この記事のポイント
- 被相続人が老人ホーム等に入所し、亡くなる直前は住んでいなかった家屋でも、特定事由と一定の要件を満たせば空き家の3,000万円特別控除の対象になります(国税庁タックスアンサーNo.3307)
- 特定事由とは、要介護認定・要支援認定を受けて老人ホーム等に入所、または障害支援区分の認定を受けて障害者支援施設等に入所していたことです
- 認定の有無は住まなくなる直前の時点で判定します。亡くなった時点ではありません。ここは間違えやすい点です
- 実務で多いのは、住まなくなってから貸した・駐車場にした・子が住んだケースと、入所直前に他の同居者がいたケースで要件を欠くことです
- 譲渡所得の金額が4,600万円のとき、控除の有無で税額は3,250,400円と9,344,900円に分かれます(一定の前提を置いた目安)
まず結論:施設に入ったあとでも、対象になる場合があります
まず結論です。親御さんが老人ホーム等に入所し、亡くなる直前は実家に住んでいなかった場合でも、一定の要件を満たせば空き家の3,000万円特別控除の対象になります。
正式には「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」といいます。被相続人が住んでいた家屋・敷地を売ったとき、最高3,000万円を控除できる制度です。
「被相続人が居住していた家屋」が対象のため、「施設にいたから対象外」と早合点されがちです。国税庁は次のように説明しています。
被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例では、相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった家屋であっても、次の(1)から(3)の要件を満たすときは、その居住の用に供されなくなる直前まで被相続人の居住の用に供されていた家屋は、被相続人居住用家屋として特例の対象になります。(国税庁タックスアンサーNo.3307「被相続人が老人ホーム等に入所していた場合の被相続人居住用家屋」・令和7年4月1日現在法令等)
(1)が「特定事由」=老人ホーム等への入所です。(1)〜(3)すべてを満たして対象になります。実務では(2)(3)で外れる事例が目立ちます。
要件(1)特定事由 ― どの施設に入っていたかで決まります
特定事由には2つの型があります。
介護保険の認定を受けていた場合
要介護認定もしくは要支援認定等を受けていた被相続人が、次の住居・施設に入居・入所していたことです。
- 認知症対応型老人共同生活援助事業が行われる住居
- 養護老人ホーム
- 特別養護老人ホーム
- 軽費老人ホーム
- 有料老人ホーム
- 介護老人保健施設/介護医療院
- サービス付き高齢者向け住宅(有料老人ホームに当たるものを除きます)
民間施設も広く含まれます。名前だけで判断せず、契約書でどの類型か確かめてください。
障害支援区分の認定を受けていた場合
もう1つは、障害支援区分の認定を受けた被相続人が次に入所していた場合です。
- 障害者支援施設(施設入所支援が行われるものに限ります)
- 共同生活援助を行う住居
判定の時点は「亡くなったとき」ではありません
ここが最も間違えやすいところです。
被相続人が、上記イの要介護認定もしくは要支援認定または上記ロの障害支援区分の認定を受けていたかどうかは、特定事由により被相続人居住用家屋が被相続人の居住の用に供されなくなる直前において、被相続人がその認定を受けていたかにより判定します。(国税庁タックスアンサーNo.3307)
実家に住まなくなる直前の時点で認定の有無を判定します。亡くなった時点ではありません。
入所後に認定を受けた順番だと、この要件に当たりません。認定日と実家を出た日の前後関係を、被保険者証や認定通知書、入居契約書で確かめてください。
要件(2)住まなくなったあとの「使い方」― 実務でいちばん落ちるところ
特定事由に当たっても、次の3つをすべて満たす必要があります。
| 要件 | 国税庁の言葉 | 読み方 |
|---|---|---|
| イ | 住まなくなった時から相続開始の直前まで、家屋が被相続人の物品保管その他の用に供されていたこと | 家財道具などをその家に置いたままにしておくこと |
| ロ | 同じ期間、事業の用、貸付けの用または被相続人以外の者の居住の用に供されたことがないこと | 人に貸した・事業に使った・被相続人以外の人が住んだ、がいずれもないこと |
| ハ | 入所時から相続開始の直前まで、被相続人が主として居住していたと認められる家屋がその老人ホーム等であること | 入所後の生活の本拠が、その老人ホーム等であったこと |
よくある失敗のパターン
「要介護認定さえあれば使える」では、ここでつまずきます。次の事情は要件を満たしません。
- 実家を人に貸した…ロの「貸付けの用」に当たります。短期間でも同じです
- 取り壊して月極駐車場にした…同じくロに触れます
- 子や親族が住んだ…ロの「被相続人以外の者の居住の用」に当たります。家賃なしでも同じです
- 入所を機に家財を全部処分した…イの要件を満たすといえるかが問題になります
- 実際には別の子の家で大半を過ごしていた…ハに当たるかが問題になります
注意
実家をどうするか決める前に確かめてください。貸してしまってからでは、元に戻せません。
要件(3)家屋そのものの条件 ―「いつの時点で見るか」がずれます
3つ目は家屋の条件です。住まなくなる直前に主として被相続人が居住していた一の建築物で、次を満たすものに限られます。
- 昭和56年5月31日以前に建築されたこと
- 区分所有建物登記がされている建物でないこと
- 特定事由により被相続人の居住の用に供されなくなる直前において、被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと
