この記事のポイント
- 税務上の繰延資産は、創立費など会計上の5つより範囲が広く、施行令第14条第1項第6号が定めます
- 事務所の礼金・権利金は繰延資産、仲介手数料は払った期の損金です(No.5460)
- 20万円未満なら契約ごとの判定で全額損金にできます(施行令134条・通達8-3-8)
- 解約時は未償却残額を一括で損金にできます(通達8-3-6)。出口も要確認です
まず結論:礼金・権利金は、払った期の経費にはなりません
事務所や店舗を借りたとき、敷金とは別に払った礼金や権利金を、支払手数料や地代家賃としてその期に全額経費にしていないでしょうか。
建物を借りるために払った権利金・礼金・立退料は、原則として「繰延資産」になります。払った期に全額を損金にすることはできず、決められた期間にわたって少しずつ損金にしていきます。
ただし逃げ道もあります。支出する金額が20万円未満であれば、支出した期に全額を損金にできます。その判定は契約ごとに行います。
「繰延資産」は2階建てです
繰延資産と聞いて多くの社長が思い浮かべるのは創立費や開業費でしょう。ですが税務上の繰延資産は、それよりずっと広い範囲です。
1階部分 ―― 会計でもおなじみの5つ
法人税法施行令第14条第1項第1号から第5号が挙げる5つです。
- 創立費 発起人報酬や設立登記の登録免許税など、法人設立のための費用
- 開業費 設立後、開業準備のために特別に支出する費用
- 開発費 新技術・新経営組織の採用や市場開拓のための費用
- 株式交付費 自己の株式の交付のための費用
- 社債等発行費 債券の発行のための費用
2階部分 ―― 税務だけにある広い受け皿
同じ第14条第1項の第6号は次のように定めます。
六 前各号に掲げるもののほか、次に掲げる費用で支出の効果がその支出の日以後一年以上に及ぶもの
イ 自己が便益を受ける公共的施設又は共同的施設の設置又は改良のために支出する費用
ロ 資産を賃借し又は使用するために支出する権利金、立ちのき料その他の費用
ハ 役務の提供を受けるために支出する権利金その他の費用
ニ 製品等の広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用
ホ イからニまでに掲げる費用のほか、自己が便益を受けるために支出する費用(法人税法施行令第14条第1項第6号)
事務所の礼金も、商店街のアーケードの負担金も、この第6号に入ります。共通条件は「支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶもの」という一句です。資産の取得価額になるものと前払費用は、そもそも繰延資産ではありません。
事務所・店舗の礼金と権利金 ―― 仲介手数料との決定的な違い
国税庁タックスアンサーNo.5460「建物を賃借するための権利金等」はこう説明しています。
法人が建物を賃借するために支払った権利金、立退料などの費用で支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶものは、繰延資産となります。
ただし、建物の賃借に際して不動産業者などに支払った仲介手数料については、その支払った日の属する事業年度の損金の額に算入することができます。(国税庁タックスアンサーNo.5460)
同じ賃貸借契約のために同じ日に払ったお金でも、扱いが違います。
| 支払ったもの | 税務上の扱い |
|---|---|
| 権利金・礼金 | 繰延資産(償却期間にわたって損金) |
| 立退料 | 繰延資産(償却期間にわたって損金) |
| 不動産業者に払った仲介手数料 | 支払った日の属する事業年度の損金にできる |
法人税基本通達8-1-5も同じ扱いを定めたうえで、注書きで仲介手数料は支払った日の属する事業年度の損金にできるとしています。
償却期間は3つに分かれます
- 1 新築に際して支払った権利金等で、賃借部分の建設費の大部分に相当し、建物が存続する期間中は賃借できる場合……建物の耐用年数の10分の7
- 2 上記1以外で、明渡しに際して借家権として転売できる場合……賃借後の見積残存耐用年数の10分の7
- 3 上記1・2以外……5年
事務所や店舗を借りるときの礼金は、多くの場合3の「5年」です。契約による賃借期間が5年未満で、更新に際して再び権利金等の支払を要することが明らかなときは、その賃借期間になります。償却期間に1年未満の端数があるときは切り捨てます。
20万円未満なら、払った期に全額損金にできます
法人税法施行令第134条により、支出する金額が20万円未満であれば、支出した期に全額を損金にできます。
内国法人が、第六十四条第一項第二号(均等償却を行う繰延資産)に掲げる費用を支出する場合において、当該費用のうちその支出する金額が二十万円未満であるものにつき、その支出する日の属する事業年度において損金経理をしたときは、その損金経理をした金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。(法人税法施行令第134条)
条件は支出する金額が20万円未満であること、そして支出する日の属する事業年度において損金経理をすることです。
ポイント
20万円未満かどうかは契約ごとに判定します(法人税基本通達8-3-8)。本店契約Aの礼金198,000円、営業所契約Bの礼金220,000円の場合、合計418,000円でも合算では判定しません。契約Aは損金経理をすればその期に全額損金、契約Bは繰延資産として償却します。
共同的施設の設置費用(第6号イ)は一の設置計画・改良計画ごとで、2回以上に分割して支出する場合は見積り合計額で判定します。分けて払えば20万円未満になる、という話ではありません。
