この記事のポイント
- 事業用資産を買い換えると、譲渡益の8割の課税を先送りできます(原則の課税割合20%)
- 税金が消えるわけではありません。将来の売却時に精算されます
- 令和8年度税制改正で適用期限が令和11年12月31日まで3年延長
- 面積5倍以内・1年以内の事業供用など、要件を1つ落とすと使えません
まず結論:税金が消えるのではなく、先送りになります
事業用の土地や建物を売って、別の事業用資産に買い換えるときに使えるのが「特定の事業用資産の買換えの特例」です。この特例は税金を消す制度ではありません。
国税庁タックスアンサーNo.3405は「譲渡益の一部に対する課税を将来に繰り延べることができます(譲渡益が非課税となるわけではありません。)」と明記しています。「繰り延べる」とは先送りにするという意味です。
原則の課税割合は20パーセント。売った利益の2割だけがいま課税され、残りの8割は課税が繰り延べられます。
補足
本記事は個人の譲渡所得に限定して解説します。法人が買い換えた場合の法人税の取扱いは扱いません。法人でのご検討は個別にご相談ください。
どんな買換えが対象か
あらかじめ定められた組合せに当てはまる買換えだけが対象です。売った資産(譲渡資産)と買った資産(買換資産)がいずれも事業用であり、決められた組合せに当てはまることが出発点です。
「事業用」には事業と呼べる規模に至らない不動産の貸付けも含まれ、実態を見て判断します。
主な要件を一覧で確認します
タックスアンサーNo.3405が挙げる主な要件は次のとおりです。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 事業用であること | 譲渡資産・買換資産のいずれも事業用であること |
| 定められた組合せ | 譲渡資産と買換資産が、定められた組合せに当てはまること |
| 面積は5倍以内 | 買い換える土地の面積が、譲渡した土地の面積の5倍以内であること |
| 1年以内に事業供用 | 買換資産を取得の日から1年以内に事業の用に供すること |
| 取得の時期 | 買換資産は、譲渡した年、その前年中、または譲渡した年の翌年中に取得すること |
| 他の特例との関係 | 他の特例と重ねて使うことはできないこと |
| 所有期間 | 一定の場合に、所有期間が5年を超えていること |
| 手続き | 届出書の提出と、確定申告での書類の添付が必要 |
所有期間の要件は改正で変わることがあるため、最新の国税庁資料で確認してください。
課税割合は一律ではありません
原則の課税割合は20パーセントですが、組合せや地域によって変わります。タックスアンサーNo.3405では次のような例が示されています。
- 原則:課税割合は20パーセント(=譲渡益の8割について課税が繰り延べられます)
- 防衛施設周辺の第二種区域からの譲渡の場合:30パーセント
- 集中地域・非集中地域の間で主たる事務所の資産を移転する場合:10パーセントから40パーセント
課税割合を取り違えると税額の見込みが大きくずれるため、試算の最初に確定させてください。
令和8年度税制改正で何が変わったか
この特例は期限つきの制度です。令和8年度の税制改正で、期限と中身の両方に手が入りました。国税庁の令和8年度税制改正のあらましには、次のように書かれています。
「特定の事業用資産の買換えの場合等の譲渡所得の課税の特例」について、次の措置が講じられた上、その適用期限が令和11年12月31日まで3年延長されました(措法37、37の4)。(注)国内にある長期所有の土地等、建物又は構築物(以下「土地建物等」といいます。)から国内にある一定の土地建物等への買換え(措法37①表三)の場合は、令和11年3月31日まで3年、一定の船齢の日本船舶(建設業及びひき船業の用に供されるものに限ります。)から環境への負荷の低減に資する一定の日本船舶への買換え(措法37①表四)の場合は、令和10年12月31日まで2年の延長とされています。
不動産の買換えの実質的な期限は令和11年3月31日で、年末より早く来る点に注意してください。
市街地再開発事業による買換えは、繰延べ割合が下がりました
買換資産が一定の区域以外の区域で既成市街地等内にある場合、課税の繰延べ割合が60パーセント(改正前80パーセント)に引き下げられました(措法37①表二)。いま課税される部分が増えます。
土地建物等の買換えは、買換資産の範囲が絞られました
国内の長期所有の土地建物等から国内の一定の土地建物等への買換え(措法37①表三)は、買換資産のうち建物(附属設備を含む)および構築物が、特定施設の用に供される建物または特定施設に係る事業の遂行上必要な構築物に限ることとされました。事前に範囲を確認してください。
航空機騒音障害区域の買換えは、譲渡資産の範囲が絞られました
航空機騒音障害区域の内から外への買換えは、防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律第5条第1項の第二種区域内にある土地建物等で、移転の補償等がされる場合の譲渡が、譲渡資産から除外されました。
いつから適用されるのか
航空機騒音障害区域に関する改正は令和8年4月1日から適用されます。そのほかの改正は、譲渡・取得の両方が令和8年4月1日以後の場合に適用されます。売却と購入がこの日をまたぐ案件は、どちらのルールになるか最初に確かめてください。
数値例で見る効果
次の前提で計算した効果を数字で確認します。
- 事業用の土地建物を1億円で売却
- 取得費と譲渡費用の合計が2,000万円
- 1億円で買換資産を取得(譲渡価額の全額を買換えに充てた場合)
- 課税割合は原則の20パーセント、長期譲渡所得の税率20.315パーセント
注意
買換資産の取得価額が譲渡価額を下回る場合は計算が変わります。本例は「譲渡価額の全額を買換えに充てた場合」に限定し、特別控除は考慮していません。
| 項目 | 特例を使わない場合 | 特例を使う場合(課税割合20%) |
|---|---|---|
| 譲渡価額 | 1億円 | 1億円 |
| 取得費+譲渡費用 | 2,000万円 | 2,000万円 |
