この記事のポイント
- 増改築・リフォームの費用は設備費・改良費として取得費に入れる対象です(No.3252)
- 建物は所有期間中の減価償却費相当額を差し引いた金額が取得費です(No.3261)
- 賃貸期間の必要経費で処理済みの工事費は取得費に入れられません(No.3252)
- 入れ忘れを防ぐ鍵は工事請負契約書・請求書・通帳記録などの資料です
まず結論:リフォーム代は「設備費・改良費」として取得費に入ります
不動産を持っている間に行った増改築・リフォームの費用は、取得費に含めて検討する対象です。売却時の税金計算から外れるものではありません。
実務では、この費用が抜け落ちたまま申告される例をよく見かけます。買ったときの契約書は保管していても、途中の工事書類は捨ててしまう方が多いためです。
売った利益(譲渡所得)は、次の式で計算します。
譲渡所得 = 譲渡価額 −(取得費 + 譲渡費用)− 特別控除
取得費が小さいほど利益は大きく計算され、納める税金も増えます。工事の資料を捨てることが、そのまま税額の差につながります。
補足
この記事が扱う範囲
保有期間中の増改築・リフォーム費用に絞って解説します。購入時の仲介手数料・登記費用・不動産取得税などは測量費・取壊し費用は取得費?譲渡費用?不動産売却でかかった費用の線引きをご覧ください。
取得費に入るのは購入代金だけではありません
「取得費」というと買ったときの値段だけを思い浮かべがちですが、国税庁の説明はもっと広いものです。
国税庁タックスアンサーNo.3252「取得費となるもの」では、譲渡所得は売った金額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算するとし、取得費には購入代金・建築代金・購入手数料のほか、設備費や改良費なども含まれます。
「設備費」「改良費」とは何を指すのか
買ったあとに手を入れた分、と考えると分かりやすくなります。実際には、次のような支出をされている方がほとんどです。
- 部屋を増やす増築工事
- 台所・浴室・洗面所の水まわり全面改装
- 間取りを変える大規模リノベーション
- 外壁・屋根の工事、断熱・耐震のための工事
- 建物と一体で設置した設備の新設
- 擁壁工事・駐車場新設などの外構工事
これらは購入代金には含まれていません。購入代金だけで計算すると、手を入れた分がまるごと抜け落ちます。
なぜ入れ忘れが起きるのか
理由は3つです。買ってから売るまで20年、30年と経ち書類が残っていない、リフォーム工事は見積書・請求書・領収書がばらばらで一式になっていない、そもそも取得費に入るという発想がない――という3点です。だからこそ、売却が決まった段階で過去の工事をひとつずつ棚卸しする作業が必要になります。
ただし建物は減価償却費相当額を差し引きます
建物にかかる部分は、支払った金額がそのまま取得費になるわけではありません。
国税庁タックスアンサーNo.3252は、建物の取得費は購入代金または建築代金などの合計額から、所有期間中の減価償却費相当額を差し引いた金額としています。増改築の費用も建物にかかるものですから、同じ考え方が及びます。
非業務用建物の計算のしかた
自宅など非業務用建物の減価償却費相当額は、国税庁タックスアンサーNo.3261「建物の取得費の計算」に算式が示されています。
建物の取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数 = 減価償却費相当額
この算式には、次の決まりがあります。
| 項目 | 内容(国税庁タックスアンサーNo.3261) |
|---|---|
| 使う償却率 | その建物の耐用年数の1.5倍の年数に対応する旧定額法の償却率を用います |
| 経過年数の端数 | 6か月以上の端数は1年とし、6か月未満の端数は切り捨てます |
| 上限 | 減価償却費相当額は、建物の取得価額の95パーセントが限度です |
構造ごとの償却率は、国税庁タックスアンサーNo.3261の表でご確認ください。
この決まりが意味すること
注意
500万円の工事をしても、500万円がそのまま取得費に足されるわけではありません。それでも資料を残す意味は変わりません。資料がなければ計算の出発点に立てないからです。
なお土地の造成や外構など土地にかかる部分は減価償却の対象になりません。建物と土地の内訳が分かれているかも確認したいポイントです。
「価値を高めたもの」と「元に戻しただけのもの」
同じ「リフォーム」でも、価値を高めた工事か、元の状態に戻しただけの工事かで扱いが変わります。この区別が考え方の出発点です。
所得税の必要経費における考え方
参考になる基準に国税庁タックスアンサーNo.1379「修繕費とならないものの判定」があります。ただしこの基準は所得税の事業所得・不動産所得の必要経費に関するもので、譲渡所得の取得費の判定にそのまま当てはまるものではありません。
No.1379は、資産の使用可能期間を延長させ、または価額を増加させる部分に対応する金額は資本的支出となり、減価償却により必要経費に算入するとしています。そのうえで、次のいずれかに該当する場合は修繕費として必要経費に算入できるとしています。
| 区分 | 内容(国税庁タックスアンサーNo.1379) |
|---|---|
| 周期・金額による判定 | おおむね3年以内の期間を周期として行われる修理、改良などであるとき、または一つの修理、改良などの金額が20万円未満のとき |
| 区分が明らかでない場合 | 一つの修理、改良などの金額のうちに資本的支出か修繕費か明らかでない金額がある場合で、その金額が60万円未満のとき、またはその資産の前年末の取得価額のおおむね10パーセント相当額以下であるとき |
