不動産譲渡所得

相続した実家に自分が住んでから売ったとき
使える特例が入れ替わります

小松優馬

小松 優馬

公認会計士(登録番号43196)・税理士(登録番号151214)

監査法人での上場企業監査・上場準備CFO経験を経て独立。港区浜松町で個人・法人の税務をサポート。YouTubeチャンネル「公認会計士・税理士 小松ゆうま」運営。

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この記事のポイント

  • 住んだ時点で空き家の3,000万円特別控除は使えなくなります
  • 代わりにマイホームの3,000万円特別控除の対象になり得ます
  • この特例のためだけに入居した家屋は適用除外です
  • 取得の時期は被相続人から引き継ぐため軽減税率も検討できます

まず結論:住んだ時点で、使える特例が入れ替わります

相続した実家にご自身やご家族が住むと、使える特例が入れ替わります。空き家の3,000万円特別控除は使えなくなり、代わりにマイホームの3,000万円特別控除の対象になり得ます。

控除額はどちらも最高3,000万円ですが、要件はまったく違います。売る前に、どちらの土俵に立つのかを確かめてください。

住んだことで有利になる面もあります。取得の時期を被相続人から引き継ぐため、所有期間が長くなります。

ポイント

「空き家のまま売る」と「自分が住んでから売る」は、税務では別の道です。どちらが向いているかは、住む前に確かめておきたいところです。

相続した実家に住むと、使える特例が入れ替わります
相続した実家に住むと、使える特例が入れ替わります

住んだら空き家の3,000万円控除は使えません

理由ははっきりしています。空き家特例には「居住の用に供されていたことがないこと」という要件があるからです。

この特例は、相続または遺贈で取得した被相続人居住用家屋などを平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間に売り、一定の要件に当てはまるときに使えます。その要件のひとつが次の一文です。

(イ) 相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用または居住の用に供されていたことがないこと。(国税庁タックスアンサーNo.3306)

ご自身が住めば、居住の用に供したことになります。人に貸した場合や、事業に使った場合も同じです。

注意

短期間だけ住んだ、荷物の整理のあいだ寝泊まりしたという場合でも、要件は「供されていたことがないこと」という言い方です。心当たりがあれば、売る前にご確認ください。

空き家のまま売る場合の要件と取得費加算との関係は空き家3,000万円控除と取得費加算の記事にまとめています。

空き家特例には、居住の用に供されていたことがないことという要件があります
空き家特例には、居住の用に供されていたことがないことという要件があります

自分が住んだ家は、マイホームの特例の対象になり得ます

代わりの道があります。居住用財産の3,000万円特別控除です。No.3302の書き出しを引きます。

マイホーム(居住用財産)を売ったときは、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円まで控除ができる特例があります。(国税庁タックスアンサーNo.3302)

対象になる資産は、次のように書かれています。

イ 現に自分が住んでいる家屋
ロ 以前に住んでいた家屋(住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る場合に限ります。なお、その家屋は、住まなくなった日以後、どのような用途に使用してもかまいません。)
ハ 上記イまたはロの家屋とともに売ったその敷地や借地権(国税庁タックスアンサーNo.3302)

そのまま住んで売るなら「イ」、引っ越してから売るなら「ロ」です。「ロ」には期限があります。

「所有期間の長短に関係なく」という点も大切です。住んですぐ売っても、この控除自体は所有期間で切られません。制度の全体像はマイホームの3,000万円特別控除の記事で説明しています。

見落としてはいけない適用除外があります

ここがこの記事のいちばん大事なところです。No.3302には、対象から外れる家屋が明記されています。

(1)この特例の適用を受けることだけを目的として入居したと認められる家屋
(2)居住用家屋を新築する期間中だけ仮住まいとして使った家屋、その他一時的な目的で入居したと認められる家屋
(3)別荘などのように主として趣味、娯楽または保養のために所有する家屋(国税庁タックスアンサーNo.3302)

(1)を読んでください。控除を受けることだけを目的として入居したと認められる家屋は、対象外です。「住民票を移せば大丈夫」という話ではありません。

なお、何か月住めば居住用と認められるかという期間の基準は、法令に置かれていません。生活の実態で判断されます。電気・ガス・水道の使用状況や家財の移動が、その材料になります。

注意

売る相手にも要件があります。No.3302は「親子や夫婦など『特別の関係がある人』に対して売ったものでないこと」と定めています。ご家族への売却を考えている場合は、事前の確認が必要です。

このほか、売った年の前年・前々年にこの特例やマイホームの譲渡損失の特例を、売った年とその前年・前々年に買換えや交換の特例を受けていないことも要件です。収用等の特別控除など他の特例との重複もできません。過去2年分の申告内容を確かめてください。

この特例を受けることだけを目的として入居した家屋は対象外です
この特例を受けることだけを目的として入居した家屋は対象外です

取得費と取得の時期は被相続人から引き継ぎます

相続で取得した家と土地は、亡くなった日に買ったことにはなりません。所得税法60条1項1号が、引き続き所有していたものとみなすと定めています。

居住者が次に掲げる事由により取得した前条第一項に規定する資産を譲渡した場合における事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その者が引き続きこれを所有していたものとみなす。
一 贈与(…)、相続(限定承認に係るものを除く。)又は遺贈(…及び包括遺贈のうち限定承認に係るものを除く。)(所得税法60条1項1号)

