この記事のポイント
- 単身赴任中で本人が住んでいなくても、条件を満たせば3,000万円特別控除が使えます
- 条件は「事情がなくなれば配偶者等と一緒に住む」と認められることです(No.3317)
- マイホームが2つ以上あるときは、主に住まいに使っていた家屋だけが対象です
- 同じ年に2つ売っても、特別控除額は合計3,000万円が限度です
まず結論:自分が住んでいなくても、使える場合があります
転勤や転地療養などの事情で単身赴任していて、自分はその家に住んでいなくても、配偶者や子どもだけが住んでいる家であれば、3,000万円特別控除を受けられる場合があります。
3,000万円特別控除は、マイホーム(居住用財産)を売ったときに譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる特例です。正式には「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」といいます。
この特例について、国税庁は次のように説明しています。
この特例は、原則として家屋の所有者本人が現に住んでいるマイホームを譲渡した場合に受けられるものです。しかし、次のような事情があるときは、本人が住んでいなくても配偶者や子供だけが住んでいる家屋は、この特例の適用を受けることができます。(国税庁タックスアンサーNo.3317「配偶者等だけが住んでいるマイホームを売ったとき」・令和7年4月1日現在法令等)
「自分は住んでいないから対象外だろう」とあきらめる方がいますが、単身赴任の中身によっては対象になります。本記事では、この「本人が住んでいないのに使える場合」だけを取り上げます。
特例そのものの一般的な要件は、マイホーム売却の3,000万円特別控除と取得時期の落とし穴で整理しています。まずはそちらで全体像を確かめてください。
条件1:事情がなくなったら「一緒に住む」と認められること
国税庁は、本人が住んでいなくても特例を受けられる事情を、次のように定めています。
本人が転勤や転地療養などの事情のため、配偶者等と離れて単身でほかに生活している場合で、これらの事情がなくなったときはその配偶者等と一緒に配偶者等が住んでいる家屋で生活すると認められる場合です。(国税庁タックスアンサーNo.3317)
要素は3つあります。
| 要素 | 原文の言葉 | 読み方 |
|---|---|---|
| 事情 | 転勤や転地療養などの事情 | 本人の意思で選んだ別居ではなく、仕事や療養という外側の事情であること |
| 別居の状態 | 配偶者等と離れて単身でほかに生活している | 家族はその家に住み続けていて、本人だけがほかで暮らしていること |
| 将来の見込み | 事情がなくなったときはその配偶者等と一緒に その家屋で生活すると認められる | 赴任や療養が終われば、その家に戻って一緒に暮らすという関係にあること |
いちばん大切なのは3つ目です
ポイント
単に別居しているだけでは足りません。事情がなくなればその家に戻って一緒に暮らす関係にあるかどうかが問われます。赴任後に家族ごと別の土地へ移る予定が決まっている場合は、この前提とは形が違います。実際にどう生活していたか、どうなる見込みだったかで判断され、住民票の記載だけでは決まりません。
根拠は租税特別措置法35条、施行令20条の3・23条、措置法通達31の3-2・35-6です(No.3317の根拠法令等)。タックスアンサーはこれ以上に細かい判定基準を示していません。そのため、赴任の辞令や療養の経緯といった資料をもとに確認します。
数字で見ると、控除の有無で4,063,000円の差になります
この特例を使えるかどうかで、税額はどう変わるか。所有期間が5年を超える(長期譲渡所得となる)自宅を売却し、譲渡所得の金額が2,000万円だったとします。税率は20.315パーセント(所得税15パーセント・復興特別所得税0.315パーセント・住民税5パーセント)とします。
| 項目 | 3,000万円特別控除を適用できた場合 | 適用できなかった場合 |
|---|---|---|
| 譲渡所得の金額 | 20,000,000円 | 20,000,000円 |
| 特別控除額 | 20,000,000円(最高3,000万円のうち) | 0円 |
| 課税される譲渡所得の金額 | 0円 | 20,000,000円 |
| 税率 | 20.315パーセント | 20.315パーセント |
| 税額 | 0円 | 4,063,000円 |
注意
差は4,063,000円です。「自分は住んでいなかったから対象外だ」と早合点して申告すると、この差がそのまま負担になります。逆に対象外なのに適用して申告すれば、あとから修正が必要になります。
この数値は目安であり、実際の税額を計算したものではありません。
条件2:マイホームが2つ以上あるときは「主として住まいに使っていた家屋」だけ
No.3317には、もう1つ大切な定めがあります。
なお、家屋を売った人が売ったときに2つ以上マイホームを持っていたときは、売った人が主として住まいに使っていた家屋だけがこの特例の対象となります。(国税庁タックスアンサーNo.3317)
赴任先でも家を買っていた場合です。
注意
家族が住む家と赴任先の家、どちらも自分名義で生活の実態があっても、2つとも3,000万円特別控除の対象にはなりません。「主として住まいに使っていた家屋」に当たるほうだけが対象です。
どちらが「主として」かは、細かい基準が示されていません
タックスアンサーは居住日数の割合といった具体的な判定基準を示していないため、生活の実態に即して個別に検討します。「どちらでも好きなほうを選べる」わけではなく、実際の生活の中身で決まります。
特別控除は「物件ごと」ではなく「その年で3,000万円」が限度です
3,000万円という金額は、物件1つにつき3,000万円という意味ではありません。
国税庁の質疑応答事例には、居住用家屋が焼失した年に別の土地建物を取得して住み始め、焼失した家屋の敷地といま住んでいる土地建物を同じ年に売った場合の照会があります。回答は次のとおりです。
いずれの譲渡所得についても、特例を適用して差し支えありません。なお、この場合の特別控除額は3,000万円が限度となります。(国税庁 質疑応答事例《譲渡所得》「居住の用に供している家屋を2以上有する場合」・令和7年8月1日現在の法令・通達等に基づいて作成)
読み方は2段階です。
- どちらの譲渡も特例の対象になり得ます。「片方だけ」という結論にはなりません
