることがあります
- 例:利益2,000万円で短期・長期の税額差は3,863,000円
まず結論:「売った日」は原則、引き渡した日です
申告する年は、代金を受け取った日でなく「いつ売ったか」で決まります。原則は買主への引渡日ですが、契約を結んだ日を選ぶこともできます。
国税庁タックスアンサーNo.3102は次のとおりです。
資産を譲渡した日は、原則として、売買など譲渡契約に基づいて資産を買主などに引き渡した日をいいます
確定申告は翌年2月16日から3月15日まで。還付申告なら2月15日以前でも出せます。
契約の効力発生の日を選ぶこともできます
「売った日」は、引渡日と契約の効力発生の日の2つから選べます。同じNo.3102に、もう一つの取扱いが示されています。
売買契約などの効力発生の日に譲渡があったものとして確定申告することもできます
ポイント
契約の効力発生の日とは、一般的には契約締結日です。同じ年なら結果は同じですが、年をまたぐときに選択が意味を持ちます。
| 基準 | いつの日か | 位置づけ |
|---|---|---|
| 引渡日 | 買主などに引き渡した日 | 原則 |
| 契約の効力発生の日 | 一般的には契約締結の日 | 選択できる |
年末契約・年明け引渡しというスケジュールは、不動産取引では珍しくありません。
申告する年が1年ずれると何が変わるか ― 3つの場面
場面1:長期譲渡か短期譲渡かの判定
税率は持っていた期間で変わり、売った年の1月1日時点で5年超なら長期、5年以下なら短期譲渡所得です(No.3208・No.3211)。
| 区分 | 所得税 | 復興特別所得税 | 住民税 | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| 長期譲渡所得 | 15% | 所得税額の2.1% | 5% | 20.315% |
| 短期譲渡所得 | 30% | 所得税額の2.1% | 9% | 39.63% |
判定日は売った年の1月1日のため、1年ずれると判定結果まで変わることがあります。例で確認します。
- 取得(引渡し):令和3年5月
- 売買契約:令和8年12月20日
- 引渡し:令和9年1月15日
| 選ぶ基準 | 申告する年分 | 判定日 | 所有期間 | 区分 |
|---|---|---|---|---|
| 契約の効力発生の日 | 令和8年分 | 令和8年1月1日 | 4年8か月 | 短期(39.63%) |
| 引渡日(原則) | 令和9年分 | 令和9年1月1日 | 5年8か月 | 長期(20.315%) |
利益2,000万円の場合、税額は次のとおりです。
| 区分 | 税率 | 税額 |
|---|---|---|
| 短期譲渡所得 | 39.63% | 7,926,000円 |
| 長期譲渡所得 | 20.315% | 4,063,000円 |
差額は3,863,000円です(1,000円未満切捨て等の端数処理は省略)。このケースは引渡日を採用し、令和9年分の申告が有利です。
注意
「引渡しが1月にずれたから自動的に長期」でも「12月契約だから令和8年分で確定」でもありません。申告の仕方で年が変わり、知らずに進めると選べたはずの有利な扱いを逃します。
場面2:特例の適用期限
マイホームや相続不動産の特例には、期限つきのものが多くあります。「3年を経過する日の属する年の12月31日まで」のような定めです。年をまたぐ売却では期限に間に合うかが変わるため、契約前に個別にご確認ください。
場面3:その年の合計所得金額
売却の利益は「合計所得金額」に影響し、扶養控除・配偶者控除・住宅ローン控除の判定に使われます。選ぶ年で扶養や保険料の負担が変わるため、世帯全体で判断してください。
選ぶときの実務上の注意
「有利なほうを選ぶ」だけでは足りません
選んだ基準は、契約書や引渡しの事実で裏づける必要があります。契約日なら売買契約書、引渡日なら引渡確認書・鍵の記録などを整理・保管してください。資料と食い違うと、後日の説明が難しくなります。
納税の時期も1年ずれます
申告する年が1年ずれれば納税の時期も1年ずれ、納期限は申告期限と同じ日です。売却代金を使う前に納税分を確保してください。
出国する場合・亡くなった場合の特例
No.3102では、次の特例も示されています。
- 年の途中で出国する場合:納税管理人の届出がなければ、出国の時までに申告書を提出
- 亡くなった場合:相続人が開始を知った日の翌日から4か月以内に申告(準確定申告)
当事務所での進め方
年をまたぐ売却のご相談では、次の順序で検討します。
- ステップ1:契約書で契約日・引渡予定日・代金スケジュールを確認
- ステップ2:買った日から各年での長期・短期を判定
- ステップ3:使える特例の期限と要件を満たす年を検討
- ステップ4:扶養・配偶者控除・保険料への影響を両年で試算
- ステップ5:納税時期と資金を見通し、基準を決定
ポイント
契約を結ぶ前にこの検討を終えることが大切です。引渡日を数週間動かせるかで結論が変わり、契約後は打てる手が限られます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 引渡日と契約日は、毎回どちらでも好きなほうを選んでよいのですか?
原則は引渡日、契約の効力発生の日も選べます(No.3102)。ただし事実関係に基づく選択で、契約書や記録と合っている必要があります。
Q2. 代金を受け取った日は関係ありませんか?
関係ありません。申告する年は売った日で決まります。代金を2年以上に分けて受け取っても、全額がその年の収入になります(国税庁タックスアンサーNo.3214)。
Q3. 所有期間5年の判定は、いつの時点で行いますか?
売った年の1月1日時点です。買った日から5年を超えて持っていても、この時点で5年以下なら短期譲渡所得(39.63%)になります。
Q4. 譲渡所得の確定申告の期限はいつですか?
売った日が入る年の翌年2月16日から3月15日までです。還付申告なら2月15日以前でも可能です。出国時や準確定申告には別の期限があります。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。譲渡の日の判定は個々の契約内容と事実関係によって結論が異なり、記載した計算例も端数処理を省略した簡略なものです。具体的な事案については必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.3102「譲渡所得の申告期限」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3102.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3211「短期譲渡所得の税額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3211.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3214「土地建物を売ったときの収入金額に含める金額」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3214.htm
- 所得税法120条・124条〜127条、所得税基本通達36-12、租税特別措置法31条・32条e-Gov法令検索
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