この記事のポイント
- 🔴 不動産などを会社(法人)にタダであげると、「時価で売った」とみなされて所得税がかかります
- 時価の半分未満の安売りも同じく時価で売ったものとして計算されます
- 相続で「限定承認」を選ぶと、4か月以内の準確定申告が必要になります
- 国・自治体への寄付、相続税の物納など課税されない例外もあります
まず結論:「売っていないのに税金」という場面があります
譲渡所得税は売って利益が出たときの税金ですが、所得税のルールにはお金を受け取っていなくても「売ったことにする」規定があります。「みなし譲渡」です(所得税法59条)。対象は主に次の2つです(国税庁タックスアンサーNo.3105)。
- ① 会社(法人)への贈与・遺贈、時価の半分未満の値段での売却
- ② 相続での限定承認
どちらも時価で売ったものとして所得税が計算されます。現金は1円も入っていないのに、です。
注意
知らずに手続きを進めると、あとから多額の納税通知だけが残ります。登記や相続の「前」に知っておくべきルールです。
パターン①:自分の会社に不動産をあげたとき
「自分の会社だから、タダで移しても問題ない」は誤解です。個人が法人に財産をタダであげると、時価で売ったものとみなされます。100パーセント出資している会社でも同じです。
計算例
例:時価6,000万円・買った値段1,000万円の土地を、社長が自分の会社にタダであげた場合(所有5年超)
売却益とみなされる額 6,000万円 - 1,000万円 = 5,000万円 税額 5,000万円 × 20.315パーセント = 約1,016万円※費用・特別控除は考慮していません。会社側にも受贈益という別の税金が生じます。
1円も受け取っていないのに、約1,000万円の納税。これがみなし譲渡の怖さです。
パターン②:「半額で売ればいい」も通用しません
値段が時価の2分の1未満だと、やはり時価で売ったものとみなされます。2分の1以上でも、同族会社との取引で税金を不当に減らすと認められれば、時価で計算し直されます(所得税基本通達59-3)。時価に近い値段で取引するのが基本です。
補足
借金ごと渡す場合は別ルールです
借金を会社に引き受けてもらう形で不動産を渡す場合、「借金の額で売った」ものとして扱います(所得税基本通達59-2)。その額が時価の半分未満かで判定します。
パターン③:相続の「限定承認」でも起こります
限定承認(相続財産の範囲内でだけ借金を引き継ぐ方法)を選ぶと、亡くなった方が財産を時価で売ったものとみなされ、譲渡所得税がかかります(タックスアンサーNo.3105)。準確定申告で申告し、期限は相続を知った日の翌日から4か月以内。判断期限(原則3か月)とも重なる短さです。
ポイント
限定承認を考えるときの手順
①財産と借金の全体像をつかむ ②値上がりしている財産(先祖代々の土地・古い不動産・自社株など)を確認 ③みなし譲渡の税額を試算 ④単純承認・相続放棄と比較
値上がり益が大きい財産があるほど、限定承認の税負担は重くなります。
課税されない例外もあります
法人への贈与でも、次の場合は課税されません(タックスアンサーNo.3105より抜粋)。
| ケース | ポイント |
|---|---|
| 国・自治体への寄付 | 寄付はなかったものとみなされ、課税されません |
| 公益法人への寄付 | 国税庁長官の承認を受けた場合に限り、課税されません |
| 相続税の物納 | 物納に充てた財産は譲渡がなかったものとみなされます(限度額を超える部分は課税対象) |
「公益目的だから大丈夫」は危険です。承認などの手続きを踏んでいるかが分かれ目になります。
よくある誤解と、実務の注意点
1. 個人から個人への贈与は、みなし譲渡になりません
個人どうしの贈与にはこのルールは適用されません。もらった側に贈与税の問題が生じます。
2. すべては「時価」から始まります
土地は路線価・取引事例・不動産鑑定、非上場株式は専用の評価方法で時価を確かめます。
3. 買った値段が分からないと、税金がさらに重くなります
取得費が不明だと、売った値段の5パーセントしか引けない「概算取得費」となり、税額が大きく膨らみます。
4. 納税資金の準備をセットで考えます
みなし譲渡は現金が入らない取引です。資金計画なしに実行すると、納税で行き詰まります。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 自分が100パーセント出資している会社に、土地をタダであげました。税金はかかりますか?
かかります。法人への贈与は時価で売ったものとみなされます(国税庁タックスアンサーNo.3105)。会社側にも受贈益という別の税金が生じます。
Q2. 時価の半額で会社に売れば、みなし譲渡にはなりませんか?
時価の2分の1以上なら、みなし譲渡のルールは適用されません(所得税基本通達59-3)。ただし同族会社との取引で不当に減らすと認められれば、時価で計算し直されます。
Q3. 限定承認をすると、なぜ税金がかかるのですか?
亡くなった方が財産を時価で売ったものとみなされるためです(国税庁タックスアンサーNo.3105)。準確定申告で申告し、期限は相続を知った日の翌日から4か月以内です。
Q4. 住宅ローンが残った不動産を、借金ごと会社に渡す場合はどうなりますか?
「引き受けてもらった借金の額で売った」ものとして扱います(所得税基本通達59-2)。その金額が時価の2分の1未満なら、時価で売ったものとみなされます。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。引用した国税庁タックスアンサーNo.3105は令和7年4月1日現在の法令等に基づくものです。本記事の数値例は、譲渡費用および特別控除を考慮せず、長期譲渡所得の税率(所得税および復興特別所得税15.315パーセント・住民税5パーセント)で計算した目安です。贈与や譲渡を受けた法人の側の法人税の取扱い、および個人間の贈与に係る贈与税の取扱いは本記事では扱っていません。時価の算定方法、および国税庁長官の承認を要する公益法人等への寄附の要件についても、本記事では詳細に扱っていません。実際の判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.3105「譲渡所得の対象となる資産と課税方法」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3105.htm
- 国税庁 所得税基本通達 法第59条《贈与等の場合の譲渡所得等の特例》関係(59-1〜59-6)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/12/02.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3108「国や地方公共団体又は公益を目的とする事業を行う法人に財産を寄附したとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3108.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3217「時価より低い価額で売ったとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3217.htm
- 所得税法59条(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)・157条(同族会社等の行為又は計算の否認)https://elaws.e-gov.go.jp/
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