この記事のポイント
- 基準は「10万円超」が原則。総所得金額等200万円未満の方はその5パーセントが基準です
- 控除は最高200万円。生計を一にする家族の医療費も合算できます
- 控除額30万円で戻る税金は、税率10パーセントの方で約60,629円です
- セルフメディケーション税制とは選択制で併用不可。還付申告は翌年1月1日から5年間できます
医療費控除は「10万円を超えた分」だけではありません
医療費控除の基準は「10万円」だけではありません。所得が低い方は、もっと低い基準を使えます。
医療費控除の計算式
計算式は次のとおりです(国税庁タックスアンサーNo.1120「医療費を支払ったとき(医療費控除)」)。対象はその年の1月1日から12月31日に支払った分です。
医療費控除額 =(実際に支払った医療費の合計額 − 保険金などで補填される金額)− 10万円(※)
※ その年の総所得金額等が200万円未満の方は、10万円ではなく総所得金額等の5パーセントの金額
控除額は最高200万円です。生計を一にする(同じ財布で暮らす)配偶者や親族の医療費も合算できます(所得税法73条)。
総所得金額等が200万円未満なら基準は「5パーセント」
年金やパート収入だけの方は、この5パーセント基準に当てはまることが多くあります。
計算例
例:総所得金額等150万円・年間の医療費12万円
150万円 × 5パーセント = 75,000円(基準額) 12万円 − 75,000円 = 45,000円(控除額)注意
入院給付金や高額療養費を差し引くのは、「その給付の目的になった医療費」からだけです。総額から一律に引くと、控除額が減ってしまいます。
数字で確認:控除額と「戻ってくる金額」は違います
医療費控除は、税金そのものではなく、税金の計算のもとになる所得を減らす仕組みです。
控除額30万円のケース
計算例
前提:支払った医療費50万円・保険金などで補填される金額10万円・総所得金額等500万円(基準は10万円)
50万円 − 10万円 − 10万円 = 30万円(医療費控除額)| 所得税の税率 | 減る所得税(復興特別所得税込み) | 減る住民税(10パーセント) | 合計 |
|---|---|---|---|
| 5パーセント | 15,314円 | 30,000円 | 45,314円 |
| 10パーセント | 30,629円 | 30,000円 | 60,629円 |
| 20パーセント | 61,259円 | 30,000円 | 91,259円 |
| 23パーセント | 70,449円 | 30,000円 | 100,449円 |
※ 所得税は控除額×税率×1.021(復興特別所得税2.1パーセント)。住民税は翌年度の負担が減ります。
控除額30万円で戻るのはおおむね4万5千円〜10万円程度です。
共働き夫婦はどちらが申告すべきか
ポイント
生計を一にしていれば、家族分をまとめてどちらか一方が申告できます。一方の総所得金額等が200万円未満なら5パーセント基準を使えるため、所得の低い方が有利なこともあります。「高い方に寄せる」が常に正解ではありません。
対象になる費用・ならない費用の線引き
対象は「治療のために普通にかかるお金」です。国税庁タックスアンサーNo.1122「医療費控除の対象となる医療費」では、「その病状などに応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額」とされています。
| 対象になるもの | 対象にならないもの |
|---|---|
| 医師・歯科医師の診療・治療の対価 | 健康診断の費用、医師等への謝礼金 |
| 治療に必要な医薬品の購入代(風邪薬など) | ビタミン剤など予防・健康増進のための医薬品 |
| 通院費、入院の部屋代や食事代 | 自家用車で通院したガソリン代や駐車場代 |
| 治療に必要な義手・義足・松葉杖・補聴器・義歯・眼鏡などの購入費 | 治療に関係のないあん摩・マッサージ等 |
通院の交通費は「公共交通機関かどうか」で分かれます
電車やバスの運賃は対象です。領収書が出ないため、通院した日・区間・金額をメモで残してください。タクシー代は原則として対象外ですが、深夜の急病など電車やバスを使えない事情があれば対象になり得ます。
「治療目的か、予防・美容目的か」が判断の軸
健康診断の費用は原則対象外です。ただし、診断で重大な病気が見つかりそのまま治療した場合は、治療に先立つ診察と同じ扱いになる余地があります。同じ支出でも、後の治療につながったかどうかで結論が変わります。迷ったらご相談ください。
セルフメディケーション税制との選び方
市販薬をよく買う方は、セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)を選べる場合があります。
制度の内容
国税庁タックスアンサーNo.1129によると、平成29年1月1日から令和8年12月31日までに対象の市販薬(特定一般用医薬品等)を買った場合、次の金額を控除できます。
