この記事のポイント
- 賃貸物件・店舗など事業用の建物を売ると消費税の対象になることがあります
- 土地の売却は非課税、建物の売却は課税。同じ契約でも土地と建物で扱いが分かれます
- 自宅や別荘など生活用の資産を売った場合は消費税はかかりません
- 見落としやすいのは売却の2年後。基準期間の課税売上高が1,000万円を超えると納税義務が生じます
不動産を売ったときの税金は、譲渡所得の所得税だけではありません
賃貸物件・店舗・事務所など、事業に使っていた建物を売ると、所得税・住民税とは別に消費税の対象になることがあります。所得税は「もうけ」に課税されますが、消費税はもうけの有無に関係なく取引そのものに課税されるため、売って損が出ていても対象になり得ます。
消費税の対象になる取引の4つの条件
消費税の対象になるのは、次をすべて満たす取引です。
- 国内において行うものであること
- 事業者が事業として行うものであること
- 対価を得て行うものであること
- 資産の譲渡、資産の貸付け、または役務の提供であること
不動産の売却は「資産の譲渡」に当たるため、あとは「事業者が事業として行ったか」と「非課税取引に当たらないか」の2点が分かれ道です。
土地は非課税、建物は課税――同じ契約でも扱いが分かれます
土地の売却には消費税がかからず、建物の売却にはかかります。ひとつの売買契約でも、土地部分と建物部分は別々に判定します。
非課税とされているのは「土地の譲渡および貸付け」
国税庁タックスアンサーNo.6201「非課税となる取引」は、非課税取引の第一に「土地の譲渡および貸付け」を挙げています。借地権など土地の上にある権利も含まれます(1か月未満の土地の貸付けや駐車場など施設利用に伴う土地の使用は非課税になりません)。
一方、同じ一覧に「住宅の貸付け」はありますが、「住宅の譲渡」はありません。賃貸住宅の家賃に消費税がかからなくても、建物を売る行為は別です。
数字で見る:土地3,000万円・建物2,200万円で売った場合
次の前提で確認します。売買代金の総額5,200万円、契約書上の内訳は土地3,000万円・建物2,200万円(消費税込み)、売主は課税事業者・税率10%とします。
| 区分 | 金額 | 消費税の扱い |
|---|---|---|
| 土地 | 30,000,000円 | 非課税 |
| 建物(税抜) | 20,000,000円 | 課税売上 |
| 建物に係る消費税等 | 2,000,000円 | ― |
消費税の対象になる売上高(税抜)は2,000万円です。土地の3,000万円は含まれません。この2,000万円が「2年後の落とし穴」で効いてきます(内訳がなければ固定資産税評価額の比などで按分。譲渡所得の計算でも同じ論点です)。
「事業として」に当たるか――自宅の売却には消費税はかかりません
同じ建物の売却でも、事業に使っていたか生活のために使っていたかで結論が正反対になります。
個人は「事業者の立場」と「消費者の立場」を持っています
国税庁タックスアンサーNo.6109は、事業者の立場の取引は「事業として」に当たり、消費者の立場の取引は当たらないとしています。
生活用資産の場合
個人事業者が事業用でない自家用車やテレビなどの生活用に使用していた資産を売った場合には、事業として行う取引とはならないため、消費税は課税されません。事業用資産の場合
商品の配達用に使用していたトラックを売ったときのように、事業に使用していた自動車、機械、建物などの事業用資産を売った場合も、事業として行う取引になります。
「建物」がはっきり書かれており、事業に使っていた建物の売却は「事業として行う取引」です。
ケース別の整理
| 売却する建物 | 「事業として」に当たるか | 消費税 |
|---|---|---|
| 自宅(マイホーム)・別荘 | 当たらない | かからない |
| 賃貸アパート・賃貸マンション | 当たる | 課税対象(建物部分) |
| 店舗・事務所・倉庫 | 当たる | 課税対象(建物部分) |
| 自宅兼店舗(併用住宅) | 事業に使っていた部分が当たる | 事業用部分が課税対象 |
ただし「事業として行う取引」でも、売主が免税事業者ならその年の納税は免除されます。国税庁タックスアンサーNo.6931も、免税事業者等が資産を譲渡した場合には消費税等は課税されず、譲渡価額に含まれないとしています。
本当の落とし穴は「売った2年後」にあります
注意
売った年に消費税がかからなくても、2年後に課税事業者になることがあります。知らずに過ごすと思わぬ納税・申告の義務が生じます。
納税義務の判定は「前々年」の課税売上高で行います
納税義務は基準期間(前々年)の課税売上高が1,000万円を超えるかで判定します(国税庁タックスアンサーNo.6501)。先ほどの建物の税抜売却代金2,000万円は、売った年の課税売上高に数えられます。
| 年 | できごと | 消費税の状況 |
|---|---|---|
| 令和8年 | 賃貸アパートを売却(建物税抜2,000万円) | 基準期間(令和6年)が1,000万円以下なら免税事業者。納付なし |
| 令和9年 | ― | 基準期間(令和7年)の課税売上高で判定 |
| 令和10年 | ― | 基準期間(令和8年)が2,000万円超のため課税事業者 |
