この記事のポイント
- 買換えなどの特例は非課税ではなく課税の繰延べです。先送りされた利益は次に売るときの計算に残ります
- 買い換えた不動産の取得費は前の資産の取得費を引き継いだ金額になります(実際の購入額ではありません)
- 国税庁の3つの計算例:譲渡費用は加算、高く買えば差額を上乗せ、安く買えば割合で圧縮します
- 取得の時期は引き継がれない特例もあり、国税庁が挙げる2つのリストは中身が違います
まず結論:買い換えた不動産の取得費は、前の不動産から引き継ぎます
買換えなどの特例を使って買った不動産を売るとき、取得費は「実際に払った購入額」ではありません。
買換えなどの特例の適用を受けて取得した土地建物の取得費は、その土地建物の実際の取得代金ではなく、先に売った旧資産の取得費を一定の計算により算出したものを、その資産の取得費として引き継ぐことになっています。(国税庁タックスアンサーNo.3273「買換えなどで取得した資産の取得費と取得の時期」)
買換えの特例は税金が消える制度ではないからです。
居住用財産の買換えの特例の適用を受けた場合には、譲渡した居住用財産(旧居住用財産)の譲渡益に対する課税が将来に繰り延べられることとなります(譲渡益が非課税となるわけではありません。)。このため、買い換えた居住用財産に、譲渡した居住用財産の取得価額が引き継がれることとなっています。(国税庁タックスアンサーNo.3362)
譲渡所得 = 譲渡価額 −(取得費 + 譲渡費用)− 特別控除
取得費が小さいほど譲渡所得は大きくなり、特例を使った年に課税されなかった利益は次に売るときの計算に残ります。適用要件や3,000万円特別控除との比較はマイホームの買換え特例と3,000万円控除はどちらが有利?で扱っており、本記事は特例で買った不動産を将来売るときに絞ります。
取得費を引き継ぐ特例として、国税庁は4つを挙げています
国税庁は「主なもの」として次の4つを挙げています。
このように先に売った旧資産の取得費が買い換えた資産に引き継がれることになる買換えなどの特例には、主なものとして次のものがあります。
イ 固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例
ロ 収用交換等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例
ハ 特定の居住用財産の買換え又は交換の場合の譲渡所得の課税の特例
ニ 特定の事業用資産の買換え又は交換の場合の譲渡所得の課税の特例(国税庁タックスアンサーNo.3273)
土地の交換・代替地取得・マイホームや事業用資産の買換え――いずれかに当てはまれば取得費は契約書の金額ではない可能性があります。交換の特例は土地や建物を交換したときの譲渡所得で説明しています。
数字で確かめます:国税庁が示す3つの計算例
国税庁は居住用財産の買換えの特例について3つの計算例を示しています(国税庁タックスアンサーNo.3362)。共通の前提は次のとおりです。
- 売った家の売却額:5,000万円
- 売るためにかかった譲渡費用:100万円
- 売った家の取得価額:3,000万円
いくらの家に買い換えたかで、引き継ぐ取得価額が変わります。
| ケース | 買い換えた家の購入額 | 引き継ぐ取得価額の計算 | 引き継ぐ取得価額 |
|---|---|---|---|
| 例1 売却額と購入額が同じ | 5,000万円 | 3,000万円+100万円 | 3,100万円 |
| 例2 購入額の方が多額 | 6,000万円 | (3,000万円+100万円)+(6,000万円−5,000万円) | 4,100万円 |
| 例3 購入額の方が少額 | 4,000万円 | (3,000万円+100万円)×4,000万円/5,000万円 | 2,480万円 |
譲渡費用は引き継ぐ取得価額に足し、高い家に買い換えれば増えた分(例2は差額1,000万円)を上乗せし、安い家に買い換えれば購入額と売却額の割合で圧縮します(例3は3,100万円の80パーセントで2,480万円)。
引き継いだ金額を、土地と建物に分けます
引き継ぐのは1つの金額ですが土地と建物に分けて計算し、按分の基準は買い換えた家の購入額の内訳です。
| ケース | 購入額の内訳 | 土地に配分される金額 | 建物に配分される金額 |
|---|---|---|---|
| 例1 | 土地3,500万円・建物1,500万円 | 3,100×3,500/5,000=2,170万円 | 3,100×1,500/5,000=930万円 |
