この記事のポイント
- 申告と納付は別の手続です。納税資金がなくても申告は期限内に
- 延滞税は年2.8パーセント(2か月まで)→年9.1パーセント。2か月で3倍以上に
- 延納なら2分の1納付で残りを5月31日まで延長可(利子税は年1.3パーセント)
- 換価の猶予は納期限から6か月以内の申請が条件。100万円以下は担保不要
まず結論:申告と納付は別の手続です
「納めるお金がないから、申告も後回しにしよう」は一番損な選択です。納税資金がなくても確定申告書は期限内に提出してください。申告と納付は別の手続だからです。申告を遅らせると無申告加算税という別の上乗せが増えるだけです。
納付が難しい場合には、制度上の選択肢が用意されています。順に見ていきましょう。

何もしないと、延滞税が自動的に積み上がります(令和8年の割合)
法定納期限の翌日から納付する日までの日数分、延滞税が自動的にかかります。督促状が届いてもなお納めないと、財産の差押えを受ける場合もあります。
延滞税の割合は、令和8年1月1日から令和8年12月31日までの期間について次のとおりです。
| 期間 | 令和8年の割合 |
|---|---|
| 納期限までの期間および納期限の翌日から2か月を経過する日まで | 年2.8パーセント |
| 納期限の翌日から2か月を経過した日以後 | 年9.1パーセント |
注意
2か月を境に、割合は3倍以上に跳ね上がります。動くなら2か月以内が実務上の目安です。
手段① 延納の届出(申告時にできる最も手軽な方法)
所得税には「延納」という制度があり、2分の1以上を法定納期限までに納めれば、残りをその年の5月31日まで延ばせます(振替納税なら振替日の引き落としで足ります)。
延納の期間中は延滞税でなく「利子税」がかかり、割合は年7.3パーセントと特例基準割合の低いほうです。令和8年1月1日から令和8年12月31日までの利子税特例基準割合は年1.3パーセントです。
数字のイメージ:納税額100万円のうち50万円を延納した場合
令和8年3月15日は日曜日のため、法定納期限は令和8年3月16日になります。納税額100万円のうち50万円を期限までに納め、残り50万円を5月31日まで延納したとします。
| 対応 | 計算 | 追加負担 |
|---|---|---|
| 延納の届出をする | 50万円 × 1.3% × 76日/365日 | 1,300円(利子税・100円未満切捨て) |
| 何もせず5月31日に100万円納付 | 100万円 × 2.8% × 61日/365日 + 100万円 × 9.1% × 15日/365日 | 8,400円(延滞税・100円未満切捨て) |
ポイント
半分を用意できるなら、延納の届出をするだけで負担は大きく下がります。確定申告書の「延納の届出」欄に金額を書くだけで、特別な審査もありません。
手段② 換価の猶予(納期限から6か月以内の申請)
半分も用意できない場合は「猶予制度」の検討に移ります。換価(かんか)の猶予とは、財産の売却や差押えを待ってもらいながら分割で納める制度です。国税庁タックスアンサーNo.9206によれば、次の5要件を満たすとき、原則1年以内の期間で認められる場合があります。
- 一時納付で事業・生活の維持が困難になるおそれがあること
- 納税について誠実な意思があること
- 他の国税の滞納がないこと
- 納期限から6か月以内に申請書を提出していること
- 原則として担保の提供があること
猶予が認められると差押え等が待ってもらえ、猶予期間中の延滞税の全部または一部が免除されます。
担保が不要になる場合
次のどれかに当てはまれば、担保は不要です。
- 猶予を受ける金額が100万円以下である場合
- 猶予を受ける期間が3か月以内である場合
- 担保にできる財産がないといった事情がある場合
猶予期間と分割納付
猶予期間は1年の範囲内で、税金は原則として各月に分割して納付します。やむを得ない理由があれば、当初の猶予期間が終わる前の申請で当初と合わせて最長2年以内の範囲で延長が認められることがあります。

