この記事のポイント
- 地震・風水害・火災・盗難・横領による損害は雑損控除の対象になります
- 控除額は2つの計算式のうち多いほうを採用します
- 引ききれない金額は翌年以後3年間繰り越せます(特定非常災害は5年間)
- 要件を満たせば災害減免法による軽減免除も選べます。両方は使えません
雑損控除の対象になる損害・ならない損害
雑損控除の対象は「災害・盗難・横領」による損害に限られます。不注意による損失や、価格が下がっただけの損失は対象外です。
対象になる5つの原因
国税庁タックスアンサーNo.1110が挙げる原因は、次の5つです。
- 震災、風水害、冷害、雪害、落雷など自然現象の異変による災害
- 火災、火薬類の爆発など人為による異常な災害
- 害虫などの生物による異常な災害
- 盗難
- 横領
詐欺・恐喝はこの5つに含まれていません。自身の意思で渡した財産は、盗難・横領と扱いが違うためです。
対象になる資産の範囲
- 資産が納税者本人か生計を一にする配偶者・親族(総所得金額等48万円以下)のものであること
- 棚卸資産や事業用の固定資産などに該当しないこと
- 「生活に通常必要でない資産」に該当しないこと
「生活に通常必要でない資産」は別荘・ゴルフ会員権、1個または1組30万円を超える貴金属・書画・骨とう等です。
事業用資産の損害は雑損控除ではなく、事業所得・不動産所得の必要経費として処理します。
控除額は「2つの計算式のうち多いほう」
雑損控除の金額は、2つの計算式のうち多いほうです。片方だけで終えると、控除額を取りこぼします。
計算式1
(損害金額 + 災害等関連支出の金額 − 保険金等の額)−(総所得金額等)× 10%計算式2
(災害関連支出の金額 − 保険金等の額)− 5万円
損害金額はどう計算するか
損害金額は損害直前のその資産の時価が基準です。減価償却資産は取得価額から減価償却費の累計額を差し引いた額でも計算できます。
「新品の値段」でなく「壊れる直前の価値」が基準です。資料がなければ国税庁公表の計算方法も使えます。
「災害等関連支出」と「災害関連支出」の違い
| 用語 | 内容 | 使う計算式 |
|---|---|---|
| 災害等関連支出 | 災害により滅失した住宅・家財などを取壊しまたは除去するために支出した金額のほか、盗難や横領による損害が生じた資産の原状回復のための支出など | 計算式1 |
| 災害関連支出 | 上記のうち、災害により滅失した住宅・家財などの取壊し・除去のための支出 | 計算式2 |
計算式2は取壊し・除去費用が大きいケースで効きます。盗難・横領は計算式1が中心です。
数字で見る:総所得金額等400万円のケース
- 総所得金額等:400万円
- 住宅・家財の損害金額:250万円
- 受け取った保険金:50万円
- 災害関連支出(倒壊した部分の取壊し・除去費用):60万円
| 計算式 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 計算式1 | (250万円+60万円−50万円) − 400万円×10% | 2,200,000円 |
| 計算式2 | 60万円 − 5万円 | 550,000円 |
| 雑損控除額 | 多いほうを採用 | 2,200,000円 |
このケースは計算式1が有利です。所得が高く取壊し費用が大きいと、計算式2が上回ることもあります。必ず両方を計算してください。
引ききれない分は3年間繰り越せます
雑損控除は、その年の所得金額から引ききれなかった金額を、翌年以後3年間繰り越せます。
被害の大きい年は所得も減り、繰越しがあるので使いきれなくても切り捨てにはなりません。特定非常災害の損失は繰越期間が5年間です。
注意
繰り越すにはその後の年も続けて確定申告書を提出することが必要です。申告しない年があると、繰越控除を受けられなくなります。実務でよくある取りこぼしです。
災害減免法との選択――どちらが有利かの考え方
災害による住宅・家財の損害は、雑損控除と災害減免法のどちらか有利なほうを選べます。両方は使えません。
災害減免法の要件
国税庁タックスアンサーNo.1902の要件は2つ。住宅・家財の損害金額が時価の2分の1以上で、かつ災害にあった年の所得金額の合計額が1,000万円以下であることです。
| 所得金額の合計額 | 軽減または免除される所得税額 |
|---|---|
| 500万円以下 | 全額免除 |
| 500万円超 750万円以下 | 2分の1を軽減 |
| 750万円超 1,000万円以下 | 4分の1を軽減 |
2つの制度の違い
| 比較項目 | 雑損控除 | 災害減免法 |
|---|---|---|
| 制度の性質 | 所得控除(課税所得を減らす) | 所得税額の軽減・免除 |