| 例2 | 土地4,200万円・建物1,800万円 | 4,100×4,200/6,000=2,870万円 | 4,100×1,800/6,000=1,230万円 |
| 例3 | 土地2,500万円・建物1,500万円 | 2,480×2,500/4,000=1,550万円 | 2,480×1,500/4,000=930万円 |
土地と建物を足すと引き継ぐ取得価額に戻ります(例1は2,170万円+930万円=3,100万円)。按分の分母は、売った家の売却額ではなく、買い換えた家の購入額です。
「引き継ぐ」とは、こういうことです
計算例
例1のケース:実際は5,000万円で購入
取得費に使える金額は3,100万円(差額1,900万円が先送りされた利益) 将来、長期譲渡所得(税率20.315パーセント)で計算すると税額の差は3,859,850円(1円未満切捨て)これは一定の前提を置いた目安にすぎず、実際の税額は売却価額・譲渡費用・使える特例によって変わります。
建物は、さらに償却費相当額を引きます
建物には、もう一段の調整があります。
したがって、将来、買い換えた居住用財産を売却した場合の取得価額は、実際の購入額ではなく、上記のとおり、土地については〇〇万円、建物については〇〇万円から売却時までの償却費相当額を控除した後の価額となります。(国税庁タックスアンサーNo.3362)
建物の取得費は引き継いだ金額から、さらに売却時までの償却費相当額を控除した後の価額です。土地に控除はなく、引き継ぎと償却の二段構えが買換え特例の不動産の特徴です。
取得費は引き継ぐ。では「取得の時期」はどうか
国税庁タックスアンサーNo.3273は、取得費に続けて取得の時期についても書いています。
買換えなどで取得した土地建物については、その取得の時期を、買換えなどのために先に譲渡した旧資産の取得の時期とする特例があります。このように、先に売った旧資産の取得時期が買い換えた資産に引き継がれることになる特例には、主なものとして次のものがあります。
イ 固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例
ロ 収用交換等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例
ハ 特定の交換分合により土地等を取得した場合の課税の特例(国税庁タックスアンサーNo.3273)
並べてみます。
| 特例 | 取得費の引継ぎ | 取得の時期の引継ぎ |
|---|---|---|
| 固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例 | ○ | ○ |
| 収用交換等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例 | ○ | ○ |
| 特定の居住用財産の買換え又は交換の場合の譲渡所得の課税の特例 | ○ | 記載なし |
| 特定の事業用資産の買換え又は交換の場合の譲渡所得の課税の特例 | ○ | 記載なし |
| 特定の交換分合により土地等を取得した場合の課税の特例 | 記載なし | ○ |
取得費の4つのうち、取得の時期にも載っているのは固定資産の交換と収用交換等の代替資産の2つだけです。居住用・事業用資産の買換えは、取得の時期の側には挙げられていません(○は「主なもの」を示します)。
なぜ、この違いに目を向けるのか
不動産の譲渡所得は所有期間で税率が変わるからです。長期譲渡所得20.315パーセント・短期譲渡所得39.63パーセントとおおむね2倍の開きがあり、取得の時期が引き継がれるかで長期・短期の判定が変わることがあります。どの特例を使ったかで結論が変わるため、個別の確認が必要です。
事業用資産の買換えの特例を使った場合
事業用の土地建物も取得費は引き継がれますが、計算方法は居住用と異なり、国税庁は別ページ「事業用資産の買換えの特例を受けて買い換えた資産の取得価額とされる金額の計算」(タックスアンサーNo.3426)で案内しています。特例の内容は事業用資産の買換えの特例とはをご覧ください。賃貸物件は毎年の減価償却の基礎額も確認が必要です。
実務の入口は「何年も前の記録が残っているか」
その不動産を手に入れたとき、どの特例を使ったのかが分かることが前提です。記憶があいまいでも取得費の組み立てには当時の数字が要ります。探していただきたいのは次の資料です。
- 特例を使った年の確定申告書の控え(分離課税の第三表を含む一式)
- 譲渡所得の内訳書(売った不動産の取得価額・譲渡費用が分かります)