3つ目は、判定の時点が置き換わります
ポイント
通常は「相続開始の直前」で判定しますが、入所していた場合はこの時点が「実家を出る直前」に置き換わります。ここが結論を分けます。
- 施設入所の直前まで家族と同居していた…入所直前に被相続人以外の居住者がいたことになり、この要件を満たしません
- 入所後に子が実家に住み、相続開始時は空き家に戻っていた…要件(2)ロに触れます
「相続時に空き家だったから大丈夫」とは限らず、入所前にさかのぼって誰が住んでいたか確かめる必要があります。
特例そのものの骨組みと期限
要件(1)〜(3)のほか、特例本体の枠組みも必要です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象となる譲渡の期間 | 平成28年4月1日から令和9年12月31日までの譲渡であること |
| 売却の期限 | 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡であること |
| 金額の上限 | 譲渡の対価の額が1億円を超えるものは対象から除かれます |
| 他の特例との関係 | 取得費加算の特例(措法39条)は除外(重ねて使えません) |
| 控除額 | 家屋・敷地の取得者が3人以上のときは2,000万円になります |
ポイント
重ねて使えないため、どちらを選ぶかの判断が必要です。相続した実家を売却したら税金はいくら?空き家3,000万円控除と取得費加算の使い分けで整理しています。
売り方は3つに整理されています
- 家屋と敷地を耐震基準に適合させて売る…相続時から譲渡時まで事業・貸付け・居住に供されていないこと
- 家屋を全部取り壊してから敷地を売る…取壊し時から譲渡時まで建物等の敷地に供されていないこと
- 売った後に買主が耐震改修または取壊しを行う…令和6年1月1日以後の譲渡が対象。翌年2月15日までに適合または取壊しがされた場合に限る
3つ目は売主の負担が軽い一方、翌年2月15日という期限があり契約時期次第で間に合いません。期限の逆算は相続した不動産の売却は「期限」から逆算します参照。
「自宅を取り壊して売る話」とは別の制度です
自分が住んでいた家を取り壊して敷地だけ売る場合は、この空き家の特例ではなく別の特例(居住用財産の3,000万円特別控除)です。要件・期限とも異なります。自宅を取り壊して土地だけを売るとき 3,000万円特別控除の3つの要件参照。
数字で見ると、控除の有無で6,094,500円の差になります
控除の有無で税額はどれだけ変わるか。次は一定の前提を置いた目安です。
計算例
前提:昭和50年代の実家を相続し5,000万円で売却・譲渡費用150万円・取得費は概算取得費(譲渡価額の5パーセント)の250万円・長期譲渡所得
5,000万円 −(250万円 + 150万円)= 譲渡所得4,600万円| 項目 | 3,000万円を控除できた場合 | 2,000万円を控除できた場合 (相続人が3人以上) | 控除できなかった場合 |
|---|---|---|---|
| 譲渡所得の金額 | 46,000,000円 | 46,000,000円 | 46,000,000円 |
| 特別控除額 | 30,000,000円 | 20,000,000円 | 0円 |
| 課税される譲渡所得の金額 | 16,000,000円 | 26,000,000円 | 46,000,000円 |
| 所得税及び復興特別所得税(15.315パーセント) | 2,450,400円 | 3,981,900円 | 7,044,900円 |
| 住民税(5パーセント) | 800,000円 | 1,300,000円 | 2,300,000円 |
| 税額の合計 | 3,250,400円 | 5,281,900円 | 9,344,900円 |
控除の有無で差は6,094,500円、控除額が2,000万円になる場合でも差は4,063,000円あります。早合点した申告は、この差がそのまま負担になるか、あとから直すことになります。
この数値例は目安で、実際の税額ではありません。譲渡価額・取得費・所有期間で結論は変わります。
売る前に確かめておきたいこと
老人ホームに入所していた親御さんの実家を売る話が出てきたら、次の点を整理しておくと判断が早くなります。
- 施設に移ったのはいつか。直前の時点で要介護・要支援・障害支援区分の認定を受けていたか
- 入所先はどの類型の施設か
- 入所直前に、その家に被相続人以外の人が住んでいなかったか
- 住まなくなってから相続開始の直前までに、貸した・事業に使った・誰かが住んだことはないか
- 家財道具などを置いたままにしていたか。生活の本拠がその施設であったといえるか
- 家屋は昭和56年5月31日以前の建築か。区分所有建物登記がされていないか
- 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売れる見込みか。譲渡の対価の額が1億円を超えないか
ここから先は個別判断です
本記事は国税庁タックスアンサーNo.3307の(1)〜(3)の要件と特例の枠組みを整理しました。実際の該当可否は、入所時期・認定時期・その後の家の扱いを並べて見なければ決まりません。
認定と入所の前後関係、入所直前の同居者の有無は記憶だけでは分かりにくい部分です。被保険者証・認定通知書・入居契約書・住民票の除票があれば判定できます。買主との条件を決める前にご相談ください。
老人ホーム入所後の実家の売却について小松公認会計士・税理士事務所ができること
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よくある質問(FAQ)
Q1. 母は亡くなる3年前から有料老人ホームに入っていました。実家は空き家のままです。空き家の3,000万円特別控除は使えますか?
