この記事のポイント
- 農地の譲渡所得も計算方法は他の不動産と同じです(国税庁タックスアンサーNo.3208)
- 農地法3条・5条の許可が必要な農地等は、選べる年分の基準日が「契約締結日」になります
- 許可前に契約解除なら、解除日の翌日から2か月以内に更正の請求ができます
- 特別控除(800万円・1,500万円・2,000万円)は「誰に買い取られたか」で決まります
まず結論:計算は他の不動産と同じ。違うのは「いつの年分か」です
農地を売ったときの譲渡所得は、宅地やマンションを売ったときと同じ式で計算します。国税庁の計算式は次のとおりです。
課税長期譲渡所得金額=譲渡価額(収入金額)-(取得費+譲渡費用)-特別控除額
税額=課税長期譲渡所得金額×15%(住民税5%)(国税庁タックスアンサーNo.3208「長期譲渡所得の税額の計算」)
長期譲渡所得は、譲渡した年の1月1日現在で所有期間が5年を超える土地・建物の譲渡所得です。平成25年から令和19年までは、復興特別所得税として基準所得税額の2.1パーセントも申告・納付します。
ここまでは農地も同じです。農地で実務がつまずくのは、次の3点です。
- どの年分の申告になるのか…農地法の許可が必要な農地等は取扱いが異なります
- 取得費がわからない…先祖代々の農地は取得額の記録がないことがほとんどです
- 特別控除が使えるのか…条件は「いくらで売ったか」ではありません
農地法の許可そのものの要否・手続は、その農地がある市町村の農業委員会にご確認ください。本記事では扱いません。
農地でいちばん大きい論点は「どの年分の申告になるか」
不動産を売ったとき、いつの年分の申告に入れるかを「収入すべき時期」といいます。国税庁の通達は次のとおりです。
山林所得又は譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、山林所得又は譲渡所得の基因となる資産の引渡しがあった日によるものとする。ただし、納税者の選択により、当該資産の譲渡に関する契約の効力発生の日(農地法第3条第1項《農地又は採草放牧地の権利移動の制限》若しくは第5条第1項本文《農地又は採草放牧地の転用のための権利移動の制限》の規定による許可(同条第4項の規定により許可があったものとみなされる協議の成立を含む。以下同じ。)を受けなければならない農地若しくは採草放牧地(以下この項においてこれらを「農地等」という。)の譲渡又は同条第1項第6号の規定による届出をしてする農地等の譲渡については、当該農地等の譲渡に関する契約が締結された日)により総収入金額に算入して申告があったときは、これを認める。(所得税基本通達36-12)
長い一文を表に分けます。
| 売った資産 | 原則 | 納税者の選択により認められる日 |
|---|---|---|
| ふつうの土地・建物 | 引渡しがあった日 | 契約の効力発生の日 |
| 農地法3条1項・5条1項本文の許可を受けなければならない農地等/5条1項6号の届出をしてする農地等 | 引渡しがあった日 | 契約が締結された日 |
「契約の効力発生の日」と「契約が締結された日」は別のものです
ふつうの不動産で選べるのは「契約の効力発生の日」ですが、許可が必要な農地等では、選べるのが「契約が締結された日」に置き換わります。
契約後に許可を待ち、決済・引渡しとなる順序では、年をまたぐと、どちらの日で申告するかで年分そのものが変わります。その年の他の譲渡や特別控除の枠にも影響します。
なお通達の注1は、収入すべき時期は原則として譲渡代金の決済を了した日より後にはならないとしています。引渡しの日を遅らせれば先に延ばせる、というものではありません。
ふつうの不動産で引渡日と契約日のどちらを選ぶかという考え方は、不動産売却の確定申告はどの年分?引渡日と契約日は選べますで整理しています。農地等では、選べる日がここで説明したとおり置き換わります。
許可が下りる前に契約が解除されたら ― 更正の請求ができます
許可を受ける前に話が流れてしまった場合、契約が締結された日で申告していた分はどうなるのか。通達は注書きではっきり示しています。
農地等の譲渡について、農地法第3条又は第5条に規定する許可を受ける前又は届出前に当該農地等の譲渡に関する契約が解除された場合(再売買と認められるものを除く。)には、通則法第23条第2項の規定により、当該契約が解除された日の翌日から2月以内に更正の請求をすることができることに留意する。(所得税基本通達36-12 注2)
注意
払いすぎた税金を返してもらう手続が「更正の請求」です。期限は「解除された日の翌日から2か月以内」と短めです。買い戻した実質があれば「再売買と認められるもの」として対象外です。農地の売買が途中で止まったときは、その時点でご相談ください。
先祖代々の農地は、取得費がわからないのがふつうです
祖父の代、あるいはもっと前から持っている農地では、いくらで取得したのかを示す資料が残っていないことがほとんどです。この場合には、次の取扱いがあります。
土地や建物の取得費が分からなかったり、実際の取得費が譲渡価額の5パーセントよりも少ないときは、譲渡価額の5パーセントを取得費(概算取得費)とすることができます。(国税庁タックスアンサーNo.3208)
ただし、概算取得費は譲渡価額の5パーセントしか引けないため、売った金額のほぼ全額が譲渡所得になり、税負担は重くなります。
