この記事のポイント
- 保険料の扱いは資産計上・給与・2分の1損金の3つに分かれます
- 区分は死亡・生存保険金の受取人だけで決まります(法人税基本通達9-3-4)
- 2分の1が損金になるのは(3)の形だけ。ただし書きに要注意です
- 資産計上した2分の1は契約終了まで残る、資金準備の制度です
まず結論:3つの分かれ道は「保険金の受取人を誰にしたか」だけで決まります
会社が養老保険の保険料を払ったときの扱いは、全額を資産に計上するか、全額が被保険者への給与になるか、2分の1を資産に計上して残りを経費にするかの3つに分かれます。決め手は保険金額でも保険期間でもなく、死亡保険金と生存保険金の受取人を誰にしたかだけです。
退職金や弔慰金を養老保険で準備する形は「福利厚生プラン」と呼ばれますが、通達に出てくる言葉ではありません。根拠は法人税基本通達9-3-4です。
- 死亡・生存保険金とも受取人が会社 → (1)保険料は資産に計上します
- 両方とも受取人が被保険者またはその遺族 → (2)保険料はその人への給与になります
- 死亡保険金は被保険者の遺族、生存保険金は会社 → (3)2分の1は資産に計上し、残額は損金に算入します
2分の1を損金にできるのは(3)の形だけです。その(3)にはただし書きが付いており、ここが最大の落とし穴です。
その前に:養老保険の通達は9-3-4です。ほかの通達と混ざりやすい
法人保険は通達がいくつも並んでいて混ざりやすいので、先に切り分けます。
| 保険の種類・場面 | 取扱いを定めている通達 |
|---|---|
| 養老保険 | 9-3-4(この記事で扱うもの) |
| 定期保険・第三分野保険 | 9-3-5、9-3-5の2 |
| 定期付養老保険等 | 9-3-6(9-3-4の対象から外れます) |
| 払済保険への変更 | 9-3-7の2 |
令和元年の通達改正で大きく動いたのは定期保険・第三分野保険の取扱いで、養老保険の9-3-4は別の通達です。改正の流れは令和元年の通達改正で何が変わったかに、払込みを止める「払済保険への変更」(9-3-7の2)は払済保険に変更したときの益金・損金にまとめています。
9-3-4の本文は「9-3-6に定める定期付養老保険等を含まない」としており、定期保険が組み合わさった契約は9-3-6という別の取扱いです。また令第135条(確定給付企業年金等の掛金等の損金算入)の規定の適用がある保険料も、9-3-4の対象から除かれます。
法人税基本通達9-3-4の原文を読む
遠回りに見えますが、原文を一度そのまま読むのが確実です。
法人が、自己を契約者とし、役員又は使用人(これらの者の親族を含む。)を被保険者とする養老保険(被保険者の死亡又は生存を保険事故とする生命保険をいい、特約が付されているものを含むが、9-3-6に定める定期付養老保険等を含まない。……)に加入してその保険料(令第135条《確定給付企業年金等の掛金等の損金算入》の規定の適用があるものを除く。……)を支払った場合には、その支払った保険料の額(特約に係る保険料の額を除く。)については、次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次により取り扱うものとする。(法人税基本通達9-3-4)
対象は会社が契約者となり、役員または使用人(親族を含みます)を被保険者とする養老保険で、特約に係る保険料の額はこの取扱いから除かれます。死亡保険金は「被保険者が死亡した場合に支払われる保険金」、生存保険金は「被保険者が保険期間満了の日などに生存している場合に支払われる保険金」と定義されており、この2つを分けて見るのが9-3-4を読むこつです。
3つの分かれ道を表で確かめる
(1)(2)(3)の原文はそれぞれ次のとおりです。
(1) 死亡保険金(……)及び生存保険金(……)の受取人が当該法人である場合 その支払った保険料の額は、保険事故の発生又は保険契約の解除若しくは失効により当該保険契約が終了する時までは資産に計上するものとする。
(2) 死亡保険金及び生存保険金の受取人が被保険者又はその遺族である場合 その支払った保険料の額は、当該役員又は使用人に対する給与とする。
(3) 死亡保険金の受取人が被保険者の遺族で、生存保険金の受取人が当該法人である場合 その支払った保険料の額のうち、その2分の1に相当する金額は(1)により資産に計上し、残額は期間の経過に応じて損金の額に算入する。(法人税基本通達9-3-4)
| 区分 | 死亡保険金の受取人 | 生存保険金の受取人 | 支払った保険料の額の取扱い |
