この記事のポイント
- 死亡退職金と弔慰金は別々の枠で判定します。「合計でいくらまで非課税」という数字はありません
- 死亡後3年以内に支給が確定した退職金が相続財産とみなされます(タックスアンサーNo.4117)
- 非課税限度額は500万円 × 法定相続人の数。相続人以外が受け取ると使えません(同No.4117)
- 弔慰金の枠は業務上の死亡なら普通給与の3年分、それ以外は半年分です(同No.4120)
まず結論:死亡退職金と弔慰金は、別々の枠で判定します
社長に万一があったとき、会社からご遺族へ渡すお金は「死亡退職金」と「弔慰金」の2つに分かれ、税務上はまったく別の枠で判定します。
- 死亡退職金の非課税限度額 = 500万円 × 法定相続人の数
- 弔慰金として扱われる範囲 = 業務上の死亡なら普通給与の3年分、業務上の死亡でないなら普通給与の半年分
2つは別の条文で決まっており、「合計でいくらまで非課税か」という一本の数字は存在しません。
ただし、弔慰金の枠を超えた部分は退職手当金等として扱われるため、両者は無関係ではありません(後述します)。
補足
この記事が扱う範囲
本記事は、受け取るご遺族の側の相続税の取扱いを中心に解説します。法人側で損金になる時期や限度(過大役員退職給与の判定など)は、役員退職金はいくらまで損金になる?功績倍率と分掌変更のときの落とし穴をご覧ください。

死亡退職金が相続税の対象になるのはどんなときか
被相続人の死亡後3年以内に支給が確定した退職手当金等が、相続財産とみなされて相続税の対象になります。
被相続人の死亡によって、被相続人に支給されるべきであった退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与を受け取る場合で、死亡後3年以内に支給が確定したものが対象です(タックスアンサーNo.4117)。実際の振込日ではなく、支給する金額が確定した時点で見ます。
対象になるのは2つのパターン
- 死亡退職で支給される金額が、死亡後3年以内に確定したもの(社長が在職中に亡くなる、もっとも多いパターン)
- 生前に退職していて、支給される金額が死亡後3年以内に確定したもの(退職金の額が決まらないまま亡くなった場合)
注意
支給の確定が遅れると、この枠組みから外れます。「いずれ出そう」と考えているうちに3年が過ぎると、想定と違う取扱いになるおそれがあります。いつまでに支給を確定させるかを、早い段階で押さえておきましょう。
非課税限度額は500万円×法定相続人の数
相続人が受け取った退職手当金等の合計額が「500万円 × 法定相続人の数」以下であれば、相続税はかかりません。限度額を超えた部分が課税対象になります。
ポイント
500万円 × 法定相続人の数 = 非課税限度額(国税庁タックスアンサーNo.4117)
計算例
例1:死亡退職金2,000万円・法定相続人3人(配偶者と子2人)
非課税限度額 = 5,000,000円 × 3人 = 15,000,000円課税対象になる金額 = 20,000,000円 - 15,000,000円 = 5,000,000円2,000万円のうち1,500万円は非課税。残りの500万円が課税対象になります。
これは課税対象になる金額であり、税額ではありません。税額は他の財産・法定相続人の数・特例で変わるため、この500万円だけを見て税額は出せません。
🔴 相続人以外が受け取ると、非課税の適用がありません
相続人以外の人が取得した退職手当金等には、非課税の適用がありません(タックスアンサーNo.4117)。受け取った全額が相続税の課税対象になります。
長年会社を支えてくれた方や、相続人にあたらないご親族へ支給する場合が典型です。「誰に支給するか」を決める段階で踏まえておく必要があります。
補足
法定相続人の数の数え方
「法定相続人の数」の数え方には別の定めがあり、実際の計算にあたっては個別に確認が必要です。
なお、生命保険の死亡保険金にも別の非課税枠がありますが、退職金の枠とは別に判定します(金額や要件はご相談時に確認します)。

弔慰金には別の枠があります
弔慰金はご遺族へのお悔やみとして渡すお金で、退職金とは性格が異なるため、税務上も別の枠で判定します。
業務上の死亡かどうかで分かれます
国税庁は、弔慰金として扱われる範囲を2つに分けて示しています(タックスアンサーNo.4120)。
| 業務上の死亡である場合 | 業務上の死亡でない場合 | |