数字で見る ―― 期の途中で払ったときの月割り
繰延資産になった場合、その期にいくら損金にできるのか。No.5460の注2が計算方法を定めています。
償却限度額は、繰延資産の額を償却期間の月数で割ったものに、その事業年度の月数を掛けて計算した金額となります。
ただし、事業年度の中途での支出の場合は、「その事業年度の月数」は支出の日から事業年度末までの月数となります。この場合、月数は暦に従って計算し、1か月に満たない端数はこれを1か月とします。(国税庁タックスアンサーNo.5460 注2)
端数は切り上げです。切り捨てではありません。実際に計算してみます。以下は一定の前提を置いた目安であり、実際の金額は契約内容と償却期間によって変わります。
計算例
例:3月決算の会社が令和8年10月20日に店舗の礼金1,200,000円を支払った場合(償却期間5年=60か月)
1,200,000円 ÷ 60か月 = 20,000円(1か月あたり) 10月20日から3月末までは5か月+1か月に満たない端数を切り上げて6か月 20,000円 × 6か月 = 120,000円(第1期の償却限度額)第1期の損金は120,000円(12万円)にとどまり、残る1,080,000円は翌期以降にまわります。
| 事業年度 | 対象月数 | 償却限度額 | 期末の未償却残額 |
|---|---|---|---|
| 第1期(令和8年10月20日支出) | 6か月 | 120,000円 | 1,080,000円 |
| 第2期 | 12か月 | 240,000円 | 840,000円 |
| 第3期 | 12か月 | 240,000円 | 600,000円 |
支払手数料としてそのまま経費にしてしまうと誤りです。損金にするには確定申告書に繰延資産の償却額の計算に関する明細書(別表16(6))を添付する必要があります。科目は償却費でなくても構いません(通達8-3-2)。
同業者団体の加入金と会費 ―― 3つに分けて考えます
組合や協会に入るときに払う加入金も、繰延資産になることがあります。国税庁タックスアンサーNo.5382「同業者団体等の加入金と会費の取扱い」の整理です。
加入金
- その地位を他に譲渡できるもの、出資の性質を有するもの……譲渡または脱退するまで資産に計上
- 上記以外のもの……繰延資産(償却期間は5年)。支出金額が20万円未満なら損金経理で全額損金算入
「その地位を売れるかどうか」が資産計上と繰延資産の分かれ目です。法人税基本通達8-1-11も同じ扱いです。ゴルフクラブの入会金は考え方が異なります(法人が払ったゴルフ会員権の入会金の取扱い)。
会費
- 通常会費 広報活動・調査研究・研修指導・福利厚生など経常的な業務運営のための会費。支出した事業年度の損金
- その他の会費 会館の取得・改良、共済、懇親、政治献金などの会費。前払費用とし、団体がその支出をした日に費途に応じて損金化
通常会費にも例外があります。不相当に多額の剰余金が生じていれば、その剰余金が適正な額になるまで前払費用とされ損金に算入されません。
間違えやすい「隣」―― 携帯電話の事務手数料と、商店街の負担金
携帯電話の契約事務手数料は、繰延資産ではありません
会社で携帯電話を契約したときに払う契約事務手数料は、繰延資産だと思われがちですが違います。国税庁タックスアンサーNo.5383「携帯電話等の加入費用の取扱い」の説明です。
この手数料は、原則として、無形減価償却資産である電気通信施設利用権の取得価額として資産計上し、耐用年数に応じて減価償却することとなります。
電気通信施設利用権の耐用年数は20年ですが、減価償却資産の取得価額が10万円未満である場合には、事業の用に供した事業年度において損金経理をすることを要件として、その取得価額の全額を損金の額に算入することができます。(国税庁タックスアンサーNo.5383)
ここは繰延資産ではなく減価償却資産の世界で、基準も20万円ではなく10万円です。実際の契約事務手数料は10万円未満であることがほとんどで、損金経理をすれば全額損金という結論になる場面が多いでしょう(少額減価償却資産の特例と一括償却資産の使い分け)。
商店街のアーケードや、公共的施設の負担金
法人税基本通達8-2-3は、商店街等における共同のアーケード、日よけ、アーチ、すずらん灯等で一般公衆の用にも供されるものの償却期間を5年(耐用年数が5年未満ならその耐用年数)とします。
一方、法人税基本通達8-1-13は、国・地方公共団体・商店街等が行う街路の簡易舗装、街灯、がんぎ等の簡易な施設で主として一般公衆の便益に供されるもののための負担金は繰延資産としないで支出した期の損金にできるとします。
注意
国税庁タックスアンサーNo.5462「公共的施設などの負担金」は、施設の設置等により土地の価格が上昇した場合、土地所有者・借地権者である法人が国や地方公共団体に納付するものは、土地の取得価額に算入するとしています。「負担金だから繰延資産」と決めつけられません。
出口を忘れない ―― 解約したら未償却残額を一括で損金に
繰延資産は入り口だけの話ではありません。途中でやめたときの扱いまで押さえて、はじめて完結します。法人税基本通達8-3-6が定めています。
繰延資産とされた費用の支出の対象となった固定資産又は契約について滅失又は解約等があった場合には、その滅失又は解約等があった日の属する事業年度において当該繰延資産の未償却残額を損金の額に算入する。(法人税基本通達8-3-6)
先ほどの例では、第3期末の未償却残額は600,000円でした。この店舗の賃貸借契約を第4期に解約したとすると、その事業年度において未償却残額を損金の額に算入することになります。
注意