|---|---|---|---|
| (1) | 会社 | 会社 | 契約が終了する時まで資産に計上 |
| (2) | 被保険者またはその遺族 | 被保険者またはその遺族 | その役員・使用人に対する給与 |
| (3) | 被保険者の遺族 | 会社 | 2分の1は資産に計上し、残額は期間の経過に応じて損金 |
(1)は保険金を全部会社が受け取る形で、契約終了時まで資産計上のため払った時点では経費になりません。(2)は保険金を全部、被保険者や遺族が受け取る形で、保険料はその役員・使用人への給与になります。
(3)は死亡保険金が遺族へ、満期の保険金が会社へ渡る形です。この形だけが、2分の1を資産に計上し、残額を期間の経過に応じて損金に算入できます。いわゆる福利厚生プランと呼ばれるのは、この(3)の形です。
最大の落とし穴 ―― (3)に付いているただし書き
(3)には、続けて次のただし書きが付いています。
ただし、役員又は部課長その他特定の使用人(これらの者の親族を含む。)のみを被保険者としている場合には、当該残額は、当該役員又は使用人に対する給与とする。(法人税基本通達9-3-4(3))
注意
被保険者が「役員又は部課長その他特定の使用人(これらの者の親族を含む。)のみ」になっている場合には、損金に算入できるはずだった残額が、その人への給与になってしまいます。誰を被保険者にしているかという契約の実態で判定され、肩書の名前だけでは決まりません。
ただし書きに当たっても、2分の1を資産に計上するところは変わりません。給与になるのは残額のほうです。会社の損金が消え、代わりに被保険者となった人の給与が増えるため、その人の所得税・住民税の負担も増えます。契約を組む前に確認しておくべき点で、加入してから気づいても、すでに払った保険料の処理をさかのぼって変えることはできません。
数値で見ると、どれくらい違うのか
以下は一定の前提を置いた目安です。被保険者が従業員10名、1人あたりの年間保険料が60万円、年間の保険料の合計が600万円、特約はなし、とします。
| 区分 | 資産に計上 | 損金 | 給与 |
|---|---|---|---|
| (1)死亡・生存とも受取人が会社 | 6,000,000円 | 0円 | ― |
| (2)死亡・生存とも受取人が被保険者側 | 0円 | 0円 | 6,000,000円 |
| (3)死亡は遺族・生存は会社 | 3,000,000円 | 3,000,000円 | ― |
| (3)だがただし書きに当たる場合 | 3,000,000円 | 0円 | 3,000,000円 |
同じ600万円でも、受取人の決め方ひとつで損金が300万円になったり0円になったりします。ただし書きに当たれば、その300万円は損金ではなく給与です。実効税率30%なら、税額でおよそ90万円の差になります(実効税率は会社により異なります)。
計算例
例:対象者を役員3名だけにした場合
年間保険料 60万円 × 3名 = 180万円(3)の形にしていても、ただし書きに当たれば資産に計上する額が90万円、給与が90万円、損金は0円です。
「2分の1が損金」の限界 ―― これは資金を用意する話です
2分の1を損金に算入できる取扱いは、税金が消える仕組みではありません。残り2分の1は契約が終了する時まで資産に計上され続けます。年300万円なら、5年で1,500万円が資産として積み上がる計算です。
(3)の形では生存保険金の受取人は会社です。満期を迎えれば会社の収入になります。退職金の支払いと時期がずれれば、収入だけが先に立つこともあります。
ポイント
この形の意味は「税金が減ること」ではなく、退職金や弔慰金を実際に払う日のために資金を用意しておくことにあります。そのうえで保険料の一部が期間の経過に応じて損金になる、という順番です。
従業員の退職金を用意する方法は養老保険だけではありません。中小企業退職金共済(中退共)を使う形もあり、掛金の扱いも出口での受け取り方も違います。中退共で従業員の退職金を準備すると読み比べてみてください。設計は個社ごとに異なります。
自社の契約を確かめる手順と、よくある失敗
確かめる手順
- 契約者が会社かを保険証券で確かめます
- 被保険者を一覧にし、役員・部課長だけになっていないか、親族の有無を見ます
- 死亡保険金の受取人と生存保険金の受取人を別々に確かめます。ここが分かれ道です
- 特約の有無と、養老保険か9-3-6の定期付養老保険等かを確かめます