使える可能性があります(国税庁タックスアンサーNo.3307)。実家を出る直前の認定の有無、入所直前の同居者の有無、その後の賃貸の有無、家屋が昭和56年5月31日以前の建築か。すべて確認が必要です。
Q2. 要介護認定は、施設に入ってから受けました。それでも対象になりますか?
認定の有無は実家に住まなくなる直前の時点で判定します(No.3307)。亡くなった時点ではありません。入所後に認定を受けた順番だと要件に当たりません。認定日と実家を出た日の前後関係をご確認ください。
Q3. 母の入所後、空き家にしておくのがもったいないので2年ほど賃貸に出していました。売るときに特例は使えますか?
使えません。住まなくなった時から相続開始の直前まで、事業用・貸付用・被相続人以外の居住用に供されないことが要件です(No.3307)。賃貸期間があれば要件を満たしません。売却をお考えなら貸す前にご相談ください。
Q4. 父が施設に入る直前まで、実家には母も一緒に住んでいました。父の相続で実家を売る場合はどうなりますか?
要件(3)で外れる可能性が高い場面です。住まなくなる直前に被相続人以外の居住者がいないことが要件です(No.3307)。通常は相続開始の直前で判定しますが、入所の場合はこの時点が入所直前に置き換わり、同居していれば要件を満たしません。取得費加算との使い分けは相続した実家を売却したら税金はいくら?空き家3,000万円控除と取得費加算の使い分け参照。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。引用した国税庁タックスアンサーNo.3307は、被相続人が老人ホーム等に入所していた場合に、その家屋が被相続人居住用家屋に当たるかどうかの要件を説明したものです。本記事は、この特定事由と(1)から(3)の要件、および特例本体の期間・期限・金額の枠組みだけを扱っています。空き家の特例と取得費加算の特例のどちらが有利かという比較や計算、確定申告に添付する書類の一覧、市区町村が交付する被相続人居住用家屋等確認書の取得手続、耐震基準適合証明書の細目については扱っていません。これらは別記事で解説しています。また、相続税の小規模宅地等の特例、相続税の申告期限、相続登記に関する手続、遺産分割の進め方、ご自身が住んでいた家屋を取り壊して敷地を売る場合の要件、被相続人居住用家屋の敷地等の範囲の細かい判定、売却代金が1億円を超えた場合の修正申告の手続についても扱っていません。要件(2)イの「物品の保管その他の用に供されていた」といえるかどうか、要件(2)ハの「主としてその居住の用に供していたと認められる」かどうかの具体的な判定基準は、引用した公表資料に示されていないため記載していません。本記事の数値例は、特別控除の有無による違いを示すために一定の前提を置いた目安であり、個別の税額を計算したものではありません。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 タックスアンサー No.3307「被相続人が老人ホーム等に入所していた場合の被相続人居住用家屋」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3307.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.3267「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm
- e-Gov法令検索 租税特別措置法(第35条 居住用財産の譲渡所得の特別控除)https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
老人ホームに入所していた親御さんの実家、売る前にご相談ください
空き家の特例が使えるかどうかは、入所した時期・認定の時期・その後に家をどう扱ったかで決まります。貸してしまったあと、取り壊したあとでは戻せません。介護保険の被保険者証や施設の契約書をお持ちいただければ、売却の条件を決める前に判定できます。代表税理士が直接ご対応します。
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