工事の中身をイメージで整理すると
数字の基準だけでは実際の工事にあてはめにくいため、次のイメージで整理してください。
| 性格 | 工事のイメージ | 考え方 |
|---|---|---|
| 価値を高めた・使える期間を延ばした | 増築、間取り変更、水まわり全面入替え、耐震補強、設備の新設 | 設備費・改良費として取得費に入れられるかを検討する対象になります |
| 元の状態に戻しただけ | 傷んだ部分の補修、ガラス交換、通常の塗り替え、部品の取替え | 維持管理の色合いが強く、取得費として説明しにくい面があります |
| どちらとも言い切れない | 外壁・屋根の工事、断熱工事、大規模な設備更新 | 工事の内容と規模を確認し、個別に判断する必要があります |
ポイント
判断するのは「工事名」ではなく「工事の中身」です。請求書の「リフォーム工事一式」だけでは判断できません。見積書の明細や仕様書、工事前後の写真が判断材料になります。
賃貸に出していた期間がある場合の注意
見落とされやすいのが、売った不動産を過去に人に貸していた時期があるケースです。
国税庁タックスアンサーNo.3252は、取得費に含まれるものについて「事業所得などの必要経費に算入されたものを除き」としています。すでに必要経費として処理したものを、あらためて取得費に入れることはできません。同じ支出を二度差し引くことはできないという考え方です。
過去の申告内容を確認する
賃貸期間があれば、工事費は不動産所得の計算ですでに処理されている可能性があります。処理のしかたは次の3つに分かれます。
- 修繕費として必要経費に入れた――差し引き済みのため取得費には入れられません
- 資本的支出として資産計上し減価償却してきた――未償却残額の扱いを個別に確認します
- 自宅期間の工事でどちらにも入れていない――設備費・改良費として取得費に入れられるか検討します
この仕分けには過去の確定申告書と青色申告決算書(または収支内訳書)が必要です。減価償却資産の明細で、どの工事を資産に計上したかが分かります。
自宅と賃貸が入り混じっている場合
「はじめ自宅、途中から賃貸」という物件も多くあります。工事をした時期が自宅期間か賃貸期間かをまず確認し、時期が分かればどちらの扱いか整理できます。手がかりは日付入りの契約書や請求書です。
数字で見る:500万円のリフォームを入れ忘れたら
入れ忘れがどれくらいの差になるか、長期譲渡所得のケースで見てみましょう。
国税庁タックスアンサーNo.3208「長期譲渡所得の税額の計算」によれば、譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年を超える土地や建物が長期譲渡所得です。課税長期譲渡所得金額は、譲渡価額から取得費・譲渡費用・特別控除額を差し引いて計算します。
税額は課税長期譲渡所得金額の15パーセントに、住民税5パーセント、復興特別所得税として基準所得税額の2.1パーセントが加わります。ここで500万円のリフォーム費用を入れ忘れると、課税長期譲渡所得金額が500万円多く計算されます。
| 税目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 所得税 | 5,000,000円 × 15パーセント | 750,000円 |
| 復興特別所得税 | 750,000円 × 2.1パーセント | 15,750円 |
| 住民税 | 5,000,000円 × 5パーセント | 250,000円 |
| 合計 | 5,000,000円 × 20.315パーセント | 1,015,750円 |
補足
上記は500万円を全額取得費に算入できた場合の最大の影響です。実際は建物の減価償却費相当額を差し引くため、税額の差はこれより小さくなります。
それでも無視できる金額ではありません。工事の資料が残っているかどうかで、申告の内容は変わります。だからこそ入れ忘れを防ぐことに意味があります。
いちばん大事なのは資料です
制度の理屈をどれだけ理解しても、支出した事実と金額を示す資料がなければ計算に入れることはできません。逆に資料さえ揃えば道は開けます。
「20年前の工事だから無理」とあきらめるのはまだ早く、手がかりは思っているより多く残っています。
探す場所をひとつずつ確認していきます
ご自宅の書類棚から、外部への照会まで順番に見ていきましょう。
| 資料 | 何が分かるか/どこを探すか |
|---|---|
| 工事請負契約書 | 時期・内容・金額がまとまって分かる最も強い資料です |
| 見積書・仕様書 | 工事の中身が分かる資料です |
| 請求書・領収書 | 金額と支払日が分かります |
| 工事代金の振込記録が残る通帳 | 契約書がなくても支払いの事実を示せます |
| リフォームローンの契約書・返済記録 | 借入時期と金額から工事の時期・規模を推定できます |
| 確認申請・検査済証 | 建築確認を要する増築なら、申請記録が時期・規模を裏づけます |
| 登記簿(登記事項証明書)の床面積 | 床面積の変動時期は、増築時期を示す客観的な記録です |
| 施工業者への照会 | 営業を続けていれば、過去の工事記録が残っている場合があります |
| 工事前後の写真 | アルバム等に写り込んだ様子が、内容・時期を示す補助資料になります |
資料が部分的にしか残っていないとき