|---|---|---|
| 弔慰金として扱われる範囲 | 死亡当時の普通給与の3年分に相当する額まで | 死亡当時の普通給与の半年分に相当する額まで |
| 超えた部分の扱い | 相続税の課税対象になる | 退職手当金等として相続税の課税対象になる |
計算例
例2:死亡当時の普通給与が月100万円の場合
業務上の死亡でない場合 = 1,000,000円 × 6か月分 = 6,000,000円まで弔慰金業務上の死亡である場合 = 1,000,000円 × 36か月分(3年分) = 36,000,000円まで弔慰金同じ月100万円の給与でも、600万円と3,600万円。6倍の差になります。
弔慰金の枠を超えた部分は「退職手当金等」として扱われます

業務上の死亡でない場合、普通給与の半年分を超える部分は退職手当金等として相続税の課税対象になります(タックスアンサーNo.4120)。「退職手当金等として」という言葉が大切で、死亡退職金の枠の話に合流します。
だから、通しで考える必要があります
- 会社が「弔慰金」という名目で支給した
- 普通給与の半年分までは、弔慰金として扱われる(業務上の死亡でない場合)
- 半年分を超えた部分は、退職手当金等として扱われる
- その部分は、死亡退職金と合わせて500万円×法定相続人の数の枠で判定する
ポイント
弔慰金の名目で多く渡せば有利、とは限りません。会社がつけた名前ではなく枠で扱いが決まり、超えた部分は退職手当金等の側に回ります。支給を決める段階で、死亡退職金と弔慰金を通しで見て金額を組み立てる必要があります。
「普通給与」に何が含まれるか
弔慰金の枠はすべて「普通給与」を基準に計算します。普通給与がいくらかが決まらないと、枠も決まりません。
補足
普通給与とは
俸給、給料、賃金、扶養手当、勤務地手当、特殊勤務地手当などの合計額をいいます(タックスアンサーNo.4120)。
「などの合計額」とあるとおり、列挙されたものに限らず合計額として捉える考え方です。
実務では給与規程と支給実績を確認します
会社によって手当の体系はさまざまなので、実務では給与規程と直近の支給実績で普通給与の額を固めます。ここが曖昧だと、どこまでが弔慰金でどこからが退職手当金等かを説明できなくなります。
社長の役員報酬の水準は、事業承継の設計そのものにも関わります。あわせて役員報酬と役員退職金の組み立て方もご覧ください。
会社としての備え 平時に整えておくこと

制度上の枠がいくらであっても、会社に支払う資力がなければ支給できません。原資・時間軸・規程の3点を、平時に整えておきます。
原資をどう用意するか
死亡退職金も弔慰金も、実際に会社から支払うお金です。社長に万一があった直後は、取引先・金融機関への対応や後継者への引継ぎで、会社に大きな負担がかかる時期です。そこでまとまった資金を用意できるかが、最初の論点です。
原資の準備の仕方は、会社の規模・利益水準・資金繰りによって適した形が変わります。具体的な設計は本記事では扱いません。
生前の退職金と、万一のときを通しで考える
ご勇退されて生前に退職金を受け取る道と、在職中に万一があって死亡退職金が支給される道。どちらに転んでも会社と家族が困らないよう、通しで見て組み立てておく必要があります。片方だけを考えていると、もう片方のときに規程が使えません。
整えておくべきものは3つ
- 役員退職慰労金規程。死亡退職の場合の取扱いが入っているか
- 弔慰金規程。業務上の死亡かどうかで金額が分かれる建て付けになっているか
- 支給の原資。実際に支払えるだけの手当てがあるか
支給の際には規程と決議の整備も必要です。誰が、いつ、いくらを、どういう根拠で決めたのかを残しておきます。どこまで用意するか、どういう建て付けにするかは会社ごとに変わるため、設計は弊所で組み立てます。
よくある失敗
実務で見かけるつまずきを、5つ挙げます。
1. 退職金規程・弔慰金規程がない
もっとも多いのがこれです。規程がないまま万一のときに慌てて決めることになり、動揺している時期に冷静な設計はできません。平時に作っておくことが何よりの備えです。
2. 支給額の根拠がない
規程はあっても、その金額になった根拠が説明できないケースです。在任年数・報酬水準・会社への貢献など、どういう考え方で組み立てた金額かを書面に残しておくことが大切です。
3. 死亡後3年を過ぎてから支給が確定した
