この記事のポイント
- 年末調整は勤務先が1年分の所得税を精算する手続、確定申告はご自身が税務署に対して行う手続です
- 医療費控除・寄附金控除・雑損控除の3つは年末調整では受けられません。適用を受けるには確定申告が必要です
- 住宅ローン控除は最初の年だけ確定申告で、2年目以後は年末調整で受けられます
- 年末調整で控除証明書を出し忘れても、その年の翌年1月1日から5年間は還付申告で取り戻せます
まず結論:年末調整と確定申告は「誰がやるか」が違います
年末調整は勤務先がやってくれる税金の精算、確定申告はご自身が税務署に行う手続きです。目的は「その年の正しい所得税額を確定させること」です。
会社員の給与は毎月概算で源泉徴収されるため、1年の終わりに精算する必要があります。これを勤務先が代行するのが年末調整です。
年末調整の対象となる人・ならない人
国税庁タックスアンサーNo.2665によると、年末調整の対象は1年を通じて勤務する人等です。ただし給与総額が2,000万円を超える人等は除かれます。
年の途中で退職した方も原則対象外ですが、非居住者となった人・死亡退職・重い障害での退職・12月給与受給後の退職、給与総額123万円以下での退職などは例外です。
年の途中で退職し、そのまま年を越した方はご自身で確定申告をしないと精算が終わりません。税金が引かれすぎたままのケースが多く、申告すると還付になることが少なくありません。
年末調整でできること
国税庁タックスアンサーNo.2662「年末調整のしかた」によれば、年末調整は次の順序で行われます。
- 給与所得控除後の金額を求める
- 所得控除額を差し引き、税率を適用する
- (該当する場合)住宅ローン控除額を差し引く
- 復興特別所得税を加算し、源泉徴収済み税額との差額を還付・徴収する
申告書の提出で、扶養控除・配偶者控除・基礎控除・生命保険料控除・地震保険料控除・社会保険料控除・障害者控除・ひとり親控除・寡婦控除・勤労学生控除などが年末調整に反映されます。ここで完結する方は確定申告の必要がありません。
年末調整では受けられない3つの控除
医療費控除・寄附金控除・雑損控除の3つは、年末調整では処理できません。受けるにはご自身で確定申告が必要です。
1. 医療費控除
医療費控除には「医療費控除の明細書」の添付が必要です(国税庁タックスアンサーNo.1120)。領収書は確定申告期限の翌日から5年間保管してください。
2. 寄附金控除
ふるさと納税を含む寄附金控除も年末調整では処理できません(国税庁タックスアンサーNo.1150)。ワンストップ特例を使えますが、確定申告をすると無効になります。医療費控除で確定申告する年は、ふるさと納税分も忘れず含めてください。
3. 雑損控除
災害・盗難・横領による損害の雑損控除も確定申告が必要です(国税庁タックスアンサーNo.1110)。引ききれない分は翌年以後3年間繰り越せます(申告の継続が必要)。
ポイント
年末調整で処理できるのは「勤務先が金額を確認できる控除」です。医療費・寄附・災害はご本人しか把握できないため、ご自身で申告する仕組みになっています。
住宅ローン控除は「最初の年だけ」例外です
住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)は上の3つと扱いが違います。国税庁タックスアンサーNo.1213は次のように述べています。
給与所得者は、控除を受ける最初の年分については確定申告書を提出する必要がありますが、2年目以後の年分は、年末調整でこの特別控除の適用を受けることができます
入居した翌年に一度だけ確定申告すれば、以後は年末調整で処理できます。「毎年必要」と誤解して1年目を後回しにしないでください。
年末調整をしても確定申告が必要になる人
年末調整を受けていても、次に当てはまる方は確定申告が必要です(国税庁タックスアンサーNo.1900)。
- 給与の年間収入金額が2,000万円を超える人
- 1か所から給与を受け、給与所得・退職所得以外の所得合計が20万円を超える人
- 2か所以上から給与を受けている人で、一定の要件に当てはまる人
- 同族会社の役員等で、その会社から利子・賃貸料等を受け取っている人
- 災害減免法により源泉徴収の猶予などを受けている人
- 源泉徴収義務のない者から給与等の支払を受けている人
「20万円」は誤解が多い項目です。所得、つまり収入から必要経費を引いた後の金額で判定します。住民税の申告要否は別途判断が必要です。
数字で見る:医療費控除を追加するといくら戻るか
年末調整が済んでいる会社員が、医療費控除30万円を確定申告で追加した場合を計算します。
計算例
前提:給与収入600万円のケース
社会保険料控除90万円・基礎控除68万円(合計所得336万円超489万円以下・令和7年分および令和8年分)のみ| 項目 | 年末調整まで | 医療費控除30万円を追加 |
|---|---|---|
| 給与所得(給与収入−給与所得控除1,640,000円) | 4,360,000円 | 4,360,000円 |
| 所得控除の合計 | 1,580,000円 | 1,880,000円 |
| 課税所得金額 | 2,780,000円 | 2,480,000円 |