- 総勘定元帳と申告書で、これまでの経理処理が区分と合っているか突き合わせます
よくある失敗
- 「福利厚生プランだから2分の1が損金」と思い込む。通称ではなく受取人で判断します
- 対象者を役員や部長以上に限定する。(3)のただし書きにまっすぐ当たります
- 死亡保険金の受取人を会社のままにしている。それだと(1)で、損金は生じません
- 受取人を変更したのに経理処理を見直していない。区分は受取人で決まります
ここから先は、保険証券と過去の経理処理を実際に見ないと判断できません。とくに「役員又は部課長その他特定の使用人のみを被保険者としている場合」に当たるかどうかは、人員構成を見たうえでの判断です。一般論としてお伝えできるのは、この記事のところまでです。
養老保険の福利厚生プランについて小松公認会計士・税理士事務所ができること
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よくある質問(FAQ)
Q1. 福利厚生プランにすれば、保険料の2分の1は必ず損金になるのですか?
いいえ。2分の1が損金になるのは、死亡保険金の受取人が遺族、生存保険金の受取人が会社である(3)の場合だけです(法人税基本通達9-3-4)。(1)は全額資産計上、(2)は全額給与になります。まず保険証券の受取人欄をご確認ください。
Q2. 役員だけを被保険者にして加入していました。どうなりますか?
9-3-4(3)のただし書きに当たります。損金にできるはずの残額は、その役員に対する給与になります。2分の1の資産計上は変わりません。実際の当てはめは人員構成を見たうえでの判断ですので、保険証券をお持ちのうえご相談ください。
Q3. 従業員が亡くなり、ご遺族が死亡保険金を受け取りました。税金はどうなりますか?
本記事は会社が支払う保険料の法人税上の扱いを整理したものです。ご遺族が受け取った保険金側の課税関係は本記事では扱っていません。会社から支給する死亡退職金や弔慰金の考え方は死亡退職金と弔慰金で整理しています。
Q4. 定期保険や医療保険と、養老保険は扱いが違うのですか?
違います。養老保険は9-3-4、定期保険・第三分野保険は9-3-5(前払部分が多額なら9-3-5の2)、定期付養老保険等は9-3-6、払済保険への変更は9-3-7の2と、それぞれ別の通達です。令和元年の改正で動いたのは定期保険側で、養老保険の9-3-4は別枠組みです。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。本記事は、会社が契約者となり役員または使用人を被保険者とする養老保険の保険料について、法人税基本通達9-3-4が定める取扱いを扱っています。保険会社名・商品名・解約返戻率の水準といった商品性、法人税基本通達9-3-5および9-3-5の2が定める定期保険・第三分野保険の資産計上割合や区分、9-3-6の定期付養老保険等の具体的な内容、被保険者のご遺族が死亡保険金を受け取った場合の相続税の取扱い、会社が満期保険金や解約返戻金を受け取った事業年度の益金の額の計算、給与とされた場合の源泉徴収の具体的な計算については、本記事では扱っていません。記事中の数値例は一定の前提を置いた目安であり、実際の金額は契約の内容と会社の状況によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 法人税基本通達 9-3-4「養老保険に係る保険料」https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_03.htm
- 国税庁 法人税基本通達 9-3-5「定期保険及び第三分野保険に係る保険料」https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_03.htm
- 国税庁 法人税基本通達 9-3-5の2「定期保険等の保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合の取扱い」https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_03.htm
- 国税庁 法人税基本通達 9-3-7の2「払済保険へ変更した場合」https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_03.htm
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