相続財産とみなされるのは、死亡後3年以内に支給が確定したものです(タックスアンサーNo.4117)。「落ち着いてから」と先延ばしにするうちに3年が過ぎることは実際に起こりえます。確定時期は意識して管理する必要があります。
4. 相続人以外に支給した
相続人以外の人が取得した退職手当金等には、非課税の適用がありません(同No.4117)。その判断自体を否定するものではありません。ただし、非課税の枠が使えないことを知ったうえで決めるのと、知らずに決めるのとでは大きく違います。
5. 弔慰金として支給したつもりが、枠を超えていた
業務上の死亡でない場合、普通給与から計算した枠を超えた部分は退職手当金等として扱われます(同No.4120)。名目が弔慰金であることは、判定の決め手になりません。支給前に枠を計算しておく。これに尽きます。
ポイント
いま確認していただきたい5点
① 役員退職慰労金規程があり、死亡退職の場合の取扱いが入っているか
② 弔慰金規程があり、業務上の死亡かどうかで枠が分かれているか
③ 支給額の根拠を説明できる形で残しているか
④ 支給する相手が相続人かどうかを確認しているか
⑤ 支給に充てる原資の手当てがあるか
死亡退職金と弔慰金について小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 死亡退職金は、いつ支給が確定したものが相続税の対象になりますか?
被相続人の死亡後3年以内に支給が確定した退職手当金等が、相続財産とみなされて相続税の対象になります(国税庁タックスアンサーNo.4117)。死亡退職の場合と、生前退職で支給額が死亡後3年以内に確定した場合の2つが対象です。
Q2. 死亡退職金の非課税限度額はいくらですか。誰が受け取っても使えますか?
「500万円 × 法定相続人の数」です(国税庁タックスアンサーNo.4117)。相続人が受け取った合計額がこの額以下なら課税されません。相続人以外が取得した分には非課税の適用がなく、全額が課税対象です。
Q3. 弔慰金はどこまでなら弔慰金として扱われますか?
業務上の死亡なら死亡当時の普通給与の3年分まで、業務上の死亡でないなら半年分までが弔慰金として扱われます(国税庁タックスアンサーNo.4120)。超えた部分は相続税の課税対象になり、業務上の死亡でない場合は退職手当金等として扱われます。
Q4. 弔慰金の計算のもとになる「普通給与」には何が含まれますか?
俸給、給料、賃金、扶養手当、勤務地手当、特殊勤務地手当などの合計額です(国税庁タックスアンサーNo.4120)。賞与を含めるかなど会社ごとに支給実態が異なるため、給与規程と直近の支給実績を確認したうえで判断してください。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。引用した国税庁タックスアンサーNo.4117およびNo.4120は令和7年4月1日現在の法令等に基づくものです。非課税限度額の計算に用いる「法定相続人の数」の数え方、死亡保険金の非課税枠の金額および要件、相続税の基礎控除額や税率、ならびに法人側で死亡退職金・弔慰金が損金に算入される時期と限度については、本記事では扱っていません。本記事の数値例は、法定相続人3人・死亡退職金2,000万円および死亡当時の普通給与月100万円と仮定した計算上の目安であり、実際の課税価格・税額を保証するものではありません。実際の判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.4117「相続税の課税対象になる死亡退職金」(令和7年4月1日現在法令等)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4117.htm
- 国税庁タックスアンサー No.4120「弔慰金を受け取ったときの取扱い」(令和7年4月1日現在法令等)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4120.htm
万一のときの備えは、平時のうちに整えてください
規程がないまま万一を迎えると、ご遺族も会社も難しい判断を迫られます。死亡退職金と弔慰金は別々の枠で判定するため、通しで見た設計が必要です。規程の確認から、支給額の組み立て、原資の整理までお手伝いします。顧問契約のご相談も歓迎です。代表税理士が直接ご対応します。
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