この記事のポイント
- 不動産を売ったときの特別控除は、全部で7種類あります(国税庁タックスアンサーNo.3223)
- それぞれの控除額は、その特例ごとの売却の利益が上限です
- さらに、1年間の合計で5,000万円までという総枠の制限があります
- 控除する順序も決まっていて、金額の大きい特例から順に枠を使います
特別控除は「3,000万円」だけではありません
不動産を売ったときの特別控除は、全部で7種類あります。それぞれ金額も条件も違い、同じ年に使えるのは合計5,000万円までと決まっています。
特別控除とは、売って出た利益から一定の金額を差し引ける仕組みです。マイホームの3,000万円控除が有名ですが、国税庁タックスアンサーNo.3223には次の7つが挙げられています。
| 順序 | 譲渡の種類 | 特別控除額 |
|---|---|---|
| (1) | 公共事業などで土地・建物を売った場合 | 5,000万円 |
| (2) | マイホーム(居住用財産)を売った場合 (空き家の特例を含みます) | 3,000万円 |
| (3) | 特定土地区画整理事業などで土地を売った場合 | 2,000万円 |
| (4) | 特定住宅地造成事業などで土地を売った場合 | 1,500万円 |
| (5) | 平成21・22年に取得した国内の土地を譲渡した場合 | 1,000万円 |
| (6) | 農地保有の合理化などで土地を売った場合 | 800万円 |
| (7) | 低未利用土地等を売った場合 | 100万円 |
この順序は、後で説明する「5,000万円の総枠」を使う順序そのものです。
それぞれの特例には固有の条件と期限があるため、実際に使う年分の条件は個別に確認してください。
3つの制限──ここを見落とすと税額が変わります
No.3223は、次の3つの制限を明記しています。
- 制限1:控除額は特例ごとの譲渡益が上限──マイホームの利益が1,200万円なら、控除できるのは1,200万円までです。3,000万円の枠が余っても他の売却には回せません
- 制限2:合計5,000万円が限度──同じ年に複数売っても、特別控除の合計は5,000万円で頭打ちです。「収用5,000万円+マイホーム3,000万円=8,000万円控除」とはなりません
- 制限3:控除の順序は(1)〜(7)の順──上の表の順に行い、納税者が有利な順序を選べるわけではありません
注意
特別控除で赤字(譲渡損失)を作ることはできません。
数字で見る:同じ年に2件売ったらどうなるか
同じ年に土地の収用(譲渡益4,000万円、(1)の対象)とマイホームの売却(譲渡益3,500万円、(2)の対象)があり、いずれも長期譲渡所得(所有期間5年超)とします。
計算例
ステップ1:収用等の特例から控除
控除額5,000万円 → 利益4,000万円が上限。総枠5,000万円-4,000万円=残り1,000万円ステップ2:マイホームの特例を控除
利益3,500万円 → 本来は3,000万円を控除できるが、残り枠1,000万円までしか使えない| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 収用等の譲渡益 | 40,000,000円 |
| 特別控除(1) | △40,000,000円 |
| マイホームの譲渡益 | 35,000,000円 |
| 特別控除(2) | △10,000,000円 |
| 課税長期譲渡所得金額 | 25,000,000円 |
| 所得税(15%) | 3,750,000円 |
| 復興特別所得税(2.1%) | 78,750円 |
| 住民税(5%) | 1,250,000円 |
| 税額合計 | 5,078,750円 |
制限がなければ収用4,000万円・マイホーム3,000万円を控除でき、税額は1,015,750円(課税長期譲渡所得金額500万円)。総枠5,000万円の制限で、税額は4,063,000円多くなります。
だからこそ「売る年をずらす」という選択肢が生まれます
マイホームの売却を翌年にできたら、どうなるでしょうか。
- 1年目:収用等の譲渡益4,000万円 − 特別控除4,000万円 = 0円
- 2年目:マイホームの譲渡益3,500万円 − 特別控除3,000万円 = 500万円
総枠はその年ごとに5,000万円です。年をまたげば、それぞれ満額を使えます。ただし「売る時期を自由に決められる場合」の話で、実際には次の制約があります。
- 収用等の特例は、買取りの申出を受けた日から6か月以内に売るという条件があります
- マイホームの特例は、住まなくなった日から一定期間内に売る条件があります
- 買主の都合や資金計画で、売る時期を動かせないことも多くあります
ポイント
「同じ年に2件売る」と気づいた時点で試算すれば、選択肢を検討できます。契約を結んだあとでは、もう動かせません。
実務で注意する3つの点
- 譲渡日は引渡日か契約日かで年分が変わる──原則は引渡しの日ですが、契約の効力発生日を選ぶこともでき、この選択で2件が同じ年になるか別の年になるかが変わります
- 確定申告が要件になっている特例がある──必要書類を付けて申告しなければ特例は使えず、控除前の金額で課税されます
- 特別控除前の金額が他の判定に影響する──「合計所得金額」は特別控除前の金額で計算されるため、配偶者控除・扶養控除の判定や国民健康保険料の計算に影響することがあります
当事務所の進め方
複数の譲渡がある案件は、次の順序で検討します。
- 譲渡の棚卸し──その年に譲渡したもの、譲渡する予定のものをすべて洗い出します
- 該当する特例の特定──No.3223の(1)〜(7)のどれに該当し、要件を満たすかを確認します
- 総枠のシミュレーション──(1)から順に枠を消費させ、控除しきれない部分がいくら残るかを計算します
- 時期の検討──契約前であれば、譲渡時期をずらす選択肢が取れるかを検討します
この検討は契約前でなければ意味がありません。複数の不動産の売却をお考えなら、早めにご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 特別控除の合計が5,000万円を超えるとき、どの特例を優先するか選べますか?
選べません。公共事業の5,000万円控除、マイホームの3,000万円控除、特定土地区画整理事業の2,000万円控除の順に行います(国税庁タックスアンサーNo.3223)。
Q2. 夫婦それぞれが不動産を売った場合も、合わせて5,000万円までですか?
いいえ。所得税は一人ひとり別に計算するため、5,000万円の総枠も一人ずつ判定します。共有の不動産も持分に応じて計算します。
Q3. 譲渡益が特別控除額より少ないとき、余った控除枠は翌年に繰り越せますか?
繰り越せません。特別控除額は特例ごとの譲渡益が上限で、使い切れない部分は翌年に持ち越せません。譲渡損失の繰越控除とは別の制度です。
Q4. 同じ年に短期譲渡と長期譲渡がある場合、控除はどちらから引きますか?
特別控除は、各特例の対象となる譲渡益から差し引きます。控除の当て方は税額に影響するため、申告前に税理士にご確認ください。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。各特別控除の適用要件・適用期限は改正されることがあり、実際の適用可否は個々の事案の内容によって判断されます。記事中の税額は記載した前提に基づく試算であり、実際の税額を保証するものではありません。具体的な事案については必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.3223「譲渡所得の特別控除の種類」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3223.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3202「譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3202.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3211「短期譲渡所得の税額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3211.htm
- 租税特別措置法33条の4・35条・36条ほか(譲渡所得の特別控除)e-Gov法令検索
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同じ年に複数の不動産を売る予定がある方へ
特別控除の年間5,000万円という総枠は、契約を結んでからでは動かせません。複数の売却をお考えの段階でご相談いただければ、税額を試算したうえで選択肢をご提示できます。初回のご相談は無料です。
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