この記事のポイント
- 小規模企業共済は受け取り方で所得区分が変わります(4パターン)
- 一括受取りは退職所得。控除と2分の1課税で軽減されます
- 任意解約は65歳が分かれ目。未満は一時所得です
- 分割受取りは公的年金等。400万円以下等なら申告不要です
まず結論:小規模企業共済は「どう受け取るか」で所得の種類が変わります
小規模企業共済は、受け取り方によって所得の種類(所得区分)が変わります。金額が同じでも、税金の計算のしかたは別になります。「掛金が全額所得控除」という入口の話は有名ですが、実務で迷うのはむしろ出口です。
| 受け取り方 | 所得区分 | ポイント |
|---|---|---|
| 事業をやめて一括で受け取る(共済金) | 退職所得 | 退職所得控除と2分の1課税があります |
| 任意に解約する(解約手当金) | 65歳以上は退職所得 65歳未満は一時所得 | 年齢が分かれ目です |
| 法人成りにより解除されたとみなされる(解約手当金) | 退職所得 | 国税庁の質疑応答事例で示されています |
| 分割で受け取る(分割共済金) | 公的年金等に係る雑所得 | 公的年金等控除額を差し引いて計算します |
同じ金額を受け取っても、計算方法は4通りに分かれます。受け取る「年」をいつにするかでも結論が変わります。
入口のおさらい ―― 掛金はその年に払った全額が所得控除
独立行政法人中小企業基盤整備機構と結ぶ小規模企業共済契約の掛金は、小規模企業共済等掛金控除の対象です。
控除できる金額は、その年に支払った掛金の全額です。(国税庁タックスアンサーNo.1135「小規模企業共済等掛金控除」)
確定申告では掛金の証明書の添付または提示が必要です(年末調整済みなら不要)。入口の詳細は小規模企業共済とiDeCoの掛金は全額所得控除もご覧ください。ここから先が本題の出口です。
出口① 一括で受け取ると「退職所得」になります
事業をやめて共済金を一括で受け取る場合、その一時金は退職所得として扱われます。根拠は所得税法施行令72条3項3号イ。小規模企業共済法9条1項の共済金を退職手当等とみなす旨が定められています。
退職所得はどう計算するか
(収入金額(源泉徴収される前の金額)- 退職所得控除額)× 1/2 = 退職所得の金額(国税庁タックスアンサーNo.1420「退職金を受け取ったとき(退職所得)」)
退職所得控除額は勤続年数(=A)に応じて計算します。
| 勤続年数(=A) | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × A(80万円に満たない場合には、80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 × (A-20年) |
数字で見てみます
年数25年、一括で受け取る金額1,500万円で計算します。年数の数え方や特定役員退職手当等・短期退職手当等に当たるかの判定は個別確認が必要で、以下は一定の前提を置いた目安です。
計算例
例:勤続25年・一括受取り1,500万円の場合
収入金額 15,000,000円 - 退職所得控除額 11,500,000円(800万円+70万円×5年)= 3,500,000円 3,500,000円 × 1/2 = 退職所得の金額 1,750,000円1,500万円を受け取っても課税対象は175万円です。同じ25年で受け取る額が800万円なら控除額1,150万円のほうが大きく、退職所得の金額は0円になります。
出口② 任意に解約するときは「65歳」が分かれ目です
事業を続けながら契約を解約すると解約手当金が支給されます。ここは年齢で扱いが変わります。所得税法施行令72条3項3号ロは、65歳以上の共済契約者が受ける解約手当金は退職所得とみなす旨を定めています(小規模企業共済法7条3項による解除)。
では65歳未満はどうか。国税庁の質疑応答事例にはっきりと書かれています。
(注)65歳未満の共済契約者に支給されるものは、一時所得とされます。(国税庁 質疑応答事例「法人成りにより支給を受ける小規模企業共済契約の一時金の所得区分」)
注意
一時所得は退職所得と計算のしかたが違い、控除額を引いて2分の1にする仕組みではありません。64歳と65歳で所得区分そのものが変わるため、解約のご相談ではまず年齢を確認します。
出口③ 法人成りしたときの解約手当金も「退職所得」です