つまり売った年ではなく2年後の1年間だけ納める側になる現象が起きます。家賃収入だけなら納付額は小さくても申告の義務は生じます。他の課税売上があれば納付額は無視できません。
売った年に課税事業者だった場合の納付額の目安
売った年にすでに課税事業者なら、その年の申告で消費税を納めます。差し引くものがなければ200万円に近づきますが、簡易課税制度なら軽減できます。国税庁タックスアンサーNo.6509は自分で使っていた固定資産の譲渡は第四種事業と明記し、みなし仕入率は60%です。
| 方式 | 計算 | 納付額 |
|---|---|---|
| 本則課税(控除できる課税仕入れがない場合) | 2,000,000円 − 0円 | 2,000,000円 |
| 簡易課税(第四種・みなし仕入率60%) | 2,000,000円 ×(1 − 60%) | 800,000円 |
差は120万円。ただし簡易課税は基準期間の課税売上高が5,000万円以下の年しか使えず、「選択届出書」をその年が始まる前日までに提出します(国税庁タックスアンサーNo.6505)。いったん選ぶと2年間はやめられません。売却の話が出た段階で、その年と2年後の両方の有利な方式を検討してください。売った後では間に合いません。
売却前に確認したい4つのこと
事業用の建物を売る予定がある方は、契約前に次の4点を確認してください。
1. 売却する建物は事業に使っていたか
自宅なら心配は要りません。賃貸・店舗・事務所は次に進みます。自宅兼店舗は事業用部分がどこまでかの判定が必要です。
2. 土地と建物の内訳が契約書に書かれているか
内訳がないと消費税も譲渡所得(建物の減価償却)も確定できません。契約書に内訳を書いてもらうのが確実です。合意できなければ固定資産税評価額の比などで按分します。
3. 売却する年、自分は課税事業者か
基準期間(前々年)の課税売上高で判定します。課税事業者であれば、その年の申告と納付が必要です。
4. 2年後の年について、届出の期限を押さえているか
基準期間の課税売上高が1,000万円を超えると2年後は課税事業者になります。簡易課税を選ぶならその年が始まる前日までに届出が必要です。
ポイント
インボイス関連で免税から課税事業者になった方の2割特例など、負担軽減の仕組みが使える場合もあります。組み合わせは人により違うため売却前にご確認ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 賃貸アパートを売りましたが、家賃収入は年500万円しかありません。消費税はかかりますか?
住宅の家賃は非課税のため納税義務は生じないことが多いです。ただし建物の売却代金は課税売上高に数えられ、2年後の年に納税義務が生じる可能性があります。
Q2. 土地と建物を一括で売り、契約書に内訳が書かれていません。どうなりますか?
消費税がかかるのは建物部分だけのため、合理的に分ける必要があります。譲渡所得の計算でも同じ問題になるため、契約時に内訳を書いておくのが望ましいです。
Q3. 自宅を売った場合も消費税がかかりますか?
かかりません。生活のために使っていた資産の売却は「事業として行う取引」に当たらないためです(国税庁タックスアンサーNo.6109)。自宅や別荘の売却は消費税の対象外です。
Q4. 免税事業者が事業用建物を売った場合、売却代金に消費税相当額は含まれますか?
含まれません。国税庁タックスアンサーNo.6931は、免税事業者等が資産を譲渡した場合には消費税等は課税されず、譲渡価額に含まれないとしています。売却代金の全額が譲渡所得の収入金額になります。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・国税庁公表資料に基づく一般的な解説です。消費税の課税関係は、売主が課税事業者かどうか、資産が事業用かどうか、契約書の記載内容によって結論が変わります。具体的な事案については必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.6931「消費税等と譲渡所得」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6931.htm
- 国税庁タックスアンサー No.6201「非課税となる取引」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6201.htm
- 国税庁タックスアンサー No.6109「事業者が事業として行うものとは」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6109.htm
- 国税庁タックスアンサー No.6501「納税義務の免除」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6501.htm
- 国税庁タックスアンサー No.6505「簡易課税制度」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6505.htm
- 国税庁タックスアンサー No.6509「簡易課税制度の事業区分」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6509.htm
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