- 買換えの特例の適用を受けるために提出した明細書
- 前の不動産と今の不動産の売買契約書・領収書(土地建物の内訳つき)
- 登記事項証明書(取得の日付の確認に使います)
これらが残っていれば取得価額はほぼ復元でき、残っていなくても相手方や登記、金融機関の資料などたどれる道はあります。
ここまではご自身で/ここから先は個別の判断です
ポイント
申告書の控えと売買契約書を探すところまでは、ご自身で進められます。そこから先の計算・按分・判定は資料と過去の申告内容を突き合わせないと決められません。入れ忘れを防ぎ計算できるかを検討するのが私たちの役割です。
買換えの特例と取得費の引継ぎについて小松公認会計士・税理士事務所ができること
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よくある質問(FAQ)
Q1. 買換えの特例を使って5,000万円で買った家を売ります。取得費は5,000万円でよいですか?
いいえ。取得費は実際の購入額でなく、先に売った資産の取得費を引き継いだ金額になります(国税庁タックスアンサーNo.3273)。まずどの特例を使ったか確認してください。
Q2. 引き継いだ取得価額を土地と建物に分けるとき、何の割合で按分しますか?
買い換えた不動産の購入額の内訳(土地と建物の割合)で按分します。分母は売却額でなく購入額です。建物はさらに償却費相当額を控除します。
Q3. 買換えの特例を使うと、取得の時期も前の不動産から引き継ぎますか?
特例により異なります。国税庁タックスアンサーNo.3273が挙げる取得費引継ぎと取得時期引継ぎの一覧は中身が違い、長期・短期の判定に関わるため個別確認が必要です。
Q4. 何十年も前に特例を使いました。当時の申告書が見つかりません。どうすればよいですか?
確定申告書の控えのほか、譲渡所得の内訳書、売買契約書、登記事項証明書などが手がかりになります。まずは手元の資料をお持ちください。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。買換えの特例そのものの適用要件(居住期間・所有期間・売却代金の上限・買換資産の要件など)と、3,000万円の特別控除との有利不利の比較は本記事では扱っていません。事業用資産の買換えの特例における引継ぎ取得価額の具体的な計算(国税庁タックスアンサーNo.3426)、建物の償却費相当額の計算方法、取得の時期の引継ぎを個別の事案に当てはめた長期・短期の判定についても扱っていません。記載の数値例は国税庁タックスアンサーNo.3362が示す前提に基づく目安であり、長期譲渡所得の税率20.315パーセントを用いた税額の差も一定の前提を置いた試算です。実際の税額を保証するものではありません。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁タックスアンサー No.3273「買換えなどで取得した資産の取得費と取得の時期」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3273.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3362「居住用財産の買換えの特例を受けて買い換えた資産の取得価額とされる金額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3362.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3426「事業用資産の買換えの特例を受けて買い換えた資産の取得価額とされる金額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3426.htm
- 所得税法58条、所得税法施行令168条、所得税基本通達58-1の2e-Gov法令検索
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買換えの特例を使った不動産は、売買契約書の金額がそのまま取得費になりません。当時の申告書の控えと明細書があれば、引き継ぐ取得価額と取得の時期を組み立てられます。売却の前でも、すでに売却が済んだあとでも構いません。資料が断片的でも、たどれるところから一緒に整理します。代表税理士が直接ご対応します。
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