個人事業主が法人を設立し事業を移す、いわゆる法人成り。国税庁は質疑応答事例で次のように示しました。
【照会要旨】……個人事業者が法人成りし、その契約に基づく一時金の支給を受けた。この一時金は退職所得に該当すると解して差し支えないか。(注)その事業に係る金銭以外の資産の出資をすることにより個人事業を廃止し、同じ事業を営む法人を設立したことが確認されている。
【回答要旨】照会の一時金は退職所得に該当する。……照会の一時金は「解約手当金」に該当する。(国税庁 質疑応答事例「法人成りにより支給を受ける小規模企業共済契約の一時金の所得区分」)
根拠は所得税法施行令72条3項3号ハ。小規模企業共済法7条4項により契約が解除されたとみなされて支給される解約手当金を退職手当等とみなす旨が定められています。
退職所得とされる一時金の4つの型
| 一時金の内容 | 根拠(小規模企業共済法) | 所得区分 |
|---|---|---|
| 掛金納付月数が6か月以上の共済契約者が事業を廃止した場合の「共済金」 | 9条1項1号 | 退職所得 |
| 同一の事業を営む会社を設立するため、金銭以外の資産の出資により事業を廃止し、契約が解除されたとみなされて支給される「解約手当金」 | 7条4項1号、12条1項 | 退職所得 |
| 65歳以上かつ掛金納付月数180か月以上の場合の請求に基づく「共済金」 | 9条1項3号 | 退職所得 |
| 任意解除により65歳以上の共済契約者に支給される「解約手当金」 | 7条3項、12条1項 | 退職所得 |
| 65歳未満の共済契約者に支給されるもの | (同事例の注) | 一時所得 |
この事例は「同じ事業を営む会社を設立するため金銭以外の資産を出資して事業を廃止した」事案のものです。設立方法で結論が変わるため、進め方は法人成りはいつすべきかもあわせてご覧ください。
出口④ 分割で受け取ると「公的年金等」になります
共済金を分割で受け取ると、扱いは一括とまったく別になります。所得税法施行令82条の2第2項3号は、分割共済金を公的年金等に含めています。
公的年金等は「公的年金等に係る雑所得」として課税されます。収入金額から公的年金等控除額を差し引いて計算し、退職所得のような2分の1課税はありません。支払時は収入金額から一定の控除額を引いた額に5.105パーセントを乗じた額が源泉徴収されます。
確定申告が不要になる場合があります
- 公的年金等の収入金額が400万円以下
- かつ公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下
この2つを満たせば申告は不要です。ただし、医療費控除など所得控除による還付のための申告は可能で、所得が20万円以下でも住民税の申告が必要な場合があります。
見落としやすいのは「いつ受け取るか」です
実務でもう一つ大きいのが「いつ受け取るか」です。役員退職金や企業型DC・iDeCoの老齢給付金と同じ年や近い年に重なると、退職所得控除額の計算に調整が入ります。
さかのぼる期間は、一時金の種類で違います
所得税法施行令70条1項2号は場合分けをしています。「何年前までさかのぼるか」が3通りあるとご理解ください。
| 号 | どんな場合か | さかのぼる期間 |
|---|---|---|
| イ | 退職手当等を受け、かつその年に退職手当等を受けた場合(ロ・ハを除く) | 前年以前4年内 |
| ロ | 所得税法施行令72条3項7号の一時金(令和8年1月1日以後に支払を受けたものに限る)を受け、かつその年に退職手当等を受けた場合(ハを除く) | 前年以前9年内 |
| ハ | 退職手当等を受け、かつその年に同項7号の一時金を受けた場合 | 前年以前19年内 |
「7号」と「3号」の読み分けが要点です
ここが最も取り違えられやすい点です。ロ・ハの「72条3項7号の一時金」は企業型DC・iDeCoの老齢給付金を指します。
これに対して小規模企業共済の共済金は同項の「3号」で、7号ではありません。号番号にしたがえば原則としてイの「前年以前4年内」で判定することになります。iDeCoでいう「9年」「19年」とは根拠の号が違うため、実際の適用は個別確認が必要です。
受け取ったあとで順番を変えることはできません。だからこそ受け取る前の試算をおすすめしています。会社側の設計は役員退職金の適正額と損金算入もあわせてご覧ください。
実務で多い勘違い
補足
