この記事のポイント
- 相続した不動産の売却には4つの期限があります。過ぎたら使えません
- 取得費加算の特例は相続税申告期限の翌日から3年(実質3年10か月)
- 空き家の3,000万円特別控除は3年経過日の属する年の12月31日まで
- 空き家特例には制度の期限(令和9年12月31日)もあり、2つは併用不可です
まず結論:売る時期を決めるのは、気持ちではなく期限です
相続した不動産をいつ売るかは、「気持ちの整理がついたら」では決められません。特例には期限があるからです。
「もう少し落ち着いてから」と先延ばしにすると、特例が使えなくなり、税額が数百万円変わることがあります。
| 何の期限か | いつまでか | |
|---|---|---|
| ① | 相続税の申告と納税 | 10か月以内 |
| ② | 取得費加算の特例 | 3年を経過する日まで(約3年10か月) |
| ③ | 空き家の3,000万円特別控除 | 3年経過日の年の12月31日まで |
| ④ | 空き家特例制度そのものの期限 | 令和9年12月31日まで |
②と③は締切の数え方が違います。順に確認します。
期限①:相続税の申告と納税は10か月以内
相続税の申告は、死亡を知った日の翌日から10か月以内です。
相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日(通常の場合は、被相続人の死亡の日)の翌日から10か月以内に行うことになっています。例えば、1月6日に死亡した場合にはその年の11月6日が申告期限になります。(国税庁タックスアンサーNo.4205「相続税の申告と納税」)
この10か月が、取得費加算の期限の起点になります。申告期限が決まらないと、売却の期限も決まりません。
期限②:取得費加算は「3年10か月」
相続税を納めた方が相続した不動産を売るとき、対応する相続税額を取得費に足せます。これが取得費加算の特例です。
その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること(国税庁タックスアンサーNo.3267「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」)
申告期限「10か月後」の翌日から3年で、合計するとおよそ3年10か月になります。
加算できる金額の計算
取得費に加算する相続税額=その者の相続税額×その者の相続税の課税価格の計算の基礎とされたその譲渡した財産の相続税評価額÷(その者の取得財産の価額+その者の相続時精算課税適用財産の価額+その者の純資産価額に加算される暦年課税分の贈与財産の価額)(同上)
計算例
相続税1,200万円・評価額6,000万円・取得財産合計1億5,000万円の場合
加算できる相続税額:1,200万円×6,000万円÷1億5,000万円=480万円 譲渡所得(譲渡価額8,000万円・概算取得費5%で400万円・譲渡費用300万円):使わないと7,300万円/使うと6,820万円 所得税・住民税(20.315パーセント):使わないと14,829,950円/使うと13,854,830円差額は975,120円です。期限を1日過ぎるだけで、この特例は使えなくなります。
譲渡所得のみが対象で、事業所得・雑所得には使えません。確定申告には書類の添付が必要です。
期限③:空き家の3,000万円特別控除は「3年目の12月31日」
空き家特例は、3年を経過する日が属する年の12月31日までに売る必要があります。
ひとりで住んでいた家を相続して売る場合、要件を満たせば譲渡所得から最大3,000万円を差し引ける特例です。期限の数え方が取得費加算とは違います。
相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること(国税庁タックスアンサーNo.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」)
「3年を経過する日」そのものではなく、その日が属する年の12月31日までです。取得費加算より長く見えることもあります。
同じ相続で並べてみます
令和8年5月10日に相続が開始した場合で比べます。
| 数え方 | 期限 | |
|---|---|---|
| 申告期限 | 死亡を知った日の翌日から10か月 | 令和9年3月10日 |
| 取得費加算 | 申告期限の翌日以後3年を経過する日 | 令和12年3月10日 |
| 空き家特例 | 3年を経過する日(令和11年5月10日)の属する年の12月31日 | 令和11年12月31日 |
この例では、空き家特例のほうが4か月ほど早く締切が来ます。「3年10か月あるから大丈夫」と油断すると先に落とします。
そのほかの主な要件
- 売却代金1億円以下であること
- 令和6年1月1日以後の譲渡で、取得した相続人が3人以上なら2,000万円まで
建築時期や耐震基準・取壊しの要件もあります。有利判定は相続した実家を売却したら税金はいくら?空き家3,000万円控除と取得費加算の使い分けで解説しています。
