この記事のポイント
- RSUは株を受け取れることが確定した時点(譲渡制限の解除時)で給与課税されます
- 外国親会社から直接付与された分は年末調整されず、ご自身で確定申告が必要です
- 最多の誤りは売却時の取得費をゼロにすること。給与課税された金額が取得費です
- 本記事の設例では、この1点の誤りで税額が914,175円変わりました
まず結論:なぜRSU・ストックオプションで申告漏れが起きるのか
給与として課税されるのに、給与明細にも源泉徴収票にも載らないことがあるからです。「年末調整が済んでいるから大丈夫」と思い込みやすいのはこのためです。
「支払者」が勤務先ではない
外資系企業やグローバルIT企業では、株式報酬を出すのが日本の勤務先ではなく海外の親会社であることが少なくありません。年末調整に含まれず源泉徴収票にも反映されないため、「年末調整が終わっているから申告不要」と思い込むのが典型的な入口です。
会社側からは税務署に情報が届いている
ただし「申告していない=知られていない」ではありません。国内の会社には「外国親会社等が国内の役員等に供与等をした経済的利益に関する調書」を翌年4月30日までに税務署へ提出する義務があり、株式報酬を受け取った事実は会社側のルートで伝わります。最初から適正に申告するほうが確実に有利です。

論点1:課税されるタイミングを取り違える
株式報酬は「いつ課税されるか」が制度ごとに違い、ここを誤ると申告する年分自体を間違えます。
RSU(譲渡制限付株式ユニット)は権利確定時に給与所得
RSUは一定期間働くことなどを条件に後日株式を受け取れる権利で、譲渡制限が解除された日(一般にベスティング日)の株価分の利益が給与所得になります。株式を売っていなくても課税されるため、納税資金を別途用意する必要があります。
ストックオプションは「税制適格」か「税制非適格」かで分かれる
国税庁「ストックオプションに対する課税(Q&A)」は次のように整理しています。
| 区分 | 付与時 | 権利行使時(株式取得時) | 株式売却時 |
|---|---|---|---|
| 税制非適格 ストックオプション | 課税なし | 給与所得 (行使時の株価−権利行使価額) | 株式譲渡益課税 (売却価額−行使時の株価) |
| 税制適格 ストックオプション (措法29条の2) | 課税なし | 課税なし (課税が繰り延べられる) | 株式譲渡益課税 (売却価額−権利行使価額等) |
権利行使価額1,000円、権利行使時の株価4,000円、売却時の株価5,000円、1,000株のケースで比べます。
| 項目 | 税制非適格 | 税制適格 |
|---|---|---|
| 権利行使時の給与所得 | 3,000,000円 | —(課税なし) |
| 売却時の譲渡所得 | 1,000,000円 | 4,000,000円 |
| 課税される所得の合計 | 4,000,000円 | 4,000,000円 |
合計所得は同じでも、非適格は給与として総合課税(税率が上がる)、適格は譲渡所得として申告分離課税(一律税率)です。非適格は売る前の年に課税される点も異なります。
税制適格の主な要件(権利行使価額の年間限度)
税制適格には租税特別措置法29条の2の要件をすべて満たす必要があり、実務で問題になりやすいのが権利行使価額の年間合計額1,200万円以下という要件です。
令和6年度税制改正で、発行会社設立からの期間が
- 5年未満なら権利行使価額を2で除した金額で判定
- 5年以上20年未満(発行会社が非上場等の要件を満たす場合)なら3で除した金額で判定
とされました(令和6年分以後の所得税に適用)。外国親会社が世界共通で付与するプランは、日本の要件を満たさず税制非適格として扱われるケースが大半です。「適格だと思い込んで申告しない」誤りは避けてください。

論点2:売却時の取得費をゼロにしてしまう(最も損が大きい誤り)
給与として課税された金額が、その株式の「取得費」(買った値段にあたる金額)になります。
「タダでもらった株だから取得費は0円」は誤り
RSUの株式は自分で買ったものではないため、取得費を0円として申告してしまう方がいますが、これは同じ利益に2回課税されることを意味します。国税庁の質疑応答事例「特定譲渡制限付株式に係る譲渡制限期間中の取得費の計算」でも、給与課税された時の価額が取得費となるとされています。
数字で見る:取得費を誤ると税額はいくら変わるか
次の前提で比較します。
- RSU 200株が権利確定。確定日の株価は1株150ドル、その日の円換算レートは1ドル150円
- 同じ年のうちに全株を売却。売却時の株価は1株170ドル、その日の円換算レートは1ドル155円
- 売却手数料等は考慮しない前提とします
権利確定時の給与所得の収入金額は、200株×150ドル×150円=4,500,000円です。売却による収入金額は、200株×170ドル×155円=5,270,000円となります。
| 項目 | 正しい申告 (取得費4,500,000円) | 誤った申告 (取得費0円) |
|---|---|---|
| 譲渡所得 | 770,000円 | 5,270,000円 |
| 所得税(15%) | 115,500円 | 790,500円 |
| 復興特別所得税(2.1%) | 2,425円 | 16,600円 |
| 住民税(5%) | 38,500円 | 263,500円 |
| 合計 | 156,425円 | 1,070,600円 |
注意
差額は914,175円です。本来不要な税金を払うだけの状態で、税金を多く払う方向の誤りのため税務署からの指摘は期待できません。自分で気づくしかない論点です。
証券会社の年間取引報告書だけを信じない
海外の証券口座では取得費を自動計算した年間取引報告書は交付されません。国内証券会社に移した場合も取得費が正しく引き継がれるとは限らず、権利確定日ごとの株数・株価・為替レートはご自身での記録が必要です。

