この記事のポイント
- 土地を「交換」しただけでお金が動いていなくても、税金の上では売ったものとして扱われます
- 所得税法58条の「固定資産の交換の特例」を使えば、課税を将来に先送りできます
- 要件は6つ。なかでも時価の差が高いほうの20パーセント以内が実務での壁です
- 交換差金(お金)を受け取った場合、その部分は特例の対象外で譲渡所得として課税されます
「交換」でもお金が動かなくても、譲渡所得の対象になります
土地と土地を交換すると「自分の土地を売って、相手の土地を買った」ものとして扱われます。現金を1円も受け取っていなくても譲渡所得の対象です。
親族間の境界整理、隣地との一部交換、共有解消のための持分交換——こうした取引もすべて税金の上では「譲渡」です。資産を手放した時点の値上がり分に課税される仕組みだからです。
注意
交換では現金が入らず、納税資金が手元にありません。それでも課税されると交換自体が成り立たなくなるため、所得税法58条の「固定資産の交換の特例」が設けられています。
固定資産の交換の特例――6つの要件
条件をすべて満たせば譲渡がなかったものとして課税を将来に先送りでき、ひとつでも欠けると使えません。国税庁タックスアンサーNo.3502が挙げる条件は次の6つです(所得税法58条、所得税基本通達58-6)。
- 要件1:交換する資産がいずれも固定資産であること(業者の販売用土地〈棚卸資産〉は対象外)
- 要件2:同じ種類の資産であること(土地と建物の交換は不可。借地権は土地、建物付属設備は建物扱い)
- 要件3:譲渡する資産を1年以上所有していたこと(交換の直前に手に入れた土地は不可)
- 要件4:取得する資産を相手が1年以上所有し、交換のために取得したものでないこと(相手側の事情が条件になる点に注意。登記簿で取得経緯の確認が必要)
- 要件5:取得する資産を、交換直前の用途と同じ用途に使うこと(判断が分かれやすく事前確認が必要)
- 要件6:時価の差が、いずれか高いほうの価額の20パーセント以内であること
20パーセントの壁――数字で確認する
交換する2つの資産の時価の差が高いほうの20パーセントを1円でも超えると、特例は一切使えません。
判定の考え方
Aさんが譲渡する土地の時価3,000万円、Bさんが譲渡する土地の時価2,600万円。差額400万円は、BさんがAさんに現金(交換差金)で支払います。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 時価の差額 | 4,000,000円 |
| 高いほうの時価(3,000万円)の20% | 6,000,000円 |
| 判定 | 4,000,000円 ≦ 6,000,000円 → 要件を満たす |
この場合は特例を使えます。相手の土地が2,300万円なら差額700万円が20パーセント(600万円)を超え、3,000万円全体が通常どおり課税されます。交換の条件は契約を結ぶ前に検討してください。
交換差金を受け取ったときの計算
交換差金(時価の差を埋めるお金)は特例の対象外で、譲渡所得として課税されます。国税庁タックスアンサーNo.3502も「交換差金は譲渡所得として課税対象になる」と明記しています。
数字で見る:交換差金400万円を受け取った場合
Aさんのケースに取得費900万円・譲渡費用100万円・所有期間10年(長期譲渡所得・税率20.315%=所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)を加えます。課税は交換差金400万円の部分だけで、対応する取得費・譲渡費用は「交換差金 ÷ 譲渡した資産の時価」で按分します。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 収入金額(交換差金) | ― | 4,000,000円 |
| 按分割合 | 400万円 ÷ 3,000万円 | 13.33…% |
| 対応する取得費・譲渡費用 | (900万円+100万円)× 13.33…% | 1,333,333円 |
| 譲渡所得 | 400万円 − 1,333,333円 | 2,666,667円 |
| 所得税・住民税(20.315%) | ― | 541,733円 |
特例を使わなかった場合との比較
特例を使えなければ、収入金額は譲渡した土地の時価3,000万円の全額になります。
| 項目 | 特例を適用した場合 | 特例を適用できない場合 |
|---|---|---|
| 収入金額 | 4,000,000円 | 30,000,000円 |
| 譲渡所得 | 2,666,667円 | 20,000,000円 |
| 所得税・住民税 | 541,733円 | 4,063,000円 |
差は約352万円です。特例を使えない場合、手元に入る現金は交換差金の400万円だけで、納税額が受け取った現金に迫る事態も起こり得ます。
特例を使うときに押さえておきたいこと
注意
非課税ではなく「課税の繰延べ」です。受け取った資産を後で売るとき改めて税金の計算が必要で、「特例を使えば将来も課税されない」という理解は誤りです。いつ・いくらで取得したかを交換時点で記録してください。
確定申告をしないと適用を受けられません
確定申告書に決められた事項を書いて出す必要があります。「税額が出ないから申告不要」と見送ると特例が受けられなくなるおそれがあるため、交換した年分の申告は必ず行ってください。
時価の把握が出発点です
20パーセントの判定も交換差金の計算も時価が前提です。「等価交換」と合意しただけでは説明できません。不動産鑑定評価・公示価格・路線価からの試算・取引事例など根拠を残すことが要点です。
他の特例との関係も確認してください
マイホームや収用に伴う交換では、別の特例も検討対象になります。有利判定は税額だけでなく将来の売却予定でも変わり、重ねて使えない特別控除もあるため、選ぶ前に全体像を確認してください。
よくある質問(FAQ)
Q1. お金を一切受け取っていないのに、なぜ税金がかかるのですか?
資産を手放した時点の値上がり分に課税される仕組みだからです。お金でなくても時価に見合う資産を受け取れば「譲渡があった」ものとして扱われます。納税資金がない状態での課税を避けるため、交換の特例が設けられています。
Q2. 交換の特例を使うと、税金は完全になくなりますか?
いいえ。税金をなくす制度ではなく将来に先送りする制度です。交換時点では課税されませんが、資産を後で売るとき、いつ・いくらで取得したかを個別に確認してください。
Q3. 交換する土地の時価は、どうやって決めればよいですか?
時価の把握が出発点です。「時価の差が高いほうの20パーセント以内」という条件があるためです。実務では不動産鑑定評価・公示価格・路線価からの試算・取引事例などを組み合わせて検討し、当事者の合意だけの金額は後日妥当性を問われることがあります。
Q4. 交換の特例を使う場合、確定申告は必要ですか?
必要です。確定申告書に必要な事項を書き、決められた書類を添えて出すことが条件です。「税金がかからないから申告不要」と考えると、特例が受けられなくなるおそれがあります。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・国税庁公表資料に基づく一般的な解説です。交換の特例は要件が多く、資産の種類・用途・時価の評価によって適用の可否が変わります。また、取得した資産のその後の取扱いについても個別の確認が必要です。具体的な事案については必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.3502「土地建物の交換をしたときの特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3502.htm
- 所得税法58条(固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例)、所得税基本通達58-6e-Gov法令検索
- 国税庁タックスアンサー No.3252「取得費となるもの」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3252.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3223「譲渡所得の特別控除の種類」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3223.htm
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