つまり、被相続人が買った日と値段を引き継ぎます。そのぶん所有期間は長くなります。

売った年の1月1日で所有期間が10年を超えていれば、マイホームを売ったときの軽減税率を検討できます。課税長期譲渡所得金額のうち6,000万円以下の部分は所得税10%・住民税4%、6,000万円超の部分は所得税15%・住民税5%です。国税庁は、3,000万円の特別控除と軽減税率は重ねて受けることができるとしています(No.3305)。

計算例

例:譲渡収入5,000万円、引き継いだ取得費と譲渡費用の合計1,500万円(譲渡益3,500万円)の場合

【A】3,000万円控除が使えない場合の課税長期譲渡所得金額 35,000,000円 所得税 35,000,000円×15%=5,250,000円 復興特別所得税 5,250,000円×2.1%=110,250円/住民税 35,000,000円×5%=1,750,000円 Aの合計7,110,250円 【B】3,000万円控除が使える場合の課税長期譲渡所得金額 35,000,000円-30,000,000円=5,000,000円 所得税 5,000,000円×15%=750,000円 復興特別所得税 750,000円×2.1%=15,750円/住民税 5,000,000円×5%=250,000円 Bの合計1,015,750円(Aとの差 6,094,500円) 【C】Bに10年超の軽減税率も適用した場合 所得税 5,000,000円×10%=500,000円/復興特別所得税 500,000円×2.1%=10,500円 住民税 5,000,000円×4%=200,000円/Cの合計710,500円

長期譲渡所得に当たる前提で計算しました。一定の前提を置いた目安であり、個別の税額を計算したものではありません。

補足

相続税を納めている場合は、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(取得費加算)もあります。どの特例のどの組合せになるかは、個別に確認します。

取得の時期を引き継ぐため、10年超の軽減税率も検討できます
取得の時期を引き継ぐため、10年超の軽減税率も検討できます

実務で確認すること/ここからは個別判断

ご自身でできることから始めてください。出発点は、被相続人がその家をいくらで買ったのかを示す資料です。

  1. 被相続人の売買契約書・領収証を探す(取得費と取得の日が分かります)
  2. 住み始めた日と引っ越した日を、住民票や公共料金の記録で押さえる
  3. 過去2年分の確定申告書を見て、他の特例を受けていないか確かめる
  4. 売る相手が「特別の関係がある人」に当たらないかを確かめる
  5. 売却にかかった仲介手数料・測量費などの領収証をまとめる

資料が見つからない場合の進め方は被相続人の取得費をさかのぼって調べる記事で説明しています。

ここから先は個別判断です。どの特例の土俵に乗るのか、適用除外に当たらないか、取得費加算とどう組み合わせるのかは、資料を見ないと決められません。

小松公認会計士・税理士事務所では、取得費と譲渡費用を漏れなく積み上げ、入れ忘れを防ぐことに力を入れています。ご資料を拝見し、実態に合う道すじを整理してお伝えします。

この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること

制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。

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よくある質問(FAQ)

Q1. 相続した実家に少しだけ住みました。空き家の3,000万円控除は使えますか?

空き家特例には「相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用または居住の用に供されていたことがないこと」という要件があります(国税庁タックスアンサーNo.3306)。居住の用に供した場合は、この要件を満たしません。

Q2. 住んでから引っ越しました。マイホームの控除に期限はありますか?

以前に住んでいた家屋は「住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る場合に限ります」とされています(国税庁タックスアンサーNo.3302)。住まなくなった日以後の用途は問われません。

Q3. 相続した年に売ると短期譲渡になりますか?

なりません。所得税法60条1項1号により、引き続き所有していたものとみなされ、被相続人の取得の時期を引き継ぎます。売った年の1月1日で10年超なら、軽減税率の検討もできます。

Q4. 3,000万円控除と10年超の軽減税率は両方使えますか?

国税庁は「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例と軽減税率の特例は、重ねて受けることができます」としています(No.3305)。ただし所有期間などの要件を満たすことが前提です。

免責事項

本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。所得税法60条1項1号、国税庁タックスアンサーNo.3302・No.3305・No.3306・No.3267の範囲を扱っています。空き家特例の他の要件(耐震基準への適合、買主による取壊し、老人ホーム入所の場合の取扱い、売却代金1億円以下の判定、相続人の数による控除額の違いなど)、居住用財産の3,000万円特別控除の申告手続と添付書類、住まなくなってから3年の数え方の細目、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例の算式および他の特例との組合せの可否、相続税の申告・遺産分割の手続、住民税の申告手続は扱っていません。本記事の税額の計算は、長期譲渡所得として一定の前提を置いた目安であり、個別の税額を計算したものではありません。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。

参考資料・出典

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空き家のまま売るか、住んでから売るかで、使える特例は入れ替わります。順番を決めてしまう前に、被相続人の取得費が分かる資料と過去の申告内容を拝見できれば、どの道すじが実態に合うのかを整理してお伝えします。代表税理士が直接ご対応します。

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小松 優馬

公認会計士・税理士/元監査法人

大手監査法人にて上場企業の監査業務に従事。税務の専門性を高めるため独立。判例ベースの適正申告・節税にこだわり、お客様の人生設計を支える税務パートナーとして活動中。YouTubeチャンネル「税理士 小松ゆうま」では税務情報を発信中(登録者6,500人超)。

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