この記事のポイント
- 借入金の利子は、借入日から使用開始日までの部分が取得費に入ります(所得税基本通達38-8)
- 全く使わずに売ったときは、借入日から売却日までの利子全額が取得費になります
- 公正証書作成費用・抵当権設定登記費用など借入れに通常必要な費用も同じ扱いです
- 賃貸用の資産は、すでに必要経費にした利子を取得費に二重計上できません
まず結論:借り入れた日から「使用開始の日」までの利子は取得費に入ります
不動産を買うために借りたお金の利子は、売ったときの取得費に入ることがあります。
土地、建物などの固定資産の取得のための借入金の利子等のうち、借り入れた日からその固定資産の使用開始の日までの期間に対応する部分の金額については、原則としてその固定資産の取得費に含めます。(国税庁タックスアンサーNo.3264「借入金の利子が取得費になるとき」)
裏を返すと、使い始めたあとの利子は取得費に入りません。分かれ目は「使用開始の日」の一点です。
譲渡所得 = 譲渡価額 −(取得費 + 譲渡費用)− 特別控除
取得費が増えれば譲渡所得は減ります。全体像は測量費・取壊し費用は取得費?譲渡費用?で整理しています。
分かれ目になる「使用開始の日」はいつか
「使用開始の日」は、資産の種類と使い方で決まります。国税庁が示す判定は次のとおりです。
| 資産の種類 | 使用の状況 | 使用開始の日 |
|---|---|---|
| 土地等 | 新たに建物等の敷地として使う土地 | 建物等を居住・事業の用に使用した日 |
| 土地等 | 既に建物等がある土地 | 建物等を居住・事業の用に使用した日 |
| 土地等 | 施設を要しない土地 | 本来の目的で使用を開始した日 |
| 建物・構築物・機械装置 | ― | 本来の目的で使用を開始した日 |
この表には注書きがあります。
- 既に建物等がある土地で、その建物等が土地の取得の日前から使用され、引き続き使用される場合はその土地の取得の日
- 施設を要しない土地・建物・構築物・機械装置も、取得の日前から使用されている場合はその資産の取得の日
もともと自分が使っていた土地や建物をあとから借入金で買い取った場合には、取得費に入る利子はありません(所得税基本通達38-8の2)。多いのは土地を買ってから家を建てる場合で、使用開始日は住み始めた日です(引渡日ではありません)。
数字で確かめます
計算例
例:土地の購入資金3,000万円・年1.5パーセントで借入、住み始めるまで18か月(元本一定・単利の概算)
3,000万円 × 1.5パーセント = 450,000円(1年あたりの利子) 18か月分 = 675,000円(取得費に入れられる金額) 675,000円 × 20.315パーセント = 137,126円(1円未満切捨て・長期譲渡所得の税額の差)実際のローンは元本が減るため、正確な金額は返済予定表から拾います。
全く使わずに売ったときは、売った日までの利子の全額が入ります
買ったあと一度も使わないまま売った場合は、扱いが変わります。
したがって、借入金で購入した土地や建物を全く使用することなく売ったときは、借り入れた日から売った日までの利子の全額が取得費に含まれます。(国税庁タックスアンサーNo.3264)
所得税基本通達38-8も、使用開始の日を「使用しないで譲渡した場合はその譲渡の日」と定めています。別荘用地を買ったまま着工しなかった場合などが当てはまります。
計算例
例:同条件(3,000万円・年1.5パーセント)で一度も使わないまま3年後に売却
36か月分の利子 = 1,350,000円(取得費に入れられる金額) 1,350,000円 × 20.315パーセント = 274,252円(1円未満切捨て・税額の差)この区分は「使ったかどうか」という事実で決まります。住民票の異動や電気・水道の使用開始の記録など、事実を示す資料が要ります。
入れられるのは利子だけではありません
借入れのときに払った手続の費用も見落とされがちです。所得税基本通達38-8は次のとおりです。
固定資産の取得のために資金を借り入れる際に支出する公正証書作成費用、抵当権設定登記費用、借入れの担保として締結した保険契約に基づき支払う保険料その他の費用で当該資金の借入れのために通常必要と認められるものについても、同様とする。(所得税基本通達38-8)
利子と同じ扱いになる、という意味です。公正証書作成費用・抵当権設定登記費用(登録免許税と司法書士報酬)・担保の保険契約の保険料などが対象です。
注書きもあります。借り入れた資金が購入手数料など取得費に算入される費用に充てられた場合、その部分も「取得のために借り入れた資金」に当たります。分割払いで購入代価と利息等が明らかに区分されているときは、その利息等も含みます。
取得後の増改築費用の扱いはリフォーム・増改築の費用は取得費になりますで説明しています。
あわせて押さえておきたい3つの取扱い
1.使用開始後に使わなかった期間があっても、入りません
「空き家にしていた期間の分は取得費になるのでは」と考える方がいますが、通達はこれを否定しています。
……当該固定資産の使用開始があった日後譲渡の日までの間に使用しなかった期間があるときであっても、当該使用開始があった日後譲渡の日までの期間に対応する借入金の利子については当該固定資産の取得費又は取得価額に算入しない。(所得税基本通達38-8の3)
一度でも使い始めたら、そこで区切りです。
2.借換えをしても、引き継いで考えます
固定資産を取得するために要した借入金を借り換えた場合には、借換え前の借入金の額(借換え時までの当該借入金に係る未払利子を含む。)と借換え後の借入金の額とのうちいずれか低い金額は、借換え後もその固定資産の取得資金に充てられたものとして取り扱う。(所得税基本通達38-8の4)
借換え時点の残高2,400万円(未払利子込み)、借換え後2,800万円なら、低い方の2,400万円が引き続き取得資金に充てられたものとして扱われます。
3.一部だけを売ったときは、価額の割合で按分します
借入金により取得した固定資産の一部を譲渡した場合には、当該固定資産のうち譲渡した部分の取得時の価額が当該固定資産の取得時の価額のうちに占める割合を当該借入金の額に乗じて計算した金額を当該譲渡した固定資産の取得のために借り入れたものとして38-8の取扱いを適用する。(所得税基本通達38-8の5)