| 所得税額 | 180,500円 | 150,500円 |
| 所得税および復興特別所得税 | 184,200円 | 153,600円 |
差額30,600円が還付されます。控除額そのものでなく、控除額に税率を掛けた金額が戻る点に注意してください。翌年度の住民税でも同じ控除が使われ、負担が軽くなります。
出し忘れたときは、5年さかのぼれます
「生命保険料の控除証明書を出し忘れた」「医療費の集計が間に合わなかった」という場合でも、あきらめる必要はありません。
国税庁タックスアンサーNo.2030によると、還付申告はその年の翌年1月1日から5年間提出でき、年途中の退職・多額の医療費・特定の寄附・災害や盗難の損害などが対象です。
還付申告は2月16日を待たず、翌年1月1日以後いつでも提出できます。混雑を避けたい方は1月中の提出が実務的です。
当事務所の進め方
ステップ1:源泉徴収票の確認
源泉徴収票で反映済みの控除を確認します。二重計上の誤りは実際に起こります。
ステップ2:未処理の控除の洗い出し
医療費・寄附・災害・住宅ローン控除初年度・複数勤務先の合算・副業所得を確認し、還付と追加納付の両方を洗い出します。
ステップ3:過去年分の確認
還付申告の期間内なら過去の年分も取り戻せます。過去5年分の源泉徴収票があれば、その場で見当がつきます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 年末調整をしていれば確定申告はしなくてよいのですか?
多くの会社員は年末調整で完了し不要です。給与収入2,000万円超、他の所得合計20万円超、医療費控除・寄附金控除・雑損控除の適用、住宅ローン控除の最初の年は確定申告が必要です。
Q2. ふるさと納税のワンストップ特例を申請済みですが、医療費控除のために確定申告をします。どうなりますか?
確定申告をするとワンストップ特例の申請は無効になります。確定申告書にふるさと納税分の寄附金控除も忘れずに含めてください。
Q3. 年末調整で生命保険料の控除証明書を出し忘れました。もう間に合いませんか?
還付申告で控除を受けられます。原則その年の翌年1月1日から5年間提出でき、確定申告期間(2月16日から3月15日)を待つ必要はありません。
Q4. 住宅ローン控除は毎年確定申告が必要ですか?
最初の年分は確定申告が必要ですが、2年目以後は年末調整で適用を受けられます。入居翌年に必ず申告してください。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。年末調整の対象となるかどうか、確定申告が必要かどうかは個別の事情によって異なります。また、住民税の申告の要否および住民税の計算方法は本記事では扱っていません。具体的な事案については必ず税理士またはお住まいの市区町村にご確認ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.2662「年末調整のしかた」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2662.htm
- 国税庁タックスアンサー No.2665「年末調整の対象となる人」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2665.htm
- 国税庁タックスアンサー No.1900「給与所得者で確定申告が必要な人」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1900.htm
- 国税庁タックスアンサー No.2030「還付申告」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2030.htm
- 国税庁タックスアンサー No.1120「医療費を支払ったとき(医療費控除)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120.htm
- 国税庁タックスアンサー No.1150「一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1150.htm
- 国税庁タックスアンサー No.1110「災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1110.htm
- 国税庁タックスアンサー No.1213「住宅を新築又は新築住宅を取得した場合(住宅借入金等特別控除)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1213.htm
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年末調整で終わらせてよいか、確認します
医療費・ふるさと納税・住宅ローンの初年度など、年末調整では処理できない控除が残っていないかを一緒に確認します。過去の年分についても、還付申告の期間内であれば取り戻せる可能性があります。源泉徴収票をお手元にご用意のうえ、まずは無料相談をご利用ください。
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