この記事のポイント
- 決算前にできる代表的な打ち手は短期前払費用・決算賞与・少額減価償却資産・経営セーフティ共済の4つです
- 短期前払費用は支払日から1年以内の前払いに限り、毎年継続が条件です(通達2-2-14)
- 決算賞与は通知・1か月以内の支払い・損金経理の3条件で未払いのまま経費にできます(No.5350)
- 🔴 4つとも、多くは課税の先送り(繰延べ)です。現金は先に出ていきます。使う前に戻る時期を決めましょう
まず結論:決算対策は「決算日の前」しかできません
決算日を過ぎてしまうと、打てる手はほとんど残りません。法人税は事業年度が終わった時点の利益にかかるため、決算日の後にできるのは取引を正しく集計することだけです。
決算日の3か月前なら、その年の着地が見えてきます。支出・賞与・設備投資の時期を動かす判断が間に合います。
※以下の4つの打ち手は、条件とその先に何が起きるかをセットでご確認ください。

打ち手① 短期前払費用(法人税基本通達2-2-14)
前払費用は原則としてその年の経費になりませんが、通達は次の例外を認めています。
法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。
要件は3つです
- 継続的にサービス(役務)の提供を受ける契約であること
- 支払った日から1年以内に受けるサービスの分であること
- その処理を毎年続けていること(今年だけの利用はできません)
効果があるのは「最初の1年」だけです
月20万円の家賃を例に見てみます。
| 事業年度 | 通常の処理 | 短期前払費用を使った場合 |
|---|---|---|
| 1年目 | 240万円(当期12か月分) | 480万円(当期12か月分+翌期12か月分を前払い) |
| 2年目 | 240万円 | 240万円(前期分はすでに損金済み) |
| 3年目以降 | 240万円 | 240万円 |
経費が増えるのは初年度の240万円だけです。法人税の年800万円以下の部分の税率15パーセント(国税庁タックスアンサーNo.5759)で計算すると、初年度の法人税は36万円減ります(地方税は別途)。その代わり、決算月に240万円の現金が余分に出ていきます。
注意
対象外になるもの
借入金を預金や有価証券等に運用する場合の支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものは対象外です。商品の仕入代金の前払いも該当しません。
打ち手② 決算賞与(未払計上)
決算月までに実際に払えなくても、一定の条件をすべて満たせば、その年の経費にできます。国税庁タックスアンサーNo.5350によると、従業員に支給額を通知した日の属する事業年度の経費になります。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| (1)通知 | 各人別に、同時期に支給を受けるすべての使用人に通知していること |
| (2)支払 | 通知をした事業年度終了の日の翌日から1か月以内に支払っていること |
| (3)経理 | 通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていること |
最も多い失敗は「支給日在職要件」です
法人が支給日に在職する使用人のみに賞与を支給することとしている場合のその支給額の通知は、ここでいう「通知」には該当しません。
就業規則に「支給日に在籍」とあると通知の条件を満たしません。金額を決める前に規程の文言を確認するのが正しい順序です。役員賞与は別扱いで、使用人兼務役員の従業員部分のみ対象です。

打ち手③ 少額減価償却資産(令和8年4月1日以後は40万円未満)
青色申告の中小企業などが少額資産を買って事業供用した場合、一度に経費にできる特例です(措法67の5)。令和8年度税制改正で拡充され、国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」(令和8年5月27日時点の公布法令に基づく)は次のとおりです。
| 取得等の時期 | 取得価額の基準 | 対象法人 |
|---|---|---|
| 令和8年3月31日以前 | 30万円未満 | 常時使用従業員数500人超は対象外 |
| 令和8年4月1日以後 | 40万円未満 | 常時使用従業員数400人超は対象外 |
適用期限も3年延長されました。年間の合計額300万円が上限である点は変わっていません(事業年度が1年に満たない場合は月数で按分)。
注意
タックスアンサーの表示と異なります
タックスアンサーNo.5408は令和7年4月1日時点の法令に基づくため、30万円未満のまま表示されています。40万円未満への引上げは上記の改正資料と措法67の5・改正法附則65によるものです。購入前に最新資料をご確認ください。
見落とされやすい3点
- 実際に事業で使い始めていることが必要です。決算月に購入し、箱を開けずに置いてあるだけでは適用できません
- 令和4年4月1日以後の取得等は、貸付け(主要な事業として行うものを除く)用は対象外です
- 確定申告書等に別表16(7)の添付が必要です
たとえば35万円のパソコンを令和8年4月1日以後に取得すれば、35万円が全額経費になります。税率15パーセントで法人税は52,500円減ります(地方税は別途)。数年で経費にするはずのものが早く経費になるだけという点に注意してください。
打ち手④ 経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)
取引先の倒産時に借入れができる共済制度で、掛金を経費にできます。掛金は月額5,000円から20万円の範囲(5,000円単位)、総額800万円まで積み立てられ、前納期間1年以内の掛金は支払った年の経費にできます。
月20万円で12か月分(240万円)を前納すれば、その年に240万円の経費が立ちます。総額800万円が上限で、この水準では3年4か月ほどで上限に達します。
注意
令和6年10月1日以後の再加入には2年の制限があります