論点3:円換算のレートを取り違える
外貨建ての株式報酬は円に換算して申告します。国税庁の入力例でも電信売買相場の仲値(TTM)換算額を入力するとされています。
3つの場面で、それぞれ違う日のレートを使う
| 場面 | 使うレート | 金額 |
|---|---|---|
| 給与所得の収入金額 | 権利確定日(または権利行使日)のTTM | その日の株価×株数 |
| 譲渡収入金額 | 売却日のTTM | 売却価額 |
| 取得費 | 権利確定日(または権利行使日)のTTM | 給与課税された金額 |
特に間違えやすいのが3行目です。取得費は売った日のレートではなく給与課税された時の円建て金額です。売却日のレートで計算し直すと、為替の分だけ譲渡所得がずれます。
ドル建てで損でも、円建てで利益が出ることがある
1株150ドルから170ドルへ値上がりしても、1ドル150円から155円への円安が重なれば円建てでも利益が出ます。逆に円高が進めば円建てでは損失になり得ます。日本の所得税は円建てで計算します。「ドルベースでは儲かっていない」は通用しません。
申告に向けて準備しておくもの

次の資料が揃っていると、ご相談の進行が早くなります。
- 付与通知書(Grant Notice)・プラン規約
- 権利確定(ベスティング)の履歴が分かる画面のコピーまたは明細(日付・株数・株価)
- 売却履歴(日付・株数・売却価額・手数料)
- 勤務先の源泉徴収票(株式報酬が支払金額に含まれているかの確認用)
- 海外で源泉徴収されている場合は、その金額が分かる資料
どこまでご自身でできて、どこからが専門判断か
権利確定日と株数の記録整理はご自身でも進められますが、税制適格の判定・給与所得と譲渡所得の切り分け・海外課税の取扱いは専門領域です。誤ると二重課税や後日の指摘につながります。
ポイント
株式報酬は源泉徴収されていないことが多く、確定申告時にまとまった納税額が一度に発生します。売却代金を使い切る前に、納税額の見込みを早めに把握しておきましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 株を売っていないのに税金がかかるのですか?
RSUはかかります。譲渡制限解除時点の株価分の利益が給与所得として課税されるため、売却代金がなくても納税資金の確保が必要です。
Q2. 勤務先が源泉徴収してくれている場合も確定申告は必要ですか?
年末調整に含まれる分は申告不要です。外国親会社から直接付与された分は年末調整に含まれないのが一般的なので、源泉徴収票の支払金額を必ず確認してください。
Q3. 税制適格か税制非適格かは、どこで分かりますか?
契約書・付与通知書と発行会社の案内で確認します。税制適格は租税特別措置法29条の2の要件(権利行使価額の年間合計額1,200万円以下等)を満たすものに限られ、外国親会社のプランは税制非適格が一般的です。
Q4. 過去の年分を申告していないことに気づきました。どうすればよいですか?
できるだけ早く期限後申告をしてください。無申告加算税は自主的な期限後申告なら原則5パーセントです。詳しくは確定申告をしていないとどうなる?無申告加算税・延滞税と期限後申告の進め方をご覧ください。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・国税庁公表資料に基づく一般的な解説です。株式報酬の制度設計は会社ごとに異なり、税制適格か非適格か、どの時点で課税されるかは個別の契約内容によって結論が変わります。また、海外で課税を受けている場合の取扱いは居住形態や租税条約によっても異なります。具体的な事案については必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁「ストックオプションに対する課税(Q&A)」(令和5年5月・最終改訂 令和6年11月)https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/241130/index.htm
- 国税庁タックスアンサー No.1543「税制非適格ストック・オプションに係る課税関係について」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1543.htm
- 国税庁タックスアンサー No.1540「ストック・オプション税制の適用を受けて取得した株式を譲渡した場合」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1540.htm
- 国税庁 質疑応答事例「特定譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)に係る譲渡制限期間中の取得費の計算」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/joto/22/10.htm
- 国税庁 確定申告書等作成コーナー「外貨建てのストックオプションなどの収入の入力例」https://www.keisan.nta.go.jp/r7yokuaru_sp/socat1/scid1355.html
- 国税庁「F1-43 外国親会社等が国内の役員等に供与等をした経済的利益に関する調書(同合計表)」https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hotei/1255.htm
- 租税特別措置法29条の2(特定の取締役等が受ける新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等)e-Gov法令検索
- 国税庁タックスアンサー No.2024「確定申告を忘れたとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2024.htm
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