全部が揃うことはむしろ稀です。領収書がなくても通帳の振込記録、契約書がなくてもローンの返済記録があれば、複数の資料を組み合わせて事実を裏づけられます。振込先と金額、借入時期、床面積の変動――ひとつずつは弱くても重ねれば説明材料になります。
当事務所では断片的な資料をお預かりし、どこまで根拠づけて取得費に算入できるかを検討します。税額が下がるという理由だけで数字を作ることはせず、説明できる形に整えることが目的です。
ポイント
これから工事をされる方へ
工事請負契約書・見積書・請求書・領収書を1つのファイルにまとめ、売買契約書と同じ場所で保管してください。振込記録が残る通帳も一緒に残すと、将来の売却で効いてきます。
よくある失敗
実際のご相談で多いパターンです。
失敗1:工事が終わったあとで領収書を捨ててしまった
最も多いパターンです。支払い後に不要と考えて処分し、数年後の売却で必要だったと気づきます。通帳の振込履歴があれば支払った事実を示せます。
失敗2:親の代の工事を確認していない
相続した不動産では、被相続人が行った工事の情報が引き継がれていないことがあります。亡くなった方の工事も取得費の検討対象です。ご実家の書類棚や古い通帳を確認し、ご家族への聞き取りも手がかりになります。
失敗3:リフォームローンだけが残っていて工事内容が分からない
返済記録はあっても工事内容が分からないケースです。施工業者への照会、建築確認の記録、登記簿の床面積の変動など別角度からの裏づけを探します。
失敗4:賃貸期間中の修繕費と混同している
賃貸期間に必要経費として処理済みの工事を、取得費にも入れてしまうケースです。同じ支出は二度差し引けません。過去の申告書・決算書で処理内容を整理し、判断が難しければ専門家にご相談ください。
失敗5:買った値段が分からないからと、工事費まであきらめてしまう
購入時の資料がなく「もう差し引けない」と考えるパターンです。取得費が分からないときの扱いは別の論点です。詳しくは不動産売却で取得費がわからない?概算取得費5%で損しないための合理的算定法をご覧ください。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 20年前に行ったリフォームの費用も取得費に入れられますか?
国税庁タックスアンサーNo.3252では設備費・改良費も取得費に含まれ、年数の区切りはありません。ただし支出の事実と金額を示す資料が必要です。建物は減価償却費相当額を差し引きます。
Q2. リフォーム代500万円を、そのまま取得費に足してよいですか?
いいえ。建物にかかる部分は所有期間中の減価償却費相当額を差し引いた金額が取得費になります(国税庁タックスアンサーNo.3252)。実際に計算に入れられる金額は500万円より小さくなります。
Q3. 壊れた給湯器を取り替えた費用は取得費に入りますか?
一概には言えません。国税庁タックスアンサーNo.1379は使用可能期間の延長・価額増加分を資本的支出とする基準ですが、これは所得税の必要経費の判定基準で、譲渡所得の取得費には個別判断が必要です。
Q4. 賃貸に出していた期間に行った工事の費用はどうなりますか?
不動産所得の必要経費として処理済みのものは取得費に入れられません(国税庁タックスアンサーNo.3252)。過去の確定申告書・決算書で、必要経費・資本的支出・未処理のいずれかを仕分けます。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。引用した国税庁タックスアンサーNo.3252、No.3261、No.1379およびNo.3208は、いずれも令和7年4月1日現在の法令等に基づくものです。非業務用建物の構造ごとの償却率の数値、増改築部分の耐用年数の判定、および取得費が分からない場合の概算取得費の要件については、本記事では扱っていません。また、国税庁タックスアンサーNo.1379は所得税のうち事業所得および不動産所得の必要経費の判定基準であり、譲渡所得の取得費の判定にそのまま当てはまるものではありません。本記事の数値例は、500万円を全額そのまま取得費に算入できた場合の目安であり、実際には建物にかかる部分について所有期間中の減価償却費相当額を差し引くため、税額の差はこれより小さくなります。取得費に算入できるかどうかは、工事の内容および残されている資料によって判断が分かれます。実際の判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.3252「取得費となるもの」(令和7年4月1日現在法令等)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3252.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3261「建物の取得費の計算」(令和7年4月1日現在法令等)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3261.htm
- 国税庁タックスアンサー No.1379「修繕費とならないものの判定」(令和7年4月1日現在法令等)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1379.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」(令和7年4月1日現在法令等)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm
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