| 対象となる原因 | 災害・盗難・横領 | 災害のみ |
| 損害の程度の要件 | なし | 住宅・家財の損害が時価の2分の1以上 |
| 所得の上限 | なし | 所得金額の合計額1,000万円以下 |
| 住民税への影響 | 住民税の計算にも反映される | 所得税の軽減免除の制度 |
| 翌年以降への繰越し | 3年間(特定非常災害は5年間) | その年限り |
判断の目安
- 損害が大きく控除額が所得より大きいケース → 雑損控除(繰越しが使え住民税にも効きます)
- 損害が時価の2分の1以上・所得500万円以下のケース → 災害減免法で全額免除となり有利になりやすい
先の例(総所得400万円・雑損控除額220万円)で所得税額30万円なら、災害減免法は所得500万円以下のため30万円が全額免除されます。雑損控除なら課税所得が220万円減り、所得税・住民税ともに税率10%で約22万円ずつ、合計で約44万円の負担減です。
ポイント
税額や税率が変われば結論は毎回変わります。両方を試算してください。確定申告後でも、修正申告書・更正の請求書で災害減免法へ切り替えられます(タックスアンサーNo.1902)。
申告のときに必要になるもの
雑損控除は、年末調整では受けられません。給与所得者の方も確定申告が必要です。
- 災害等に関連したやむを得ない支出の金額の領収を証する書類(取壊し・除去・原状回復の費用の領収書など)を添付するか提示します
- 盗難・横領の場合は、警察への届出の記録が状況説明の裏づけになります
- 受け取った保険金・共済金の額が分かる書類
- 被害の状況が分かる写真、罹災証明書など
ポイント
片付けを始める前に、写真を残しておいてください。「もう処分して金額を説明できない」という壁に当たることが少なくありません。
雑損控除は他の所得控除より先に控除する仕組みです。他の控除もある年は、順序によって繰越額が変わります。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・国税庁公表資料に基づく一般的な解説です。雑損控除の対象となる損害・資産の範囲、損失額の計算方法は個別事情によって結論が異なります。特定非常災害に指定された災害については別途の取扱いがありますので、国税庁の該当ページも併せてご確認ください。具体的な事案については必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.1110「災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1110.htm
- 国税庁タックスアンサー No.1902「災害減免法による所得税の軽減免除」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1902.htm
- 所得税法2条・62条・71条・71条の2・72条・87条・120条、所得税法施行令9条・178条・203条〜206条・262条、災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律2条e-Gov法令検索
- 国税庁「災害等に関する税制上の措置」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/saigai/index.htm
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よくある質問(FAQ)
Q1. 詐欺や恐喝でお金をだまし取られた場合も雑損控除の対象になりますか?
タックスアンサーNo.1110の原因は、自然現象・人為・生物による異常な災害、盗難、横領の5つで、詐欺・恐喝は含まれません。自身の意思で渡した財産は扱いが異なるためです。
Q2. 会社員で年末調整を受けていますが、雑損控除を受けるには確定申告が必要ですか?
必要です。雑損控除は年末調整では適用できず、確定申告書の提出が必要です。災害等に関連したやむを得ない支出の領収を証する書類もあわせて提示します。
Q3. 損害を受けた年の所得が少なく、控除しきれません。どうなりますか?
引ききれなかった金額は翌年以後3年間繰り越せます(特定非常災害による損失は5年間)。繰り越すには、継続して確定申告書を提出する必要があります。
Q4. 骨董品や宝石が壊れました。雑損控除の対象になりますか?
1個または1組30万円を超える貴金属・書画・骨とう等は、生活に通常必要でない資産として対象から除かれます。30万円以下は対象になり得ます。別荘・ゴルフ会員権も対象外です。
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