この記事のポイント
- 小規模企業共済とiDeCoの掛金は、その年に支払った全額が小規模企業共済等掛金控除になります
- ただし事業上の損金または必要経費には算入できません。帳簿上は事業主貸で処理し、所得控除として申告します
- 小規模企業共済の掛金は月額1,000円〜70,000円(500円単位)。iDeCoの拠出限度額は加入区分によって異なります
- 課税所得500万円の方が両方を上限近くまで拠出した場合、所得税・住民税を合わせて年間約503,755円の負担減になります
小規模企業共済等掛金控除とは
小規模企業共済とiDeCoの掛金は、その年に支払った全額が控除される、上限のない力の強い所得控除です。
国税庁タックスアンサーNo.1135「小規模企業共済等掛金控除」によれば、控除の対象は次の3つです。
- 小規模企業共済法に基づき中小機構と結んだ共済契約の掛金(旧第二種共済契約を除く)
- 確定拠出年金法の企業型・個人型年金加入者掛金(個人型がいわゆるiDeCoです)
- 心身障害者扶養共済制度の掛金(地方公共団体が実施する制度)
控除できる金額は、その年に支払った掛金の全額です。
全額がそのまま控除される所得控除は、この制度と社会保険料控除だけです。生命保険料控除(最高12万円)や地震保険料控除(最高5万円)のような上限がありません。
⚠️ もっとも多い誤解──「必要経費」ではありません
独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)は次のとおり案内しています。
掛金は税法上、全額を小規模企業共済等掛金控除として、課税対象となる所得から控除できます。
(中略)掛金は、共済契約者ご自身の収入の中から納付していただきますので、事業上の損金または必要経費には算入できません。
| 誤った処理 | 正しい処理 |
|---|---|
| 「保険料」等として 経費に計上し、事業所得を減らす | 事業主貸で処理し、 確定申告書の所得控除欄に記載する |
注意
経費に計上すると二重控除になります
経費に入れると事業所得が少なくなりすぎ、所得控除欄にも書いていれば二重控除です。事業所得は個人事業税・国保・青色申告特別控除・決算書にも影響するため、「どちらで引いても同じ」ではありません。
iDeCoも同じです。個人事業主のiDeCo掛金は必要経費ではなく本人の所得控除です。従業員でなく事業主本人のために払うものだからです。
掛金の上限はいくらか
小規模企業共済
掛金は月額1,000円〜最高70,000円(500円単位)で決められ、増額・減額も可能です。納付は口座振替のみで、月・半年・年払いから選べます。年額最大で70,000円 × 12か月 = 840,000円です。
iDeCo(個人型確定拠出年金)
厚生労働省「iDeCoの概要」によれば、拠出限度額は加入区分によって次のとおりです。
| 加入区分 | 拠出限度額(月額) |
|---|---|
| 国民年金第1号被保険者(自営業者等) | 68,000円 ※国民年金基金・付加保険料の納付時はその額を控除 |
| 国民年金第2号被保険者(企業年金等に加入していない場合) | 23,000円 |
| 国民年金第2号被保険者(企業年金等に加入している場合) | 20,000円 |
| 国民年金第3号被保険者 | 23,000円 |
| 国民年金任意加入被保険者 | 68,000円 ※国民年金基金・付加保険料の納付時はその額を控除 |
第1号被保険者は年額最大68,000円 × 12か月 = 816,000円です。限度額は改正で変わることがあるため、加入・増額時は公式サイトで最新情報をご確認ください。
数字で見る:両方を使うといくら変わるか
個人事業主が両方を上限まで拠出した場合を計算します。
- 小規模企業共済:月70,000円 × 12か月 = 840,000円
- iDeCo:月68,000円 × 12か月 = 816,000円(国民年金基金・付加保険料は納付していないものとします)
- 合計:1,656,000円/住民税の所得割は標準税率10パーセントとします
ケース1:課税所得500万円の方
| 項目 | 拠出しない場合 | 拠出した場合 |
|---|---|---|
| 課税所得 | 5,000,000円 | 3,344,000円 |
| 所得税 | 572,500円 | 241,300円 |
| 復興特別所得税 | 12,022円 | 5,067円 |
| 住民税(10パーセント) | 500,000円 | 334,400円 |
| 合計 | 1,084,522円 | 580,767円 |
年間の負担減:503,755円
ケース2:課税所得300万円の方
| 項目 | 拠出しない場合 | 拠出した場合 |
|---|---|---|
| 課税所得 | 3,000,000円 | 1,344,000円 |