まず「本当に資料がないのか」を確かめてから、概算取得費に落とす。この順番が大切です。探し方と、実際の取得費を根拠づけて算入できるかの検討は、不動産売却で取得費がわからない?概算取得費5%で損しないための合理的算定法で詳しく解説しています。
特別控除は「いくらで売ったか」ではなく「誰に買い取られたか」で決まります
譲渡所得の特別控除は7種類。公共事業等の5,000万円、マイホームの3,000万円、特定土地区画整理事業等の2,000万円、特定住宅地造成事業等の1,500万円、平成21年・22年取得の国内土地の1,000万円、農地保有の合理化等の800万円、低未利用土地等の100万円です。
農地に関係するのは主に800万円・1,500万円・2,000万円の3つ。大事なのは金額ではなく、どういう相手に買い取られた場合かです。
| 控除額 | 根拠 | どんな場合か(条文に挙げられている例) |
|---|---|---|
| 800万円 | 租税特別措置法34条の3 | 農業振興地域の整備に関する法律23条に規定する勧告に係る協議、調停又はあっせんにより譲渡した場合、農用地区域内にある土地等を農用地利用集積等促進計画の定めるところにより譲渡した場合など |
| 1,500万円 | 租税特別措置法34条の2 | 地方公共団体などが行う住宅の建設又は宅地の造成を目的とする事業の用に供するために買い取られる場合、公有地の拡大の推進に関する法律6条1項の協議に基づき地方公共団体・土地開発公社等に買い取られる場合など |
| 2,000万円 | 租税特別措置法34条 | 国・地方公共団体などが行う土地区画整理事業等の用に供するために買い取られる場合、農業経営基盤強化促進法の一定の区域内にある農用地が申出に基づき農地中間管理機構に買い取られる場合など |
ご自身で買主を探して売った場合には使えません
条文が並べているのは、どの制度に基づき誰に買い取られたかです。ご自身で話をつけて売った場合は当てはまりません。自治体や農地中間管理機構などから話が来て売却した場合は対象になる可能性があります。どの手続の中での売却かを、書面で確かめる必要があります。
枠の使い方には全体の上限もあります
ポイント
特別控除額は特例ごとの譲渡益が限度で、その年の譲渡益全体で合計5,000万円が限度です。5,000万円までは控除額の大きい特例から順に適用します。
同じ年に複数の土地を売る予定があるなら、この上限と順序が効いてきます。詳しくは譲渡所得の特別控除は7種類 同じ年に使えるのは合計5,000万円までですをご覧ください。
数字で見ると、800万円控除の有無で1,625,200円の差になります
相続で受け継いだ農地を2,000万円で売ったとします。譲渡費用は60万円、取得費は資料がなく概算取得費(5パーセント)の100万円。長期譲渡所得として税率は所得税15パーセント・住民税5パーセント、復興特別所得税は2.1パーセントです。譲渡所得の金額は2,000万円 −(100万円 + 60万円)= 1,840万円です。
| 項目 | 800万円を控除できた場合 | 控除できなかった場合 |
|---|---|---|
| 譲渡価額 | 20,000,000円 | 20,000,000円 |
| 概算取得費(5パーセント) | 1,000,000円 | 1,000,000円 |
| 譲渡費用 | 600,000円 | 600,000円 |
| 譲渡所得の金額 | 18,400,000円 | 18,400,000円 |
| 特別控除額 | 8,000,000円 | 0円 |
| 課税長期譲渡所得金額 | 10,400,000円 | 18,400,000円 |
| 所得税(15パーセント) | 1,560,000円 | 2,760,000円 |
| 復興特別所得税(所得税額の2.1パーセント) | 32,760円 | 57,960円 |
| 住民税(5パーセント) | 520,000円 | 920,000円 |
| 税額の合計 | 2,112,760円 | 3,737,960円 |
差は1,625,200円です。この差は「売り方」で決まります。同じ2,000万円で売っても、どの制度に基づき誰に買い取られたかが違えば結論は変わります。買主と条件を詰める前に確かめておくことに意味があります。
この数値例は控除の有無による違いを示す目安であり、実際の税額計算ではありません。譲渡価額・取得費・譲渡費用・所有期間、適用できる特例で結論は変わります。
控除を使うには、申告書への記載と証明書類の添付が必要です
800万円の特別控除の手続要件は次のとおりです。
第一項の規定は、同項の規定の適用を受けようとする年分の確定申告書に、同項の規定の適用を受けようとする旨の記載があり、かつ、同項の規定に該当する旨を証する書類として財務省令で定めるものの添付がある場合に限り、適用する。(租税特別措置法34条の3第3項)
2,000万円の特別控除も同じ考え方で、確定申告書への記載に加えて、買取りをする者から交付を受けた「買取りがあったことを証する書類」その他の財務省令で定める書類の添付が求められています(租税特別措置法34条4項)。
ポイント
証明書類は買い取った相手から受け取るものです。売買後に気づくと取り寄せに時間がかかるため、決済時に何を交付してもらうか事前に確認してください。