- 「共済金はすべて退職所得」ではありません。分割なら公的年金等に係る雑所得、65歳未満の任意解約なら一時所得です
- 「65歳の誕生日」を意識していないケース。任意解除の解約手当金は65歳以上か未満かで所得区分が変わります
- 「法人成りすれば当然に退職所得」ではありません。国税庁の事例は資産出資により事業を廃止した特定の事案のものです
- iDeCoの「19年」を共済に当てはめるのは誤り。共済の共済金は所得税法施行令72条3項3号、企業型DC・iDeCoは同項7号です
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よくある質問(FAQ)
Q1. 小規模企業共済を一括で受け取ると、受け取った金額の全部に税金がかかりますか?
いいえ。一括受取りの共済金は退職所得です(所得税法施行令72条3項3号イ)。収入金額から退職所得控除額を引いた残額の2分の1が課税対象です。年数25年・1,500万円の例では175万円になります。
Q2. 64歳です。あと数か月待って65歳になってから解約したほうがよいのでしょうか?
65歳以上の解約手当金は退職所得、65歳未満は一時所得です(所得税法施行令72条3項3号ロ、国税庁質疑応答事例)。計算方法が異なり税額も変わるため、解約前にご相談ください。
Q3. 法人成りをします。共済の解約手当金は必ず退職所得になりますか?
「必ず」ではありません。国税庁の事例は、資産出資により個人事業を廃止した事案について退職所得と回答したものです(所得税法施行令72条3項3号ハ)。準備前にご相談ください。
Q4. 会社から役員退職金をもらう予定です。小規模企業共済も同じころに受け取って大丈夫でしょうか?
受け取る前の試算をおすすめします。勤続期間が重複すると退職所得控除額の計算が調整されます(所得税法施行令70条1項2号)。共済は原則イの「前年以前4年内」で判定します。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。本記事は小規模企業共済の受け取り方と所得区分の考え方を扱っており、掛金月額の上限、共済金の区分(共済金A・共済金B・準共済金など)、共済金の支給率、貸付制度、掛金納付月数に応じた支給の有無については扱っていません。また、所得税法施行令70条2項による退職所得控除額の具体的な調整計算、一時所得および公的年金等に係る雑所得の具体的な計算例、住民税・社会保険料の計算、共済契約の解約手続そのものについても本記事では扱っていません。制度の詳細は独立行政法人中小企業基盤整備機構の公表資料をご確認ください。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁タックスアンサー No.1135「小規模企業共済等掛金控除」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1135.htm
- 国税庁 質疑応答事例「法人成りにより支給を受ける小規模企業共済契約の一時金の所得区分」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/gensen/04/03.htm
- 国税庁タックスアンサー No.1600「公的年金等の課税関係」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1600.htm
- 国税庁タックスアンサー No.1420「退職金を受け取ったとき(退職所得)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm
- 所得税法施行令72条3項3号・同項7号、82条の2第2項3号、70条1項2号(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/
受け取る前に、一度ご相談ください
小規模企業共済は、受け取ったあとで受け取り方や受け取る年を変えることができません。一括か分割か、いつ受け取るか、会社からの役員退職金とどう組み合わせるか。受け取りをお考えの段階、法人成りをご検討の段階でご相談いただければ、所得区分の判定から受け取る年の試算までお手伝いできます。代表税理士が直接ご対応します。
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