この記事のポイント
- 役員退職金は適正な額であれば経費(損金)になります(国税庁タックスアンサーNo.5208)
- 高すぎる部分(不相当に高額な部分)は経費になりません(法人税法34条2項)
- 経費にできる時期は原則株主総会などで金額が確定した日の年度。内定額の未払金計上では経費になりません
- 社長を退いても実質的に経営のトップのままだと、分掌変更による退職金は認められません(No.5203)
まず結論:退職金は「会社のお金を個人へ移す出口」です
役員退職金には、会社側で経費(損金)になり、個人側でも税金が軽い、という2つの効果があります。
毎月の役員報酬は個人側で給与として高い税率がかかり社会保険料の対象にもなります。退職金は個人側で「退職所得」として分離計算されるため、税負担が軽くなりやすいのです。だからこそ役員報酬は出口設計と切り離せません。実務では退職直前に金額を考え、「経費にならない金額だった」と気づくケースが少なくありません。
※受け取る側の退職所得の計算方法や、「退職所得の受給に関する申告書」を出し忘れたときの取扱いは、別記事で詳しく解説しています。
損金になるのは「適正な額」だけです
国税庁タックスアンサーNo.5208はこう述べています。
法人が役員に支給する退職金で適正な額のものは、損金の額に算入されます。
適正な額を超える部分は経費になりません。法人税法34条2項は役員給与のうち不相当に高額な部分を損金にしないと定め、役員退職金も対象です。
「不相当に高額かどうか」は何で判断されるのか
法人税法施行令70条2号が挙げる判断要素は次の3つです。
- その退職した役員が法人の業務に従事した期間
- その退職の事情
- 同種・類似規模の法人の役員に対する退職給与の支給状況
法令にも通達にも、「いくらまでなら適正」という金額の基準は書かれていません。
功績倍率法は「法令の定め」ではありません
実務では「最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率」の式がよく使われますが、この式も倍率も法令や通達の定めではありません。裁判例の積み重ねで使われてきた方法です。
「この倍率なら安全」という一律の基準はなく、同業・同規模の会社と比べてどうかで判断されます。
- 最終の報酬月額が在任中の実態から不自然に高くなっていないか
- 勤続年数を実際に役員だった期間で数えているか
- 創業者かどうか。業績への貢献をどう説明できるか
- 株主総会の決議や退職慰労金規程など、決め方の記録を残しているか
ポイント
功績倍率法に安全水準はありません。説明できる状態を先につくってから金額を検討することが税務調査への備えになります。
経費にできる時期を間違えると、1年ずれます
退職金を経費にする年度を、国税庁タックスアンサーNo.5208は次のように整理しています。
| 区分 | 損金算入時期 |
|---|---|
| 原則 | 株主総会の決議等によって退職金の額が具体的に確定した日の属する事業年度 |
| 例外 | 法人が退職金を実際に支払った事業年度において損金経理をした場合は、その事業年度でも可 |
| 退職年金 | その年金を支給すべき事業年度 |
注意
内定額の未払金計上は認められません。金額が確定する年度より前に取締役会で内定した金額を未払金に計上しても、その時点で損金算入はできないと国税庁は明記しています。
どの年度の経費にするかは、決議と支払いのタイミングで調整できます。決算スケジュールと合わせて設計したい論点です。
引退しなくても退職金を出せる場合があります(分掌変更)
地位や仕事が大きく変わり「実質的に退職したのと同じ」と認められれば、役員を辞めなくても退職金を出せます。これを分掌変更といいます。
国税庁タックスアンサーNo.5203は次の3つを例示しています。
| 例示 | 認められない場合(前提) |
|---|---|
| 常勤役員が非常勤役員になったこと | 代表権を有する場合や経営上主要な地位を占めている場合は除かれます |
| 取締役が監査役になったこと | 実質的に経営上主要な地位を占める場合や使用人兼務役員として認められない大株主である場合は除かれます |
| 分掌変更後の役員給与がおおむね50パーセント以上減少したこと | 分掌変更後も経営上主要な地位を占めていると認められる場合は除かれます |
3つとも、認められない場合の文言は共通しています。「経営上主要な地位を占めているかどうか」です。
形だけ代表権を外し報酬を下げても、実際は重要な決定や取引先交渉を社長が続けていれば要件を満たしません。実際の仕事が変わっていることが必要です。
実務でよく見る4つの失敗パターン
1. 退職の直前に役員報酬を引き上げる
功績倍率法では最終の報酬月額が計算の土台です。実態の伴わない引き上げは、報酬月額自体の適正性が問われます。
2. 議事録・退職慰労金規程がない
金額の確定時期を示せないと、経費にする時期の説明ができません。決議や決定の記録を書面で残しましょう。
3. 分掌変更後も実質的に社長のまま
前の章のとおりです。名刺・組織図・決裁の権限・銀行との交渉の実態まで、変わっていることが必要です。
4. 資金繰りを考えずに金額だけ決める
退職金は経費になりますがその分の現金は会社から出ていきます。保険の解約返戻金が原資なら、戻る益金と退職金の経費を同じ年度にぶつける設計が必要です。ずれると益金だけ・経費だけの年に分かれます。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 役員退職金に「いくらまで」という金額の基準はありますか?
「いくらまでなら適正」という基準は法令にも通達にもありません。判断要素は勤務期間・退職の事情・同業同規模の支給状況です(法人税法施行令70条2号)。
Q2. 今期は利益が出たので、来期支払う予定の役員退職金を未払金に計上できますか?
できません。国税庁は、金額が確定する年度より前に取締役会で内定した金額を未払金計上しても、その時点では損金にできないと明記しています。
Q3. 社長を退いて会長になりました。退職金を出せますか?
可能な場合があります。常勤役員が非常勤になった等、地位・仕事が実質的に変わったことが条件です(国税庁タックスアンサーNo.5203)。実質的に経営のトップのままなら認められません。
Q4. 退職金の原資を保険の解約返戻金にする場合、注意することはありますか?
解約返戻金は会社の収益(益金)になります。退職金の経費と同じ年度に対応させる設計が必要で、年がずれると収益だけ・経費だけの年に分かれます。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。役員退職給与が不相当に高額かどうかの判断は、法人の業種・規模・役員の職務内容など個別の事情によって結論が変わります。本記事では具体的な支給額や功績倍率の水準は示していません。実際の設計は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.5208「役員の退職金の損金算入時期」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5208.htm
- 国税庁タックスアンサー No.5203「使用人が役員へ昇格したとき又は役員が分掌変更したときの退職金」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5203.htm
- 国税庁タックスアンサー No.5211「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm
- 法人税法34条2項(役員給与の損金不算入)、法人税法施行令70条2号(過大な役員退職給与の額)e-Gov法令検索
- 国税庁 法人税基本通達 第7款 退職給与https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_02_07.htm
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