| 譲渡益 | 8,000万円 | 8,000万円 |
| 課税される譲渡所得 | 8,000万円 | 1,600万円(8,000万円×20%) |
| 税額(20.315%) | 16,252,000円 | 3,250,400円 |
| 差額 | 13,001,600円(この年の納税が軽くなる額) | |
この年の納税額は約1,625万円から約325万円へ。差は約1,300万円です。ただしこの1,300万円は消えたのではありません。課税が繰り延べられた6,400万円の利益は、買い換えた資産を将来売るときに精算されます。
ポイント
繰り延べられた分は、買い換えた資産を将来売るときに精算されます。将来の売却まで見据えた試算は税理士にご確認ください。
見落としやすい5つの注意点
この特例は、要件を1つでも落とすと使えません。実務でとくに注意している点を5つ挙げます。
1. 届出書の提出と、確定申告での書類の添付
届出書の提出と、確定申告での書類の添付が要件です。手続きを踏んでいなければ特例は使えません。早い段階で整理しておきましょう。
2. 買換資産は「取得の日から1年以内」に事業に使うこと
買換資産は取得の日から1年以内に事業の用に供する必要があります。テナント未定や工事の遅れで1年を過ぎると要件を満たせません。取得のタイミングは、事業開始のスケジュールと合わせて決めてください。
3. 土地は「5倍以内」の面積制限があります
買い換える土地の面積は譲渡した土地の面積の5倍以内である必要があります。狭い土地から広い土地への買換えは超えることがあり、超えた分は特例の対象外です。面積は契約前に計算しておいてください。
4. 他の特例と重ねて使うことはできません
この特例は、居住用財産の特別控除や収用等の特別控除など他の特例と重ねて使うことはできません(特別控除の全体像は国税庁タックスアンサーNo.3223)。どれが有利かは比較が必要で、自己判断が難しい点です。
5. 「先送りした分」は将来の売却時に戻ってきます
繰り延べられた税金は、買い換えた資産を将来売るときに精算されます。長く使い続けるなら先送りのメリットを享受できますが、数年後に売るなら効果は限定的です。将来の出口まで含めて判断してください。
事業用資産の買換えの特例について小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 事業用資産の買換えの特例を使うと、税金はゼロになりますか?
ゼロにはなりません。国税庁タックスアンサーNo.3405は「譲渡益の一部に対する課税を将来に繰り延べる」と明記しています。原則の課税割合は20%で、8割は繰り延べられ、将来売るときに精算されます。
Q2. 買換資産は、売った年に取得しなければいけませんか?
売った年に限りません。譲渡した年、その前年中、または翌年中の取得で対象になります(国税庁タックスアンサーNo.3405)。届出書の提出と確定申告での書類添付も要件なので、あわせて確認してください。
Q3. 令和8年度の税制改正で、この特例はいつまで使えることになりましたか?
全体は令和11年12月31日まで3年延長されました(措法37、37の4)。ただし土地建物等の買換えは令和11年3月31日まで、日本船舶の買換えは令和10年12月31日までと、型によって期限が異なります。
Q4. 売った土地より広い土地を買っても、特例は使えますか?
面積に上限があります。買い換える土地の面積は、譲渡した土地の面積の5倍以内であることが要件です(国税庁タックスアンサーNo.3405)。超える部分は対象外なので、契約の前に面積を確認してください。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。引用した国税庁タックスアンサーNo.3405は令和7年4月1日現在の法令等に基づくもの、国税庁「個人の方が株式等や土地・建物等を譲渡した場合の令和8年度税制改正のあらまし」は令和8年3月31日付で公布された所得税法等の一部を改正する法律(令和8年法律第12号)等に基づき令和8年5月1日現在の法令により作成されたものです。本記事は個人の譲渡所得を対象としており、法人税の取扱いは扱っていません。本記事の数値例は、譲渡価額の全額を買換資産の取得に充てた場合を前提に、特別控除を考慮せず、長期譲渡所得の税率(所得税および復興特別所得税15.315パーセント・住民税5パーセント)で計算した目安です。買換えの組合せごとの課税割合の詳細、所有期間の要件の最新の取扱い、繰り延べられた金額の将来の精算に係る具体的な計算方法については、本記事では扱っていません。実際の判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.3405「事業用の資産を買い換えたときの特例」(令和7年4月1日現在法令等)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3405.htm
- 国税庁「個人の方が株式等や土地・建物等を譲渡した場合の令和8年度税制改正のあらまし」(令和8年5月)https://www.nta.go.jp/publication/pamph/joto-sanrin/r08aramashi.pdf
- 国税庁タックスアンサー No.3223「譲渡所得の特別控除の一覧表」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3223.htm
- 租税特別措置法37条・37条の4(特定の事業用資産の買換えの場合等の譲渡所得の課税の特例)https://elaws.e-gov.go.jp/
売買契約を結ぶ前に、使えるかどうかを確かめてください
面積5倍以内、1年以内の事業供用、届出書の提出。この特例は、買ってから気づいても取り返せない要件が並んでいます。しかも令和8年度税制改正で、期限も中身も変わりました。検討の段階でご相談いただければ、使えるかどうかと税額の見込みを整理してお示しします。代表税理士が直接ご対応します。
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