移転や店じまいのときに、帳簿に残った繰延資産の存在を誰も思い出さないまま資産計上され続けているケースを見かけます。払った期に無理に全額を経費にしてしまうと、解約時に損金にできる残額が帳簿に残りません。正しく資産に立てておくからこそ、出口で使えます。
実務では、この順番で確認してください
- 請求書の内訳を項目ごとに分ける。「初期費用一式」でまとめない
- 仲介手数料を先に抜き出す(No.5460)
- 権利金・礼金が20万円未満かを、契約ごとに見る(8-3-8)
- 20万円以上なら償却期間を決め、期の途中の支出は月割りする。別表16(6)を申告書に添付します
- 移転・解約のときは、繰延資産の残高を確認する(8-3-6)
実際の契約書は、これほどきれいに分かれていません。「礼金」と書かれていても実質は前家賃であることもあれば、「保証金」のうち返還されない部分が権利金と同じ性質を持つこともあります。どの費用がどの号に当たり、償却期間を何年と見積るのかは契約書の条項を読んで判断する仕事で、個社ごとに答えが違います(決算3か月前から考える利益の見通しと打ち手)。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 事務所を借りたときの礼金は、払った期の経費にできますか?
原則、繰延資産として償却期間にわたり損金にします(No.5460)。ただし契約ごとに支出額が20万円未満なら、支出した期に全額損金にできます(施行令134条・通達8-3-8)。
Q2. 仲介手数料も繰延資産になりますか?
いいえ。仲介手数料は支払った日の属する事業年度の損金にできます(No.5460、通達8-1-5)。請求書の内訳を項目ごとに分けて記録しておくことが実務の出発点です。
Q3. 事業年度の途中で権利金を払いました。その期はいくら損金にできますか?
月割りで計算し、1か月に満たない端数は切り上げます(No.5460注2)。例:礼金1,200,000円・償却期間60か月なら、6か月分で120,000円です。
Q4. 契約を解約したら、まだ償却していない部分はどうなりますか?
解約した事業年度で未償却残額を一括して損金にできます(通達8-3-6)。移転・解約のときは必ず繰延資産の残高をご確認ください。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。本記事は、法人税法施行令第14条第1項が定める繰延資産の範囲、建物を賃借するために支出する権利金・礼金・立退料の取扱いと償却期間、20万円未満の繰延資産の損金算入と契約ごとの判定、事業年度の中途で支出した場合の月割計算、同業者団体等の加入金と会費の区分、携帯電話の契約事務手数料の取扱い、公共的施設・共同的施設の負担金、および解約時の未償却残額の損金算入という基本的な枠組みを扱っています。個人事業主の所得税における繰延資産の取扱い、創立費・開業費・開発費・株式交付費・社債等発行費の償却方法、ノウハウの頭金その他の個別項目の細目、宅地開発等に際して支出する開発負担金等の細目、資産の種類ごとの耐用年数、消費税の取扱い、および法人の実効税率については、本記事では扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の金額は契約内容・償却期間・支出の時期によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 タックスアンサー No.5460「建物を賃借するための権利金等」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5460.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.5382「同業者団体等の加入金と会費の取扱い」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5382.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.5383「携帯電話等の加入費用の取扱い」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5383.htm
- 国税庁 法人税基本通達 第8章第1節「繰延資産の意義及び範囲等」(8-1-5・8-1-11・8-1-13)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/08/08_01.htm
- e-Gov法令検索 法人税法施行令(第14条 繰延資産の範囲・第134条 少額な繰延資産の損金算入)https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000097
賃貸借契約書と請求書をお持ちいただければ、その場で切り分けます
事務所や店舗を借りたときに払ったお金は、権利金・礼金、仲介手数料、敷金・保証金、前家賃が混ざっています。同じ日に同じ相手へ払っていても、その期の損金にできるもの、5年かけて損金にしていくもの、そもそも経費にならないものに分かれます。20万円未満かどうかは契約ごとに判定し、期の途中で払ったときは1か月未満を切り上げて月割りします。さらに、契約をやめたときには未償却残額を一括で損金にできます。契約書の条項と請求書の内訳をお聞かせいただければ、費目の分け方、償却期間の見積り、別表16(6)の作り方まで整理してお伝えします。代表税理士が直接ご対応します。
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