3,000万円の借入金で買った土地のうち取得時の価額で30パーセントを売ったなら、3,000万円×30パーセント=900万円が売った部分の借入金として扱われます。基準は面積ではなく取得時の価額の割合です。
買換えの場合は別の取扱いがあります
買換えの特例を使って新しい不動産を取得している場合は、別の取扱いがあります。個別にご相談ください。
賃貸用など業務用の不動産は、二重には引けません
賃貸物件のように業務の用に使う資産では、利子は毎年の必要経費になります。
業務を営んでいる方がその業務の用に使用する資産の取得のための借入金の利子は、その業務に係る各種所得の金額の計算上必要経費になります。ただし、その資産の使用開始の日までの期間に対応する部分の金額については、その資産の取得費に含めることができます。(国税庁タックスアンサーNo.3264)
(注)これから業務を開始する方が、開始前に業務用の資産を借入金で取得した場合、開始前の期間に対応する利子は取得費に含めます。
注意
大切なのは二重に引けないという点です。通達38-8は、取得費に算入する利子から「37-27又は37-28により必要経費に算入されたものを除き」と定めています。賃貸物件を売るときは、過去の確定申告書と青色申告決算書でどこまで必要経費に入れていたかを確かめるところから始めます。
残しておきたい資料と、実務での進め方
借入金の利子を取得費に入れるには、「いくら払ったか」と「いつ使い始めたか」の両方を示す必要があります。
- 金銭消費貸借契約書(借入れの日・金額・金利)
- 返済予定表・金融機関の返済明細(利息部分)
- 抵当権設定登記の費用の領収書・司法書士の請求書、公正証書の作成費用の領収書
- 使用開始の日が分かる資料(建物の引渡書、住民票の異動、電気・水道の使用開始の記録など)
- 過去の確定申告書・青色申告決算書(賃貸していた場合)
購入代金の資料が見つからない場合は不動産売却で取得費がわからない?概算取得費5%で損しないための合理的算定法をご覧ください。
ここまではご自身でできること/ここからは個別判断です
契約書と返済予定表を探し、住み始めた日を確かめるところまでは、ご自身で進められます。使用開始の日の判定、借換えや一部譲渡の按分、必要経費に入れた分の除外は資料と過去の申告内容を突き合わせないと決められません。入れ忘れを防ぎ算入の可否を検討するのが私たちの役割です。
借入金の利子と取得費について小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 住宅ローンの利息は、全部を売却時の取得費に入れられますか?
全部ではありません。取得費に入るのは借入日から使用開始日までの部分だけです(国税庁タックスアンサーNo.3264、所得税基本通達38-8)。住み始めた後の利息は対象外です。返済予定表で確かめてください。
Q2. 土地を買ってから家が完成するまでの利息は、どこまでが対象になりますか?
新たに建物を建てる土地では、使用開始の日は建物を居住・事業の用に使用した日です(所得税基本通達38-8の2)。土地の引渡日ではなく、住み始めた日までの利子が対象です。
Q3. 買った土地を一度も使わないまま売りました。利息はどう扱いますか?
全く使用せず売った場合、借入日から売却日までの利子全額が取得費に含まれます(国税庁タックスアンサーNo.3264)。ただし使用していなかった事実の裏づけが必要です。住民票の異動や電気・水道の使用開始記録などを確認します。
Q4. 賃貸マンションのローン利息を毎年必要経費にしています。売却時に取得費にも入れられますか?
二重には引けません。所得税基本通達38-8は、37-27または37-28で必要経費に算入した利子を取得費算入から除くと定めています。過去の確定申告書・青色申告決算書で未算入の部分を確認します。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。住宅ローン控除(租税特別措置法41条)の要件や控除額は本記事の対象外であり、一切扱っていません。買換えをした場合の借入金の利子の取扱い(所得税基本通達38-8の6)、賦払契約で購入した場合の細かな計算、業務用資産の必要経費算入(所得税基本通達37-27、37-28)の具体的な取扱いについても扱っていません。また、書画・骨とうなど不動産以外の資産の取扱いは触れていません。数値例は元本一定・単利と仮定した概算であり、税率20.315パーセント(長期譲渡所得)を前提とした計算上の目安です。実際の利息額は金融機関の返済予定表により、実際の税額を保証するものではありません。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁タックスアンサー No.3264「借入金の利子が取得費になるとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3264.htm
- 国税庁「所得税基本通達 第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》関係」(38-8、38-8の2〜38-8の5)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/05/18.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3252「取得費となるもの」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3252.htm
- 所得税法33条、38条e-Gov法令検索
返済予定表を一度ご覧に入れてください
借入金の利子は、金銭消費貸借契約書と返済予定表があれば、どこまでを取得費に積めるかを確かめられます。売買契約の前でも、すでに売却が済んだあとでも構いません。使い始めた日の記憶があいまいでも、資料から一緒に組み立てます。代表税理士が直接ご対応します。
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