そのほか、条文上の注意点
- 800万円の特別控除は、租税特別措置法37条又は37条の4の適用を受ける場合は対象から外れます
- 2,000万円の特別控除は、買取りが二以上の年にわたるとき最初の年分にしか適用されません。分割売却で枠を何度も使える制度ではありません
売る前に確かめておきたいこと
- 農地法3条1項・5条1項本文の許可を受けなければならない農地等か(要否は農業委員会にご確認ください)
- 契約締結日・許可日・引渡日・代金決済日はそれぞれいつか。年をまたいでいないか
- 取得時の資料は本当にないか。譲渡費用の領収書はそろっているか
- 誰から話が来て誰に買い取られる売却か。同じ年に他の土地・建物を売る予定はないか
どの控除が使えるか、どちらの年分が妥当かは、契約書・許可書類・証明書類を並べて見なければ決まりません。売買契約前、遅くとも決済前にご相談いただければ、選択肢を自分で狭めずに済みます。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 農地の売買契約を年末に結び、農地法の許可と引渡しは翌年になりました。どちらの年分で申告するのですか?
原則は引渡日です。ただし選択により、許可が必要な農地等は「契約締結日」で申告することも認められます(所得税基本通達36-12)。特別控除の使い方にも関わるため、書類をそろえてご相談ください。
Q2. ふつうの不動産では「契約日」を選べると聞きました。農地も同じですか?
選べる日が違います。ふつうの土地・建物は「契約の効力発生の日」ですが、許可が必要な農地等では「契約が締結された日」になります(所得税基本通達36-12)。日付の前後関係は書面で確かめる必要があります。
Q3. 農地を売ったのだから、800万円の特別控除は使えますよね?
農地というだけでは決まりません。800万円の控除(租税特別措置法34条の3)は農業振興地域整備法23条の協議などが対象で、誰にどの制度で買い取られたかで決まります。ご自身で買主を探した売却には当てはまりません。
Q4. 農地の売買契約を結んで申告もしましたが、許可が下りる前に契約が解除されました。納めた税金はどうなりますか?
更正の請求ができます(所得税基本通達36-12 注2)。期限は解除された日の翌日から2か月以内です。買い戻した実質であれば「再売買と認められるもの」として対象外です。契約が止まった時点でご連絡ください。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。引用した所得税基本通達36-12は山林所得又は譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期を定めたもの、国税庁タックスアンサーNo.3223は譲渡所得の特別控除の種類を、No.3208は長期譲渡所得の税額の計算を説明したものです。本記事は、農地等を譲渡した場合の収入すべき時期の取扱い、許可前に契約が解除された場合の更正の請求、概算取得費、農地に関係する特別控除の枠組みと申告手続の要件だけを扱っています。農地法3条・5条の許可や届出の要否・要件・手続の細目、農業委員会での進め方については扱っていません。これらは農業委員会にご確認ください。また、800万円・1,500万円・2,000万円の各特別控除について、条文が「政令で定める場合」等としている部分の細目、財務省令で定める添付書類の具体的な名称、短期譲渡所得の税率、譲渡損失が生じた場合の取扱い、相続税に関する事項、農地を転用した場合の取扱い、買換えの特例との有利不利の比較についても扱っていません。本記事の数値例は、特別控除の有無による違いを示すために一定の前提を置いた目安であり、個別の税額を計算したものではありません。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 所得税基本通達 36-12(山林所得又は譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/05/01.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.3223「譲渡所得の特別控除の種類」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3223.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm
- e-Gov法令検索 租税特別措置法(第34条・第34条の2・第34条の3 譲渡所得の特別控除)https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
農地の売却は、契約の前にご相談ください
農地は、どの年分の申告になるか、どの特別控除が使えるかが、契約の結び方と買い取る相手で変わります。売買契約を結んだあとでは動かせない部分があります。お話をお伺いし、契約書・許可の書類・買取りの証明書類をもとに、申告する年分と使える控除を整理してお伝えします。代表税理士が直接ご対応します。
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