手段③ 納税の猶予(災害・病気・廃業などの事情があるとき)
納税の猶予という制度もあります。次の4要件を満たすとき、原則1年以内の期間で認められる場合があります。
- 次のいずれかに該当する事実があること
- 財産の災害・盗難
- 本人・家族の病気・負傷
- 事業の廃業・休業、または著しい損失
- これらに類する事実、または期限から1年以上経過後の修正申告等で税額が確定したこと
- その事実により、納付すべき国税を一時に納付できないと認められること
- 申請書が提出されていること(1年以上経過後の場合は納期限までの提出)
- 原則として担保の提供があること
注意
申請には書類が要ります。「換価の猶予申請書」「納税の猶予申請書」と「財産収支状況書」など(100万円を超える場合は「財産目録」「収支の明細書」も)。数字で説明できる資料の準備が要になります。

不動産を売った年は、特にご注意ください
納税資金が足りなくなる典型例が不動産を売った年です。売却代金を返済や生活費に使い、翌年3月の納税時にお金が残っていない——というご相談は毎年あります。
譲渡所得には税率20.315%(長期)または39.63%(短期)がかかり金額が大きくなりがちで、所得税だけでなく翌年度の住民税・国民健康保険料まで増えることがあります。
最も確実な対策は、売却時に税額の見通しを立て先に分けておくことです。資金が足りない場合でも延納・換価の猶予・納税の猶予のどれかが使えることが少なくありません。払えないからこそ、期限内申告と同時にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. お金がないので、確定申告書の提出も遅らせたほうがよいですか?
いいえ。申告と納付は別の手続です。期限内に申告すれば無申告加算税はかかりません。納付のめどが立たなくても、申告だけは期限内に済ませてください。
Q2. 延納の届出をすると、どのくらい負担が軽くなりますか?
延納は2分の1以上を納期限までに納めれば残りを5月31日まで延ばせる制度です。令和8年の利子税特例基準割合は年1.3パーセントで、延滞税(年2.8パーセント・年9.1パーセント)より低い水準です。
Q3. 換価の猶予はどんなときに使えますか?
5要件(国税庁タックスアンサーNo.9206)をすべて満たすとき、原則1年以内で認められます。事業・生活の維持困難のおそれ、誠実な納税意思、他の国税の滞納なし、納期限から6か月以内の申請、原則担保、の5つです。
Q4. 猶予を受けるには必ず担保が必要ですか?
必ずではありません。猶予額が100万円以下、期間が3か月以内、担保にできる財産がないといった場合には、担保は不要です。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。猶予制度が認められるかどうかは、財産や収支の状況をもとに税務署が個別に判断します。本記事の数値例は一定の前提を置いた試算であり、実際の延滞税・利子税の金額は納付日等によって変動します。具体的な事案については必ず税理士または所轄税務署の徴収担当にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.9206「国税を期限内に納付できないとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/osirase/9206.htm
- 国税庁タックスアンサー No.9205「延滞税について」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/osirase/9205.htm
- 国税庁「延滞税の割合」(利子税特例基準割合の一覧を含む)https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/entaizei/keisan/entai_wariai.htm
- 国税庁 確定申告書等作成コーナー よくある質問「税金の延納について」https://www.keisan.nta.go.jp/r4yokuaru/cat2/cat26/cat263/cid194.html
- 国税庁「手順5 延納の届出」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/2023/03/order5/3-5_02.htm
- 国税通則法37条、46条、46条の2、60条、63条、国税徴収法151条、151条の2https://laws.e-gov.go.jp/law/337AC0000000066
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延納・換価の猶予・納税の猶予は、いずれも期限のある手続です。特に換価の猶予は納期限から6か月以内の申請が要件で、時間が経つほど選択肢が減ります。当事務所では、申告と同時に納付方法の設計までご提案しています。すでに納期限を過ぎている場合も、まずは状況をお聞かせください。
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