控除額 = 特定一般用医薬品等購入費の合計額(保険金などで補填される部分を除く)− 12,000円 ※最高88,000円
購入額が10万円に達すると上限の88,000円です。年間3万円の購入なら、控除額は18,000円です。
適用には「一定の取組」が必要です
その年に次のどれか1つを行っていることが条件です。
- 保険者(健康保険組合・国保等)の健康診査
- 市区町村の健康増進事業の健康診査
- 予防接種
- 勤務先の定期健康診断
- 特定健康診査(メタボ健診)、特定保健指導
- 市町村の健康増進事業のがん検診
取組の費用自体は控除の対象外です。
併用はできません
国税庁は「この特例の適用を受ける場合は、通常の医療費控除を併せて受けることはできません」と明記しています。
| 状況 | 選ぶべき制度 |
|---|---|
| 医療費が10万円(または総所得金額等の5パーセント)を大きく超えた | 通常の医療費控除 |
| 通院はほぼなく、対象の市販薬を年間2万円以上購入 | セルフメディケーション税制 |
| 医療費の合計が12万円前後で、うち市販薬が大半 | 両方で試算し、控除額が大きいほうを選択 |
注意
両方の控除額を計算して、大きいほうを選びます。申告後の変更は原則できません。
手続きと、申告を忘れていた場合の対処
提出するのは「医療費控除の明細書」
確定申告書に「医療費控除の明細書」を付けて提出します。領収書は出しませんが、確定申告期限等から5年間は保存が必要です。
注意
「医療費のお知らせ(医療費通知)」を付ければ記入を省けますが、12月分など反映前の期間、自費診療、市販薬、交通費は載りません。通知だけで済ませると、控除もれが起きます。
過去の申告忘れは5年前までさかのぼれます
国税庁タックスアンサーNo.2030「還付申告」は、「還付申告書は、確定申告期間とは関係なく、その年の翌年1月1日から5年間提出することができます」としています。
令和8年中なら、令和3年分以降の還付申告ができます。過去の入院や手術の領収書を探してみてください。
補足
すでに申告書を出している年分に足す場合は、還付申告ではなく更正の請求(申告のやり直しを税務署に求める手続き)になります(原則として法定申告期限から5年以内)。
よくある質問(FAQ)
Q1. 家族の医療費はどこまで合算できますか?
生計を一にする配偶者やその他の親族の分は合算できます(所得税法73条)。同居は条件ではありません。生計が別の兄弟姉妹の分は対象外です。
Q2. 出産費用や不妊治療の費用は対象になりますか?
妊娠と診断されてからの定期検診・検査や出産の入院費用は対象です。出産育児一時金はその出産の医療費から差し引きます。不妊治療も治療の対価なら対象です。
Q3. 歯科矯正やインプラントは対象になりますか?
判断の軸は「治療のためか、美容のためか」です。お子さんの噛み合わせを直す矯正は対象になり得ますが、見た目のための矯正は対象外です。インプラントも治療に必要な範囲なら対象です。
Q4. 医療費控除を受けるためだけに確定申告をすると、副業の所得も申告が必要になりますか?
はい。「給与以外の所得が20万円以下なら申告不要」は、申告書を出さない場合のルールです。医療費控除のために申告書を出すなら、20万円以下の副業所得も含めます。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・国税庁の公表資料に基づく一般的な解説です。医療費控除の対象範囲は個々の支出の目的や状況によって判断が分かれることがあり、本記事の記載がすべての事案に当てはまるものではありません。具体的な事案については必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.1120「医療費を支払ったとき(医療費控除)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120.htm
- 国税庁タックスアンサー No.1122「医療費控除の対象となる医療費」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1122.htm
- 国税庁タックスアンサー No.1129「特定一般用医薬品等購入費を支払ったとき(セルフメディケーション税制)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1129.htm
- 国税庁タックスアンサー No.2030「還付申告」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2030.htm
- 所得税法73条(医療費控除)、租税特別措置法41条の17(セルフメディケーション税制)e-Gov法令検索
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