- ただし控除できる金額の合計は3,000万円までです。2つあるから6,000万円、とはなりません
この事例は施行令第23条第1項で準用する第20条の3第2項の「居住の用に供している家屋を2以上有する場合」には該当しない、との注記があります。条文上の位置づけと控除額の限度は別問題です。
単身赴任の方は、赴任先の家と家族が住む家を同じ年に売る場面で、控除の枠がどう配分されるかを先に確かめておく必要があります。「両方にそれぞれ3,000万円」という前提で資金計画を組むと、見込みが狂います。
売る前に確かめておきたいこと
単身赴任中の家を売る話が出たら、次を整理しておくと判断が早くなります。
- 単身赴任の理由は何か(転勤や転地療養などの事情に当たるか)
- 売るまでの間、配偶者や子どもがその家に住み続けていたか
- 事情がなくなったとき、その家に戻って一緒に暮らす関係にあったか
- 売ったときにほかにマイホームを持っていなかったか(赴任先の家を含む)
- 同じ年に2つ以上の居住用財産を売っていないか(控除額は3,000万円が限度)
- 赴任の辞令、療養の経緯、家族の居住状況が分かる資料が残っているか
あわせて確認したい隣の論点
次の場面は別の制度が絡みます。本記事では扱っていません。
- 海外への転勤で日本に住所がなくなった場合…課税の枠組みが変わります。海外在住のまま日本の不動産を売却したときの取扱い
- 新しい家で住宅ローン控除を受ける予定がある場合…併用に制限があります。3,000万円特別控除と住宅ローン控除の併用
ここから先は個別判断です
実際にご自身のケースが条件に当たるかは、赴任の経緯・家族の居住状況・ほかに家を持っていたかを並べて見なければ決まりません。
とくに「一緒に住むと認められるか」は書類1枚で済みません。売却の話が具体化する前に確かめておけば、入れ忘れも入れすぎも防げます。
単身赴任中のマイホーム売却について小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 単身赴任中で、家には妻と子どもだけが住んでいます。私は何年も住んでいませんが、3,000万円特別控除は使えますか?
使える場合があります。転勤や転地療養などの事情で別居していて、事情がなくなればその家に戻って一緒に暮らす関係にあることが条件です(No.3317)。住んでいた年数では判断しません。ほかにマイホームを持っていないかもあわせて確認してください。
Q2. 赴任が終わってもその家には戻らず、家族ごと別の土地に移る予定です。それでも対象になりますか?
その場合は前提が違います。No.3317は「事情がなくなればその家で一緒に生活すると認められる場合」が条件で、戻らない予定が決まっているなら当てはまりにくくなります。売却前にご相談ください。
Q3. 赴任先にも自分名義の家を買いました。家族が住む家と両方を売ったら、3,000万円ずつ引けますか?
引けません。2つ以上マイホームがあるときは、主として住まいに使っていた家屋だけが対象です(No.3317)。同じ年に2つの居住用財産を売れる場合でも、控除額の合計は3,000万円が限度です。なお1つの家屋を配偶者と共有している場合は共有名義の不動産を売却したときの譲渡所得をご覧ください。
Q4. 海外への転勤の場合も、同じように考えてよいですか?
課税の枠組みが変わるため、別の検討が必要です。海外に住んだまま売る場合は海外在住のまま日本の不動産を売却したときの取扱いを、住宅ローン控除を受ける予定がある場合は3,000万円特別控除と住宅ローン控除の併用をご確認ください。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。引用した国税庁タックスアンサーNo.3317は、配偶者等だけが住んでいるマイホームを売ったときの取扱いを説明したものです。本記事は「家屋の所有者本人が住んでいない場合に3,000万円特別控除の適用を受けられるか」という論点だけを扱っており、この特例の一般的な要件(売った相手が特別の関係にある人でないこと、前年・前々年に同じ特例を受けていないこと、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることなど)の全体像は扱っていません。また、海外へ転勤して非居住者となった場合の取扱い、国外転出時課税、住宅ローン控除との併用制限の内容、被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例、軽減税率の特例・買換え特例・譲渡損失の特例、家屋を取り壊して敷地だけを売った場合の要件、家屋の所有者と敷地の所有者が異なる場合、生計を一にする親族が住んでいた家屋を譲渡した場合の取扱いについても扱っていません。「主として住まいに使っていた家屋」に当たるかどうかの具体的な判定基準は、引用した公表資料に示されていないため記載していません。住民票などの手続きに関する助言も行っていません。本記事の数値例は、特別控除の有無による違いを示すために一定の前提を置いた目安であり、個別の税額を計算したものではありません。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 タックスアンサー No.3317「配偶者等だけが住んでいるマイホームを売ったとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3317.htm
- 国税庁 質疑応答事例《譲渡所得》「居住の用に供している家屋を2以上有する場合」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/joto/18/03.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.3302「マイホームを売ったときの特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm
単身赴任中の家を売る前にご相談ください
単身赴任中のマイホームは、赴任の経緯・家族の居住の状況・ほかに家を持っていたかどうかを並べて見なければ、特例が使えるかどうかが決まりません。売却の話が具体化する前の段階でお持ちいただければ、申告の姿を先にお示しできます。代表税理士が直接ご対応します。
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