| 所得税 | 202,500円 | 67,200円 |
| 復興特別所得税 | 4,252円 | 1,411円 |
| 住民税(10パーセント) | 300,000円 | 134,400円 |
| 合計 | 506,752円 | 203,011円 |
年間の負担減:303,741円
同じ165万6,000円を拠出しても、所得が高いほど負担減は大きくなります。所得税は所得が増えるほど税率が上がる(累進税率)ため、税率区分によって効果が変わります。
ただし「掛金を払った分だけ得」ではありません
所得控除の効果だけを見て判断するのは危険です。次の点を必ず確認してください。
注意
「掛金を払った分だけ得」ではない理由
- 受け取るときには課税される:共済金は一括で退職所得、分割で雑所得の扱いです。iDeCoも受取時に課税があり、課税を先送りする仕組みです
- 資金が長期間拘束される:iDeCoは原則60歳まで引き出せません。共済も解約時期により受取額が掛金合計を下回ります
- 課税所得がない年は効果がない:赤字の年や所得が小さい年は税負担が減りません
- 手続書類の保管:確定申告では掛金の証明書を添付・提示します(年末調整の場合を除く)。控除証明書は保管してください
当事務所の進め方
- 加入資格と限度額の確認──被保険者区分と他制度の加入状況を確認します
- 拠出額の設計──資金繰りを踏まえ、拘束されても支障のない金額を設定します
- 帳簿処理の確認──必要経費への誤計上がないか確認し、事業主貸で処理します
- 出口の設計──受取時の課税を含め、有利な受取方法を検討します
入口だけでなく出口まで見て判断することが重要です。顧問先の方には、事業の状況と合わせて毎年見直しをご提案しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 小規模企業共済の掛金を必要経費に計上してしまいました。どうすればよいですか?
掛金は必要経費に算入できません。修正申告等で直す必要があります。所得控除欄にも記載していれば二重控除ですので、早めにご相談ください。
Q2. 小規模企業共済とiDeCoは両方に加入できますか?
両方に加入できます。掛金の全額が控除対象なので合算できます。加入資格・限度額は事前にご確認ください。
Q3. 年払いで前納した掛金も、その年の控除になりますか?
控除額はその年に支払った掛金の全額です。前納掛金も対象ですが、実際の額は送付される控除証明書でご確認ください。
Q4. 配偶者名義のiDeCoの掛金を、私の所得から控除できますか?
できません。iDeCoの掛金は本人の所得からのみ控除され、家族分を負担しても控除できません。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。小規模企業共済およびiDeCoの加入資格・拠出限度額・受取時の取扱いは制度改正の対象となることがあります。加入・増額の際は必ず各制度の公式サイトで最新の内容をご確認ください。記事中の税額は記載した前提に基づく試算であり、実際の税額を保証するものではありません。本記事は特定の金融商品への加入を勧誘するものではありません。具体的な事案については必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.1135「小規模企業共済等掛金控除」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1135.htm
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構「小規模企業共済の掛金」https://kyosai-web.smrj.go.jp/customer/skyosai/installment/
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構「小規模企業共済 制度の概要」https://www.smrj.go.jp/kyosai/skyosai/features/index.html
- 厚生労働省「iDeCoの概要」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/kyoshutsu/ideco.html
- iDeCo公式サイト(国民年金基金連合会)https://www.ideco-koushiki.jp/
- 所得税法75条(小規模企業共済等掛金控除)e-Gov法令検索
- 総務省「個人住民税」(所得割の標準税率)https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/150790_02.html
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