令和6年10月1日以降に解除し再加入した場合、解除の日から2年を経過するまでの掛金は経費にできません(租税特別措置法28条・66条の11の改正)。「解約してすぐ入り直す」使い方はできません。
解約手当金は益金になります
解約したときに受け取る解約手当金は収益(益金)です。積んだ年の税負担が下がっても、解約した年に同じだけ利益が乗ります。利益の出方を調整する道具であり、決めるべきは「いつ、何と相殺して解約するか」です。
4つに共通する3つの限界
1. ほとんどが「課税の先送り」です
税額が永久に消えるわけではありません。「今期の税金を減らす」ことと「生涯の税負担を減らす」ことは別の話です。
2. 現金は先に出ていきます
240万円の経費で法人税は36万円ほど減りますが、同額の現金が会社の外に出ます。納税は資金流出のうち最も少ない部類であるという事実は、決算期には忘れられがちです。
3. 翌期以降の選択肢を狭めることがあります
短期前払費用は続けることが条件で、いったん始めるとやめられません。経営セーフティ共済は上限800万円で経費が立たなくなり、解約の設計だけが残ります。1年目でなく3年後・5年後の姿で選ぶのが正しい順序です。
決算日を過ぎてからでもできること・できないこと
| 内容 | |
|---|---|
| できないこと | 短期前払費用の支払い・少額減価償却資産の取得と事業供用・経営セーフティ共済の掛金支払い(いずれも決算日までが要件) |
| 条件つきでできること | 決算賞与(決算日までに通知と損金経理が済んでいれば、支払いは翌日から1か月以内で可) |
| できること | 計上漏れの費用の洗い出し、未払費用の計上、貸倒れ・除却などの確認、税額控除の適用漏れの確認 |
「計上漏れの洗い出し」は地味ですが、ここで見つかる金額のほうが大きいことがあります。費用の確定は次の3つで判断します(法人税基本通達2-2-12)。①債務が成立②給付原因の事実が発生③金額を合理的に計算できる――の3つです。
決算対策について小松公認会計士・税理士事務所ができること
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よくある質問(FAQ)
Q1. 決算月に翌期1年分の家賃をまとめて払えば、毎年その分だけ損金が増えますか?
増えるのは最初の1年だけです。2年目以降は前期分がすでに経費になっているため一定額に戻ります。始めると原則やめられない点にご注意ください。
Q2. 決算賞与を未払金に計上しましたが、就業規則に「支給日に在籍する者に支給する」と書いてあります。損金になりますか?
その事業年度の経費にはなりません。支給日在職者のみに支給する場合の通知は「通知」に当たらないためです。実際に支払った日の属する事業年度の経費になります。
Q3. 35万円のパソコンは全額を経費にできますか?
取得時期によります。令和8年4月1日以後の取得は40万円未満に引き上げられました。令和8年3月31日以前は30万円未満が基準のため、35万円のパソコンは対象外です。年間300万円が上限で、別表16(7)の添付も必要です。
Q4. 経営セーフティ共済を解約して、すぐ入り直せば毎年損金を立てられますか?
できません。令和6年10月1日以降に解除し再加入した場合、解除の日から2年を経過するまでの掛金は経費にできません。また解約手当金は収益(益金)になります。何と相殺するかを先に決めておく必要があります。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。少額減価償却資産の特例については、国税庁タックスアンサーNo.5408(令和7年4月1日現在法令等)の本文が改正前の30万円未満のまま表示されているため、国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」および措法67の5・改正法附則65に基づいて記載しています。各制度の適用可否は、法人の規模・青色申告の有無・契約内容など個別の事情によって結論が変わります。本記事では地方税を含めた実効税率による試算は行っていません。実際の判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁 法人税基本通達2-2-14「短期の前払費用」、2-2-12「債務の確定の判定」https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/02/02_02_02.htm
- 国税庁タックスアンサー No.5350「使用人賞与の損金算入時期」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5350.htm
- 国税庁タックスアンサー No.5408「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5408.htm
- 国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」(少額減価償却資産の取得価額基準の引上げ・適用期限の3年延長)https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/kaisei_gaiyo2026/pdf/A.pdf
- 国税庁タックスアンサー No.5759「法人税の税率」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm
- 独立行政法人 中小企業基盤整備機構「税制の特例に関する内容の変更について」(令和6年10月1日以後の再加入と掛金の取扱い)https://www.smrj.go.jp/kyosai/tkyosai/news/2024/aihbak0000001tdr.html
- 独立行政法人 中小企業基盤整備機構「経営セーフティ共済の掛金」https://kyosai-web.smrj.go.jp/customer/tkyosai/installment/
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