この記事のポイント
- 節税の手順は①経費適正計上→②青色申告特別控除→③所得控除→④資産取得です
- 65万円の青色申告特別控除には期限内申告とe-Tax等の要件があります(No.2072)
- 申告が1日遅れれば、65万円の控除は10万円になります
- 小規模企業共済やiDeCoの掛金は所得控除であり、事業の必要経費ではありません
まず結論:節税は「順番」で決まります
節税の打ち手には正しい順番があります。後ろの手ほど、前の手が正しくできていないと効果が出ないか小さくなります。
個人事業主からよくある相談は「何を買えば節税になるか」ですが、実際に効果が大きいのはもっと手前の工程です。
| 順番 | やること | 効くしくみ |
|---|---|---|
| ① | 経費の適正計上 | 事業所得そのものを正しく小さくする。②③④すべての土台になります |
| ② | 青色申告特別控除 | 最大65万円。要件を満たせば支出をともなわずに所得を減らせます |
| ③ | 所得控除 | 小規模企業共済・iDeCo・保険料控除など。支出はともないますが将来に残ります |
| ④ | 資産の取得 | 少額減価償却資産の特例など。支出が先に出ていきます |
ポイント
④から始めると、現金が減る割に税額はさほど減りません。まずは①と②を固めるのが順序です。
ステップ1:経費の適正計上
適正計上とは、入れられるものを入れ忘れないことと、入れられないものを入れないことの両方です。
入れ忘れが多いもの
- 自宅兼事務所の家賃・電気代・通信費のうち、業務に必要な部分(家事按分)
- クレジットカードで払った少額の経費(紙の領収書がないもの)
- 年をまたいで支払った費用の期間対応
- 事業用の車両・機器の減価償却費
入れてはいけないもの
注意
生活費・家族への小遣い・罰金や、所得控除の対象(国民年金保険料・小規模企業共済の掛金など)は必要経費になりません。誤って経費に入れると、個人事業税や国民健康保険料の計算までずれます。
経費にできない支出は根拠を示してお断りし、代わりの制度をご提案します。後から否認されれば加算税・延滞税がつくためです。
ステップ2:青色申告特別控除(最大65万円)
国税庁タックスアンサーNo.2072によると、65万円の控除には55万円の要件に加えて次のいずれかが必要です。
- 仕訳帳および総勘定元帳について、電子帳簿保存を行っていること
- 所得税の確定申告書、貸借対照表、損益計算書等の提出を、確定申告書の提出期限までにe-Taxを使用して行うこと
55万円の控除の要件は次のとおりです。
- 不動産所得または事業所得を生ずべき事業を営んでいること
- 取引を正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)により記帳していること
- 貸借対照表、損益計算書および所得の金額の計算に関する明細書を確定申告書に添付し、その年の確定申告期限(翌年3月15日)までに提出すること
注意
期限に1日遅れると、65万円は10万円になります。帳簿を正しくつけていても、提出が3月16日になれば控除は10万円になり、住民税・国民健康保険料にも影響します。順番の中でも最優先です。
ステップ3:所得控除
所得控除は必要経費ではなく、所得から差し引く別の枠です。
| 制度 | 性質 |
|---|---|
| 小規模企業共済等掛金控除 | 小規模企業共済・iDeCoの掛金。全額が所得控除ですが、必要経費ではありません |
| 生命保険料控除・地震保険料控除 | 上限があり、支払額の全額が引けるわけではありません |
| 社会保険料控除 | 国民年金・国民健康保険料など。支払った全額 |
| 医療費控除・寄附金控除・雑損控除 | 年末調整では処理できず、確定申告が必要です |
掛金を経費にすると個人事業税や国民健康保険料の計算まで誤ります。
ステップ4:資産の取得
最後は資産の取得です。少額減価償却資産の特例を使えば取得年の必要経費にできますが、2つの限界があります。
- 支出が先に出ます。税額が減る額は支出額に税率を掛けた分にすぎません
- 所得が低い年に経費を寄せても効果は小さくなります。累進税率のため、税率が低い年は減る税額も限られます
資産の取得は今年の節税のためではなく、事業への必要性と翌年以降の所得の見通しで判断します。
やってはいけないこと
税額が短期的に減っても、後から負担になる処理を挙げます。
- 実態のない経費の計上。否認されれば加算税・延滞税がかかり、隠蔽または仮装と認定されれば重加算税の対象になります
- 家族への不相当な給与。青色事業専従者給与は届出と労務の実態が前提です
- 売上の翌年への繰り延べ。計上時期を意図的にずらす処理は、税務調査で最も確認される項目のひとつです
- 帳簿を作らないまま概算で申告すること。青色申告特別控除が使えないだけでなく、必要経費の説明もできなくなります
当事務所が使う言葉は「節税」ではなく「適正申告」です。使える制度を漏れなく使うことが、数年単位でいちばん手元に残ります。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 確定申告が3月15日に間に合わなかった場合、青色申告特別控除はどうなりますか?
その年は65万円も55万円も使えず10万円になります。複式簿記でも期限内申告という共通要件を満たさねば適用されません。
Q2. 小規模企業共済やiDeCoの掛金は、事業の経費に入れてよいですか?
必要経費にはなりません。小規模企業共済等掛金控除という所得控除です。経費に入れると事業所得が過少になります。
Q3. 年末に高額なパソコンを買えば節税になりますか?
支出額に税率を掛けた分だけ税額が減り、支出自体は出ていきます。事業に必要かどうかを先に判断してください。
Q4. 何から手をつければいちばん効果がありますか?
記帳を整えて経費を適正に計上し、期限内にe-Taxで申告して65万円控除を確実に取ることです。支出なしで所得を減らせるため費用対効果が最も高くなります。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。必要経費に算入できるかどうか、家事按分の割合、専従者給与の相当性は、事業の内容や実態によって結論が変わります。また個人事業税・国民健康保険料は地方税法および各市区町村の条例によりますので、本記事では金額を扱っていません。具体的な事案については必ず税理士またはお住まいの市区町村にご確認ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.2072「青色申告特別控除」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2072.htm
- 国税庁タックスアンサー No.2210「必要経費の知識」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2210.htm
- 国税庁タックスアンサー No.1135「小規模企業共済等掛金控除」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1135.htm
- 国税庁タックスアンサー No.2100「減価償却のあらまし」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2100.htm
- 国税庁タックスアンサー No.2075「青色事業専従者給与と事業専従者控除」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2075.htm
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