期限④:空き家特例そのものが令和9年12月31日までです
見落とされやすいのが、この4つ目の期限です。
平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間に売って、一定の要件に当てはまるときは……(国税庁タックスアンサーNo.3306)
注意
個別の3年期限がまだ来ていなくても、令和9年12月31日を過ぎた売却には使えません。数年前に相続した空き家をお持ちの方は、こちらの期限が先に来ます。延長される前提で予定を立てるのは危険です。
2つの特例は併用できません
取得費加算と空き家の3,000万円特別控除は、同じ不動産について重ねて使うことはできません。
売った家屋や敷地等について、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例や収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと(国税庁タックスアンサーNo.3306)
相続税額・売却額・取得費で有利不利が変わります。空き家特例が有利になりやすいものの逆転もあり、両方の試算が必要です。
逆算スケジュール ―― 「売ろう」と決めてから引渡しまでは時間がかかります
期限は「売買契約」ではなく「譲渡」の日で判定します。そして売却の実務には時間がかかります。
| やること | 目安の時間 |
|---|---|
| 遺産分割の話し合い | 相続人が複数なら数か月 |
| 不動産の名義変更手続 | 数週間〜数か月 |
| 家財の片づけ・処分 | 戸建てで数週間 |
| 耐震改修・取壊し(必要な場合) | 工事含め数か月 |
| 買主を探し契約・引渡し | 数か月 |
ポイント
期限の1年前には動き始めていないと間に合いません。「3年10か月ある」ではなく「準備に1年、売却活動に半年」で考えてください。
ご自身でできること/個別判断が必要なこと
相続開始日を確認し期限をカレンダーに書き込むのはご自身で可能です。どちらの特例が有利か、取壊しの要否、遺産分割の方法、契約の時期は資料を見ないと判断できません。
相続した不動産の売却について小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 取得費加算の「3年10か月」は、いつから数えるのですか?
相続開始日の翌日から、申告期限の翌日以後3年を経過する日までの譲渡が要件です(No.3267)。申告期限が10か月後のため、合計およそ3年10か月です。
Q2. 空き家の3,000万円特別控除の期限は、取得費加算と同じですか?
違います。3年を経過する日の属する年の12月31日までが要件です(No.3306)。令和8年5月10日開始の例では令和11年12月31日で、取得費加算より先に締切が来ます。
Q3. 数年前に相続した空き家があります。まだ3年たっていませんが、いつまでに売ればよいですか?
制度そのものの期限にご注意ください。対象は平成28年4月1日から令和9年12月31日までの譲渡で、個別期限が未到来でもこれを過ぎると使えません。
Q4. 空き家の3,000万円特別控除と取得費加算は、両方使えますか?
同じ不動産では両方使えません。空き家特例は他の特例の適用を受けていないことが要件です(No.3306)。どちらが有利かは試算のうえで比較してください。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。空き家の3,000万円特別控除については、被相続人居住用家屋の建築時期、区分所有建物でないこと、相続の開始の直前における居住の状況、耐震基準への適合または取壊しに関する要件など、本記事で扱っていない要件が多数あります。取得費加算の特例についても、相続時精算課税適用財産がある場合などの計算は個別に確認が必要です。適用期限は税制改正により変わることがありますので、最新の国税庁の情報をご確認ください。数値例は税率20.315パーセントを前提とした計算上の目安であり、実際の税額を保証するものではありません。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁タックスアンサー No.3267「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
- 国税庁タックスアンサー No.4205「相続税の申告と納税」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm
期限を確かめるところから、承ります
相続開始日と相続税の申告書があれば、いつまでに売る必要があるかをその場で整理できます。まだ売ると決めていない段階でも構いません。期限が迫っている方はお早めにご相談ください。代表税理士が直接ご対応します。
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